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7.靴に小石が入ったような
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「なんで一人で行動するんだよォ」
不貞腐れた顔で、銀児が文句たれる。
となりではゴリラが深くうなずいた。
「お前らがケンカばっかりしてたからだろ。俺の事、放ったらかしでさぁ」
伍代 華子のムカつく言い草に、さすがの俺もムカついて言い返そうとした時。
この二人が全速力で飛び込んできた。
突如現れたゴリラとチャラ男に慌てたのか、気が付けば彼女はいない。
「なに。もしかして、かまってもらえなくてスネてたの?」
「んなワケないだろ、このノータリンがッ!!」
「痛てぇッ」
ふざけた事をヌかす銀児の足を、思い切り踏みつけてやる。
「なにすんだよォ。なんか陸斗って、オレに対する当たりキツくない!?」
「お前が、意味わかんないこと言うからだろ」
「DVだぜェ、これ」
「夫婦でもカップルでもないだろうが」
毒づけば、またムカつく声で『ひっどぉい』なんて返ってくる。
今度は殴りつけてやろうか。
「だいたいさァ。このゴリラ野郎が悪いんだぜ」
銀児が思い切りアイツを睨みつけて言う。
本人はさすがに気まずそうに目を逸らした。
「そこんとこだが……俺は彼女の仕業じゃないと思う」
「オイオイオイ、陸斗ってばマジで言ってんのォ? 」
銀児の横槍をおさえて俺は言葉を続ける。
「確証はないけど多分、彼女はイヤガラセの事すら知らない様子だったんだよ」
「トボけてたかも知れないだろ。ったく、陸斗は女に甘すぎ! 女なんてのはね、息を吐くようにウソをつくんだからね? 人生経験も女性経験も豊富なオレだからこそのアドバイス」
「それは単に、ロクな女と付き合ってないだけだろうが」
「ンな事ねーよ。オレは陸斗の事を思ってね?」
「だからってホモにはならないから」
カノジョいた事ない童貞のひがみだとでも言ってくれ。俺はこんなヤリチンの言うことは聞かないし、普通に女がいいに決まってる。
「別にホモになってくれなんて言ってねーよ。ただオレにしときなさいって」
「ホモじゃねーか」
「いやいや、付き合った人がたまたま男だったってだけでね?」
「だからホモだろ」
「いやいや」
このホモネタ、まだやんのかね。
悪いけど正直めんどくさくなってきた。
別に助けを求めるワケじゃないが、やけに静かなゴリラを振り返る。
「おいゴリラ」
「って、なんでナチュラルにゴリラ呼びすんのさ……」
「だってゴリラだし」
「人間だよ!」
こんなガチムチな身体でよく言うもんだ。コイツはコイツで俺の言うことを信用していないのか、難しい顔をしている。
「陸斗君には悪いけど、僕も銀児先輩と同意見。彼女には、僕からちゃんと言うことにするから」
「ハァ? なんだよ二人とも。そんなに俺が女子にイジメられてる図式にしたいわけか」
「現にイジメられて……」
「うるさい」
自分でもなぜかわからないけど、華子を悪いヤツだと思いたくない。
確かに先輩である俺をナメくさっていて、ムカつく女だ。あの目には怖いほどに凄みもあるし、正直顔は可愛くても苦手なタイプだと思う。
でもなんか、あの態度がひっかかる。
『あんな事』などとイヤガラセについて言い繕ってはいたが、あれはもしかしてその事自体知らなかったんじゃないんだろうか?
「あのイカレ女のことはコイツに任せて、お前は大人しくオレに守られてなさいっつーの」
「馬鹿言え。どうしてお前らは俺を女扱いするんだよ」
決してか弱いわけでもない、普通の男子高校生だ。カワイイ女の子を守る夢は持っていても、男に守られるのは正直プライドが傷付いてしかたがない。
「とにかく俺が、もう一度彼女と話してみる」
そうキッパリと言い切って、二人を振り返ること無く荒れ放題の公園を後にした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■
『アイちゃん、髪キレイ』
思わずそう呟いて、サラサラと指通りの良い髪を梳くように撫でた。
ほのかに香るシャンプーの香りは、きっと自分の頭のと同じだろう。
だっていつも一緒に風呂入ってんだもん。
『もっと、のばしなよ』
声変わりのしてない、甲高い声は俺。ショートカットも似合うけど、この綺麗な髪が長く揺れる様を見てみたかったんだ。
『……』
小さく頷いたアイちゃんには、なぜだか顔が無かった。そこに目と鼻と口があるはずなのに、逆光のようにまばゆい光に白く何も見えない。
『アイちゃん、大好きだよ』
それでも笑った気がした。
それがたまらなく嬉しくて、ガキの俺は何度も何度も『好き』と繰り返す。
その度に何かを言っているのだが、内容どころか声も聞こえない。
なのに俺にはそれが照れ隠しだとか、可愛く頬を染めているだとか分かるのだ。
……さすが夢、といったところか。
自分であって自分でない、ちぐはぐなズレを感じながらうなずく。
『アイちゃんは、ボクが守ってあげる』
その言葉に、アイちゃんはたじろいだようだ。
『可愛い可愛いアイちゃん。どんなに髪が短くたって、どんなにイジワルしたって……アイちゃんは女の子だから』
―――そこでガクリ、と意識が落ちた。
※※
「あー、夢か」
またガキの頃の夢だ。しかも半分以上夢だと分かっている夢。
アイちゃんがいて俺がいて。
ショートヘアの髪がやたらサラサラで、はにかんだような笑みが……って、見えなかったのに。
「あれ?」
おかしい。
違和感が拭えない。あの夢のアイちゃんは、髪が短かった。
それに女物の服を、着ていただろうか?
さらに言えば、むき出しになってた腕には絆創膏が貼ってあった。まるでヤンチャな男の子みたいに。
それに夢の中の俺は言ったよな。
『アイちゃんは女の子だから』って。
当時そう信じていただけか? だとしてもなんか腑に落ちない。
膨大で歪んだパズルのピースが、バラバラと目の前で散っていくような。
奇妙な感覚な困惑が広がっていく。
「あ」
なんとなしに充電済のスマホを眺めて青ざめた。
……平日。起きなければならない時間はとうに過ぎてい。
なんならあと10分程度で家を出る時間。
「!!!!」
慌てて布団を蹴り、ベッドから転げるように降りた。
不貞腐れた顔で、銀児が文句たれる。
となりではゴリラが深くうなずいた。
「お前らがケンカばっかりしてたからだろ。俺の事、放ったらかしでさぁ」
伍代 華子のムカつく言い草に、さすがの俺もムカついて言い返そうとした時。
この二人が全速力で飛び込んできた。
突如現れたゴリラとチャラ男に慌てたのか、気が付けば彼女はいない。
「なに。もしかして、かまってもらえなくてスネてたの?」
「んなワケないだろ、このノータリンがッ!!」
「痛てぇッ」
ふざけた事をヌかす銀児の足を、思い切り踏みつけてやる。
「なにすんだよォ。なんか陸斗って、オレに対する当たりキツくない!?」
「お前が、意味わかんないこと言うからだろ」
「DVだぜェ、これ」
「夫婦でもカップルでもないだろうが」
毒づけば、またムカつく声で『ひっどぉい』なんて返ってくる。
今度は殴りつけてやろうか。
「だいたいさァ。このゴリラ野郎が悪いんだぜ」
銀児が思い切りアイツを睨みつけて言う。
本人はさすがに気まずそうに目を逸らした。
「そこんとこだが……俺は彼女の仕業じゃないと思う」
「オイオイオイ、陸斗ってばマジで言ってんのォ? 」
銀児の横槍をおさえて俺は言葉を続ける。
「確証はないけど多分、彼女はイヤガラセの事すら知らない様子だったんだよ」
「トボけてたかも知れないだろ。ったく、陸斗は女に甘すぎ! 女なんてのはね、息を吐くようにウソをつくんだからね? 人生経験も女性経験も豊富なオレだからこそのアドバイス」
「それは単に、ロクな女と付き合ってないだけだろうが」
「ンな事ねーよ。オレは陸斗の事を思ってね?」
「だからってホモにはならないから」
カノジョいた事ない童貞のひがみだとでも言ってくれ。俺はこんなヤリチンの言うことは聞かないし、普通に女がいいに決まってる。
「別にホモになってくれなんて言ってねーよ。ただオレにしときなさいって」
「ホモじゃねーか」
「いやいや、付き合った人がたまたま男だったってだけでね?」
「だからホモだろ」
「いやいや」
このホモネタ、まだやんのかね。
悪いけど正直めんどくさくなってきた。
別に助けを求めるワケじゃないが、やけに静かなゴリラを振り返る。
「おいゴリラ」
「って、なんでナチュラルにゴリラ呼びすんのさ……」
「だってゴリラだし」
「人間だよ!」
こんなガチムチな身体でよく言うもんだ。コイツはコイツで俺の言うことを信用していないのか、難しい顔をしている。
「陸斗君には悪いけど、僕も銀児先輩と同意見。彼女には、僕からちゃんと言うことにするから」
「ハァ? なんだよ二人とも。そんなに俺が女子にイジメられてる図式にしたいわけか」
「現にイジメられて……」
「うるさい」
自分でもなぜかわからないけど、華子を悪いヤツだと思いたくない。
確かに先輩である俺をナメくさっていて、ムカつく女だ。あの目には怖いほどに凄みもあるし、正直顔は可愛くても苦手なタイプだと思う。
でもなんか、あの態度がひっかかる。
『あんな事』などとイヤガラセについて言い繕ってはいたが、あれはもしかしてその事自体知らなかったんじゃないんだろうか?
「あのイカレ女のことはコイツに任せて、お前は大人しくオレに守られてなさいっつーの」
「馬鹿言え。どうしてお前らは俺を女扱いするんだよ」
決してか弱いわけでもない、普通の男子高校生だ。カワイイ女の子を守る夢は持っていても、男に守られるのは正直プライドが傷付いてしかたがない。
「とにかく俺が、もう一度彼女と話してみる」
そうキッパリと言い切って、二人を振り返ること無く荒れ放題の公園を後にした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■
『アイちゃん、髪キレイ』
思わずそう呟いて、サラサラと指通りの良い髪を梳くように撫でた。
ほのかに香るシャンプーの香りは、きっと自分の頭のと同じだろう。
だっていつも一緒に風呂入ってんだもん。
『もっと、のばしなよ』
声変わりのしてない、甲高い声は俺。ショートカットも似合うけど、この綺麗な髪が長く揺れる様を見てみたかったんだ。
『……』
小さく頷いたアイちゃんには、なぜだか顔が無かった。そこに目と鼻と口があるはずなのに、逆光のようにまばゆい光に白く何も見えない。
『アイちゃん、大好きだよ』
それでも笑った気がした。
それがたまらなく嬉しくて、ガキの俺は何度も何度も『好き』と繰り返す。
その度に何かを言っているのだが、内容どころか声も聞こえない。
なのに俺にはそれが照れ隠しだとか、可愛く頬を染めているだとか分かるのだ。
……さすが夢、といったところか。
自分であって自分でない、ちぐはぐなズレを感じながらうなずく。
『アイちゃんは、ボクが守ってあげる』
その言葉に、アイちゃんはたじろいだようだ。
『可愛い可愛いアイちゃん。どんなに髪が短くたって、どんなにイジワルしたって……アイちゃんは女の子だから』
―――そこでガクリ、と意識が落ちた。
※※
「あー、夢か」
またガキの頃の夢だ。しかも半分以上夢だと分かっている夢。
アイちゃんがいて俺がいて。
ショートヘアの髪がやたらサラサラで、はにかんだような笑みが……って、見えなかったのに。
「あれ?」
おかしい。
違和感が拭えない。あの夢のアイちゃんは、髪が短かった。
それに女物の服を、着ていただろうか?
さらに言えば、むき出しになってた腕には絆創膏が貼ってあった。まるでヤンチャな男の子みたいに。
それに夢の中の俺は言ったよな。
『アイちゃんは女の子だから』って。
当時そう信じていただけか? だとしてもなんか腑に落ちない。
膨大で歪んだパズルのピースが、バラバラと目の前で散っていくような。
奇妙な感覚な困惑が広がっていく。
「あ」
なんとなしに充電済のスマホを眺めて青ざめた。
……平日。起きなければならない時間はとうに過ぎてい。
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