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純愛男子は執着男子に狙われる
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※※※※※※
思えば一目惚れなのだろう。
『愛している』
聞くだけでも寒気のするこんな言葉も、彼に囁く時だけは胸が熱くなるのは何故だ。
「なに見てるのぉ? あ、写真――うっわ……」
俺のそばを鬱陶しく付いてくる女が、不快な声を上げる。
「勝手に覗いて引くんじゃねぇよ」
「いや。だってぇ。ガチでヤバいもーん」
そう言いつつ、ケラケラ笑ってるこの女がワケわからん。
俺、天木 優希は深いため息をついた。
――どんくせぇ奴。
それが最初に鈴太郎を見た時の印象だ。
誰かにパシられてたのか知らんが、やたら大荷物で大学構内を走っているのを見かけた。
その間も何度が通りすがりの奴らにぶつかりそうになって、大慌てで頭を下げることの繰り返し。
次に見た時は、また走っていた。どこをどう急いでいたのか知らんが、俺の目の前で盛大にすっこんだ。
ギャグみてぇに身体が地面に転がっていくのは、なんか前日に見たペットのマヌケな映像の子犬のようだと面白かった。
『ごごごっ、ごめんなさいっ!』
てめぇが勝手に転んだクセに、俺に頭下げて必死に謝る様もおかしかったな。でもなんかすごくときめいた――いや、正直に言おう。
かなり興奮した、やばかった。
それから俺の行動は迅速であったと言わざるを得ない。
まずこの付きまとい女……高梨 愛梨をつかって、そして俺自身もそれとなくあいつの事を調べた。
二度、見かけただけの相手に本気になるなんて。俺だって信じられねぇよ。でも寝ても覚めてもあの焦ったような、泣きそうな顔が忘れられない。
これはもう恋だろ。恋でしかない。
「推しがストーカーってウケるぅ」
別にアイドルでも二次元でもない、どこにでもいる大学生の俺を推しと称するこの女もそうとうだがな。
他の女どもみたいに、やれ付き合えだの抱いてくれだの言わねぇから放置しているだけだ。
まぁ今回、色々と役に立ってくれたが。
「鈴太郎君も可愛いし、推しちゃおっかなぁ~」
「おいコラ、待て」
俺は片手で女の頭を掴む。
「鈴太郎に妙な色目使ったら、張り倒すぞ」
「キャハハハッ、いったーい。そんなことしないってばぁ。だって推しだよ? 推しと推しがイチャラブすんのが尊いっていうもんでしょ」
「あ?」
意味がわからん。が、手を出さないならいいか。
俺は女から離れ、強く睨みつけた。
「あいつになんかあったら、冗談抜きで許さんからな」
「怖いなぁ、だから推し達が幸せなのがアタシの幸せなんだってば」
「頭イカれてんのか、お前」
「あははははっ。それほどでもぉ~」
「褒めてねぇよ」
ダメだこいつ。
しかしこの女からのおかげで、あいつはあの合コンに参加したし酔いつぶれてくれたわけだが。
「ほんっと、感謝してよね! 優子ちゃんに金とその他もろもろ握らせて、他のメンバーも厳選してあげたんだから」
優子ちゃん、というのは彼の幼なじみの女らしい。そのポジションってだけで妬ましいが、今はそんなことも言ってられねぇ。
女には女が交渉すんのが一番だ。
「悪ぃな。かかった金は払うぜ」
「かたいこと言いっこなし、推しに貢ぐのも幸せなんだから」
「だから意味がわからん」
またケラケラと笑って、引っ付いてくる女を強引に引き剥がした。
やめろ、へんな誤解されたら困る。特に彼には――。
「ん?」
コンビニの袋を下げて小走りしている姿を見つけた。
俺は猛然と走り出す。
「っ、……え、ちょっ!? 天木君!?!?!?」
「見つけた」
目を白黒させて、それでもちゃんと立ち止まってくれるのがまた可愛いな。
俺は自分よりずっと華奢な肩に腕を回して、抱き寄せる。
「!」
「偶然、だな」
「でも見つけたって」
「空耳だぜ」
朝から必要もないのに大学内を歩き回って、こいつを探してたなんて言わない。奥ゆかしいこいつのことだ。申し訳ないなんて思わせたくないんだ。
まぁ照れて頬を染めてくれるっていうのなら喜んで視姦……いや、見守りたいのだが。
「それよりお前、言っただろ。名前で呼べって」
「で、でも」
「お仕置きされたいのか?」
「ヒッ……や、やだよ!」
途端、身をすくませるのがやはり可愛い。可愛すぎて心配だな。保護 (意味深)しねぇと――。
「ゆ、優希?」
「!!!」
黙り込んだ俺を心配してくれたのだろう。服の端を軽く引っ張り、上目遣いで俺の名前を………………!
「おい、帰るぞ」
「えぇっ!? なんで、これから講義が」
「ンなもん病欠だ」
「病気じゃないけど」
「今から動けなくなるんだよ」
「なにそれ怖い!」
こんなに可愛いのが悪い。俺は悪くない。
俺にお持ち帰りの末にブチ犯されて。ガキみてぇに泣いてたのを見て、俺の理性がブチ切れてまたベッドに逆戻り。
それが二週間ほど前の話だった。
そこからまぁ色々あって、俺もあいつも色々やらかして。それからはこんな感じだ。
身体の関係はあっても、まだまだ俺たちはお互いの事を知らねぇ。あいつの純愛主義にも付き合ってやるつもりだ。
ま、婚前交渉云々は聞いてやれなかったけどな。
「今日バイトないんだろう」
「ああ、って。君! また僕のスマホ見ただろ」
「俺のも見ていいぜ」
「見ないよ?」
まぁ見たら卒倒するかもしれねぇが。何から何までこいつの事しかないからな。
でもそれも愛の形ってやつだ。
「なぁ鈴太郎」
「なんだよ……優希」
やっぱり可愛いじゃねぇか。狙ってやってんのか。やれやれ、だとしたらとんだメス猫ちゃんだな。
「やっぱり帰るぞ」
「帰らないってば! 君も講義あるだろ」
「いや、今日はもう無い」
「じゃあなんでいるんだよ……」
ドン引き顔も愛らしいな。
向こうの柱の影にいる愛梨にチラリと視線を送る。
どうせ盗撮してるんだろ、さっさと物陰に隠れて。あとで提出させて俺のコレクションに加えてやろう。
「あのねぇ!」
彼が頬をふくらませて俺の事を見上げててかわい(ry
「あとで行くから、先に帰っててよ」
「!!」
――な、なんだ、と?
俺のキャパがオーバーした。同時に理性がブチブチィッと音を立ててちぎれたきがする。
そして気がつけば、彼を羽交い締めにしていた。
「ちょっ、何してんの!?」
「お前が悪い」
「なんでだよ!」
やれやれやれやれ、とんだハニートラップだぜ。俺の頭に血をのぼらせるなんざ、この可愛いすぎる奴しかいねぇ。
「こ、ここ、外だよ……」
「愛の前にはそんなもん関係ないな」
「あるよ! 僕にはまだ恥も外聞もある!!」
彼は俺に何か押し付けてきた。
「なんだこれ、ノートか?」
「…………き」
「き?」
「……ん……き」
「??」
「交換日記だよ! 僕先に書いたからっ!!!」
そう叫んで、俺を振りほどいて走り去っていく。
「え……?」
残された俺の手には、一冊のノート。シンプルなデザインだが、淡い水色のそれは綺麗ともいえなくない。
「へぇ。今どき手書きの交換日記かぁ~、さっすが」
いつの間にでてきたのか、また愛梨が俺の隣でつぶやく。
「余計な茶々入れてんじゃねぇよ。ていうか、ずっと隠れてやがれ」
「ちゃんと二人を見守ってたよー? うふふ、尊すぎて尊死するかと」
「そのまま死んでていいぞ」
「あははは、ひどーい」
ふと思い出した。
そう言えば、恋人と交換日記としたがってたとか。結局元カノには拒否られたらしいが。
「んで、どーすんの」
「当たり前だろ」
俺はノートをそっと抱きしめた。
「一日でこれを埋めてやるぜ」
俺の彼に対する想いを存分に書き綴ってやろう。
「……交換日記って、そういうもんじゃないんだけどなぁ」
隣でつぶやく女の言葉は、無視した。
思えば一目惚れなのだろう。
『愛している』
聞くだけでも寒気のするこんな言葉も、彼に囁く時だけは胸が熱くなるのは何故だ。
「なに見てるのぉ? あ、写真――うっわ……」
俺のそばを鬱陶しく付いてくる女が、不快な声を上げる。
「勝手に覗いて引くんじゃねぇよ」
「いや。だってぇ。ガチでヤバいもーん」
そう言いつつ、ケラケラ笑ってるこの女がワケわからん。
俺、天木 優希は深いため息をついた。
――どんくせぇ奴。
それが最初に鈴太郎を見た時の印象だ。
誰かにパシられてたのか知らんが、やたら大荷物で大学構内を走っているのを見かけた。
その間も何度が通りすがりの奴らにぶつかりそうになって、大慌てで頭を下げることの繰り返し。
次に見た時は、また走っていた。どこをどう急いでいたのか知らんが、俺の目の前で盛大にすっこんだ。
ギャグみてぇに身体が地面に転がっていくのは、なんか前日に見たペットのマヌケな映像の子犬のようだと面白かった。
『ごごごっ、ごめんなさいっ!』
てめぇが勝手に転んだクセに、俺に頭下げて必死に謝る様もおかしかったな。でもなんかすごくときめいた――いや、正直に言おう。
かなり興奮した、やばかった。
それから俺の行動は迅速であったと言わざるを得ない。
まずこの付きまとい女……高梨 愛梨をつかって、そして俺自身もそれとなくあいつの事を調べた。
二度、見かけただけの相手に本気になるなんて。俺だって信じられねぇよ。でも寝ても覚めてもあの焦ったような、泣きそうな顔が忘れられない。
これはもう恋だろ。恋でしかない。
「推しがストーカーってウケるぅ」
別にアイドルでも二次元でもない、どこにでもいる大学生の俺を推しと称するこの女もそうとうだがな。
他の女どもみたいに、やれ付き合えだの抱いてくれだの言わねぇから放置しているだけだ。
まぁ今回、色々と役に立ってくれたが。
「鈴太郎君も可愛いし、推しちゃおっかなぁ~」
「おいコラ、待て」
俺は片手で女の頭を掴む。
「鈴太郎に妙な色目使ったら、張り倒すぞ」
「キャハハハッ、いったーい。そんなことしないってばぁ。だって推しだよ? 推しと推しがイチャラブすんのが尊いっていうもんでしょ」
「あ?」
意味がわからん。が、手を出さないならいいか。
俺は女から離れ、強く睨みつけた。
「あいつになんかあったら、冗談抜きで許さんからな」
「怖いなぁ、だから推し達が幸せなのがアタシの幸せなんだってば」
「頭イカれてんのか、お前」
「あははははっ。それほどでもぉ~」
「褒めてねぇよ」
ダメだこいつ。
しかしこの女からのおかげで、あいつはあの合コンに参加したし酔いつぶれてくれたわけだが。
「ほんっと、感謝してよね! 優子ちゃんに金とその他もろもろ握らせて、他のメンバーも厳選してあげたんだから」
優子ちゃん、というのは彼の幼なじみの女らしい。そのポジションってだけで妬ましいが、今はそんなことも言ってられねぇ。
女には女が交渉すんのが一番だ。
「悪ぃな。かかった金は払うぜ」
「かたいこと言いっこなし、推しに貢ぐのも幸せなんだから」
「だから意味がわからん」
またケラケラと笑って、引っ付いてくる女を強引に引き剥がした。
やめろ、へんな誤解されたら困る。特に彼には――。
「ん?」
コンビニの袋を下げて小走りしている姿を見つけた。
俺は猛然と走り出す。
「っ、……え、ちょっ!? 天木君!?!?!?」
「見つけた」
目を白黒させて、それでもちゃんと立ち止まってくれるのがまた可愛いな。
俺は自分よりずっと華奢な肩に腕を回して、抱き寄せる。
「!」
「偶然、だな」
「でも見つけたって」
「空耳だぜ」
朝から必要もないのに大学内を歩き回って、こいつを探してたなんて言わない。奥ゆかしいこいつのことだ。申し訳ないなんて思わせたくないんだ。
まぁ照れて頬を染めてくれるっていうのなら喜んで視姦……いや、見守りたいのだが。
「それよりお前、言っただろ。名前で呼べって」
「で、でも」
「お仕置きされたいのか?」
「ヒッ……や、やだよ!」
途端、身をすくませるのがやはり可愛い。可愛すぎて心配だな。保護 (意味深)しねぇと――。
「ゆ、優希?」
「!!!」
黙り込んだ俺を心配してくれたのだろう。服の端を軽く引っ張り、上目遣いで俺の名前を………………!
「おい、帰るぞ」
「えぇっ!? なんで、これから講義が」
「ンなもん病欠だ」
「病気じゃないけど」
「今から動けなくなるんだよ」
「なにそれ怖い!」
こんなに可愛いのが悪い。俺は悪くない。
俺にお持ち帰りの末にブチ犯されて。ガキみてぇに泣いてたのを見て、俺の理性がブチ切れてまたベッドに逆戻り。
それが二週間ほど前の話だった。
そこからまぁ色々あって、俺もあいつも色々やらかして。それからはこんな感じだ。
身体の関係はあっても、まだまだ俺たちはお互いの事を知らねぇ。あいつの純愛主義にも付き合ってやるつもりだ。
ま、婚前交渉云々は聞いてやれなかったけどな。
「今日バイトないんだろう」
「ああ、って。君! また僕のスマホ見ただろ」
「俺のも見ていいぜ」
「見ないよ?」
まぁ見たら卒倒するかもしれねぇが。何から何までこいつの事しかないからな。
でもそれも愛の形ってやつだ。
「なぁ鈴太郎」
「なんだよ……優希」
やっぱり可愛いじゃねぇか。狙ってやってんのか。やれやれ、だとしたらとんだメス猫ちゃんだな。
「やっぱり帰るぞ」
「帰らないってば! 君も講義あるだろ」
「いや、今日はもう無い」
「じゃあなんでいるんだよ……」
ドン引き顔も愛らしいな。
向こうの柱の影にいる愛梨にチラリと視線を送る。
どうせ盗撮してるんだろ、さっさと物陰に隠れて。あとで提出させて俺のコレクションに加えてやろう。
「あのねぇ!」
彼が頬をふくらませて俺の事を見上げててかわい(ry
「あとで行くから、先に帰っててよ」
「!!」
――な、なんだ、と?
俺のキャパがオーバーした。同時に理性がブチブチィッと音を立ててちぎれたきがする。
そして気がつけば、彼を羽交い締めにしていた。
「ちょっ、何してんの!?」
「お前が悪い」
「なんでだよ!」
やれやれやれやれ、とんだハニートラップだぜ。俺の頭に血をのぼらせるなんざ、この可愛いすぎる奴しかいねぇ。
「こ、ここ、外だよ……」
「愛の前にはそんなもん関係ないな」
「あるよ! 僕にはまだ恥も外聞もある!!」
彼は俺に何か押し付けてきた。
「なんだこれ、ノートか?」
「…………き」
「き?」
「……ん……き」
「??」
「交換日記だよ! 僕先に書いたからっ!!!」
そう叫んで、俺を振りほどいて走り去っていく。
「え……?」
残された俺の手には、一冊のノート。シンプルなデザインだが、淡い水色のそれは綺麗ともいえなくない。
「へぇ。今どき手書きの交換日記かぁ~、さっすが」
いつの間にでてきたのか、また愛梨が俺の隣でつぶやく。
「余計な茶々入れてんじゃねぇよ。ていうか、ずっと隠れてやがれ」
「ちゃんと二人を見守ってたよー? うふふ、尊すぎて尊死するかと」
「そのまま死んでていいぞ」
「あははは、ひどーい」
ふと思い出した。
そう言えば、恋人と交換日記としたがってたとか。結局元カノには拒否られたらしいが。
「んで、どーすんの」
「当たり前だろ」
俺はノートをそっと抱きしめた。
「一日でこれを埋めてやるぜ」
俺の彼に対する想いを存分に書き綴ってやろう。
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