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純愛宣言男子
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――純愛。
読んで字のごとく。ひたむきな愛情を僕は求めている。
そんなものない、夢見るな? いやいや何を言うか。世の中には美談が溢れかえっている。
そこには大抵、愛がある。純粋な愛が。
少なくとも僕、白瀬 鈴太郎はそれを信じていて喉から手が出るほど欲しい。
「もう誰も信じられない」
「まーまー、そんなに凹まないの」
大学の食堂のテーブルに突っ伏した僕に、場違いなほどの明るい笑い声とお気楽な言葉をかけたのは一応友達の優子だ。
「てかさー。もう別れちゃってたんでしょ?」
「別れてないよ……まだ」
最近、僕は恋人に別れを切り出された。当然理由を聞いたけど、素っ気なく一言。
『性格の不一致』
だってさ。そんなの納得出来るわかけもなく、でもそれからダンマリなもんで困った。
とにかく一度距離置いて考えようって説得して、正直押し切った形になったのが一週間前。
それからもう、LINEも多分ブロックされたんだろうなって状況まで早かった。電話ももちろん繋がらない。
さすがに家に押しかけたらストーカーかなって、優子に相談しようとしたのが今朝。
「まさか浮気されるなんて……」
「いやいや浮気じゃないでしょ」
さっきぼんやりこの食堂から窓の外を見ていたら、男女が仲睦まじく歩いているのが見えた。
手を繋いでさらに密着した彼らに、数週間前の自分と彼女を重ね合わせて切なくなっていたまではよかったんだ。
問題はここからで、その女の方が彼女で男が僕でなかったこと。
つまり僕は、ここで自分の恋人が他の男とイチャイチャしながら歩いているのを見てしまったってわけ。
取り乱さない方がどうかしてるだろう。
「また泣いてるし」
「ぐすっ……仕方ない、だろ」
ガチで好きだったんだから。
今でも頭の中は、楽しかったあの頃の思い出が切ない恋愛ソングと共にスライドショー展開されてるんだぞ。
女々しくて悪いか! と幼なじみでもあり、まるで姉のような女友達を睨みつける。
あぁ情けない。
「はいはい。でももう無理よ。復縁は絶望的。というか、もうありえない」
「そん゙な゙ぁ゙……」
「だから泣くなっての」
昼をとうに過ぎた食堂は人もまばらだ。でも後片付けのために出てきた食堂のおばちゃんが、コッチをチラチラ見てくる視線も確かに痛い。
僕は慌てて目元をぬぐった。
「本当は分かってたよ、ダメだって」
でもそう簡単に人間の心って変われないだろ。
「運命の人だって思ってたんだけどな」
「またそれぇ? ほんっとバカね」
ため息混じりでつぶやいた言葉にも、この女友達は冷たい。
……僕は純愛を信じている。
いや親子のそれもだけど、僕が憧れているのは恋愛の方。
昔から夢見がちだとか女々しいだとか、優子にも散々こき下ろされてるけどさ。でもやっぱり憧れるじゃん。
お互いを想い合う恋愛って。
「しかもする事しないとか、頭おかしいの?」
「ひ、ひどい」
確かに彼女とはまだそういう、その、大人の関係はまだだった。
別に僕だって怖気付いてたとかじゃなくてね。なんというか時期が違うというか、初体験ってお互いに特別なものだからちゃんとした形でしたいっていうか。
「それで童貞とかヤバすぎじゃん」
「ちょっ、大きな声で言うなよ!」
シレッとばらしやがって。ほら、食堂のおばちゃんが目をまん丸にしてこっち見てるじゃないか。
っていうか。ずっと僕らの話を立ち聞きしてるよね、この人。
僕は大きくため息をついた。
「別れたいって、乗り換えたいってことだったんだな」
「そりゃそうでしょうよ」
「えぇ……」
女の子って怖すぎじゃないの? てか、あの様子だと確実に二股かけてたじゃん。これ以上悲しいことなんてない。
「僕の何がいけなかったんだろ」
「その質問には答えが星の数だけあるけどさ。まぁ一つ言えるのは、その乙女趣味全開の願望よね」
「お、乙女ぇ!?」
えらい言われようだと抗議するまえに、彼女はペットボトルのジュースを置いて口を開いた。
「いい歳して純愛だのなんだの。やれ初めてのセックスは結婚式の後の初夜にしたいとか、付き合っても交換日記から始めたいとか。今どきド田舎の中学生ですら、ンな珍妙な思考にならないっつーの。バカなの? あ、バカなんだね! 確かに浮気した彼女がめちゃくちゃ悪いよ? でもね、アンタの場合はそうなっちゃうって。現に、今まで何人の女の子にフられてきたん? ねぇ、今までに食べたパンの枚数的に忘れちゃったの?? この少女趣味の童貞野郎が!」
「……」
ここまでまくし立てるような罵倒も初めてだ。
もういっそ感心してしまうレベルの言い草に僕は視線を落とす。すると彼女も言い過ぎたと思ったんだろう、またジュースを一口飲んで息を吐く。
「とにかく、今のアンタには出会いが足りないわ」
「え?」
出会い??? いや、そりゃああるに越したことはないけどさ。でも話がぜんっぜん見えない。
「出会いよ。で・あ・い! 失恋は新しい恋愛で上書きするしかないのよ。よく言うでしょ、上書き保存って」
「それは女性の場合じゃないの……」
過去の恋愛において、男は昔の女を忘れられずそれどころか美化してしまう傾向にあって。
それに対して女は逆。なんなら黒歴史として過去を抹殺したいと思う、なんて事をきいたことがある。
「つべこべ言わない! そういえばアンタ、今週末バイト休みの日あるわよね?」
「あ、うん」
元々彼女とのデートの約束で、定期的に空けてる日がある。確かにその日は夜にしてるバイトもないし、悲しいほどヒマな日なんだろう。
うわ、考えてるうちにまた涙が。
「いちいち泣きなさんなって。じゃあその日は予定入れるんじゃないわよ」
「え?」
そこで彼女はニヤリと笑った。
「言ったでしょ、アンタに足りないのは出会いだって」
「……」
なんか今、うっすら寒気がしたぞ。
妙な含みある言い方と表情にイヤな予感しかしない。
でも心のどこかで自暴自棄になってた僕は、彼女の空気に蹴落とされる形でこくこくとうなずいた。
読んで字のごとく。ひたむきな愛情を僕は求めている。
そんなものない、夢見るな? いやいや何を言うか。世の中には美談が溢れかえっている。
そこには大抵、愛がある。純粋な愛が。
少なくとも僕、白瀬 鈴太郎はそれを信じていて喉から手が出るほど欲しい。
「もう誰も信じられない」
「まーまー、そんなに凹まないの」
大学の食堂のテーブルに突っ伏した僕に、場違いなほどの明るい笑い声とお気楽な言葉をかけたのは一応友達の優子だ。
「てかさー。もう別れちゃってたんでしょ?」
「別れてないよ……まだ」
最近、僕は恋人に別れを切り出された。当然理由を聞いたけど、素っ気なく一言。
『性格の不一致』
だってさ。そんなの納得出来るわかけもなく、でもそれからダンマリなもんで困った。
とにかく一度距離置いて考えようって説得して、正直押し切った形になったのが一週間前。
それからもう、LINEも多分ブロックされたんだろうなって状況まで早かった。電話ももちろん繋がらない。
さすがに家に押しかけたらストーカーかなって、優子に相談しようとしたのが今朝。
「まさか浮気されるなんて……」
「いやいや浮気じゃないでしょ」
さっきぼんやりこの食堂から窓の外を見ていたら、男女が仲睦まじく歩いているのが見えた。
手を繋いでさらに密着した彼らに、数週間前の自分と彼女を重ね合わせて切なくなっていたまではよかったんだ。
問題はここからで、その女の方が彼女で男が僕でなかったこと。
つまり僕は、ここで自分の恋人が他の男とイチャイチャしながら歩いているのを見てしまったってわけ。
取り乱さない方がどうかしてるだろう。
「また泣いてるし」
「ぐすっ……仕方ない、だろ」
ガチで好きだったんだから。
今でも頭の中は、楽しかったあの頃の思い出が切ない恋愛ソングと共にスライドショー展開されてるんだぞ。
女々しくて悪いか! と幼なじみでもあり、まるで姉のような女友達を睨みつける。
あぁ情けない。
「はいはい。でももう無理よ。復縁は絶望的。というか、もうありえない」
「そん゙な゙ぁ゙……」
「だから泣くなっての」
昼をとうに過ぎた食堂は人もまばらだ。でも後片付けのために出てきた食堂のおばちゃんが、コッチをチラチラ見てくる視線も確かに痛い。
僕は慌てて目元をぬぐった。
「本当は分かってたよ、ダメだって」
でもそう簡単に人間の心って変われないだろ。
「運命の人だって思ってたんだけどな」
「またそれぇ? ほんっとバカね」
ため息混じりでつぶやいた言葉にも、この女友達は冷たい。
……僕は純愛を信じている。
いや親子のそれもだけど、僕が憧れているのは恋愛の方。
昔から夢見がちだとか女々しいだとか、優子にも散々こき下ろされてるけどさ。でもやっぱり憧れるじゃん。
お互いを想い合う恋愛って。
「しかもする事しないとか、頭おかしいの?」
「ひ、ひどい」
確かに彼女とはまだそういう、その、大人の関係はまだだった。
別に僕だって怖気付いてたとかじゃなくてね。なんというか時期が違うというか、初体験ってお互いに特別なものだからちゃんとした形でしたいっていうか。
「それで童貞とかヤバすぎじゃん」
「ちょっ、大きな声で言うなよ!」
シレッとばらしやがって。ほら、食堂のおばちゃんが目をまん丸にしてこっち見てるじゃないか。
っていうか。ずっと僕らの話を立ち聞きしてるよね、この人。
僕は大きくため息をついた。
「別れたいって、乗り換えたいってことだったんだな」
「そりゃそうでしょうよ」
「えぇ……」
女の子って怖すぎじゃないの? てか、あの様子だと確実に二股かけてたじゃん。これ以上悲しいことなんてない。
「僕の何がいけなかったんだろ」
「その質問には答えが星の数だけあるけどさ。まぁ一つ言えるのは、その乙女趣味全開の願望よね」
「お、乙女ぇ!?」
えらい言われようだと抗議するまえに、彼女はペットボトルのジュースを置いて口を開いた。
「いい歳して純愛だのなんだの。やれ初めてのセックスは結婚式の後の初夜にしたいとか、付き合っても交換日記から始めたいとか。今どきド田舎の中学生ですら、ンな珍妙な思考にならないっつーの。バカなの? あ、バカなんだね! 確かに浮気した彼女がめちゃくちゃ悪いよ? でもね、アンタの場合はそうなっちゃうって。現に、今まで何人の女の子にフられてきたん? ねぇ、今までに食べたパンの枚数的に忘れちゃったの?? この少女趣味の童貞野郎が!」
「……」
ここまでまくし立てるような罵倒も初めてだ。
もういっそ感心してしまうレベルの言い草に僕は視線を落とす。すると彼女も言い過ぎたと思ったんだろう、またジュースを一口飲んで息を吐く。
「とにかく、今のアンタには出会いが足りないわ」
「え?」
出会い??? いや、そりゃああるに越したことはないけどさ。でも話がぜんっぜん見えない。
「出会いよ。で・あ・い! 失恋は新しい恋愛で上書きするしかないのよ。よく言うでしょ、上書き保存って」
「それは女性の場合じゃないの……」
過去の恋愛において、男は昔の女を忘れられずそれどころか美化してしまう傾向にあって。
それに対して女は逆。なんなら黒歴史として過去を抹殺したいと思う、なんて事をきいたことがある。
「つべこべ言わない! そういえばアンタ、今週末バイト休みの日あるわよね?」
「あ、うん」
元々彼女とのデートの約束で、定期的に空けてる日がある。確かにその日は夜にしてるバイトもないし、悲しいほどヒマな日なんだろう。
うわ、考えてるうちにまた涙が。
「いちいち泣きなさんなって。じゃあその日は予定入れるんじゃないわよ」
「え?」
そこで彼女はニヤリと笑った。
「言ったでしょ、アンタに足りないのは出会いだって」
「……」
なんか今、うっすら寒気がしたぞ。
妙な含みある言い方と表情にイヤな予感しかしない。
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