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2.とりあえず粘着質なチュートリアルといきましょう②
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―――その後もたくさんのスライムが出現した。
多くが緑色のドロっとした奴で、まるで地面に擬態するように始終僕達を捕獲し溶かして取り込もうと触手を伸ばしてくる。
それをマトが魔法陣で焼き付くす。しかしそれだとどうしても隙が出来るから、その間は僕が剣を振るって薙ぎ払うように援護した。
「……なんか俺の方が守られてねーか?」
一段落して倒れ老木に座り込んだマトが言葉をこぼす。不貞腐れたようなその顔がやっぱり子供っぽくて、僕は思わず頬が緩むのが分かった。
「仕方ないじゃないか。君の火炎魔法は発動に少し時間がかかるんだから」
「そーだろうがよォ」
そう宥めたら逆効果だったか、膨れっ面して面白い。僕より大きな身体してるくせに、本当に可愛い男だと思う……なんて言うとますます拗ねてしまうかな。
だから言葉の代わりに手を伸ばして、その頬に触れてみる。
「あーっ!」
「な、なに!?」
マトが突然大声を上げて僕のその手を掴んだ。
あまりにも強く握るものだから、痛みと驚きに顔を顰めると。
「け、け、怪我してんじゃねーかぁぁッ!」
大袈裟でなく、青ざめながら叫んだ。
……ん、怪我? 確かに腕に軽い火傷の飛沫がある。緑スライムの体液が付着したらしい。
でもこんなもの大したことない。
「ルイっ、お前もうジッとしとけ! 俺が戦うから!!」
「は、はぁぁ!?」
突然何言い出すんだ、この人。
すると鼻息荒くマトは僕を睨みつける。
「俺のメンタルは100回くらい死んだ!」
「よ、弱いメンタルだなぁ……」
あんなに強そうな肉体と強い魔法使えるのに。
「茶化すなよ! この綺麗な肌に跡痕が残ったらどーすんだよぉぉぉ」
「大丈夫だってば」
所詮男の腕だし。むしろこんな生白い手にも傷跡の一つや二つある方が、勇者らしくて僕としては良いんだけどなぁ。なんて言ったら逆効果?
「お前のその雪のような白く美しい肌が、あんな単細胞でぬちゃぬちゃした変な生き物の体液で汚されるなんて我慢できんッ!」
「あ、あのぉ……」
「よし決めた! 俺はこの森を焼いてやるっ」
「わわわっ、待ってよ」
妙に据わった目で呪文を唱え、魔法陣を描き始めるマトを必死で止める。
こんな馬鹿げた事で森を焼かれたら堪らないし、確実に近くの村まで焼け野原になっちゃうじゃないか。
「マトってば! ちゃんと怪我治すからっ……ほら薬貸して」
「……本当か?」
「うん。君だって怪我してるじゃないか。僕が手当してあげるから」
「お、おぅ」
大人しく出した軟膏状の薬を幹部に塗って端切れの布を巻く。彼のそれも同じようにして素早く手当した。
「よし、これでお終い」
「相変わらず上手いもんだな」
彼が不機嫌そうなのは声だけで、顔は完全に機嫌治った表情している。
相変わらずって事は、以前にも僕は彼の怪我の手当をしているんだろう。前世だと絆創膏を貼るくらいしかした事ないのに、我ながらすごく手馴れていた。
やっぱり剣の振り方と同じで、身体が覚えているのかもしれない。
「あたしの怪我もお願いして良いかしら」
突然、向こうの木々の影から声が響く。
ガサガサガサッ。
……草と土を踏みしめる音。
「誰だ?」
マトの鋭い呼び掛けの返事の代わりに、木の後ろからゆっくり姿を見せたのは、一人の少女だった。
まず印象的だったのは、その柘榴石のような紅く燃える瞳。
それが零れ落ちそうな大きな目に埋まっていて、小さな鼻と口は形良く。褐色の肌の四肢は小柄だがしなやかで、その筋肉のつき具合から戦士である事が伺い知れる。
「自己紹介は柄じゃないんだけど……仕方ないわね。あたしはカンナ。冒険者とか剣士を名乗っているわ。そしてご多分に漏れず、魔王討伐と魔物達の一掃を請け負っているの。国の命令でね。とは言ってもフリーランスなもんで、仲間はいない。これでいいかしら?」
「……出身は。その肌はこの国じゃねーだろ」
「あら。そんな事まで聞かれるの? ていうか、あんた誰よ」
苦々しい声の彼の言葉に、カンナという女は顔を顰める。
「俺が誰だって関係ねーだろ。質問に答えろ」
「ちょ、マト! ごめんね。ええっと……カンナさん。怪我の手当ならするよ」
出会って1分も経たずに険悪な空気になる彼らに慌てて、僕は薬膏を取り出す。見たところ、膝に裂傷。そして胴体にも服を切り裂く程の怪我をしている。
「おいっ、ルイ!」
「ふん、貴方は優しいのね……この筋肉バカと違って」
「んだとゴラァ! だーれが筋肉バカだっ」
「やれやれ自覚が無いのね。哀れだわ」
「あァァ!? このクソアマ、その切り株ごとこんがり丸焼きにしたろーかッ!!」
「やれるもんならやってみなさいよっ、バーカバーカ!」
あー……ついに喧嘩始めちゃった。
っていうかマトがこんなに怒ってる姿初めて見たかも。僕には諭したり叱ったりすることはあっても、こんな風に敵意や怒気を剥き出しにすることはなかった。
彼女の方もそれに応える形で水と油、磁石の対極同士のように互いに睨み合っている。
「まぁまぁ二人とも……ほら、早くおいでよ。すごい怪我だよ」
「チッ、ルイが言うなら仕方ねーな」
「ふふふ、ありがと」
露骨に嫌な顔をする彼を押し退けるように、カンナは僕に歩み寄る。そしてその小さな唇で上品に笑みを作ると。
「じゃあお願いできるかしら……生憎、この傷は回復魔法は使えないのよ」
「そっか。ちょっと見せて」
僕は彼女を傍に座らせて傷の具合を見た。
「まずは腕」
これは大したことない。僕やマトのものと変わらない切り傷程度だ。できるだけ痕が残らないように気を付けて手当する。
それを終わらせて……次は胴体だ。
「ま、まさかソレも手当するのかよォ!?」
悲鳴のような声はマトだ。当たり前じゃないか、と振り返る。
「絶対ダメだぜ、俺が許さねェ!」
「えぇぇぇ、なんで」
「そ、それは」
彼は怒りか羞恥か顔を赤らめて口ごもった。その様子に困惑と苦笑いが込み上げる。
「あー、ハイハイ。男の嫉妬は醜いわね。早くしてもらえるかしら……ほら、これで見える?」
「ちょっ、おま、既に脱いでるじゃねーかよ! このハレンチ女っ」
躊躇なく装飾の少ない簡素な服を脱ぎ捨てる彼女に、マトは渾身の叫び声を上げた。
うるさい、とハエを手で払うような彼女の仕草にまた盛大に舌打ちと悪態が飛んできたがシカトを決め込む事にしたらしい。
「いいかしら、ルイ」
「うん……あー、かなり深いな。痛かったでしょ」
「まーね」
「沁みたら言って」
消毒用の薬草を手で揉んだ汁を布で塗布する。ツン、とした香りが周囲を包む。
カンナはわずかに眉を寄せるだけで、決して痛いとは口に出さなかった。だからといって別に無痛だった訳じゃなく、むしろ相当痛かったと思う。
「うん、これでいいよ」
他にざっと見てみるけど他に大きな傷はなかった。その言葉で彼女は脱ぎ捨てた服を頭から被る。
「……まるでお医者さんみたいだわ」
「そうかい?」
彼女の言葉通り、確かにさほど意識しなくても手を運ぶ事ができた。
これはやはり記憶を失う前に繰り返していたモノなのかな。
すると僕は一体どんな人間だったのだろう。
「もう良いだろ。早く行けよな」
憮然とした声はもちろんマトだ。
腕を組んで険しい顔をしながら木によりかかってこちらを睨みつけている。
いくら僕達の関係だといって、これではあまりにも警戒心剥き出し過ぎだ。
それが僕の記憶に関係することなのか、はたまた単なる彼のヤキモチや心配性なのか……それとも彼女自身に不審な点があるのか。残念ながら僕には分からない。
ただ一つ、僕は怪我をして助けを求めてきた少女を見捨てて置けるほど、強くも冷静でもないと言うことだ。
「ありがとね。その、お礼と言ってはなんだけど、忠告してあげる……この先の道は行っちゃ駄目。今すぐ迂回して、一つ前の道で一旦森を抜けなさい。かなり遠回りにはなるけれど、そこからでもあんた達の目的地まで行けるわ。どうせ『パパナシュ』の町へ行くんでしょ」
彼女の言葉に最初に反応したのはマトだった。
思い切り不快そうに顔を顰めてその小柄な身体を見下ろし威嚇する。
「あァ? 意味分かんねーぞ! なんで行っちゃ駄目なんだよ。この辺りはスライム位しかいねーだろ」
「……だからよ。スライムを甘く見てんじゃないわ。いい? これは忠告よ。あんたはともかくルイ、だっけ? 貴方には恩がある。だから忠告するの。あたしがこの怪我をしたのは奴らが原因なんだから」
苛々とした様子で短い栗色の髪を掻き上げてカンナはため息をついた。
彼女によると、こんなに酷い怪我の原因がこの森のスライムというのだ。
しかし先程僕達も戦っていたが、そこまで強力な魔物ではなかった気がする。むしろ普通の剣や彼の火炎魔法で……まてよ。
僕は再び彼女の身体を思い出した。
……あぁ、なるほど。
そう独りごちて、ずっと抱いていた少しの違和感に気が付く。
「分かったよ。ありがとう、カンナさん」
「っ!? お、おい、ルイ!?」
僕の言葉に驚くマト。しかし今は彼に説明することは出来ない。
「ルイ、ありがとう……本当に」
その紅い瞳が木々の隙間から差した太陽の光にキラリ、と反射する。
僕は微笑み頷くと、未だ騒ぐ彼を宥めながらその場を後にしようと歩き出した。
―――僕の予想が正しければ、僕達はもう一度彼女と相見える事になるだろう。
多くが緑色のドロっとした奴で、まるで地面に擬態するように始終僕達を捕獲し溶かして取り込もうと触手を伸ばしてくる。
それをマトが魔法陣で焼き付くす。しかしそれだとどうしても隙が出来るから、その間は僕が剣を振るって薙ぎ払うように援護した。
「……なんか俺の方が守られてねーか?」
一段落して倒れ老木に座り込んだマトが言葉をこぼす。不貞腐れたようなその顔がやっぱり子供っぽくて、僕は思わず頬が緩むのが分かった。
「仕方ないじゃないか。君の火炎魔法は発動に少し時間がかかるんだから」
「そーだろうがよォ」
そう宥めたら逆効果だったか、膨れっ面して面白い。僕より大きな身体してるくせに、本当に可愛い男だと思う……なんて言うとますます拗ねてしまうかな。
だから言葉の代わりに手を伸ばして、その頬に触れてみる。
「あーっ!」
「な、なに!?」
マトが突然大声を上げて僕のその手を掴んだ。
あまりにも強く握るものだから、痛みと驚きに顔を顰めると。
「け、け、怪我してんじゃねーかぁぁッ!」
大袈裟でなく、青ざめながら叫んだ。
……ん、怪我? 確かに腕に軽い火傷の飛沫がある。緑スライムの体液が付着したらしい。
でもこんなもの大したことない。
「ルイっ、お前もうジッとしとけ! 俺が戦うから!!」
「は、はぁぁ!?」
突然何言い出すんだ、この人。
すると鼻息荒くマトは僕を睨みつける。
「俺のメンタルは100回くらい死んだ!」
「よ、弱いメンタルだなぁ……」
あんなに強そうな肉体と強い魔法使えるのに。
「茶化すなよ! この綺麗な肌に跡痕が残ったらどーすんだよぉぉぉ」
「大丈夫だってば」
所詮男の腕だし。むしろこんな生白い手にも傷跡の一つや二つある方が、勇者らしくて僕としては良いんだけどなぁ。なんて言ったら逆効果?
「お前のその雪のような白く美しい肌が、あんな単細胞でぬちゃぬちゃした変な生き物の体液で汚されるなんて我慢できんッ!」
「あ、あのぉ……」
「よし決めた! 俺はこの森を焼いてやるっ」
「わわわっ、待ってよ」
妙に据わった目で呪文を唱え、魔法陣を描き始めるマトを必死で止める。
こんな馬鹿げた事で森を焼かれたら堪らないし、確実に近くの村まで焼け野原になっちゃうじゃないか。
「マトってば! ちゃんと怪我治すからっ……ほら薬貸して」
「……本当か?」
「うん。君だって怪我してるじゃないか。僕が手当してあげるから」
「お、おぅ」
大人しく出した軟膏状の薬を幹部に塗って端切れの布を巻く。彼のそれも同じようにして素早く手当した。
「よし、これでお終い」
「相変わらず上手いもんだな」
彼が不機嫌そうなのは声だけで、顔は完全に機嫌治った表情している。
相変わらずって事は、以前にも僕は彼の怪我の手当をしているんだろう。前世だと絆創膏を貼るくらいしかした事ないのに、我ながらすごく手馴れていた。
やっぱり剣の振り方と同じで、身体が覚えているのかもしれない。
「あたしの怪我もお願いして良いかしら」
突然、向こうの木々の影から声が響く。
ガサガサガサッ。
……草と土を踏みしめる音。
「誰だ?」
マトの鋭い呼び掛けの返事の代わりに、木の後ろからゆっくり姿を見せたのは、一人の少女だった。
まず印象的だったのは、その柘榴石のような紅く燃える瞳。
それが零れ落ちそうな大きな目に埋まっていて、小さな鼻と口は形良く。褐色の肌の四肢は小柄だがしなやかで、その筋肉のつき具合から戦士である事が伺い知れる。
「自己紹介は柄じゃないんだけど……仕方ないわね。あたしはカンナ。冒険者とか剣士を名乗っているわ。そしてご多分に漏れず、魔王討伐と魔物達の一掃を請け負っているの。国の命令でね。とは言ってもフリーランスなもんで、仲間はいない。これでいいかしら?」
「……出身は。その肌はこの国じゃねーだろ」
「あら。そんな事まで聞かれるの? ていうか、あんた誰よ」
苦々しい声の彼の言葉に、カンナという女は顔を顰める。
「俺が誰だって関係ねーだろ。質問に答えろ」
「ちょ、マト! ごめんね。ええっと……カンナさん。怪我の手当ならするよ」
出会って1分も経たずに険悪な空気になる彼らに慌てて、僕は薬膏を取り出す。見たところ、膝に裂傷。そして胴体にも服を切り裂く程の怪我をしている。
「おいっ、ルイ!」
「ふん、貴方は優しいのね……この筋肉バカと違って」
「んだとゴラァ! だーれが筋肉バカだっ」
「やれやれ自覚が無いのね。哀れだわ」
「あァァ!? このクソアマ、その切り株ごとこんがり丸焼きにしたろーかッ!!」
「やれるもんならやってみなさいよっ、バーカバーカ!」
あー……ついに喧嘩始めちゃった。
っていうかマトがこんなに怒ってる姿初めて見たかも。僕には諭したり叱ったりすることはあっても、こんな風に敵意や怒気を剥き出しにすることはなかった。
彼女の方もそれに応える形で水と油、磁石の対極同士のように互いに睨み合っている。
「まぁまぁ二人とも……ほら、早くおいでよ。すごい怪我だよ」
「チッ、ルイが言うなら仕方ねーな」
「ふふふ、ありがと」
露骨に嫌な顔をする彼を押し退けるように、カンナは僕に歩み寄る。そしてその小さな唇で上品に笑みを作ると。
「じゃあお願いできるかしら……生憎、この傷は回復魔法は使えないのよ」
「そっか。ちょっと見せて」
僕は彼女を傍に座らせて傷の具合を見た。
「まずは腕」
これは大したことない。僕やマトのものと変わらない切り傷程度だ。できるだけ痕が残らないように気を付けて手当する。
それを終わらせて……次は胴体だ。
「ま、まさかソレも手当するのかよォ!?」
悲鳴のような声はマトだ。当たり前じゃないか、と振り返る。
「絶対ダメだぜ、俺が許さねェ!」
「えぇぇぇ、なんで」
「そ、それは」
彼は怒りか羞恥か顔を赤らめて口ごもった。その様子に困惑と苦笑いが込み上げる。
「あー、ハイハイ。男の嫉妬は醜いわね。早くしてもらえるかしら……ほら、これで見える?」
「ちょっ、おま、既に脱いでるじゃねーかよ! このハレンチ女っ」
躊躇なく装飾の少ない簡素な服を脱ぎ捨てる彼女に、マトは渾身の叫び声を上げた。
うるさい、とハエを手で払うような彼女の仕草にまた盛大に舌打ちと悪態が飛んできたがシカトを決め込む事にしたらしい。
「いいかしら、ルイ」
「うん……あー、かなり深いな。痛かったでしょ」
「まーね」
「沁みたら言って」
消毒用の薬草を手で揉んだ汁を布で塗布する。ツン、とした香りが周囲を包む。
カンナはわずかに眉を寄せるだけで、決して痛いとは口に出さなかった。だからといって別に無痛だった訳じゃなく、むしろ相当痛かったと思う。
「うん、これでいいよ」
他にざっと見てみるけど他に大きな傷はなかった。その言葉で彼女は脱ぎ捨てた服を頭から被る。
「……まるでお医者さんみたいだわ」
「そうかい?」
彼女の言葉通り、確かにさほど意識しなくても手を運ぶ事ができた。
これはやはり記憶を失う前に繰り返していたモノなのかな。
すると僕は一体どんな人間だったのだろう。
「もう良いだろ。早く行けよな」
憮然とした声はもちろんマトだ。
腕を組んで険しい顔をしながら木によりかかってこちらを睨みつけている。
いくら僕達の関係だといって、これではあまりにも警戒心剥き出し過ぎだ。
それが僕の記憶に関係することなのか、はたまた単なる彼のヤキモチや心配性なのか……それとも彼女自身に不審な点があるのか。残念ながら僕には分からない。
ただ一つ、僕は怪我をして助けを求めてきた少女を見捨てて置けるほど、強くも冷静でもないと言うことだ。
「ありがとね。その、お礼と言ってはなんだけど、忠告してあげる……この先の道は行っちゃ駄目。今すぐ迂回して、一つ前の道で一旦森を抜けなさい。かなり遠回りにはなるけれど、そこからでもあんた達の目的地まで行けるわ。どうせ『パパナシュ』の町へ行くんでしょ」
彼女の言葉に最初に反応したのはマトだった。
思い切り不快そうに顔を顰めてその小柄な身体を見下ろし威嚇する。
「あァ? 意味分かんねーぞ! なんで行っちゃ駄目なんだよ。この辺りはスライム位しかいねーだろ」
「……だからよ。スライムを甘く見てんじゃないわ。いい? これは忠告よ。あんたはともかくルイ、だっけ? 貴方には恩がある。だから忠告するの。あたしがこの怪我をしたのは奴らが原因なんだから」
苛々とした様子で短い栗色の髪を掻き上げてカンナはため息をついた。
彼女によると、こんなに酷い怪我の原因がこの森のスライムというのだ。
しかし先程僕達も戦っていたが、そこまで強力な魔物ではなかった気がする。むしろ普通の剣や彼の火炎魔法で……まてよ。
僕は再び彼女の身体を思い出した。
……あぁ、なるほど。
そう独りごちて、ずっと抱いていた少しの違和感に気が付く。
「分かったよ。ありがとう、カンナさん」
「っ!? お、おい、ルイ!?」
僕の言葉に驚くマト。しかし今は彼に説明することは出来ない。
「ルイ、ありがとう……本当に」
その紅い瞳が木々の隙間から差した太陽の光にキラリ、と反射する。
僕は微笑み頷くと、未だ騒ぐ彼を宥めながらその場を後にしようと歩き出した。
―――僕の予想が正しければ、僕達はもう一度彼女と相見える事になるだろう。
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