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6.助っ人を頼む
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―――学校へ行く時間はとうに過ぎてしまったらしい。
時計を一瞥した二人は六道家の一室で向かい合った。
「それにしても君、彼女に嫌われ過ぎだろ……」
心配や呆れというより、面白がった物言いの六兎に譲治は肩を竦める。
彼女とは勿論カヨコのことで、興奮した猟犬のような家政婦を六兎がようやく宥めすかして事態を収束させたのだ。
「まぁ、自覚はある」
「君さァ。なんかした? あの人がここまでキレるのは相当だぜ」
「うーん……あー、まぁ色々あんだよ。誤解が、な」
「なんだよそれェ」
六兎にジト目でにらまれても彼は本当の事が言えなかった。
(寝てるあいつの側で魔が差して、チューしようとした瞬間見られた……なんて言えるかよ)
全てそれが原因である。
それからというもの、まるで娘を盗られる父親のような敵意を向けられているのだ。
「まぁそれはおいおい、な。……んで、これから何しでかそうって?」
「ん。別に」
今度は六兎が視線を泳がせる番だった。
とは言っても片方の口角がわずかに上がり、イタズラを思いついた子供のような表情である。
……譲治は知っていた。この顔をする時、この男はろくなことを考えてないってことを。
「とぼけるな。俺が来るのを待ってたんだろうが」
「ふん、自惚れるなよな。ま、その観察眼には感服したけど」
「……あ。やっぱり」
「?」
自分の予想が的中し、思わずその彫りの深い顔に笑みが零れたのを打ち消して譲治はキョロキョロと、部屋を見渡した。
「なんでもねぇ。……玄関の靴、あれはどこの女のだ。見る限り連れ込んでる感じじゃあないけどな」
「ふん、浮気を問い詰める奥さんかよ」
それこそ問い詰められる旦那よろしく、六兎は顔を顰めたが次の瞬間にはニヤリと口角上げて囁く。
「まぁアレ、僕が履くんだけどな」
「……は?」
幼馴染のキョトンとした顔を見て、更に笑みを深めた彼は少し大きな声で。
「カヨコさん、少し出かけて来ますよ! ……あ、そうそう。譲治、君はもう学校いきたまえ。まぁ多少遅刻だが、二限目には充分間に合うだろう」
と、少々芝居じみた台詞を言うと素早く譲治にウィンクを投げかける。
「! ……お、おぅ。じゃあ俺帰るわ。ま、また明日、なぁっ」
こちらは完全なる大根役者だが、部屋のドアの向こうでホッとした呼吸が聞こえた。
(ゲェッ、あのババア盗み聞きしてやがった!)
妙な事を言わなくて良かった、と胸を撫で下ろしたが。
「ほらサッサと行けよ……駅前のバス停付近で待ってろ、な?」
そっと耳打ちされて蹴り出されるように部屋を後にした。
(耳に息が……!)
囁き声がセクシーだった、だの。少し背伸びしていて可愛い、だの。ニヤついて廊下を歩く譲治だったが。
「……お、お邪魔しましたぁぁ~っ!」
カヨコが箒を持って玄関に立っているのを見て、逃げるように慌てて六道家を飛び出した。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■
「……遅い」
不機嫌そうに言った、この我儘な女王様然
とした幼馴染に譲治は内心様々な表情をしている。
「制服のままだと目立つだろうが」
あれから彼は慌てて家に戻り、幸い家の者が出払った自宅にコソコソと入って着替えて来たらしい。
「ふん。まぁ賢明な判断だな……よし、行こうぜ」
「へいへい」
偉そうにふんぞり返るような態度にも彼は慣れている。
こういう時、譲治はやはり自分はこの男が好きなのだとしみじみ思うのであった。
(今もこうやって隣を歩けるのは、俺自身の気持ちに蓋をしてるからなんだよな)
ふと視線を落とし、その大きてくて華奢な手を見る。
規格外である彼のより少し小さいそれは、手を伸ばせば簡単に掴んで繋いでしまえそうにも見えた。
(六兎、ごめんな)
彼が危ない事をしでかして、一緒に巻き込まれて絶体絶命に陥る度に。彼は心のどこかで嬉びを感じていた事に対する罪悪感だ。
それが『この男と死をも共に出来るかも』という、太陽のようなこの男らしくない仄暗い想いなのだろう。
こうなれば恋というのは不健全で不健康なものであると言わざる得ない、のかもしれない。
「……あ。ここだ」
「え?」
「なに妙な顔、してんだよ。ほら、行くぜ」
訝しんだ表情で、六兎はあっさりと譲治の手を取って裏路地に入って行く。
「!」
(て、手が……ヤベ、すげぇドキドキする)
手汗の心配やら自分が赤面しているであろう事を、必死で隠すように彼は俯いた。
(ったく。こいつなんの躊躇もなく)
そっと視線だけで六兎を見上げた譲治だったが、その容姿端麗な横顔に一抹の罪悪感を覚える。
(俺だけ不純、って感じ。目の前の玩具に夢中な顔しやがってよォ)
なにかすごく面白くない感情も湧いてきた譲治は、その手を握りしめ感触を胸に刻み込んだ。
「痛いっ、僕の手を破壊するつもりか、このゴリラ!」
「ゴリラじゃねーよっ、細い女みてぇな手しやがって!」
「てめぇの馬鹿力を人のせいにしてんじゃあない。まったく。……あの建物だ」
文句言うクセに離そうとしない手(本当は離したくても離せないくらいの握力を譲治が掛けていたからだが)はそのままに、彼らはある建物の前で立ち止まる。
「……ここか?」
「ここだ」
「廃ビルじゃねぇか」
「失敬な。まだ廃ビルじゃあないさ」
「限りなくソレに近いぞ」
確かに蔦が巻き付き、敷地内にボサボサと雑草の生えたその雑居ビルは三階建てで、幽霊のような佇まいでこの裏路地にひっそり建っていた。
「グチグチ文句言うんじゃあない。入るぞ」
「……肝試しみてぇだなぁ」
そんな事を呟きながら手を引かれるままに、彼は建物に入って行く。
曇り薄汚れて見えたドアは当然手動である。
「おいおい待てよ……ってえぇっ!?」
一歩建物に入った途端、驚きの声が大きく響いた。
……外見はあんな薄汚れてレトロさも超えた建物なのに、その内装は180度違っている。
真新しくモダンなデザイン。その色はモノトーンを基調とした配色である。
床や壁なんかは艶やかで埃一つ、シミひとつ浮いていない綺麗なものだ。
まるで鏡のように磨かれたそこを恐る恐る歩きながら、譲治は平然とした顔をしている六兎に何故か小声で話しかけた。
「おい。これ、どうなってんだよ……」
「どうもこうも、見た通りさ。リノベーションでもしたんだろ」
「景色変わりすぎだろ! 大体ここは何なんだよ。なんの用事があってここに連れてきたんだ? あの靴は……」
「いっぺんに質問するなよ。聖徳太子か、僕は」
面倒くさそうに鼻で笑うと、彼は真っ直ぐにエントランスの先にあるロビー部分に向けて歩いて行く。
そこには白い革のソファがあり、そこに一人の小さな人影が足を組んで座っている。
「……遅い」
「すまないな。少し出るのに手間取ったんだよ。譲治、彼女を覚えてるかい?」
「あっ、こいつ!」
譲治は目を見張った。
それは確かに見覚えのある姿だったからだ。
―――ほんの1ヶ月前、また例によって六兎が首を突っ込んでえらい目にあったことで記憶に新しい。
早く言えばこの小さな少女、比丘尼 摩耶はその事件の依頼者の妹で同時に被害者であった。
「久しぶり。ゴリラ」
「会って早々ゴリラ呼ばわりか。このクソアマ」
摩耶はナリは7、8歳の少女だが実際は25歳である。
ある奇病により、身体のみがその成長を18年ほど前に止めてしまったのだ。
……そんな彼女は苦虫を噛み潰したような顔の譲治をよそに、六兎に向き直る。
「行こ。りっくん」
「だからその呼び方止めて下さいません?」
六兎が困ったように言うが、彼女は聞こえないフリをしてあっさり無視した。
そしてエレベーターに向かって小さな歩幅でちょこちょこと歩き出す彼女に、二人は大人しくついて行った。
このどこか寡黙で何を考えているか分からない女性……見た目のアンバランスさも相まって、なかなか不可思議な女だと譲治は思っている。
(こいつも六兎のお気に入りなんだよなぁ)
彼はどうも過去に出会った人間、しかもイカれたタイプの知り合いが多いらしい。
良い『人材』と呼んで何かと手伝わせたり、情報を得たりしているがこれ程胡散臭いコネクションはないだろう。
なんせこの摩耶ですら、過去に数人の人間を殺していると自称する異常者なのだから。
(こうして見ると、俺が一番常識人じゃねぇか?)
そう彼は独りごちるが、実際はこの男が一番普通や常識といった所から遠くへいるのではないだろうか。
何故なら、こんなイカれた人間たちの頂点のような少年を愛してついて回るのだから。
「……ここ」
―――エレベーターで一番上まで上がり、サッサと降りた摩耶が先頭きって歩く。
そこには突如として大きく金色に輝く扉が、彼らの前に聳えた。
「おぉ」
(しゅ、趣味悪ぃ~)
譲治が思わず内心呟くほど、それは一瞬下品で露骨な輝きを放っている。
更に最上階にもある広々としたロビーには数々の調度品。
それもまた軒並み金メッキのベタベタ貼り付けられた、一昔前の成金趣味にも劣るセンスだと一介の高校生でも分かる程だ。
「わざわざ所長室に通してもらわなくても良いのだが……」
六兎もあまり居心地良く感じなかったのだろう。苦笑いして摩耶に話しかける。
「……兄貴がするって」
「君のお兄さん、相変わらずみたいだな」
小さなため息をもって、摩耶の小さな手が扉を開ける案外軽い音に耳を傾けた―――。
時計を一瞥した二人は六道家の一室で向かい合った。
「それにしても君、彼女に嫌われ過ぎだろ……」
心配や呆れというより、面白がった物言いの六兎に譲治は肩を竦める。
彼女とは勿論カヨコのことで、興奮した猟犬のような家政婦を六兎がようやく宥めすかして事態を収束させたのだ。
「まぁ、自覚はある」
「君さァ。なんかした? あの人がここまでキレるのは相当だぜ」
「うーん……あー、まぁ色々あんだよ。誤解が、な」
「なんだよそれェ」
六兎にジト目でにらまれても彼は本当の事が言えなかった。
(寝てるあいつの側で魔が差して、チューしようとした瞬間見られた……なんて言えるかよ)
全てそれが原因である。
それからというもの、まるで娘を盗られる父親のような敵意を向けられているのだ。
「まぁそれはおいおい、な。……んで、これから何しでかそうって?」
「ん。別に」
今度は六兎が視線を泳がせる番だった。
とは言っても片方の口角がわずかに上がり、イタズラを思いついた子供のような表情である。
……譲治は知っていた。この顔をする時、この男はろくなことを考えてないってことを。
「とぼけるな。俺が来るのを待ってたんだろうが」
「ふん、自惚れるなよな。ま、その観察眼には感服したけど」
「……あ。やっぱり」
「?」
自分の予想が的中し、思わずその彫りの深い顔に笑みが零れたのを打ち消して譲治はキョロキョロと、部屋を見渡した。
「なんでもねぇ。……玄関の靴、あれはどこの女のだ。見る限り連れ込んでる感じじゃあないけどな」
「ふん、浮気を問い詰める奥さんかよ」
それこそ問い詰められる旦那よろしく、六兎は顔を顰めたが次の瞬間にはニヤリと口角上げて囁く。
「まぁアレ、僕が履くんだけどな」
「……は?」
幼馴染のキョトンとした顔を見て、更に笑みを深めた彼は少し大きな声で。
「カヨコさん、少し出かけて来ますよ! ……あ、そうそう。譲治、君はもう学校いきたまえ。まぁ多少遅刻だが、二限目には充分間に合うだろう」
と、少々芝居じみた台詞を言うと素早く譲治にウィンクを投げかける。
「! ……お、おぅ。じゃあ俺帰るわ。ま、また明日、なぁっ」
こちらは完全なる大根役者だが、部屋のドアの向こうでホッとした呼吸が聞こえた。
(ゲェッ、あのババア盗み聞きしてやがった!)
妙な事を言わなくて良かった、と胸を撫で下ろしたが。
「ほらサッサと行けよ……駅前のバス停付近で待ってろ、な?」
そっと耳打ちされて蹴り出されるように部屋を後にした。
(耳に息が……!)
囁き声がセクシーだった、だの。少し背伸びしていて可愛い、だの。ニヤついて廊下を歩く譲治だったが。
「……お、お邪魔しましたぁぁ~っ!」
カヨコが箒を持って玄関に立っているのを見て、逃げるように慌てて六道家を飛び出した。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■
「……遅い」
不機嫌そうに言った、この我儘な女王様然
とした幼馴染に譲治は内心様々な表情をしている。
「制服のままだと目立つだろうが」
あれから彼は慌てて家に戻り、幸い家の者が出払った自宅にコソコソと入って着替えて来たらしい。
「ふん。まぁ賢明な判断だな……よし、行こうぜ」
「へいへい」
偉そうにふんぞり返るような態度にも彼は慣れている。
こういう時、譲治はやはり自分はこの男が好きなのだとしみじみ思うのであった。
(今もこうやって隣を歩けるのは、俺自身の気持ちに蓋をしてるからなんだよな)
ふと視線を落とし、その大きてくて華奢な手を見る。
規格外である彼のより少し小さいそれは、手を伸ばせば簡単に掴んで繋いでしまえそうにも見えた。
(六兎、ごめんな)
彼が危ない事をしでかして、一緒に巻き込まれて絶体絶命に陥る度に。彼は心のどこかで嬉びを感じていた事に対する罪悪感だ。
それが『この男と死をも共に出来るかも』という、太陽のようなこの男らしくない仄暗い想いなのだろう。
こうなれば恋というのは不健全で不健康なものであると言わざる得ない、のかもしれない。
「……あ。ここだ」
「え?」
「なに妙な顔、してんだよ。ほら、行くぜ」
訝しんだ表情で、六兎はあっさりと譲治の手を取って裏路地に入って行く。
「!」
(て、手が……ヤベ、すげぇドキドキする)
手汗の心配やら自分が赤面しているであろう事を、必死で隠すように彼は俯いた。
(ったく。こいつなんの躊躇もなく)
そっと視線だけで六兎を見上げた譲治だったが、その容姿端麗な横顔に一抹の罪悪感を覚える。
(俺だけ不純、って感じ。目の前の玩具に夢中な顔しやがってよォ)
なにかすごく面白くない感情も湧いてきた譲治は、その手を握りしめ感触を胸に刻み込んだ。
「痛いっ、僕の手を破壊するつもりか、このゴリラ!」
「ゴリラじゃねーよっ、細い女みてぇな手しやがって!」
「てめぇの馬鹿力を人のせいにしてんじゃあない。まったく。……あの建物だ」
文句言うクセに離そうとしない手(本当は離したくても離せないくらいの握力を譲治が掛けていたからだが)はそのままに、彼らはある建物の前で立ち止まる。
「……ここか?」
「ここだ」
「廃ビルじゃねぇか」
「失敬な。まだ廃ビルじゃあないさ」
「限りなくソレに近いぞ」
確かに蔦が巻き付き、敷地内にボサボサと雑草の生えたその雑居ビルは三階建てで、幽霊のような佇まいでこの裏路地にひっそり建っていた。
「グチグチ文句言うんじゃあない。入るぞ」
「……肝試しみてぇだなぁ」
そんな事を呟きながら手を引かれるままに、彼は建物に入って行く。
曇り薄汚れて見えたドアは当然手動である。
「おいおい待てよ……ってえぇっ!?」
一歩建物に入った途端、驚きの声が大きく響いた。
……外見はあんな薄汚れてレトロさも超えた建物なのに、その内装は180度違っている。
真新しくモダンなデザイン。その色はモノトーンを基調とした配色である。
床や壁なんかは艶やかで埃一つ、シミひとつ浮いていない綺麗なものだ。
まるで鏡のように磨かれたそこを恐る恐る歩きながら、譲治は平然とした顔をしている六兎に何故か小声で話しかけた。
「おい。これ、どうなってんだよ……」
「どうもこうも、見た通りさ。リノベーションでもしたんだろ」
「景色変わりすぎだろ! 大体ここは何なんだよ。なんの用事があってここに連れてきたんだ? あの靴は……」
「いっぺんに質問するなよ。聖徳太子か、僕は」
面倒くさそうに鼻で笑うと、彼は真っ直ぐにエントランスの先にあるロビー部分に向けて歩いて行く。
そこには白い革のソファがあり、そこに一人の小さな人影が足を組んで座っている。
「……遅い」
「すまないな。少し出るのに手間取ったんだよ。譲治、彼女を覚えてるかい?」
「あっ、こいつ!」
譲治は目を見張った。
それは確かに見覚えのある姿だったからだ。
―――ほんの1ヶ月前、また例によって六兎が首を突っ込んでえらい目にあったことで記憶に新しい。
早く言えばこの小さな少女、比丘尼 摩耶はその事件の依頼者の妹で同時に被害者であった。
「久しぶり。ゴリラ」
「会って早々ゴリラ呼ばわりか。このクソアマ」
摩耶はナリは7、8歳の少女だが実際は25歳である。
ある奇病により、身体のみがその成長を18年ほど前に止めてしまったのだ。
……そんな彼女は苦虫を噛み潰したような顔の譲治をよそに、六兎に向き直る。
「行こ。りっくん」
「だからその呼び方止めて下さいません?」
六兎が困ったように言うが、彼女は聞こえないフリをしてあっさり無視した。
そしてエレベーターに向かって小さな歩幅でちょこちょこと歩き出す彼女に、二人は大人しくついて行った。
このどこか寡黙で何を考えているか分からない女性……見た目のアンバランスさも相まって、なかなか不可思議な女だと譲治は思っている。
(こいつも六兎のお気に入りなんだよなぁ)
彼はどうも過去に出会った人間、しかもイカれたタイプの知り合いが多いらしい。
良い『人材』と呼んで何かと手伝わせたり、情報を得たりしているがこれ程胡散臭いコネクションはないだろう。
なんせこの摩耶ですら、過去に数人の人間を殺していると自称する異常者なのだから。
(こうして見ると、俺が一番常識人じゃねぇか?)
そう彼は独りごちるが、実際はこの男が一番普通や常識といった所から遠くへいるのではないだろうか。
何故なら、こんなイカれた人間たちの頂点のような少年を愛してついて回るのだから。
「……ここ」
―――エレベーターで一番上まで上がり、サッサと降りた摩耶が先頭きって歩く。
そこには突如として大きく金色に輝く扉が、彼らの前に聳えた。
「おぉ」
(しゅ、趣味悪ぃ~)
譲治が思わず内心呟くほど、それは一瞬下品で露骨な輝きを放っている。
更に最上階にもある広々としたロビーには数々の調度品。
それもまた軒並み金メッキのベタベタ貼り付けられた、一昔前の成金趣味にも劣るセンスだと一介の高校生でも分かる程だ。
「わざわざ所長室に通してもらわなくても良いのだが……」
六兎もあまり居心地良く感じなかったのだろう。苦笑いして摩耶に話しかける。
「……兄貴がするって」
「君のお兄さん、相変わらずみたいだな」
小さなため息をもって、摩耶の小さな手が扉を開ける案外軽い音に耳を傾けた―――。
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