鬼村という作家

篠崎マーティ

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三十六話「タクシー」

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 タクシーに乗った時の事である。
 車が走り出すや鬼村が運転手に向かって「怖い体験ないですか」と言い出した。運転手は意表をつかれて少し笑った後、ふと思い直して真面目な口調でこんな話を始めた。
「先月の話なんですけどね。ベタっちゃベタなんですが幽霊乗せたっぽいんですよねえ。夜中に女性が乗って来て、行き先が病院で。話しかけても一切返事しないし、体調悪いのかなあなんて思ってたんですが、病院の前まで来て振り返ったら居ないんですよ。あー見ちゃったなーなんてその日は急いで帰ったんだけど、次の日から乗ろうとするお客さんに”もう女性が乗ってるじゃないか”って言われたり、誰も乗せてないのにタクシー仲間から”お客さん居るのに空車になってるぞ”って注意されたりで……まあ、そんな体験をこないだしましたよ」
 運転手の話が終わると同時にちょうどよく目的地についた。
 私が財布を取り出す横で鬼村はニコニコ……否、ニヤニヤしながら運転手に向かって何度か頷いてみせる。あ、嫌な事を言うぞ。
「やっぱりそうですかあ」余所行きの声で鬼村は言った。「助手席に女の人乗ってるから、何があったのかなあって思ったんですよお」
 からかうような弾んだ声。運転手はこちらを振り向いたまま固まった。その様子をしっかり見ておきながら、鬼村は「じゃ」とだけ言い残してさっさと車から降りていってしまった。
 取り残された私は申し訳ないやら恥ずかしいやらで縮こまりながら料金を払いつつ「あの人変な人なんで気にしないでくださいね」と効果があるかも分からないフォローを入れてそそくさと下車した。
 運転手は助手席を暫く見つめた後、青い顔のままゆっくりと発進し走り去っていった。
「ちょっと先生、なんて事言うんですか!」
 私が鬼村に詰め寄ると、彼女は太い眉毛を持ち上げて悪びれた様子もない。
「や、本当の事だし」
「幽霊見えてたのに乗ったんですか?」
「幽霊見えてたから乗ったんだよ」
 なんで居るか気になるじゃん。
 あっけらかんと言う鬼村の根性がどれ程ねじ曲がっているのか、私はいつまでたっても理解出来ないだろうと謎の確信を抱く。宇宙人とだってもう少し友好的なやり取りが出来そうなものだ。
 あの運転手が早々にお祓いに行ってくれるのを祈るばかりである。
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