鬼村という作家

篠崎マーティ

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三十一話「カメオ出演」

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 ある時、鬼村の作品をネット配信でドラマ化したいという打診が来た。
 鬼村の作品はいくつか映画化とアニメ化がされており、アニメの方は私も携わらせてもらった事がある。だが実写化の話を取り扱うのは初めてだ。一体どんな俳優がキャストになるのだろうとわくわくしながら、私は鬼村の元へ行き事の次第を伝えた。
「どうですか、先生」
「別に良いよ」
 自分の作品が映像化されるのはこれが初めてではないせいか、鬼村はしれっとしている。
「でも一つ条件がある」
「はい」
「マチミ役、アタシにやらして」
 予想だにしない言葉に、複数の疑問が全く同時に頭の中で弾けた。散らばる疑問符の中からどれを最初にピックアップするべきだろう。私はとりあえず、手ごろな質問を手繰り寄せた。
「ええと、マチミって誰でしたっけ」
「一巻の最後で二、三、意味深な事言うおばさん」
「モブですか?」
「そう」
 言われればそんなキャラが居たような気もする。
「まあ、勿論、お願いする事は出来ますけど……」私は腑に落ちないまま鬼村に疑問をぶつけた。「なんでその役やりたいんですか? 先生、役者とかやってましたっけ?」
 鬼村は何もない(はずの)空中をぼんやり眺めながら、抑揚のない声でぽつぽつと語り始めた。
「この本、昔アニメ化したのは知ってるでしょ。その時アタシ、マチミ役でカメオ出演するって話になってね。スタジオ行って収録したのよ、4つくらいだったかな、台詞。で、収録は無事に済んだんだけど、後日連絡が来てさ。アタシの音声だけ何故か録音した台詞じゃない事言ってるから使えないんだって。何言ってるか聞いたら、分からないって言うのよ。だから結局カメオ出演流れちゃったんだよね」
 あまりにも鬼村らしい事件に思わず閉口する。
 その音声を聞いてしまったスタッフの方に、何も起きていなければいいんだけど。
「……つまりリベンジしたいって事ですか?」
「違う違う!」
 鬼村は醜い顔をしかめるようにして笑い、大きな歯をむき出しにした。
「実写なら今度は何起きるかなと思ってさ」
「却下です」
 やんやとぶーたれる鬼村を前に、この人は撮影現場に遊びに行かせるまいと固く誓った私だった。
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