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二十四話「手の形の痣」
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鬼村の腕にくっきりと人の手の形の痣が浮かんでいた事があった。
左の前腕を右手で思い切り握った形。深い赤紫色をしていてぎょっとするほどに痛々しい。
「先生、腕どうしたんですか?」私はひっくり返った声でパソコンに釘付けになっている鬼村に問うた。「幽霊に掴まれた跡とかですか……?」
普通、腕に手の形の痣があったなら、誰かに暴力を振るわれたと思うべきなのだろう。しかし鬼村の場合は何を置いても超自然的なものどもが要因であると決めてかかってしまう。そしてその決めつけは基本的に外れないのだ。
「そうだよ」
鬼村はこちらに目もくれずぞんざいに返答を投げてよこした。幽霊に腕を掴まれた痕なんて、鼻をかむような取るに足らない事だと言わんばかりだ。
「わあ、怪談のお決まりのやつですね。そう言うの先生も体験するんですね」
素直な感想だった。鬼村なら腕を掴まれる前に幽霊の腕をへし折っても驚きやしない。
鬼村は「おん」と生返事をした。
「痛いですか?」
痛いなんて見るだけで分かるのに、思わず聞かずにはいられない。
「痛いよ」
「ああ……早く治ると良いですね」
「そうだね」鬼村は執筆の指を止めずに、うわの空で呟いた。「まずは手を放してもらわないとな」
五秒ほど静寂の中にキーボードを打ち込む音だけが響いた。
私は飛び上がって鬼村から離れた。
「居るんですね!? 今居るんですね!?」
「居るよ」
「だから痛いんですね!?」
「痛いよ」
「なんでそのままにしとくんですか!?」
「うるさい!」鬼村は数時間ぶりに私に顔を向け、血走った目で私を睨みつけた。「そんな事より締め切りの方が大事だろうが!」
私は何も言い返せず、鬼村から距離をとった場所に静かに座り直した。この場の情報量が多すぎて、とても何も言えなかった。本当に、作家とは難儀な職業だ。
左の前腕を右手で思い切り握った形。深い赤紫色をしていてぎょっとするほどに痛々しい。
「先生、腕どうしたんですか?」私はひっくり返った声でパソコンに釘付けになっている鬼村に問うた。「幽霊に掴まれた跡とかですか……?」
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