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47.質疑応答2
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「今回の騒動の期間、派遣した探索者の質と数、被害を考慮した上でお聞きします。どうやってあなた方はあの豚鬼の異常種を討伐せしめたのでしょうか」
夜神楽巴の鋭い視線が二人を捉える。
疑いの眼差し。
何かを危惧する目。
ただの受付嬢では有り得ない圧迫感に杏がプレッシャーを感じた。
「それは……」
幸隆の事は黙っておきたい。
命の恩人である彼が不利にならないように。
「私は中級探索よ。彼もここ数日でかなり強くなってるし、相手はただの豚鬼。厳しい相手ではあったけど勝てない相手じゃないわ」
敢えて敬語を外し、心外だと言わんばかりに言葉を返す杏。
彼女は自分でも苦しい言い訳だとは思っている。
しかし、ギルド側に異常種自体の強さを測れる証拠はなにもないはずだと開き直る。
Dランク探索者の被害もない中、下級の探索者の被害者だけではその強さを十分に図るのは難しい。
今は自分たちだけが、あの異常種の強さを証言できる証人だ。
それを最大限活かすしかない。
魔物は倒してしまえばその姿すら余人にはわかりえない。
魔物の死体は塵へとダンジョンに還るのだから。
「そうですか。それは幸いでしたね」
どこか棘を感じさせるセリフ。
当然疑いは晴れていないだろう。
しかし相手も追及するだけの証拠を持っていない筈。
跳ね返せないのだから、唯一の証人の言葉を渋々でも受け入れざるを得ない。
杏はそれが分かっているため、強気で居られる。
「それでは、現場に落ちていた手足の三本、そして人間の内臓のような肉片に心当たりはありませんか?」
その言葉に杏が息を呑む。
あの惨状はどうしようもない。
幸隆の千切れ飛んだ手足は当然現場に残ったままだ。
魔物は消えてしまうのだから、ダンジョンに残る死体や欠損部位は当然人間のもの以外にあり得ない。
「現場を検証した人間によりますと、その手足は男性のもののようです。腕の長さから推測される身長はおよそ180㎝~185㎝前後。しかし、救出されたのは全て女性であり、その周辺にも男性の遺体はございませんでした。本堂様、当時の現場でそのような人物にお心当たりはございませんか?」
巴の目が幸隆へと移る。
不安そうに幸隆の様子を伺う杏の姿を横目に、巴は推測をする。
彼女の未熟さ、素直な健気さに可愛らしく思いながらも仕事を忠実に熟す。
巴が黙りこくる幸隆の表情を観察。
焦りや同様を見逃さぬように。
「うん、それ俺の手足だわ。拾って貰ってすいません」
「ちょっと本堂!?」
「……」
杏が慌てたように声をあげ、巴のこうもすんなりいくと思っていなかったのか、大和撫子なお顔をきょとんとさせている。
手を後頭部に当てて申し訳なさそうにする社会人ジェスチャーの幸隆に巴は肩透かしを食らった気分だった。
「いやぁ、流石に無理だろう。誤魔化すのも受付嬢さんに悪印象だろうし」
「だからってあんた……」
驚愕していた杏はすぐにその表情を不安そうな顔に変えて、前に座る巴の顔を覗き込むように伺った。
その彼女の反応に気を取り直した巴が咳払いをして話を続行。
思ってもいなかった話の核心に触れる。
「こほん。えー、本堂様。あの腕はご自分の腕であり、欠損したものだとお認めになられるのですね?」
上には黒よりのグレーとして報告を上げるつもりだったが、まさか本人から黒認定されるとは思っていなかった巴は少し動揺を隠せない。
「そうですね。あの変態野郎に持ってかれました」
「ご自身の言っている事がどれほど重要な事かご理解はされておられるのですか?」
探索者になったばかりの新米が、手足の欠損の回復をしてみせた。
これがあまりに異常なことは探索者なら全員が理解している。
上級探索と呼ばれる神官職の上澄みであってもおいそれとできる事ではないのだ。
それを新人の探索者が平然と何食わぬ顔で言ってのけるのだから流石の巴も冷静ではいられない。
「そう言われても、自分でもびっくりしてますから。探索者ってやっぱでたらめですね」
お前が言うな。
こいつは人の話を聞いていたのだろうかと頭に手を当てたくなったが、探索者に内心をどことなく悟らせたくない巴はそれをなんとか我慢した。
「一応黙秘する権利があることは先に伝えておきます。本堂様の【職業】をお教え頂けますか?そしてそれを可能としたスキルの名前も……」
その言葉には杏も気になったのか、幸隆をじっと見ている。
「わからないですね」
「……そうですか。協力を願えないという事ですね」
剣呑な空気を醸し出す巴に危険を感じたのか杏が話に割って入る。
「待って。探索者の【職業】や【スキル】に関してはギルドに対して報告を行う義務はないと規定にあった筈よ!強硬手段に出れば探索者たちが黙っていないことは貴女も理解しているでしょう!」
杏の言う通り、探索者の情報の機密性はギルド側自身が保護を謳っている。
これを自ら反故にすれば反感が生まれるのは目に見えている事実だ。
「……わかりました。今回は不問と致しましょう」
「不問って……」
杏は机に身を乗り出したまま、その言葉に納得のいかない様子だ。
「お前が気にすることじゃないだろ。落ち着けよ杏」
「本堂……」
普段は怒りっぽいバカの癖に今に限って大人しい。
「残念ですけど受付嬢さん、俺からは何も言えることがありません」
「承知しました。此度の私のご無礼をお詫びいたします」
「いや、そう謝られるのもちょっと申し訳ないというか……」
「本堂、あんた少しこの人に甘すぎない?探索者の命綱の情報を明け渡せって言われたのよ?もうちょっと怒りなさいよ。本堂の癖に……」
どこか不貞腐れたように杏が幸隆に対して注意をしてくるが、幸隆からしたら他人に情報を教えるのは別にやぶさかではないのだ。
むしろカッコいいスキル名とかだったら自慢したい。
積極的に。
しかし残念ながら幸隆は知らないのだ。
自分の【職業】も【スキル】名も。
知らない物を教えろと凄まれても幸隆にはタジタジとすることしかできなかった。
【職業】を聞かれて──探索者です──と答えようかと思いもしたが、それを言ったら修復不可能な亀裂が生まれる予感がした幸隆は、素直に分からないと答えたが、どうやらこの剣呑な雰囲気の受付嬢さんは都合よく受け取ってくれたようで、自分が自分の事を知らないという間抜けの露呈は免れた。
その後の杏のフォローも上手く行った。
ナイス杏。
受付嬢さんの表面上申し訳なさそうな雰囲気の謝罪を素直に受け取り、杏と受付嬢さんの一触即発の雰囲気は一先ず鳴りを潜める事になった。
受付嬢の巴は涼しい表情だが、杏はまだ少し不満げだ。
お前そんな子供っぽかったっけ?
と内に疑問符を浮かべた幸隆はとりあえず今はそれをスルーすることにした。
「私どもから聞きたいことは以上になります。またなにか調査の結果が上がりましたらその都度聞き取りを行うかもしれませんが、その時はどうかご協力をお願いします。こちらでお礼の準備もしておきますの」
「えぇ、えぇ!ぜひぜひ!」
お金かな?商品券かな?と庶民剥き出しの幸隆は巴の言葉に気を良くして笑顔を浮かべた。
「……」
杏はそれを見て、また少し気を悪くしたが、幸隆は気付かない。
「最後に一つ確認なのですが、体調にどこか変化はございませんか?」
「体調?まぁあの時は全身しんどかったですけど、一晩寝たら元気になりますしたよ。むしろこれまで以上に元気なくらいですよ!……まぁ、たくさん食べないと元気すぎてしんどいんですけど」
「「???」」」
色々逆では?と疑問符に顔を傾げるおなご二名。
詳しいことは口が裂けても言えない。
「……私も、もうどこも悪い所はないわ」
「そうですか。また何かございましたら気軽にお声掛けくださいね」
普段通りに戻った巴の様子に幸隆は胸を撫でおろした。
杏も表面上は普通だ。
ころころと仮面を張り替える女性は怖いなと思いながらも次の話に幸隆が食いついた。
「それでは報酬のお話に移行させて頂きます」
「待ってました!!」
目を¥マークに変えた守銭奴が机に身を乗り出した。
夜神楽巴の鋭い視線が二人を捉える。
疑いの眼差し。
何かを危惧する目。
ただの受付嬢では有り得ない圧迫感に杏がプレッシャーを感じた。
「それは……」
幸隆の事は黙っておきたい。
命の恩人である彼が不利にならないように。
「私は中級探索よ。彼もここ数日でかなり強くなってるし、相手はただの豚鬼。厳しい相手ではあったけど勝てない相手じゃないわ」
敢えて敬語を外し、心外だと言わんばかりに言葉を返す杏。
彼女は自分でも苦しい言い訳だとは思っている。
しかし、ギルド側に異常種自体の強さを測れる証拠はなにもないはずだと開き直る。
Dランク探索者の被害もない中、下級の探索者の被害者だけではその強さを十分に図るのは難しい。
今は自分たちだけが、あの異常種の強さを証言できる証人だ。
それを最大限活かすしかない。
魔物は倒してしまえばその姿すら余人にはわかりえない。
魔物の死体は塵へとダンジョンに還るのだから。
「そうですか。それは幸いでしたね」
どこか棘を感じさせるセリフ。
当然疑いは晴れていないだろう。
しかし相手も追及するだけの証拠を持っていない筈。
跳ね返せないのだから、唯一の証人の言葉を渋々でも受け入れざるを得ない。
杏はそれが分かっているため、強気で居られる。
「それでは、現場に落ちていた手足の三本、そして人間の内臓のような肉片に心当たりはありませんか?」
その言葉に杏が息を呑む。
あの惨状はどうしようもない。
幸隆の千切れ飛んだ手足は当然現場に残ったままだ。
魔物は消えてしまうのだから、ダンジョンに残る死体や欠損部位は当然人間のもの以外にあり得ない。
「現場を検証した人間によりますと、その手足は男性のもののようです。腕の長さから推測される身長はおよそ180㎝~185㎝前後。しかし、救出されたのは全て女性であり、その周辺にも男性の遺体はございませんでした。本堂様、当時の現場でそのような人物にお心当たりはございませんか?」
巴の目が幸隆へと移る。
不安そうに幸隆の様子を伺う杏の姿を横目に、巴は推測をする。
彼女の未熟さ、素直な健気さに可愛らしく思いながらも仕事を忠実に熟す。
巴が黙りこくる幸隆の表情を観察。
焦りや同様を見逃さぬように。
「うん、それ俺の手足だわ。拾って貰ってすいません」
「ちょっと本堂!?」
「……」
杏が慌てたように声をあげ、巴のこうもすんなりいくと思っていなかったのか、大和撫子なお顔をきょとんとさせている。
手を後頭部に当てて申し訳なさそうにする社会人ジェスチャーの幸隆に巴は肩透かしを食らった気分だった。
「いやぁ、流石に無理だろう。誤魔化すのも受付嬢さんに悪印象だろうし」
「だからってあんた……」
驚愕していた杏はすぐにその表情を不安そうな顔に変えて、前に座る巴の顔を覗き込むように伺った。
その彼女の反応に気を取り直した巴が咳払いをして話を続行。
思ってもいなかった話の核心に触れる。
「こほん。えー、本堂様。あの腕はご自分の腕であり、欠損したものだとお認めになられるのですね?」
上には黒よりのグレーとして報告を上げるつもりだったが、まさか本人から黒認定されるとは思っていなかった巴は少し動揺を隠せない。
「そうですね。あの変態野郎に持ってかれました」
「ご自身の言っている事がどれほど重要な事かご理解はされておられるのですか?」
探索者になったばかりの新米が、手足の欠損の回復をしてみせた。
これがあまりに異常なことは探索者なら全員が理解している。
上級探索と呼ばれる神官職の上澄みであってもおいそれとできる事ではないのだ。
それを新人の探索者が平然と何食わぬ顔で言ってのけるのだから流石の巴も冷静ではいられない。
「そう言われても、自分でもびっくりしてますから。探索者ってやっぱでたらめですね」
お前が言うな。
こいつは人の話を聞いていたのだろうかと頭に手を当てたくなったが、探索者に内心をどことなく悟らせたくない巴はそれをなんとか我慢した。
「一応黙秘する権利があることは先に伝えておきます。本堂様の【職業】をお教え頂けますか?そしてそれを可能としたスキルの名前も……」
その言葉には杏も気になったのか、幸隆をじっと見ている。
「わからないですね」
「……そうですか。協力を願えないという事ですね」
剣呑な空気を醸し出す巴に危険を感じたのか杏が話に割って入る。
「待って。探索者の【職業】や【スキル】に関してはギルドに対して報告を行う義務はないと規定にあった筈よ!強硬手段に出れば探索者たちが黙っていないことは貴女も理解しているでしょう!」
杏の言う通り、探索者の情報の機密性はギルド側自身が保護を謳っている。
これを自ら反故にすれば反感が生まれるのは目に見えている事実だ。
「……わかりました。今回は不問と致しましょう」
「不問って……」
杏は机に身を乗り出したまま、その言葉に納得のいかない様子だ。
「お前が気にすることじゃないだろ。落ち着けよ杏」
「本堂……」
普段は怒りっぽいバカの癖に今に限って大人しい。
「残念ですけど受付嬢さん、俺からは何も言えることがありません」
「承知しました。此度の私のご無礼をお詫びいたします」
「いや、そう謝られるのもちょっと申し訳ないというか……」
「本堂、あんた少しこの人に甘すぎない?探索者の命綱の情報を明け渡せって言われたのよ?もうちょっと怒りなさいよ。本堂の癖に……」
どこか不貞腐れたように杏が幸隆に対して注意をしてくるが、幸隆からしたら他人に情報を教えるのは別にやぶさかではないのだ。
むしろカッコいいスキル名とかだったら自慢したい。
積極的に。
しかし残念ながら幸隆は知らないのだ。
自分の【職業】も【スキル】名も。
知らない物を教えろと凄まれても幸隆にはタジタジとすることしかできなかった。
【職業】を聞かれて──探索者です──と答えようかと思いもしたが、それを言ったら修復不可能な亀裂が生まれる予感がした幸隆は、素直に分からないと答えたが、どうやらこの剣呑な雰囲気の受付嬢さんは都合よく受け取ってくれたようで、自分が自分の事を知らないという間抜けの露呈は免れた。
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ナイス杏。
受付嬢さんの表面上申し訳なさそうな雰囲気の謝罪を素直に受け取り、杏と受付嬢さんの一触即発の雰囲気は一先ず鳴りを潜める事になった。
受付嬢の巴は涼しい表情だが、杏はまだ少し不満げだ。
お前そんな子供っぽかったっけ?
と内に疑問符を浮かべた幸隆はとりあえず今はそれをスルーすることにした。
「私どもから聞きたいことは以上になります。またなにか調査の結果が上がりましたらその都度聞き取りを行うかもしれませんが、その時はどうかご協力をお願いします。こちらでお礼の準備もしておきますの」
「えぇ、えぇ!ぜひぜひ!」
お金かな?商品券かな?と庶民剥き出しの幸隆は巴の言葉に気を良くして笑顔を浮かべた。
「……」
杏はそれを見て、また少し気を悪くしたが、幸隆は気付かない。
「最後に一つ確認なのですが、体調にどこか変化はございませんか?」
「体調?まぁあの時は全身しんどかったですけど、一晩寝たら元気になりますしたよ。むしろこれまで以上に元気なくらいですよ!……まぁ、たくさん食べないと元気すぎてしんどいんですけど」
「「???」」」
色々逆では?と疑問符に顔を傾げるおなご二名。
詳しいことは口が裂けても言えない。
「……私も、もうどこも悪い所はないわ」
「そうですか。また何かございましたら気軽にお声掛けくださいね」
普段通りに戻った巴の様子に幸隆は胸を撫でおろした。
杏も表面上は普通だ。
ころころと仮面を張り替える女性は怖いなと思いながらも次の話に幸隆が食いついた。
「それでは報酬のお話に移行させて頂きます」
「待ってました!!」
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