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19.防具強制お買い上げ(借金)

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 「どう?その革鎧の着心地は?」

 「可動域の邪魔にならない設計になってるから思ったより動きやすくていいな」

 昨日メッセージで一人で探索に出かけるなと遠回しに伝えていたが、幸隆にそんなものが伝わることもなく、一人で三階層まで足を運んだこと、しかもイレギュラーによって四階層の強敵、白毛狼との死闘を繰り広げていたことを知った杏は怒りを露わにして強く叱責。

 その後、首根っこを掴まれた幸隆はギルド内にある店舗に強制的に連行され、防具の購入を強制された。

 最低価格で29800円。

 足りないと懇願するも、その分は補填してやるから今後の稼ぎで返せと言われ借金となった。

 「……大事に使います」

 さっきから妙に慎重に動く幸隆を見て、こいつには無理やり高い装備をさせた方が無茶をしなくなるのではないかと考え始める杏がいた。

 幸隆が一人で白毛狼を三体も倒したこと、今はしっかりと防具を着ていること、そして杏自身が帯同していることから、四階層の攻略も問題ないと彼女が判断し、今四階層へと足を踏み入れた。

 「ここからは敵の強さが一段増すわ。新人卒業のラインだからね。ランクで言えばFランク相当よ」

 「昨日は白毛狼だけでかなりの額になったからな。やっと探索者として軌道に乗り始めたって感じだな」

 「そうね、今まではチュートリアルだったって認識でいいわ。生き物を殺す覚悟があるか、現実ではありえない生物に臆することなく攻略法を見つけることができるか、不意打ちや、汚い手段に対して学習して正しく対処ができるかの最低限を学ぶ階層ってところかしら」

 一階層では弱いネズミを、生き物を複数殺すことに対するストレス耐性を。

 二階層では現実では有り得ないスライムに対する非現実への適応と、魔物が持つ耐性の見極めを。

 三階層では初めて出会う人型の知生体であり、それが持つ階層の特徴に適応したフィールドでの不利な戦いと毒といった搦手に対する対処法と前準備の大切さを。

 それらを学ぶための階層であるのがGランク、新人探索者をふるいにかけるにうってつけに三つの階層となっていた。

 「けどあんたはその大概を無視してたけどね」

 一階層はスキップしたし、弱点武器の重要性を理解するための二階層は力技で強引に突破してしまった幸隆。

 三階層での、不意打ちの厄介さだってほぼ初見で問題なくクリアしていた。

 唯一学んだとしたら自ら毒を舐めてはいけないという至極当たり前の常識だけだ。

 ゴブリンだって理解している事だ。

 「才能があるってことだな」

 「否定できないのがむかつくわ」

 実際のところ、幸隆は徐々に注目を集め始めている。

 恥ずかしい意味での名の広がりが始まりではあったが、昨日の白毛狼の単独複数撃破によって、その名は期待の新人へと変わりつつあった。

 僅か三日で四階層の敵を撃破できる新人はそう多くはない。

 それができるのは、上記の探索者としての適性を併せ持った格闘技経験者や元軍人、自衛隊員といった戦うことを生業にしていたその道のプロフェッショナルが大半だった。

 そして例外的なケースとしては特殊な職業があげられる。

 稀に剣士や魔術師といった基礎的なクラスから始まるはずが、同時に同じクラスが存在しないユニーククラスに就く者が現れる。

 最近話題になって賑わっている【勇者】がその代表といえるだろう。

 この場合はクラスチェンジ後であるため例として適さないかもしれないが、それだけ希少なケースとも言える。

 杏は幸隆が詳しいクラスを口外しないことから、それではないかと勘繰っていた。

 それならば、この膂力の増大にも納得がいった。

 「ほら、昨日のリベンジにやってきたわよ」

 三階層に比べて明るく、そして幅のある通路に白毛狼が二体現れる。

 機動力の高い白毛狼にとって有利な環境。
 
 「カモ葱の間違いだろ!」

 幸隆は相手からの動きを許さず、先手をとる。

 その初速に思わず杏も目を疑った。

 一日見ないだけでこれだけ身体能力が上がっているなど想像していなかった。

 それは相手も同じようで、その初速に満足に反応できなかった白狼狼の片割れの頭に幸隆の拳が掠める。

 狼の白い毛が舞い、切れた皮膚から血が流れる。

 「ほんと、どんなクラスを得たらそんなに早く強くなれるのかしらね」

 期待半分、畏れ半分といった彼女は、遅れることなくもう片割れの狼が彼へ襲い掛かる前に、その前足を矢で射貫く。

 狼の驚いた鳴き声が響いた。

 この場所は三階層に比べて広いため、横並びで相対することができる。

 杏は幸隆の隣へと走り、前線に加わった。

 幸隆と杏それぞれで白毛狼を相手取り、戦いを優位に進めていく。

 素早く無駄のない動きで狼の喉元に滑り込んだ杏が短剣を一閃。

 血しぶきと共に白毛狼が倒れこみ、魔石を残して塵と消えた。

 「ギャ、ウン……」

 幸隆からその太い喉を後ろから両手で締め上げられ苦しむ白毛狼がいた。

 藻掻く足の力は徐々に衰え、その動きを止めるとがくりと項垂れるとともに塵へと変わる。

 「白毛狼を絞め殺す奴を初めて見たわ」

 彼女はやや引いていた。

 「そんな奴も探せばいるだろ」

 爪でひっかかれた胸を見る。

 昨日苦戦した相手に容易に勝利を収めた幸隆は防具の重要性に気づいた。

 「昨日はこれで出血促されて苦戦したんだよ。あるとないとじゃ全然違うな」

 自身の胸を叩いて感心する幸隆に呆れる杏。

 「裸で戦ってた人ならではの説得力ね」

 そんなもの誰もが知ってるとはあえて言わない。

 「裸じゃねーって。ジャージ着てたわ」

 「それを裸装備っていうらしいわよ」

 誰から聞きかじったゲーム用語かは知らないが、聞きなれた用語に確かにと納得するバカ。

 「それに昨日裸で街にでて連行されたって話じゃない」

 「ぐぅ……!」

 何も言い返せない幸隆が昨日のおまわりさんの圧を思い出して一人ダメージを負っていた。

 誰から聞いたんだと心の中で犯人を呪った。

 その後しばらく同じネタでいじられながら狩りは順調に進んでいった。








 「……くしゅんっ」

 「珍しい、先輩風邪ですか?」

 「いえ、何かよからぬものに反応したような気が……」

 「どうでもいいですけど体調には気を付けてくださいね」

 「もちろんです」
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