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第八話 生物の楽園
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インテガ海を西に進み続けて数日が過ぎた。もう少しで砂漠の国エルトゥスだ。チャルチウィトリクエ号はその間、他の船を見かけることなくただ平和な船での日常を送っていた。シルク少年はすっかり海賊と打ち解けて、水夫仲間には友達のように話している。
「ねえ、アクバル。このまま行くとエルトゥスに着くみたいだけど、上陸するのかなぁ?」
シルク少年は縄ばしごにぶら下がり、一番の友人アクバルに質問をした。アクバルは海を見つめながら言った。
「エルトゥスには行かないだろう。デカい大陸より、小さな島がいいんだ。誰にも見つからないような、な」
「ふぅん」
シルク少年は、自分ならエルトゥス観光でもしたいなぁと思っていた。古代の遺跡や神秘に包まれた神話。考えるだけで心がドキドキする。しかし、行けないとなると残念な気持ちになる。
(海賊だもの、できれば危険な道は通りたくないよなぁ)
縄ばしごから降りて、アクバルの隣に並んで海を眺める。水平線の向こうに、小さな島が見えた。
「島だ!島が見えたぞ!」
掌帆長イクの声で航海士カワクと海尉チクチャンが船室から飛び出した。
「皆、上陸の準備をしろ!」
ゆっくりと上がってきた船長イミシュにより鐘が鳴らされ、船員たちは甲板に集まる。シルクとアクバルもイミシュの方を向き注目した。
「カワク、あの島の名は分かるか?」
「はい。あれはソラテオート島です。砂漠のような気候と熱帯雨林のような気候を併せ持つ島ですね」
シルクと同じくらいに背の低い航海士カワクは、眼鏡を光らせながら船長に説明した。
「ありがとう。それならば、島に上陸する時に二つの班に分かれよう。今から呼ぶ者は船体の修理点検班だ。船大工オク、エブ、縫帆手ラマト、カン、海尉チクチャン、掌帆長イク、掌砲長イシュ、操舵手メン、水夫チュエン、キブ、以上の十人。それ以外は島の探索と食糧と水の確保だ」
「アイアイサー!」
呼ばれなかったアクバルとシルクは互いに顔を見合わせてにっこりと笑った。
風が強く吹き始めた。まるで、ソラテオート島へ導く意志を持ったような風だ。皆が荷造りや武器の手入れに勤しんでいるので、シルク少年も手伝いをする。
「僕は何を持ちましょうか」
左手が鉤爪の副船長キミに声をかける。キミはお喋りではないが、必要なことだけは教えてくれる無口であることを、数日の航海でシルクは理解していた。キミはシーツを丸めたものとロープで括られた空の木箱を渡してきた。
「食糧をこの木箱に詰めていくんだ。中身が空のときには浮きにもなる」
シルク少年は副船長キミの配慮と優しさに、「ありがとうございます。お力になれるよう、頑張ります」と応えた。
「それと、これを。使わないに越したことはないがね」
キミはフリントロック式のピストルを一丁と小さなポーチを手渡す。まだ弾は込められていないらしく、ポーチの中に火薬や弾が納められている。自分で装填できるか心配だが、使う機会が無いことを祈るしかなかった。
日が傾いてきた頃、チャルチウィトリクエ号はソラテオート島の沿岸に着いた。久しぶりに見る陸地だ!シルク少年は目を輝かせる。熱帯のジャングルのような砂地に荷物を下ろし、点検班が船を横に倒して船底についたフジツボを削ぎ落としたり、木が腐っていないか見ていた。
「さあ、我々は探索だ。この島が理想郷であるか、調べねばならない」
焦げるような夕日は木々のカーテンにより遮られ、時折吹く涼しい風は汗を拭ってくれる。足元では根が絡まり合い、シルクの歩みの邪魔をする。転ける度、後ろを歩くアクバルと前を歩く音楽家のカバンが手を引いてくれるのだ。誰もシルクを責めることはない。皆真剣に島の地理を頭に入れようとしている。シルク少年は、自分も出来る限りの仕事を全うしようと、足元に気を付けながら辺りを観察していた。
「あっ、崖の上に大きなキノコがありますよ!」
シルク少年が木の隙間から高い崖の上を指差して叫んだ。船長イミシュはシルクの身長に合わせて屈み、望遠鏡を覗き込んだ。
「なるほど、確かにキノコに見えるが、あれは木だろうな……あそこならば島を一望できるだろう。行ってみるか」
イミシュの号令で一同は崖の上を目指して歩いた。途中、美しい川を見つけたので水分補給をして、簡易的な島の地図にカワクが印をつけた。彼は美味しそうな実が成る木や、大きなトカゲの巣穴にも印をつけていた。
崖の上に辿り着いたのは、もう日が落ちた頃のことであった。シルク少年の遥か頭上に木の枝が分かれて葉が生えており、やはり見事なキノコに見えるのだ。そんな木が幾つも湿り気のない土の上に生えている
「今日はここで野営する。雨が降ってもこの木の下ならば凌げるだろう」
船長イミシュが座ったので、シルクはようやく足を休ませることができた。
「ふふ、疲れた?ボクも疲れちゃったよ」
隣に座る音楽家のカバンが伸びをした。
「今日の夕食は何かなぁ。木の実を採集したし、トカゲも捕まえたから、それかな」
「そうだよ。木の実とトカゲのステーキになるかな」
料理人エツナブがシルク少年に向けて笑顔を見せる。シルクはもうお腹が空いて動けなかった。
肉の焼ける匂いが鼻を通る。しばらく眠っていたシルク少年の体に活力をもたらした。大きな葉の上に盛り付けられたステーキに涎が垂れそうだった。ナイフで切り分け、刺して口に入れる。さっぱりとした食感が良かった。
「なんだか鶏肉みたいだね、美味しいや」
「明日も捕まえて、海岸の奴らにも食わせてやりたいな!」
アクバルはステーキを口に頬張ったまま興奮していた。木の実はスモモのように甘酸っぱく、トカゲ肉との相性が良かった。皆満足そうに料理を頬張っていた。
腹を満たしたシルクは再び眠気に襲われ、冷たい土の上に横になった。アクバルはそんな彼をシーツで包んでやり、カバンは良い夢が見られるようにと土笛を奏でた。あたたかな音色は、シルクを深い深い眠りへと誘う。
静かな夜に、音色が一つ。しかし、その音色を聞いて招かれざる客が集まってきていた。
「ねえ、アクバル。このまま行くとエルトゥスに着くみたいだけど、上陸するのかなぁ?」
シルク少年は縄ばしごにぶら下がり、一番の友人アクバルに質問をした。アクバルは海を見つめながら言った。
「エルトゥスには行かないだろう。デカい大陸より、小さな島がいいんだ。誰にも見つからないような、な」
「ふぅん」
シルク少年は、自分ならエルトゥス観光でもしたいなぁと思っていた。古代の遺跡や神秘に包まれた神話。考えるだけで心がドキドキする。しかし、行けないとなると残念な気持ちになる。
(海賊だもの、できれば危険な道は通りたくないよなぁ)
縄ばしごから降りて、アクバルの隣に並んで海を眺める。水平線の向こうに、小さな島が見えた。
「島だ!島が見えたぞ!」
掌帆長イクの声で航海士カワクと海尉チクチャンが船室から飛び出した。
「皆、上陸の準備をしろ!」
ゆっくりと上がってきた船長イミシュにより鐘が鳴らされ、船員たちは甲板に集まる。シルクとアクバルもイミシュの方を向き注目した。
「カワク、あの島の名は分かるか?」
「はい。あれはソラテオート島です。砂漠のような気候と熱帯雨林のような気候を併せ持つ島ですね」
シルクと同じくらいに背の低い航海士カワクは、眼鏡を光らせながら船長に説明した。
「ありがとう。それならば、島に上陸する時に二つの班に分かれよう。今から呼ぶ者は船体の修理点検班だ。船大工オク、エブ、縫帆手ラマト、カン、海尉チクチャン、掌帆長イク、掌砲長イシュ、操舵手メン、水夫チュエン、キブ、以上の十人。それ以外は島の探索と食糧と水の確保だ」
「アイアイサー!」
呼ばれなかったアクバルとシルクは互いに顔を見合わせてにっこりと笑った。
風が強く吹き始めた。まるで、ソラテオート島へ導く意志を持ったような風だ。皆が荷造りや武器の手入れに勤しんでいるので、シルク少年も手伝いをする。
「僕は何を持ちましょうか」
左手が鉤爪の副船長キミに声をかける。キミはお喋りではないが、必要なことだけは教えてくれる無口であることを、数日の航海でシルクは理解していた。キミはシーツを丸めたものとロープで括られた空の木箱を渡してきた。
「食糧をこの木箱に詰めていくんだ。中身が空のときには浮きにもなる」
シルク少年は副船長キミの配慮と優しさに、「ありがとうございます。お力になれるよう、頑張ります」と応えた。
「それと、これを。使わないに越したことはないがね」
キミはフリントロック式のピストルを一丁と小さなポーチを手渡す。まだ弾は込められていないらしく、ポーチの中に火薬や弾が納められている。自分で装填できるか心配だが、使う機会が無いことを祈るしかなかった。
日が傾いてきた頃、チャルチウィトリクエ号はソラテオート島の沿岸に着いた。久しぶりに見る陸地だ!シルク少年は目を輝かせる。熱帯のジャングルのような砂地に荷物を下ろし、点検班が船を横に倒して船底についたフジツボを削ぎ落としたり、木が腐っていないか見ていた。
「さあ、我々は探索だ。この島が理想郷であるか、調べねばならない」
焦げるような夕日は木々のカーテンにより遮られ、時折吹く涼しい風は汗を拭ってくれる。足元では根が絡まり合い、シルクの歩みの邪魔をする。転ける度、後ろを歩くアクバルと前を歩く音楽家のカバンが手を引いてくれるのだ。誰もシルクを責めることはない。皆真剣に島の地理を頭に入れようとしている。シルク少年は、自分も出来る限りの仕事を全うしようと、足元に気を付けながら辺りを観察していた。
「あっ、崖の上に大きなキノコがありますよ!」
シルク少年が木の隙間から高い崖の上を指差して叫んだ。船長イミシュはシルクの身長に合わせて屈み、望遠鏡を覗き込んだ。
「なるほど、確かにキノコに見えるが、あれは木だろうな……あそこならば島を一望できるだろう。行ってみるか」
イミシュの号令で一同は崖の上を目指して歩いた。途中、美しい川を見つけたので水分補給をして、簡易的な島の地図にカワクが印をつけた。彼は美味しそうな実が成る木や、大きなトカゲの巣穴にも印をつけていた。
崖の上に辿り着いたのは、もう日が落ちた頃のことであった。シルク少年の遥か頭上に木の枝が分かれて葉が生えており、やはり見事なキノコに見えるのだ。そんな木が幾つも湿り気のない土の上に生えている
「今日はここで野営する。雨が降ってもこの木の下ならば凌げるだろう」
船長イミシュが座ったので、シルクはようやく足を休ませることができた。
「ふふ、疲れた?ボクも疲れちゃったよ」
隣に座る音楽家のカバンが伸びをした。
「今日の夕食は何かなぁ。木の実を採集したし、トカゲも捕まえたから、それかな」
「そうだよ。木の実とトカゲのステーキになるかな」
料理人エツナブがシルク少年に向けて笑顔を見せる。シルクはもうお腹が空いて動けなかった。
肉の焼ける匂いが鼻を通る。しばらく眠っていたシルク少年の体に活力をもたらした。大きな葉の上に盛り付けられたステーキに涎が垂れそうだった。ナイフで切り分け、刺して口に入れる。さっぱりとした食感が良かった。
「なんだか鶏肉みたいだね、美味しいや」
「明日も捕まえて、海岸の奴らにも食わせてやりたいな!」
アクバルはステーキを口に頬張ったまま興奮していた。木の実はスモモのように甘酸っぱく、トカゲ肉との相性が良かった。皆満足そうに料理を頬張っていた。
腹を満たしたシルクは再び眠気に襲われ、冷たい土の上に横になった。アクバルはそんな彼をシーツで包んでやり、カバンは良い夢が見られるようにと土笛を奏でた。あたたかな音色は、シルクを深い深い眠りへと誘う。
静かな夜に、音色が一つ。しかし、その音色を聞いて招かれざる客が集まってきていた。
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