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第18話 疑い
しおりを挟む「ちょっと待ちなさいよ~! 」
1時間目終了後の休み時間。
廊下を進んで、トイレに向かう颯に、後方から、荒れた口調で、聖羅が呼び止めようと試みる。
休み時間の突入直後なため、現時点で廊下には、颯と聖羅しか存在しない。
「……な、なに? 」
突然の聖羅の呼び掛けに、振り返りながら、颯は驚きを示す。聖羅の大きく五月蝿い声が、颯の鼓膜を攻撃した。多少なりとも耳に痛みを覚える。
「なに? じゃないわよ!! 天音君なんでしょ! 例の情報を拡散したのは!! ただでさえ、あたしに別れを切り出したのに! どういうつもり!! 」
顔全体を真っ赤にし、聖羅は早口で捲し立てる。表情や口調から実にご立腹のようだ。
聖羅が石井に寝取られた情報。
どうやら、その情報を拡散した犯人が、颯ではないか。そのように、聖羅は当たりを付けているようだ。
颯には犯人らしき人物の顔が浮かんだ。その人物はここ最近に面識が生まれた。おそらく、その人物が犯人で間違いないだろう。
颯は不思議と確信が持てた。
「犯人は俺じゃないよ。伊藤さんの疑いは外れてるよ。残念だね」
皮肉を交え、容疑を否定する颯。特に表情も変えずに、対応する。既にどうでもいい相手なので、1ミリも気を遣う必要もない。
「え? 天音君じゃないの? あれ? いや! そんなわけない!! 嘘ついてるでしょ!! 」
一瞬は呆然としたが、雑に首を左右に振り上げ、聖羅は納得しない。自身の主張を貫くつもりだ。証拠は一切持っていなのにも関わらず。
現に、聖羅は1度も、聖羅は証拠を提示していない。そのため、聖羅は自身の立てた憶測で、颯を犯人としてとして決めつける。
流石に颯も対応に気怠さを覚えてきた。正直、聖羅とはこれ以上、会話も交わしたくない。寝取られた相手と交わす会話など、颯は持ち合わせていない。だから、主体的に言葉を切り出すことを選択する。
「悪いけど、そろそろ解放してもらっていいかな。早くトイレで用を済ませたいから」
返答を待たずに、踵を返し、颯は歩き始め、前進する。無言で廊下を進み、目的地のトイレに向けて移動する。
「…ちょ、ちょっと待って! まだ話は終わってない!! 勝手にその場から離れないで!! 」
最初は突然の颯の行動に固まっていたが、即座に我に返り、廊下全体に伝わる大きな声で、聖羅は感情的に怒鳴る。目は普段より鋭くなる。まるで睨むように。
聖羅の大きくボリュームのある声に反応し、教室から顔を出す生徒達も、チラホラ見受けられる。
「五月蝿いな~。ここは学校なんだよ。家じゃないんだよ? 声のボリュームぐらい抑えてよ」
気怠そうに、振り返る颯。眉は下がり、目も通常よりも細まる。面倒くさい時に現れる表情だ。
「俺、おしっこ漏れそうなんだけど。これ以上、伊藤さんが引き留めるなら。掛けちゃうよ? 」
下腹部に手を当てながら、颯は淡々と脅迫まがいの言葉を告げる。
「え…。それは流石に無理なんだけど……」
一方、聖羅の顔は真っ青に変貌する。颯に尿を掛けられる絵を、脳内でイメージしてしまったのだろう。おそらく、聖羅は多くの不快感や嫌悪感を知覚したに違いない。
「嫌でしょ? じゃあ空気読んでね。それと、今後一切、俺に話し掛けないでね。クソ1号」
最後に悪口を付け加え、颯は再び歩を進める。正直、トイレでそろそろ用を足さないと、本気でおしっこが漏れそうだ。既に股間の真ん中辺りまで、尿が到着する。股間に力を込め、留めないと、溢れそうだ。
一方、聖羅は、徐々に距離を作る颯の背中を、目で追い続けることしか出来なかった。
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