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第5話 イケメンの接触
しおりを挟む「おい! ちょっと面貸せよ」
2時間目週後の休み時間。颯はトイレで用を済ませた。
トイレから退出した刹那、石井から高圧的に声を掛けられた。
待ち伏せていたのか。トイレの入り口近くの壁に寄り掛かる。少し腰を曲げ、両腕を組んで。
石井の所属するクラスを、颯は存じ上げない。おそらく隣のクラスだと当たりを付ける。
遥希の元友人。学校で遥希と常に一緒に居た。クラスメイト達から得た情報を用いて推測した。
「いいけど。何で? 」
率直な疑問を口にする。なぜ自身の彼女をNTRした人物に命令を受ける必要があるだろう。理解ができない。
表情から不機嫌そうだ。
不機嫌で不快感を露にしたいのは、颯の方だ。彼女の聖羅をNTRされたのだから。しかも、人生初の彼女だったのも関わらず。
「ちょっと話がある。遥希に関することだ」
遥希の前とは態度が異なる石井。遥希の前では物腰が柔らかい。遥希を対等な存在と扱っていた。
だが、颯に対しては大きく違う。完全に見下した態度を取る。その上、従順に従わなかった颯に苛立ちも感じている。そんな様子が表面的に垣間見える。
「わかったよ。でも、その八雲さんとは親密な関係ではないよ。今日初めて話したレベルだから」
疑念を晴らすために、颯は予め言葉を紡ぐ。事前に遥希に関することで話がある。そのように石井が口にしていた。だから、敢えてこの行為の選択をした。
「そんなこと聞いてねえよ。陰キャが、陽キャで美少女の遥希と言葉を交わすだけでおこがましいんだよ。立場をわきまえろよ。それと。俺が聞いても無い内容をペラペラと口にするな。鬱陶しいから」
石井の高圧的な態度は依然として変化しない。
加えて、颯の言動にダメ出しをする。明らかに、下の人間として見下す。如何にも、自身が上級の人間だと知らしめるように。
「とにかく! 休み時間も残り7分だ。ごちゃごちゃ言わずに、俺に従え陰キャ。異論は認めない。俺の権限でな」
左に嵌める腕時計に姿勢を移し、石井は時刻を確認する。一見して、苛立ちのボルテージは増加する。
額には前髪越しに青筋が1つ浮かぶ。
怒りのシンボルを、颯は見逃さない。他者よりも人間観察力は高かったりする。
小・中・高とクラスでボッチの経験がある。ボッチの時間に、単独で自席に座り、暇つぶしで、クラスメイト達の人間観察を行っていた。その結果、他者よりも人間の気分や外見の変化を見抜けるようになった。
ただ、他者と言っても、同級生よりも優勢なだけだ。まだ高校生だ。年上に洞察力では遠く及ばない。
「わ、わかった。従うよ」
流石にこの場面で断れば、石井の怒りが爆発できると予測できた。怒号で暴言を吐く可能性も有った。そうすれば、他方のクラスメイト達の注目の的になる。多数の好奇な視線が集中するだろう。
それは色々と面倒くさい。目立つことはウエルカムではない。
「ダメだよ石井君。無理やり他者を自分の思うように動かしたりしたら」
聞き馴染みの無い声色が颯の耳を通過する。声のボイスは優しく鼓膜を撫でる。
女性の声色だった。
遥希は女性にしては低く、凛々しい声に対し、先ほどの声色はおっとりしていた。大人の余裕を感じるような、おっとりさだった。まさに、アニメに登場するおっとりキャラにそっくりだった。
音源に視線を走らせる颯。
茶色のポニテ―ルに、二重のぱっちりした自然色の瞳。日本人特有の黄色い肌に、薄い桃色の唇を所持する。肌は丁寧に手入れが届いており、ニキビなんか1つも皆無だ。
颯には見覚えの無い美少女だった。1度も学校で見た経験が無かった。記憶には保存されていない。
遥希は日本人離れしたハーフ風の美少女なのに対し、いきなり割って入った女子は和風美人であった。
「み、瑞貴…」
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