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第4話 美少女の名前

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 嵐のような休み時間を経て、1時間目終了後。

 再び、休み時間に突入した。時間は10分だ。

 教室の後方から退出し、颯は1階の校舎に向かう。聖堂高校の校舎は4階建てた。2年生の教室は2階に設置される。

 自動販売機で飲み物を購入するために、颯は自動販売機場所に移動する。自動販売機は昇降口の真近くに設けてある。

 ガタンッゴトンッ。

 先客がいた。何度か視認した背中。

 女性は身体を屈め、購入したミネラルウォーターを取り出す。

「やあ。さっきの休み時間以来だな」

 後方の死角の颯に気づき、美少女が振り返る。

 その美少女は例の颯の教室に現れた人物だった。

「うん。さっきはどうも」

 ぎこちなく軽く、颯は会釈する。ほぼ初対面の相手に畏まった態度を取った。自然と身体が動いた。

「ああ。それと、自己紹介がまだだったな。私の名前は八雲遥希(やくも はるき)。天音の隣のクラスだ」

 簡単に自己紹介を行った遥希。

 颯のクラスは2年6組だ。隣のクラスなため、遥希は2年5組に所属する。

「どうぞ! 天音も何か飲み物を購入するために、ここまで足を運んだんだろ? 」

 自動販売機の目の前から遠ざかる遥希。自動販売機の前が開く形となる。

 普段通り、自動販売機は、明るく、輝かしい、ブルーライトを放つ。

「…じゃあ、お言葉に従って」

 制服のズボンの前ポケットから、颯は財布を取り出す。緑の折り畳み式の財布だ。

 小銭を取り出す。合計で150円を手に取る。

 150円を100円から順番に、自動販売機へ投入する。チャリンッチャリンッと6枚の硬貨が自動販売機本体に入り込む。

 購入可能な商品(ドリンク)のボタンが、青色に光る。商品のうちの8割のボタンが青く染まる。

「これにしよっと」

 気軽に独り言を呟き、麦茶の真下のボタンをプッシュした。

 ガタンッゴトンッと先ほど同様に、自動販売機が500mlのペットボトルを吐き出す。

 ペットボトルの落ちた音は、颯の鼓膜を確実に刺激する。どこか耳に心地よい感触だ。

 腰を屈め、颯は自動販売機の吐き口からペットボトルを取り出す。

 キンッキンッに冷え切ったペットボトルの温度が颯の手全体に伝わる。冷蔵庫に手を入れた感覚と類似していた。

「ちょっと! そろそろ機嫌を直してくれよ。なぁ遥希! 」

 書き馴染めのない声色が颯の耳を通り抜ける。程よく低く、男らしいイケボだった。このイケボに虜になる女子を容易に想像できる。グッドなボイスだった。

「はぁ~~。私がお前に直で伝えた内容を忘れたのか? なあ、石井」

 気だるそうに、頭を掻き、遥希は振り返る。彼女の大きな瞳が、金髪、長髪、高身長イケメンを映す。

 颯の彼女をNTRした石井の姿だった。

 憎たらしいが、男の颯から見ても、石井はイケメンだった。どこの誰が目にしても、イケメンと認識するだろう。

「もちろん覚えてる。でも、君みたいな美しい女性を友人として失うなんて。俺は耐えられない。だから俺の元に戻ってくれ。お前以外にも他のメンバーまで俺との縁を切るなんて言い出したんだよ。頼むよ! 俺と復縁して、他のメンバーも取り戻そうぜ! 」

 必死の形相で、石井は捲し立てる。多少なりとも早口だった。精神状態は穏やかではないのだろう。普段のような、透かしたような余裕も存在しない。

「は? そんなことするわけないだろ。誰がお前みたいなクソ野郎と復縁なんてするか。精々がんばれ」

 颯の対応とは打って変わり、冷めきったトーンで、遥希は吐き捨てる。目を細め、石井へ軽蔑を示す。

「じゃ、私はここで失礼させてもらう。またな天音」

 声のトーンは劇的に変化し、遥希は好意的な態度で颯に軽く手を振る。

 言葉通り、その場を立ち去ろうと試みる。

 颯と石井は同じく、遥希の背中を黙って見届けていた。

「ちょ、ちょっと待てよ! 」

 遥希の背中が消え掛けたタイミングで、石井は駆け足で後方を追い掛けた。

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