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1巻
1-2
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ダニエルの手前、なんでもないようにふるまったけれど内心はバクバクだ。
オメガバースとは、アルファ・ベータ・オメガという、第二性になる。第一性は男女という性別だ。
アルファは、オーウェンのことだ。ほかの攻略対象も、もちろんアルファだ。アルファは秀でた性になり、ヒエラルキーの頂点だ。
ベータは、いわゆる一般の男女で、オメガは底辺に位置する性になる。さらにオメガは、男女問わずに孕むことが可能だ。とくに男のオメガは、アルファの子どもを産む確率が高いので、高位貴族が番に欲することが多い。
アルファとオメガの間には、ベータとの間にはない特別な繋がりが生まれる。それが番だ。番になるには、オメガにのみある発情期に体を繋げ、オメガのうなじをアルファが噛めばいい。そのためにオメガはフェロモンを出し、己の意思にかかわらず、より優秀な遺伝子を得ようとアルファを誘惑するのだ。
「まさか僕がオメガだって……やっぱり僕は転生しているんだ……」
はあ、と小さく息を吐いた。
制服に着替えると、ダニエルに用意してもらった朝食をとった後、廊下に出た。ぐるりと周囲を見渡せば、広い屋敷内に嘆息する。
「……すごい。まるでお城みたいだ」
いくつ部屋があるのだろう。数えきれないほど扉が見えている。
「こんな広い家なのにな」
家の中でも暴れていて、手が付けられないリアム。
「そうでもしないと、誰からも見てもらえないと感じていたんだろうけど、家族なのに……家族だからか」
転生前の自分も同じような状況だったから、気持ちがわからなくもない。
「……暴れるより、離れることを選べばよかったのに」
自分の過去の経験から、リアムへの思いが漏れていく。
階段を下りると、玄関ロビーには既視感のある老齢の男性が立っていた。
「あなたはたしか……執事のセバスチャン?」
「はい、セバスチャンです。おはようございます、リアム様。お加減はいかがですか?」
淡々とした口調は、ゲームで見た姿のままだ。職務に忠実なセバスチャンらしい。
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました。大丈夫です。行ってきます」
会釈をしながら伝えると、セバスチャンの眉は一瞬ぴくりと動いたが、「行ってらっしゃいませ」と決まり文句のような返答を口にしただけだった。
馬車に乗ることもはじめてだ。何かのアトラクションのようにも見える。
「すご……」
車とは違う乗り心地に息を吐く。
ヨーロッパ風の街並みに見えるが、よく見ると日本の風景にも見える気がする。
「ゲームのスチル、まんまだ……やっぱここはゲームの世界なんだ……」
自分が着ている制服も、ゲームの中で登場人物たちが着ていたものだ。
「階段から落ちたときに助けてくれたのは王太子だったよな、見間違いじゃなくて……」
もしかしたら勘違いかもしれないし、王太子に助けられた情報も間違いかもしれない。
「とりあえず学園に行ったら、何かの噂が流れてるかもしれないから、そのとき確かめよう。でももし王太子だったら、どうするかな……関わらないでおきたいところだけど。卒業まであと三か月ちょっとか」
主人公が王太子ルートに入っているなら、死亡エンドが目の前にあることになる。なんとか避けるためには、好感度を上げていくしかない。
「平民エンドなら、今までのような生活ができるかもしれないし。炊事洗濯、あとは住環境の確保。無事学園を卒業できたら、なんの仕事をするかだよな。……児童支援員、なれるかな」
転生前からの夢である養護施設の児童支援員の仕事を、ゲームの世界でどう実現するか。窓の外の景色を眺めながら考える。
「大学があるなら行きたいけど、その辺も調べないとな。でも平民になったら、大学進学は難しそうだな」
転生前は、奨学金をもらって大学進学する道を選んだ。念願のひとり暮らしを始めたので、学業とバイトに忙しい毎日を送っていたが、夢を叶えるためだから充実していた。
「まずは勉強か。テストイベントもあるし、ここをしくじったらヤバそうだ。で、その三か月後には平民になっていると仮定すれば、すぐに働けるだけの体力も必要だな」
リアムの体を見つめながら、僕は苦笑した。
「走り込みすれば、体力が付くかな」
ガッツポーズをして腕の筋肉に触れていると、ゲームのオープニングスチルのような景色が窓に現れた。
「……すご……でっかい建物」
タイトルテロップがあればゲームの世界だと思えたが、そのようなことはない。やはり現実なのだと感じ、息を吐いた。
貴族は馬車で学園に通うようで、たくさんの学生たちが入れ替わりで馬車を降りていく。僕が乗っている侯爵家の馬車も列に並んで、降りる順番が来るのを待つ。
「あ、ここか」
御者が扉を開けたので、カバンを持つと僕は馬車から降りた。
「ありがとうございます。帰りもお願いできますか」
「え? ……ああ、はい。もちろんです」
御者の男は、僕の言葉に驚いているようだ。
「あっと、そうだ。少し図書館に寄りたいので、いつもより少し遅めに迎えに来てください」
「……図書館ですか? リアム様が? ……はい、わかりました。五時頃で大丈夫でしょうか」
「はい、そのくらいで」
「承知しました。では」
御者と別れると、学園の門を目指して歩き出した。
「ここがそうなんだ」
デスティニーの世界なのだとあらためて感じ入っていると、門の先のほうにたくさんの人だかりができている様子が目に入る。なんだろうと思いながら進んでいくと、突如、鼻腔に香しい香りが届いた。この匂いを知っていると思った瞬間、心臓の鼓動がドクンと大きく高鳴った。
「……え、何」
匂いの元を辿れば、階段から落ちたときに助けてくれた人がいる。ゲームのスチルで何度も見たから間違いない。
王太子オーウェンだ。
「体調はもういいのか」
透き通るような綺麗で低い声が耳に入り、腹の奥に響く。昨日見たときは一瞬で、これほどまでに美しい人だとは思わなかった。驚きのあまり、息をのむ。
艶やかな金色の髪は、柔らかそうで触れたくなる。すっとした目は切れ長で、意志の強さを表しているようだ。僕の背丈を頭ひとつ分は優に超えている。アルファとしての威厳も感じさせた。ゲームでの王太子の紹介文に、頭脳明晰で容姿端麗だと書かれていたが、まったくもってその通りだと思う。
王太子オーウェン・エヴァンスは、リアムと同じ三年生だ。ゲームの主人公が王太子ルートに入れば、リアムが死亡エンドを辿る可能性がある唯一の攻略対象になる。
「どうした? どこかケガでもしていたか」
「あ、いえ……」
呆けたように見つめてしまい、慌てて僕は首を振る。
「そうか。昨日は突然階段から落ちてきて驚いた。何があった?」
「何って……」
主人公があの場にいたから、てっきり話を聞いていたと思っていたが、違うのだろうか。
「自分の口で事実を話すのは、さすがの君でも難しいか」
どういう意味だろうと首を傾げる。
「ソラ・ターナーを突き落とそうとして失敗したと聞いているが」
隠しルートに出てくる主人公名は、シャルル・ターナーだ。それなのに主人公の名がソラ? もし名前がソラなら……彼は転生者だ。主人公でゲームを進めるとき、その名前はすでにシャルルに設定されている。しかしユーザーの好きな名前に変更することができるので、この世界に転生する際にソラと変更したのだろう。そうなると――
「……おかしなことになっていないか?」
この世界は隠しルートだと思っていたが、主人公ルートになるのだろうか。それともソラは主人公として転生し、僕はリアムで転生し、それぞれがそれぞれのルートを歩んでいると考えられなくもない。
「どういう意味だろうか。おかしなことというのは何を指している? 君がソラを突き落とそうとしたことについて聞いている」
「は? 僕が?」
僕は、階段から落ちそうになっていた学生を助けただけだ。そばにソラがいたような気もするが、階段から落ちていく瞬間だ。視界の片隅に彼が映っただけだったので、よく覚えていない。
「ソラや、周りにいた者から聞いたが。違うのか」
じっと見つめられると、腹の奥が熱く疼く。これがオメガバースの世界でいうところの発情かもしれない。
けれども、それよりもオーウェンの誤解を解いておかなければと焦る。このままだと好感度が下がって、死亡エンドに直行するかもしれない。
「誤解です。誰かが階段から落ちそうだったから助けただけです。その反動で自分が落ちたから洒落にならないですけど」
事実を伝えたが、やはり悪役令息としての存在が確立しすぎているのだろう、オーウェンの眉間にしわが寄る。好感度が下がっているのであれば、本当にマズいことになる。
「そうなのか」
「今の言葉は本当です。……信じてもらえないのはわかっていますけど、事実は事実なので伝えておきます。では」
会釈をすると、僕は足を踏み出した。
朝食の後、従者のダニエルから飲むように渡された抑制剤という薬を飲んでいるが、それだけでは効果が薄いようだ。一刻も早く保健室に向かいたい。カバンに予備の抑制剤を入れているので、服用した後、落ち着くまで避難していたいのだ。
「どういうことだろうか。俺が聞いている話と違うようだ」
それなのにオーウェンは僕の後をついてくる。
「僕は僕の事実を言っただけです。信じないのは勝手ですが、事実は事実です」
「目撃者が多数いる中で、事実だと君が言うからには、何か証拠でもあるのか」
だから、その声が腹の奥に響くんです! と言えたらいいのにと歯ぎしりする。
これがオメガバースという世界の特徴なのだろう。
オメガバースがこのゲームの中に組み込まれていることは理解していたが、こうして体験することになるとは思ってもみなかった。
オメガとアルファの不要な交わりを避けるために、僕が服用した抑制剤がある。
しかしオーウェン相手では、効果が薄いようだ。とにかくオーウェンから物理的な距離を置きたい。
「……証拠って、どうやって示せばいいんですか。やってないことを証明するのって難しいんですよ」
しかし、僕は足を止めて振り向いた。
「なるほど。君は証拠はないが、やっていないと言うんだな」
ゲームではいつも爽やかな笑顔のオーウェンだが、裏表がある人だろうと僕は感じている。
いろいろなエンドがあるが、何ひとつ悪役令息の言うことを信じず、笑顔でかわしていたように思えるのだ。
「その通りです。……昨日は助けてくれてありがとうございました。あの、僕もういいですか。保健室に行きたいので失礼します」
会釈をして立ち去ろうとしているのに、なぜかオーウェンは付いてくる。これ以上何かを言ったら、好感度がまったくない現状ではマイナスになってしまうかもしれない。
「保健室に行くのは、やはり昨日のことが原因なのか」
「違いますから。大丈夫です」
あなたの匂いがマズいんです、と言えたらいいが、そうなると意識していると告げるようなものだろう。この匂いは、アルファが出すフェロモンだ。恐らくオメガは、縁か何かがある相手の匂いを感じるのだろう。しかし今の僕には困ってしまうものだ。まだなんの対策も練っていないので、できるだけ今は、オーウェンとは関わりたくない。
「何様だよ、お前」
鋭い言葉は、オーウェンのそばにいた学生からのようだ。
足を止めて振り向いて顔を確認したいが、それどころではない。僕は二人を振り切るように、足早に歩いて行く。しかし道がわからない。
「……すみません、保健室ってどこですか?」
観念して足を止めると、僕はオーウェンに尋ねた。
「やはり受け止め方がマズかったのだろう、頭を打っているのかもしれないな。保健室がわからないとは……」
助け方がよくなかったから、僕が頭を打ったと責任を感じているのかもしれない。
「ほんとに頭は大丈夫です」
昨日の件に関して責任を感じる必要はないことを伝えると、オーウェンのそばにいる学生が鼻で笑った。
「演技だろう。オーウェンに構ってもらって喜んでんだろうさ。オーウェン、こんな奴、ほっとけ」
ゲームのリアムならやりそうなことだと思うけれど、それでもキツい物言いだ。僕は、声の主の顔を見ておこうと振り向いた。
「アレン、その言い方はよくないな」
「だってそうだろうが。いつもオーウェンにすり寄ってきてみっともない。オーウェンの手を煩わせるわけにはいかねえし、しょうがねえから俺が連れてってやる。オーウェンは戻れよ」
「……では、あなたにお願いします。オーウェン様、ありがとうございました」
オーウェンとアレンの二人の顔を見ないようにして、僕は頭を下げた。とにかくオーウェンから離れられればいいのだ。
「来い」
「痛っ!」
急に引っ張られて思わず声が出た。
「アレン」
「わかってるって。そんなに強く掴んだつもりはねえよ。ほんとひ弱だな、お前は」
「歩けますから放してください」
「ならさっさと歩けよ」
腕を掴まれたまま、先ほどよりも足早に歩かされる。アレンは一刻も早くオーウェンから僕を引き離したいのだろう。強がりではなく、願ったり叶ったりだと思いながらも、薄れていく甘い匂いに、うしろ髪を引かれるような思いだった。
「ほら、ここが保健室だ。二度と忘れるなよ」
「ありがとうございました」
「お前にしては神妙だな。何を企んでいる」
「……何も企んでいませんけど」
先ほど、オーウェンがこの青年のことをアレンと呼んでいた。そうなると、この青年も攻略対象だ。体格のいいアレンだから、完全に見下ろされている。オーウェンと背の高さは変わらないが、大柄な分、もっと大きく見える。赤い髪は、意志の強さを表しているようだ。アレンは平民だが剣の腕が抜群で、現在騎士候補として活躍している凄腕だ。力が強いことも納得がいく。
主人公がアレンのルートに入れば、王太子オーウェンよりは好感度が上がりやすい。何よりリアムの死亡エンドがない。その場合、リアムはたびたび騎士団の鍛錬所に赴いて、真剣に鍛錬しているアレンに構ってもらおうと邪魔ばかりして嫌われる。同じことをしても主人公はアレンにかわいがってもらえるから、嫉妬のあまり主人公に手を出してしまう。
最終的にはベル侯爵家の権力を使って、主人公とアレンの仲を引き裂くように、無理矢理アレンと婚約する。そのため、卒業パーティーで今までの行いを断罪され、婚約破棄されて平民に降格されるのだ。
善悪をはっきりさせたいアレンは、言動も厳しいところがある。それに今までのリアムであれば、たしかにオーウェンの気を引こうと演技でもなんでもしていただろうから、アレンの言わんとすることも頷ける。
「ふうん。まあ、そういうことにしといてやる。もう二度とオーウェンの手を煩わせるなよ」
アレンは吐き捨てるように言うと、さっさと元来た道を戻っていった。
「……まあ、こんなもんかな、リアムへの態度ってさ」
自分がしたわけではないのに、今までのリアムの言動が突きつけられる。このような状況で、死亡ルートを回避できるのだろうかと、いまだバクバクとうるさい心臓の鼓動を感じていた。
保健室に入ると、保健医に事情を話して常備している抑制剤を服用する。水をもらって錠剤を手にすると、飲み込んだ。
一時間ほど休ませてもらうと、先ほどのおかしな状態は治まり、呼吸も落ち着いてきた。ただ今までが今までだったようで、仮病ではないかと保険医にも疑われそうになったのは、少し胸が痛んだ。
もしこの世界が主人公ルートであれば、主人公は王太子オーウェンルートに入っているはずだ。そう考えればつじつまが合う。主人公が好きになった相手に、悪役令息リアムも惹かれるのだ。だからこそ主人公の邪魔をする。
この状態で、ゲームのシナリオから逃げることができるのだろうか。
教室に到着すると、扉を開けて入っていく。クラスメイトたちの視線を感じた瞬間、賑やかだった教室内が静寂に包まれる。そのとき、一際鋭い視線を感じた。
黒髪に黒目の青年と視線が絡むと、青年はくすっと嗤った。デスティニーの主人公だと、一瞬で理解する。
主人公は、明るく純粋な設定だ。田舎の男爵家で、王都には疎いからこそ、失敗してしまう。そのたびに好感度の高い攻略対象が現れて、主人公を助けるのだ。
また田舎の出身ゆえに、貴族社会にも疎い。しかし攻略対象には、そんな主人公の言動が新鮮に映り、惹かれていく。そこに悪役令息であるリアムが絡んでいくのだ。
もしここが隠しシナリオであれば、プレイヤーはリアムとしてゲームをする。その場合、主人公は設定通りのはず。しかし、設定とはどこか違うような違和感を覚えた。やはり先ほど感じたように、ソラという主人公は転生者なのだろう。そうであれば、ここは主人公ルートだと考えたほうがいい。
気まずい中、僕は空席に向かい、歩いて行く。一席空いた窓際の一番うしろに向かっていると、すれ違う学生から、ひそひそと声が聞こえてくる。
「侯爵家だからって、遅刻が許されるのはどうなんだよ」
「ふん、いつものことだろう。授業なんて聞いてやしないんだから」
「そうそう。いつも悪巧みばかり考えてるんだろうさ」
ゲーム通りのリアムの評判に苦笑いしてしまう。
「あ、ほら。また何か浮かんだみたいだぞ」
苦笑をそのように受け取られるなんてどれだけの言動をしてきたのだろう。ゲームの中のリアムを思い出しながら席に着く。横柄に振る舞っていたから、方々から嫌われているようだ。
「二限を始めるぞ。ああ、リアム。どうして遅れたんだ」
教師が入室すると、一限にいなかった僕に気付いて問うてきた。
「あ、すみません。保健室に行っていました」
立ちあがって答えると、教師はじっと僕を見つめてきた。
「……なるほど。次からは連絡をするように」
「はい、すみませんでした」
頭を下げて着席すると、クラスメイトたちは隣同士でひそひそと話を始めた。どうせ先ほどのような内容だろう。嫌な感じはするが、今までのリアムを思えば反論はできそうにない。ため息を吐いていると、「静かに。では授業を始める」との教師の言葉が聞こえてきて、慌てて教科書とノートをカバンから出した。
「リアムって、授業を聞いていなかったんだな」
思わず呟く。
午前の授業が終わり、昼休みに入った。
広げたノートを見れば、リアムはろくにノートを取っていなかったようで、書かれている文字も読み取ることが難しい。教科書も悪巧みのメモなどが書き込まれていて読みにくい。
「もうすぐテストだって言ってたし。これ、どうするんだ」
テストは一週間後らしい。今日の授業で進行状況とテスト範囲は把握できたが、勉強しようにもこのままでは難しい。どうしたものかと、机の上に広げた教科書とノートを見つめながら考えていたら、軽やかな声が聞こえてきた。
「次のテスト、楽しみだなあ」
声の聞こえるほうを見ると、ソラが笑っている。
「ソラは前回、いい感じだったから、今回は上位を狙えるんじゃないかな」
「そうだといいなあ」
にこにこと笑っているソラは攻略対象の婚約者になることを目指しているはずだ。
しかし疑問が湧く。この世界に転生した際、僕は誰かからの問いかけに、『はい』と返事をした。
隠しルートであれば、プレイヤーはリアムになってゲームを攻略するから、主人公の名前は決められている。しかし主人公がソラという名前であれば、ソラは自分で自分の名を選んだのだ。ほかに黒髪で黒目の登場人物はゲーム内にはいないので、ソラが主人公で間違いないだろう。やはりソラも、自分と同じ転生者である可能性が高い。
「それにしても今日は大人しかったですね、彼」
隣席に座っている学生たちが、僕のほうを見ながら話している声が聞こえる。
「爵位の低い先生たちの授業妨害して、引っかき回してばかりなのにな」
「どうせ侯爵様に頼んで、赤点回避するんだろうよ」
チラリとこちらを見ると慌てて視線を逸らし、学生たちは足早に教室から出て行く。今までのリアムのことを思えば間違っていないだろうが、なんだか納得ができなくて、僕はもやもやした気持ちを抱えたまま、教科書とノートを机にしまった。
人の流れに合わせて僕も食堂に向かう。到着したのは広い食堂で、ゲームのスチルで見た光景にそっくりだ。
「すご……」
学生たちは友人同士で来ているけれど、僕は一人だ。食堂に行こうと思って周囲を見渡したが、僕に直接話しかける学生はいないし、僕も誰に声をかければいいのかわからなかった。購買で食料を調達しようかと考えたが、せっかく転生したのだから、ゲームに出てくる場所を見てみたい。転生前の食生活を思えば、自由に好きなものを注文できる現状に手を合わせたくなる。
人の流れに沿って列に並ぶと、チラチラこちらを見ながら、学生たちが潜めた声で話をしている。恐らく僕のことだと思うので、居心地が悪い。早く自分の順番が来ますようにと願うのみだ。こんなときスマホがあれば時間を潰すことができるけれど、あいにくこの世界にスマホは存在しないのだろう。
「全然違うわ、ここ」
ゲームの世界は、転生前の日本のあれこれを組み込んでの設定だったと記憶しているが、日本とは全然違う。
「ひっ!」
「え?」
「あ、ああ、いいいえ、ななななんでもっ!」
ただ思ったことを呟いただけだったのに、前に並んでいる学生が僕の言葉に酷く怯えている。
「……ひとり言なんだけど」
「あ、あああ、そ、そそ、そうですよね。あ、あはは」
「は、話しかけられたと思って驚いてしまって、すすすみませんっ!」
二人の学生は誤魔化すように、しどろもどろになりながら話を終わらせた。
ぐるりと周囲の様子を見渡すと、学生たちは僕と目が合うと一様に視線を逸らす。早く自分の注文する順番が来ますようにと、僕はあらためて心の中で手を合わせた。
窓際の一番奥の席が空いていたので、注文した料理をトレーで運ぶ。その途中にもやはり学生たちからの視線を感じる。
「今日は自分で運んでいるぞ。食堂のおばちゃんに食ってかかってないよな」
「それに並んで順番を待っていたし」
「そういえば昨日、階段から落ちたらしい」
「なるほど。そのとき頭を打ったんだよ、きっと。怖ええな」
ひそひそ話す声が聞こえるが、知らない振りをして着席する。
「こんなときスマホがあったらなあ」
音楽でも聞いて雑音をシャットアウトできるのにと思いながらも、目の前に置いた料理に手を付ける。
「いただきます」
ともあれせっかくの豪勢な料理だ。食堂では、自由に好きなものを注文できるシステムになっている。それに金のことを考えずに食べることができるのはありがたい。
「Aセットとか頼めることなかったし」
お子様ランチの学生版とでもいうのか、豪華な料理に舌鼓を打つ。今日は肉料理を中心にしたセットにしたので、明日は魚料理のセットにしてみたい。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
食べ終わると、早々に立ちあがってトレーを返却する。食堂の出口に向かおうとしたとき、「平民なのに来るとか何様だよ」という声が耳に飛び込んできた。
僕に言ったのかと思ったが、今の自分は侯爵家になるから当てはまらない。ならば誰のことかと振り向けば、トレーを受け取っている学生に、大柄な学生たちが罵声を浴びせている。
「あの、すみません」
謝罪しているのは、先ほど平民だと言われた学生だ。茶色の髪の毛がふわふわと揺れている。
「謝ればいいってもんじゃないだろ。ここは貴族が利用するところなんだ」
「そんなこと言われなくてもわかるだろ」
「す、すみません。あっ」
ぺこぺこと頭を下げている平民の学生の肩を、貴族と思しき学生が強く押した。その衝撃で、平民の学生が持っていたトレーは派手な音を立てて落下した。
「あーあ、もったいないよな。平民なんだから集めて食べれば?」
「あはは。マジでウケる……って、うわっ。リアム様っ?」
僕は、トレーを拾おうとしゃがみ込んだ平民の学生の前に同じように座る。
「大丈夫?」
「あ、あの」
「食堂の人を呼んで、片付けてもらおう」
「あ、いえ。僕が自分で落としたので」
僕の存在に気付いた平民の学生は、ぎょっとしたように目を丸くする。
「言えてるー。平民なのに、身分不相応に食堂に来るからだろ。リアム様だって怒っているぞ」
先ほど、平民の学生の肩を押した学生を見据えながら、僕は立ちあがる。
「それっておかしくないですか」
「……え?」
嘲笑っていた学生たちは、僕の言葉に、しんと静まり返る。
「この食堂は、誰が利用してよくて誰がダメなのか、生徒手帳だったかな、記載されているはずなので確認しましょう。それにあなたがこの人の肩を押したから、トレーを落としたんでしょう。なら今の言い分はおかしいなって思うんですけど、どうでしょうか」
「……え、でも、リアム様も、平民が来るところじゃないって常日頃から言っていましたよね?」
「そ、そうですよ。平民は下賤な者だって」
ゲームのリアムは平民を好いていなかったと感じたが、まさか常日頃から公言していたとは。
「言った言葉は取り戻すことができません。今僕は、身に染みてそう感じています」
僕は再びしゃがみ込むと、床に落ちたままのトレーに手を伸ばす。
「どうしたんだ」
学生たちの間から低い声が聞こえてきた瞬間、腹の奥がぞわりと波打った。
「この騒ぎはどういうことだ」
オーウェンとアレンが現れると、海が割れるように人だかりが退いていく。その場に残されたのは、しゃがみ込んでいる平民の学生と僕だけだ。
「またお前か」
アレンの厳しい声に、ぐっと唇を噛みしめる。
平民の学生は、突然のオーウェンの登場に腰を抜かしたようだ。
「あ、あの、オーウェン殿下。これはその……そうなんです。リアム様が急に現れて、この学生に」
言葉尻を濁して、自分の所業をなかったことにしようとする意図を察し、僕は立ちあがる。
「その前に、あなたがしたことはどうなんでしょうか。見ていた皆さんが証言してくれると思いますけど」
肩を押した学生を見つめながら言い切り、僕はオーウェンやアレンにも視線を遣る。
「あらあら、これはどうしたのかしら」
人だかりになっている状況に、食堂の人たちが集まってきた。片付けを始めた彼らの動きを見て、僕はこの場を後にしようと歩き出した。この状況だけを見てリアムの言動を顧みれば、僕に非があると見なされる。それでも自分がしたことを後悔したくない。
「リアム」
背後から聞こえるオーウェンの言葉が聞こえていない振りをして、僕は足を進める。
「わあー、大丈夫ですか。これってリアム様がしたんですか。酷いー」
軽やかな声は、主人公のソラ・ターナーだろう。
もやもやと胸の中に燻る思いを抱えながら、僕は歩き続けた。
オメガバースとは、アルファ・ベータ・オメガという、第二性になる。第一性は男女という性別だ。
アルファは、オーウェンのことだ。ほかの攻略対象も、もちろんアルファだ。アルファは秀でた性になり、ヒエラルキーの頂点だ。
ベータは、いわゆる一般の男女で、オメガは底辺に位置する性になる。さらにオメガは、男女問わずに孕むことが可能だ。とくに男のオメガは、アルファの子どもを産む確率が高いので、高位貴族が番に欲することが多い。
アルファとオメガの間には、ベータとの間にはない特別な繋がりが生まれる。それが番だ。番になるには、オメガにのみある発情期に体を繋げ、オメガのうなじをアルファが噛めばいい。そのためにオメガはフェロモンを出し、己の意思にかかわらず、より優秀な遺伝子を得ようとアルファを誘惑するのだ。
「まさか僕がオメガだって……やっぱり僕は転生しているんだ……」
はあ、と小さく息を吐いた。
制服に着替えると、ダニエルに用意してもらった朝食をとった後、廊下に出た。ぐるりと周囲を見渡せば、広い屋敷内に嘆息する。
「……すごい。まるでお城みたいだ」
いくつ部屋があるのだろう。数えきれないほど扉が見えている。
「こんな広い家なのにな」
家の中でも暴れていて、手が付けられないリアム。
「そうでもしないと、誰からも見てもらえないと感じていたんだろうけど、家族なのに……家族だからか」
転生前の自分も同じような状況だったから、気持ちがわからなくもない。
「……暴れるより、離れることを選べばよかったのに」
自分の過去の経験から、リアムへの思いが漏れていく。
階段を下りると、玄関ロビーには既視感のある老齢の男性が立っていた。
「あなたはたしか……執事のセバスチャン?」
「はい、セバスチャンです。おはようございます、リアム様。お加減はいかがですか?」
淡々とした口調は、ゲームで見た姿のままだ。職務に忠実なセバスチャンらしい。
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました。大丈夫です。行ってきます」
会釈をしながら伝えると、セバスチャンの眉は一瞬ぴくりと動いたが、「行ってらっしゃいませ」と決まり文句のような返答を口にしただけだった。
馬車に乗ることもはじめてだ。何かのアトラクションのようにも見える。
「すご……」
車とは違う乗り心地に息を吐く。
ヨーロッパ風の街並みに見えるが、よく見ると日本の風景にも見える気がする。
「ゲームのスチル、まんまだ……やっぱここはゲームの世界なんだ……」
自分が着ている制服も、ゲームの中で登場人物たちが着ていたものだ。
「階段から落ちたときに助けてくれたのは王太子だったよな、見間違いじゃなくて……」
もしかしたら勘違いかもしれないし、王太子に助けられた情報も間違いかもしれない。
「とりあえず学園に行ったら、何かの噂が流れてるかもしれないから、そのとき確かめよう。でももし王太子だったら、どうするかな……関わらないでおきたいところだけど。卒業まであと三か月ちょっとか」
主人公が王太子ルートに入っているなら、死亡エンドが目の前にあることになる。なんとか避けるためには、好感度を上げていくしかない。
「平民エンドなら、今までのような生活ができるかもしれないし。炊事洗濯、あとは住環境の確保。無事学園を卒業できたら、なんの仕事をするかだよな。……児童支援員、なれるかな」
転生前からの夢である養護施設の児童支援員の仕事を、ゲームの世界でどう実現するか。窓の外の景色を眺めながら考える。
「大学があるなら行きたいけど、その辺も調べないとな。でも平民になったら、大学進学は難しそうだな」
転生前は、奨学金をもらって大学進学する道を選んだ。念願のひとり暮らしを始めたので、学業とバイトに忙しい毎日を送っていたが、夢を叶えるためだから充実していた。
「まずは勉強か。テストイベントもあるし、ここをしくじったらヤバそうだ。で、その三か月後には平民になっていると仮定すれば、すぐに働けるだけの体力も必要だな」
リアムの体を見つめながら、僕は苦笑した。
「走り込みすれば、体力が付くかな」
ガッツポーズをして腕の筋肉に触れていると、ゲームのオープニングスチルのような景色が窓に現れた。
「……すご……でっかい建物」
タイトルテロップがあればゲームの世界だと思えたが、そのようなことはない。やはり現実なのだと感じ、息を吐いた。
貴族は馬車で学園に通うようで、たくさんの学生たちが入れ替わりで馬車を降りていく。僕が乗っている侯爵家の馬車も列に並んで、降りる順番が来るのを待つ。
「あ、ここか」
御者が扉を開けたので、カバンを持つと僕は馬車から降りた。
「ありがとうございます。帰りもお願いできますか」
「え? ……ああ、はい。もちろんです」
御者の男は、僕の言葉に驚いているようだ。
「あっと、そうだ。少し図書館に寄りたいので、いつもより少し遅めに迎えに来てください」
「……図書館ですか? リアム様が? ……はい、わかりました。五時頃で大丈夫でしょうか」
「はい、そのくらいで」
「承知しました。では」
御者と別れると、学園の門を目指して歩き出した。
「ここがそうなんだ」
デスティニーの世界なのだとあらためて感じ入っていると、門の先のほうにたくさんの人だかりができている様子が目に入る。なんだろうと思いながら進んでいくと、突如、鼻腔に香しい香りが届いた。この匂いを知っていると思った瞬間、心臓の鼓動がドクンと大きく高鳴った。
「……え、何」
匂いの元を辿れば、階段から落ちたときに助けてくれた人がいる。ゲームのスチルで何度も見たから間違いない。
王太子オーウェンだ。
「体調はもういいのか」
透き通るような綺麗で低い声が耳に入り、腹の奥に響く。昨日見たときは一瞬で、これほどまでに美しい人だとは思わなかった。驚きのあまり、息をのむ。
艶やかな金色の髪は、柔らかそうで触れたくなる。すっとした目は切れ長で、意志の強さを表しているようだ。僕の背丈を頭ひとつ分は優に超えている。アルファとしての威厳も感じさせた。ゲームでの王太子の紹介文に、頭脳明晰で容姿端麗だと書かれていたが、まったくもってその通りだと思う。
王太子オーウェン・エヴァンスは、リアムと同じ三年生だ。ゲームの主人公が王太子ルートに入れば、リアムが死亡エンドを辿る可能性がある唯一の攻略対象になる。
「どうした? どこかケガでもしていたか」
「あ、いえ……」
呆けたように見つめてしまい、慌てて僕は首を振る。
「そうか。昨日は突然階段から落ちてきて驚いた。何があった?」
「何って……」
主人公があの場にいたから、てっきり話を聞いていたと思っていたが、違うのだろうか。
「自分の口で事実を話すのは、さすがの君でも難しいか」
どういう意味だろうと首を傾げる。
「ソラ・ターナーを突き落とそうとして失敗したと聞いているが」
隠しルートに出てくる主人公名は、シャルル・ターナーだ。それなのに主人公の名がソラ? もし名前がソラなら……彼は転生者だ。主人公でゲームを進めるとき、その名前はすでにシャルルに設定されている。しかしユーザーの好きな名前に変更することができるので、この世界に転生する際にソラと変更したのだろう。そうなると――
「……おかしなことになっていないか?」
この世界は隠しルートだと思っていたが、主人公ルートになるのだろうか。それともソラは主人公として転生し、僕はリアムで転生し、それぞれがそれぞれのルートを歩んでいると考えられなくもない。
「どういう意味だろうか。おかしなことというのは何を指している? 君がソラを突き落とそうとしたことについて聞いている」
「は? 僕が?」
僕は、階段から落ちそうになっていた学生を助けただけだ。そばにソラがいたような気もするが、階段から落ちていく瞬間だ。視界の片隅に彼が映っただけだったので、よく覚えていない。
「ソラや、周りにいた者から聞いたが。違うのか」
じっと見つめられると、腹の奥が熱く疼く。これがオメガバースの世界でいうところの発情かもしれない。
けれども、それよりもオーウェンの誤解を解いておかなければと焦る。このままだと好感度が下がって、死亡エンドに直行するかもしれない。
「誤解です。誰かが階段から落ちそうだったから助けただけです。その反動で自分が落ちたから洒落にならないですけど」
事実を伝えたが、やはり悪役令息としての存在が確立しすぎているのだろう、オーウェンの眉間にしわが寄る。好感度が下がっているのであれば、本当にマズいことになる。
「そうなのか」
「今の言葉は本当です。……信じてもらえないのはわかっていますけど、事実は事実なので伝えておきます。では」
会釈をすると、僕は足を踏み出した。
朝食の後、従者のダニエルから飲むように渡された抑制剤という薬を飲んでいるが、それだけでは効果が薄いようだ。一刻も早く保健室に向かいたい。カバンに予備の抑制剤を入れているので、服用した後、落ち着くまで避難していたいのだ。
「どういうことだろうか。俺が聞いている話と違うようだ」
それなのにオーウェンは僕の後をついてくる。
「僕は僕の事実を言っただけです。信じないのは勝手ですが、事実は事実です」
「目撃者が多数いる中で、事実だと君が言うからには、何か証拠でもあるのか」
だから、その声が腹の奥に響くんです! と言えたらいいのにと歯ぎしりする。
これがオメガバースという世界の特徴なのだろう。
オメガバースがこのゲームの中に組み込まれていることは理解していたが、こうして体験することになるとは思ってもみなかった。
オメガとアルファの不要な交わりを避けるために、僕が服用した抑制剤がある。
しかしオーウェン相手では、効果が薄いようだ。とにかくオーウェンから物理的な距離を置きたい。
「……証拠って、どうやって示せばいいんですか。やってないことを証明するのって難しいんですよ」
しかし、僕は足を止めて振り向いた。
「なるほど。君は証拠はないが、やっていないと言うんだな」
ゲームではいつも爽やかな笑顔のオーウェンだが、裏表がある人だろうと僕は感じている。
いろいろなエンドがあるが、何ひとつ悪役令息の言うことを信じず、笑顔でかわしていたように思えるのだ。
「その通りです。……昨日は助けてくれてありがとうございました。あの、僕もういいですか。保健室に行きたいので失礼します」
会釈をして立ち去ろうとしているのに、なぜかオーウェンは付いてくる。これ以上何かを言ったら、好感度がまったくない現状ではマイナスになってしまうかもしれない。
「保健室に行くのは、やはり昨日のことが原因なのか」
「違いますから。大丈夫です」
あなたの匂いがマズいんです、と言えたらいいが、そうなると意識していると告げるようなものだろう。この匂いは、アルファが出すフェロモンだ。恐らくオメガは、縁か何かがある相手の匂いを感じるのだろう。しかし今の僕には困ってしまうものだ。まだなんの対策も練っていないので、できるだけ今は、オーウェンとは関わりたくない。
「何様だよ、お前」
鋭い言葉は、オーウェンのそばにいた学生からのようだ。
足を止めて振り向いて顔を確認したいが、それどころではない。僕は二人を振り切るように、足早に歩いて行く。しかし道がわからない。
「……すみません、保健室ってどこですか?」
観念して足を止めると、僕はオーウェンに尋ねた。
「やはり受け止め方がマズかったのだろう、頭を打っているのかもしれないな。保健室がわからないとは……」
助け方がよくなかったから、僕が頭を打ったと責任を感じているのかもしれない。
「ほんとに頭は大丈夫です」
昨日の件に関して責任を感じる必要はないことを伝えると、オーウェンのそばにいる学生が鼻で笑った。
「演技だろう。オーウェンに構ってもらって喜んでんだろうさ。オーウェン、こんな奴、ほっとけ」
ゲームのリアムならやりそうなことだと思うけれど、それでもキツい物言いだ。僕は、声の主の顔を見ておこうと振り向いた。
「アレン、その言い方はよくないな」
「だってそうだろうが。いつもオーウェンにすり寄ってきてみっともない。オーウェンの手を煩わせるわけにはいかねえし、しょうがねえから俺が連れてってやる。オーウェンは戻れよ」
「……では、あなたにお願いします。オーウェン様、ありがとうございました」
オーウェンとアレンの二人の顔を見ないようにして、僕は頭を下げた。とにかくオーウェンから離れられればいいのだ。
「来い」
「痛っ!」
急に引っ張られて思わず声が出た。
「アレン」
「わかってるって。そんなに強く掴んだつもりはねえよ。ほんとひ弱だな、お前は」
「歩けますから放してください」
「ならさっさと歩けよ」
腕を掴まれたまま、先ほどよりも足早に歩かされる。アレンは一刻も早くオーウェンから僕を引き離したいのだろう。強がりではなく、願ったり叶ったりだと思いながらも、薄れていく甘い匂いに、うしろ髪を引かれるような思いだった。
「ほら、ここが保健室だ。二度と忘れるなよ」
「ありがとうございました」
「お前にしては神妙だな。何を企んでいる」
「……何も企んでいませんけど」
先ほど、オーウェンがこの青年のことをアレンと呼んでいた。そうなると、この青年も攻略対象だ。体格のいいアレンだから、完全に見下ろされている。オーウェンと背の高さは変わらないが、大柄な分、もっと大きく見える。赤い髪は、意志の強さを表しているようだ。アレンは平民だが剣の腕が抜群で、現在騎士候補として活躍している凄腕だ。力が強いことも納得がいく。
主人公がアレンのルートに入れば、王太子オーウェンよりは好感度が上がりやすい。何よりリアムの死亡エンドがない。その場合、リアムはたびたび騎士団の鍛錬所に赴いて、真剣に鍛錬しているアレンに構ってもらおうと邪魔ばかりして嫌われる。同じことをしても主人公はアレンにかわいがってもらえるから、嫉妬のあまり主人公に手を出してしまう。
最終的にはベル侯爵家の権力を使って、主人公とアレンの仲を引き裂くように、無理矢理アレンと婚約する。そのため、卒業パーティーで今までの行いを断罪され、婚約破棄されて平民に降格されるのだ。
善悪をはっきりさせたいアレンは、言動も厳しいところがある。それに今までのリアムであれば、たしかにオーウェンの気を引こうと演技でもなんでもしていただろうから、アレンの言わんとすることも頷ける。
「ふうん。まあ、そういうことにしといてやる。もう二度とオーウェンの手を煩わせるなよ」
アレンは吐き捨てるように言うと、さっさと元来た道を戻っていった。
「……まあ、こんなもんかな、リアムへの態度ってさ」
自分がしたわけではないのに、今までのリアムの言動が突きつけられる。このような状況で、死亡ルートを回避できるのだろうかと、いまだバクバクとうるさい心臓の鼓動を感じていた。
保健室に入ると、保健医に事情を話して常備している抑制剤を服用する。水をもらって錠剤を手にすると、飲み込んだ。
一時間ほど休ませてもらうと、先ほどのおかしな状態は治まり、呼吸も落ち着いてきた。ただ今までが今までだったようで、仮病ではないかと保険医にも疑われそうになったのは、少し胸が痛んだ。
もしこの世界が主人公ルートであれば、主人公は王太子オーウェンルートに入っているはずだ。そう考えればつじつまが合う。主人公が好きになった相手に、悪役令息リアムも惹かれるのだ。だからこそ主人公の邪魔をする。
この状態で、ゲームのシナリオから逃げることができるのだろうか。
教室に到着すると、扉を開けて入っていく。クラスメイトたちの視線を感じた瞬間、賑やかだった教室内が静寂に包まれる。そのとき、一際鋭い視線を感じた。
黒髪に黒目の青年と視線が絡むと、青年はくすっと嗤った。デスティニーの主人公だと、一瞬で理解する。
主人公は、明るく純粋な設定だ。田舎の男爵家で、王都には疎いからこそ、失敗してしまう。そのたびに好感度の高い攻略対象が現れて、主人公を助けるのだ。
また田舎の出身ゆえに、貴族社会にも疎い。しかし攻略対象には、そんな主人公の言動が新鮮に映り、惹かれていく。そこに悪役令息であるリアムが絡んでいくのだ。
もしここが隠しシナリオであれば、プレイヤーはリアムとしてゲームをする。その場合、主人公は設定通りのはず。しかし、設定とはどこか違うような違和感を覚えた。やはり先ほど感じたように、ソラという主人公は転生者なのだろう。そうであれば、ここは主人公ルートだと考えたほうがいい。
気まずい中、僕は空席に向かい、歩いて行く。一席空いた窓際の一番うしろに向かっていると、すれ違う学生から、ひそひそと声が聞こえてくる。
「侯爵家だからって、遅刻が許されるのはどうなんだよ」
「ふん、いつものことだろう。授業なんて聞いてやしないんだから」
「そうそう。いつも悪巧みばかり考えてるんだろうさ」
ゲーム通りのリアムの評判に苦笑いしてしまう。
「あ、ほら。また何か浮かんだみたいだぞ」
苦笑をそのように受け取られるなんてどれだけの言動をしてきたのだろう。ゲームの中のリアムを思い出しながら席に着く。横柄に振る舞っていたから、方々から嫌われているようだ。
「二限を始めるぞ。ああ、リアム。どうして遅れたんだ」
教師が入室すると、一限にいなかった僕に気付いて問うてきた。
「あ、すみません。保健室に行っていました」
立ちあがって答えると、教師はじっと僕を見つめてきた。
「……なるほど。次からは連絡をするように」
「はい、すみませんでした」
頭を下げて着席すると、クラスメイトたちは隣同士でひそひそと話を始めた。どうせ先ほどのような内容だろう。嫌な感じはするが、今までのリアムを思えば反論はできそうにない。ため息を吐いていると、「静かに。では授業を始める」との教師の言葉が聞こえてきて、慌てて教科書とノートをカバンから出した。
「リアムって、授業を聞いていなかったんだな」
思わず呟く。
午前の授業が終わり、昼休みに入った。
広げたノートを見れば、リアムはろくにノートを取っていなかったようで、書かれている文字も読み取ることが難しい。教科書も悪巧みのメモなどが書き込まれていて読みにくい。
「もうすぐテストだって言ってたし。これ、どうするんだ」
テストは一週間後らしい。今日の授業で進行状況とテスト範囲は把握できたが、勉強しようにもこのままでは難しい。どうしたものかと、机の上に広げた教科書とノートを見つめながら考えていたら、軽やかな声が聞こえてきた。
「次のテスト、楽しみだなあ」
声の聞こえるほうを見ると、ソラが笑っている。
「ソラは前回、いい感じだったから、今回は上位を狙えるんじゃないかな」
「そうだといいなあ」
にこにこと笑っているソラは攻略対象の婚約者になることを目指しているはずだ。
しかし疑問が湧く。この世界に転生した際、僕は誰かからの問いかけに、『はい』と返事をした。
隠しルートであれば、プレイヤーはリアムになってゲームを攻略するから、主人公の名前は決められている。しかし主人公がソラという名前であれば、ソラは自分で自分の名を選んだのだ。ほかに黒髪で黒目の登場人物はゲーム内にはいないので、ソラが主人公で間違いないだろう。やはりソラも、自分と同じ転生者である可能性が高い。
「それにしても今日は大人しかったですね、彼」
隣席に座っている学生たちが、僕のほうを見ながら話している声が聞こえる。
「爵位の低い先生たちの授業妨害して、引っかき回してばかりなのにな」
「どうせ侯爵様に頼んで、赤点回避するんだろうよ」
チラリとこちらを見ると慌てて視線を逸らし、学生たちは足早に教室から出て行く。今までのリアムのことを思えば間違っていないだろうが、なんだか納得ができなくて、僕はもやもやした気持ちを抱えたまま、教科書とノートを机にしまった。
人の流れに合わせて僕も食堂に向かう。到着したのは広い食堂で、ゲームのスチルで見た光景にそっくりだ。
「すご……」
学生たちは友人同士で来ているけれど、僕は一人だ。食堂に行こうと思って周囲を見渡したが、僕に直接話しかける学生はいないし、僕も誰に声をかければいいのかわからなかった。購買で食料を調達しようかと考えたが、せっかく転生したのだから、ゲームに出てくる場所を見てみたい。転生前の食生活を思えば、自由に好きなものを注文できる現状に手を合わせたくなる。
人の流れに沿って列に並ぶと、チラチラこちらを見ながら、学生たちが潜めた声で話をしている。恐らく僕のことだと思うので、居心地が悪い。早く自分の順番が来ますようにと願うのみだ。こんなときスマホがあれば時間を潰すことができるけれど、あいにくこの世界にスマホは存在しないのだろう。
「全然違うわ、ここ」
ゲームの世界は、転生前の日本のあれこれを組み込んでの設定だったと記憶しているが、日本とは全然違う。
「ひっ!」
「え?」
「あ、ああ、いいいえ、ななななんでもっ!」
ただ思ったことを呟いただけだったのに、前に並んでいる学生が僕の言葉に酷く怯えている。
「……ひとり言なんだけど」
「あ、あああ、そ、そそ、そうですよね。あ、あはは」
「は、話しかけられたと思って驚いてしまって、すすすみませんっ!」
二人の学生は誤魔化すように、しどろもどろになりながら話を終わらせた。
ぐるりと周囲の様子を見渡すと、学生たちは僕と目が合うと一様に視線を逸らす。早く自分の注文する順番が来ますようにと、僕はあらためて心の中で手を合わせた。
窓際の一番奥の席が空いていたので、注文した料理をトレーで運ぶ。その途中にもやはり学生たちからの視線を感じる。
「今日は自分で運んでいるぞ。食堂のおばちゃんに食ってかかってないよな」
「それに並んで順番を待っていたし」
「そういえば昨日、階段から落ちたらしい」
「なるほど。そのとき頭を打ったんだよ、きっと。怖ええな」
ひそひそ話す声が聞こえるが、知らない振りをして着席する。
「こんなときスマホがあったらなあ」
音楽でも聞いて雑音をシャットアウトできるのにと思いながらも、目の前に置いた料理に手を付ける。
「いただきます」
ともあれせっかくの豪勢な料理だ。食堂では、自由に好きなものを注文できるシステムになっている。それに金のことを考えずに食べることができるのはありがたい。
「Aセットとか頼めることなかったし」
お子様ランチの学生版とでもいうのか、豪華な料理に舌鼓を打つ。今日は肉料理を中心にしたセットにしたので、明日は魚料理のセットにしてみたい。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
食べ終わると、早々に立ちあがってトレーを返却する。食堂の出口に向かおうとしたとき、「平民なのに来るとか何様だよ」という声が耳に飛び込んできた。
僕に言ったのかと思ったが、今の自分は侯爵家になるから当てはまらない。ならば誰のことかと振り向けば、トレーを受け取っている学生に、大柄な学生たちが罵声を浴びせている。
「あの、すみません」
謝罪しているのは、先ほど平民だと言われた学生だ。茶色の髪の毛がふわふわと揺れている。
「謝ればいいってもんじゃないだろ。ここは貴族が利用するところなんだ」
「そんなこと言われなくてもわかるだろ」
「す、すみません。あっ」
ぺこぺこと頭を下げている平民の学生の肩を、貴族と思しき学生が強く押した。その衝撃で、平民の学生が持っていたトレーは派手な音を立てて落下した。
「あーあ、もったいないよな。平民なんだから集めて食べれば?」
「あはは。マジでウケる……って、うわっ。リアム様っ?」
僕は、トレーを拾おうとしゃがみ込んだ平民の学生の前に同じように座る。
「大丈夫?」
「あ、あの」
「食堂の人を呼んで、片付けてもらおう」
「あ、いえ。僕が自分で落としたので」
僕の存在に気付いた平民の学生は、ぎょっとしたように目を丸くする。
「言えてるー。平民なのに、身分不相応に食堂に来るからだろ。リアム様だって怒っているぞ」
先ほど、平民の学生の肩を押した学生を見据えながら、僕は立ちあがる。
「それっておかしくないですか」
「……え?」
嘲笑っていた学生たちは、僕の言葉に、しんと静まり返る。
「この食堂は、誰が利用してよくて誰がダメなのか、生徒手帳だったかな、記載されているはずなので確認しましょう。それにあなたがこの人の肩を押したから、トレーを落としたんでしょう。なら今の言い分はおかしいなって思うんですけど、どうでしょうか」
「……え、でも、リアム様も、平民が来るところじゃないって常日頃から言っていましたよね?」
「そ、そうですよ。平民は下賤な者だって」
ゲームのリアムは平民を好いていなかったと感じたが、まさか常日頃から公言していたとは。
「言った言葉は取り戻すことができません。今僕は、身に染みてそう感じています」
僕は再びしゃがみ込むと、床に落ちたままのトレーに手を伸ばす。
「どうしたんだ」
学生たちの間から低い声が聞こえてきた瞬間、腹の奥がぞわりと波打った。
「この騒ぎはどういうことだ」
オーウェンとアレンが現れると、海が割れるように人だかりが退いていく。その場に残されたのは、しゃがみ込んでいる平民の学生と僕だけだ。
「またお前か」
アレンの厳しい声に、ぐっと唇を噛みしめる。
平民の学生は、突然のオーウェンの登場に腰を抜かしたようだ。
「あ、あの、オーウェン殿下。これはその……そうなんです。リアム様が急に現れて、この学生に」
言葉尻を濁して、自分の所業をなかったことにしようとする意図を察し、僕は立ちあがる。
「その前に、あなたがしたことはどうなんでしょうか。見ていた皆さんが証言してくれると思いますけど」
肩を押した学生を見つめながら言い切り、僕はオーウェンやアレンにも視線を遣る。
「あらあら、これはどうしたのかしら」
人だかりになっている状況に、食堂の人たちが集まってきた。片付けを始めた彼らの動きを見て、僕はこの場を後にしようと歩き出した。この状況だけを見てリアムの言動を顧みれば、僕に非があると見なされる。それでも自分がしたことを後悔したくない。
「リアム」
背後から聞こえるオーウェンの言葉が聞こえていない振りをして、僕は足を進める。
「わあー、大丈夫ですか。これってリアム様がしたんですか。酷いー」
軽やかな声は、主人公のソラ・ターナーだろう。
もやもやと胸の中に燻る思いを抱えながら、僕は歩き続けた。
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