虐待と闇と幸福

千夜 すう

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社会人

第14話

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「ここのカフェのいちごパフェを食べたかったのだけど、外から覗けば、若い子ばかりでしょ?」

「まぁ、確かにそうですね」

「入りづらいと思ってた所で、貴方に気付いたの。強引だと分かってるけど、今を逃すと貴方に会えないと思った。本当にごめんなさい」
 
座ったままで、最大の謝罪の意志を見せるように頭を下げられた。私は、直ぐに辞めさて気にしてない事を教えた。

「どうして、母は祖母である貴方と孫の私を合わせないようにしてたんでしょうか?」

私の問いに寂しそうに答える

「分からないわ。会わせてと何回も頼んでるけど、忙しいと言って合わせてくれなかった」

「そうですか...。」

(何故、合わせなかったのだろうか不思議。父方の祖父母には、良く会っていたのに...。母はこの人を嫌ってるのかしら?)

難しい顔で考え込む孫を見つめる。
(大きくなったわね...。目元は娘にそっくりね。でも、大きく違うのも目だわ。この子の方が賢い目の輝きをしてる)

「今日は、買い物?」

突然に話しかける声が聞こえて、自分は思考に耽っていて祖母の存在を忘れていたことに気づく。

「すみません。はい。洋服を買おうと思ってました」

「あら?良い洋服が無かったの?」

「良いも悪いも良く分からなくて...」

祖母は孫と会話が広がる感じを喜びながら、よそよそしい話し方に寂しさを覚える。
(私の事を覚えていのは寂しいけど仕方ないわね)

「良かったら一緒に買い物しない?」

祖母の提案に、それも良いかも知れないと思い始める。このままでは、約束の日まで洋服を買えない可能性があるから提案に乗った。

祖母は、とても嬉しそうにして、私の服の好みを探ろうとしていた。洋服に関して、よく分かってない様子に気付き、私を着飾れると更に笑顔を深めていた。
祖母と喋って強引な所があるけど、人の話を聞くのも上手くて、幾ら血縁関係であって申し訳ない事に記憶にない人であって、社交的ではない私でも短時間で打ち解けてしまう。誤魔化して喋る気も無かった、憧れの人と休日に会う時の洋服の買い物だと話してしまった。

「憧れの人と休日に会うって素敵ね」

カフェを後にすると張り切ってブランド服に入った。

「可愛いよりも美人な貴方なら大人っぽい服の方が合いそうね」

黒のかっちりとしたブラウスを手に持って孫に合わせる。
 
「色白だから似合うわね」

「そうですか?」

「お似合いですよ。この洋服には髪の毛を結ぶと良いと思います」

店員の言葉を聞いた祖母は、孫の髪の毛を痛みを加えない程度に掴んで見る。

「確かに、顔をスッキリと見せた方が可愛いわね」
  
「えぇ、お似合いです」

「この服、どう思う?」

祖母は、私にこの黒のブラウスを勧める。店員の似合うと言う言葉は、お世辞の可能性が高いと思われるけど、2人のセンスを信じて買う事を決めた。
こういうタイプのオシャレな洋服を所持した事はないが、シンプルなデザインにお手持ちのズボンでも合いそうだと思った。

「これには、何を合わせようかしら?...。何か希望とかある?」

「んー。長ズボンとか?」

希望を言った途端に面白くないって顔をした。

「デートなのに、つまんないよ」

「デートでは...」

「店員さん、休日に男女で会う事を世間一般でなんと言いますか?」

祖母は、テンションを高めで店員に聞き、店員もノリを合わせて答える。

「そりゃ、完璧なデートですね」

「デートですか...」

「ねっ」

祖母は片目をパチリと瞑ってウィンクを披露する。

店員は、ロング丈で横に少しスリットが入った藤色のタイトスカートを持って、祖母が持っている黒のブラウスに合わせる。

「あら、素敵ね」

「お孫さんはスタイルが良いのでタイトめの、このスカートをお勧めします。タイトですけど、キツ過ぎないので体のラインがハッキリし過ぎないと思います。足の露出が少なく済みますし、デート向きかとおもわれます」

(確かに、ヒラヒラと短い丈のスカートは苦手だなと思ってたけど...)

客の好みを察知して、似合う物をお勧めするプロ意識を見せられた。

「着るだけなら無料ですので、まずはご試着をしてみては如何でしょうか?」

「そうね。私も着てる姿を見たいわ」

2人に促されて、着てみることにした。フィッティングルームと書かれてる所に案内された。

着てみると、意外と気心地が良くて見た目に反して動きやすかった。カーテンの向こうに居る2人に気付かれないように、爪先で着地をする事を意識して、その場で走る動作をする。

鏡全体で洋服を見ると、今までで来た事のないオシャレな洋服だと分かる。

カーテンを開けると、雑談してた2人がカーテンを開ける音で私の方を見た。

「凄く似合ってるじゃない」

「うんうん。凄く、お似合いです」

「そうかな」

その場で、クルッと回ってみる。

「すっごく、綺麗になったね」

祖母は、感極まった様に孫をみて涙を零さずに目に溜めさせながら嬉しそうに頷く。

いつも、従姉妹ばかりが可愛いと言われてきた環境だったから、その言葉に嬉しいと感じながらも大人になって気恥しい感情もあって、むず痒い。

「ありがとう」

「あら、ごめんなさいね」

我に返った祖母は、直ぐにハンカチで目を抑える。
2人のやり取りに店員は内心で、凄く可愛い、おばあちゃんと孫のペアだわ。すごく素敵と癒されていた。 

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりまます」

会計を済ませた時、マニュアルになってる言葉だけど、気持ちが乗ってるような声の掛け方でプロは凄いなと変に思った。

会計の時からムスッとした顔の祖母。

「孫に買ってやりたい、おばあちゃんの心理を分かってない」

「すみません。またの機会でお願いします」

「そうね。まだ買う物は、まだまだ、あるものね。次は、どこに行く?」

祖母の言葉に、ピンと来ない孫。上と下の服を買えば終わりだと思ってたから、まだ何か必要な物があったっけ?と思い浮かべて首を傾げる。

「靴とか鞄とか...髪飾り、アクセサリーとか買わないの?」

ピンと来ない孫に祖母も首を傾げる。傾げ方の角度等で2人が血縁者だと感じる部分がある。

(このオシャレな服に合わせれる物がない)

「買います」

「時間が無いし早く行きましょう」

祖母は張り切って迷いない足早歩きで進む。

もう少し、閉館の時間だ。
まだ、買わなければならない物を考えれば時間は余りない。

「ここの靴はね。歩きやすくておすすめよ」

客に見えやすいように棚に陳列されてる靴を、買ってきた洋服に合うのは、どれだろうかと物色するが、どれが良いかよく分からなかった。

「これとかはどう?」

祖母が差し出したのは、先程買ったタイトスカートの藤色に似た高いヒールの靴。

「ヒールが高いかな」

「そう?10cmは流石に高過ぎたかしら。若いから大丈夫だと思った」

選び直してくる言って持ってきた靴を返した。

「ねぇ、これならどうよ?戻してきた靴の近くにあった」

スロートライン先端が藤色で、 後の色は綺麗な黒、4センチの低めのヒール。

良いかもしれないと顔に出てたのか履いてみなさいと言われる。

履いてみると、しっかりと地面に足が付ける履きやすさがあった。

「これ、良いですね」

「気にったみたいで良かった」

靴も無事に買えて、次に向かったのはアクセサリー店だった。

ちょっと小さめのアクセサリー店で、中はアンティークっぽい雰囲気があった。

「当日はどんな髪型をするの?」

「普通にポニーテールにする予定です」

髪ゴムが陳列されてるコーナーを見ると、学生しか似合わなそうなデザインではなく、大人でも使いそうな色合いとデザインであった。

「これ、好きかも」

「あら、良いじゃない」

私が手に取ったのは、大人でも使えそうなピンク色の石の飾りが3つ並んでて、石より若干明るめの二重の紐の髪ゴム。

祖母は、私の髪に当てて見ると似合ってると言ってくれて、鏡越しでみても悪いとは思わない。


「ネックレス、イヤリング、ブレスレット等のアクセサリー類は買わなくて良いの?」

髪飾りを買って満足した私は、即会計へと進んでお店を出た。

「大丈夫です」

学生の頃に従姉妹が、ジャラジャラとアクセサリーを身に付けてる事を見かける事が多くて、それが良いとも思えずに下品な印象しか無かったから苦手意識がある。

「最後に鞄ね。お願いがあるんだけど...」

祖母は、譲る気のない瞳で私を真っ直ぐに見つめる。

「鞄は、私が払いたいわ」

「それは、申し訳ないです」 

私の両肩に手を置いた。

「さっきも言ったけど、おばあちゃんっていう生き物は孫に物を買いたいの。孫にお金を使う事が生き甲斐とも言うわ」

凄い気迫で力説される。

「貴方のお母さんが成人したお祝いに鞄を買ったから、遅くなったけど成人祝いとして受け取って欲しいわ」

「はい」

「うっしゃ」

(勝った)
嬉しい感情を抑えずにガッツポーズをする祖母。

(負けた)
流されて項垂れる孫。

「時間がもう無いし行くわよ」

元気よく歩く祖母に、引っ張られながら歩く。

「ここで買うんですか?」

「そうよ」 

祖母が入ろうとする店は、ブランドに興味が無い私でも分かるくらいに有名なお店であった。

「こんな、高いの怖いです」

「貴方、ここのブランドの鞄を1つ、持ってないのかしら?」

「持ってません」

「そうなの。時間が無いし、さっさと入るわよ」

無理やり引っ張られて入る。

(嘘でしょ。高いお店...)

「いらっしゃいませ」

他のお店は、特別な香りはなかったが、このお店は何か焚いてるのだろうか?
お店に入った途端に、柑橘系の爽やかな香りが漂って、流れる音楽はピアノの音が聞こえるよく分からないクラシックぽい曲に、店員は上品にお辞儀をされ、並べられた商品は高貴なオーラを醸し出すような高級なお店っぽい感じである。
ぽいではなく、正しく高級店で、こんな所に入った事のない私は戸惑う。祖母は、そんな事をお構いなくで堂々とした立ち姿だ。

「好きに見てて、気に入ったのがあったら教えてね」

私を置いてスタスタと私を置いた。

(待って)

心の声は届かない。

一般庶民からすると、縁遠いお店で何をどう見れば分からずにソワソワとしてしまう...。

(そういえば、従姉妹もここのブランドの鞄を欲しがっていたような...)

 毎度ながらに、従姉妹の両親が私の父親に、おねだりしてたのを思い出す。こんな、高価な鞄1つを従姉妹に買い与えるなら、私の大学費用を支払って欲しかったなとあの頃は思っていた。

(正直、従姉妹には似合ってるとは思わずに鞄だけ浮いてた)

適当に、鞄を見てて思うのは、物に気持ちが乗るとは思わないけど、人が物を選ぶのではなく、物が人を選んでそうなプライドの高そうな雰囲気が出てる。

次々と目を滑らして眺めてると、1つの鞄に目が止まった。

深い茶色の一色で、何も模様がなくて着飾ってないシンプルなトートバッグ。
手持ちの部分が長過ぎず短過ぎない丁度よさそうな長さ。

「その鞄、素敵ね」

祖母に、突然に背後から話しかけられて、体がビクッと動いて驚いたのをかくせなかった。

私の様子に、イタズラが成功したような顔をした後に店員を呼んだ。
大きく声を出した訳ではないのに、直ぐに祖母の声に反応して傍に来た。

「このバッグを見せて貰っても良いですか?」

「大丈夫ですよ。失礼します」

店員は、商品の前に立ち塞ぐ私達を退かす仕草をして、従って横に移動するとお礼をされ、商品を手に取って祖母に渡す。

手渡された商品を全体的に軽く見た後に私に当てる。

「中身の容量が十分に入りそうだし、シンプルなデザインが、どの洋服にも、どの場面にも合いそうね」

祖母の褒め言葉に、ありがとうございますと述べる店員。

私も見るように促されて、鞄を手に取ると手に持つ感触が馴染む感じが凄いなと感動する。中身を見たら、祖母の言葉通りに色々と中身が入りそうである。大きめのファスナー付きのポケット、ふたつのポケットも付いてて便利そうだ。

「孫も気に入ったみたいなので、これを買います」

(えっ)
    
「ありがとうございます」

流れる様な手つきで、私から鞄を取って会計へと進む店員に、私は横目で商品が置かれた棚に表示された値段を確認すると、店員に着いていく祖母を慌てて引き止める。

店員に聞こえないように小さな声で祖母に話しかける。

「値段を見たんですけど」

「あぁ、そんなの気にしないで」

「でも、凄く高価な物だったんです。そんなの頂けません」

「貴方のお母さんにもあれくらいの値段で買ったわよ」

(えっ)

「どうかされました?」

「いえ、お気になさらないで下さい」

母が、高価な物を買って貰ってた事実に、驚いて固まってる間に会計は済まされててて、店外まで連れ出されていた。

「本当に気にしなくて良いのよ。今まで、貴方に何もしてこれなかったから、それも含まれてるわ」

「それでも...」

受け取ろうとしない私に、悲しそうな表情を浮かべる祖母。

「今まで何も出来なかった、おばあちゃん孝行だと思って受け取って欲しいわ」

鞄が入ったお店の紙袋を恐る恐る手に取る。

「一生、大事に使います」

「嬉しいわぁ」

これからは、お母さん達に内緒に交流しようとなった。連絡先も交換して、タクシーに乗って帰るのを見送った。
 

♢♢♢


タクシーの中で家に向かってる途中に考えるのは、久しぶりに会った孫の事であった。
 
孫の為を思って、お小遣いや行事毎に娘にお金を渡してたけど、行き届いてなさそうに気付いた。
 
ずっと、会いたいと言い続けてるのに何故会わしてくれないのだろうか?祖母の顔すらも知らないとは嘆かわしい。奢られる事を酷く嫌っていた。無理矢理と鞄を渡してしまったけれども...強引過ぎたなと思うが、反省も後悔もしない。

(今日のブランドの鞄を1つも持ってないのは可笑しいわね。成人祝いにプレゼントしたはずなのに...)

娘の所業に、長い溜息を吐く。



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