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社会人
第8話
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トントントントン
リズミカルに鳴る音が心地良い。
「スンスン」
鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐと、優しい出汁の香りが漂ってきた。
「クスッ」
(ん?)
今、誰かが笑った?
誰かって誰だろうか?
私は、実家を出て一人暮らしをしてるのに...。
そう。一人暮らしの私の家に誰かが居るはずがない。
心地が良い包丁とまな板が出会う音と笑う音はなんだろうか?
それに、この香りは...
勢い良く目を開けた。
「あ、起きた?」
え....?
この声は、お隣さんの男の人だ。
「体調は、大丈夫ですか?」
体調...。
ずっと止まなかった頭痛が無くなって、何かスッキリしたような感じがする。
それでも、身体がダルい。
「えっと...。大丈夫です」
私は上半身を起き上がらせる。
男の人は、腕を頭から首を支えて手は肩に置かれながら、慣れた手つきで起き上がる時に私を支えた。
「ありがとうございます」
「いえ」
キッチンの奥からお隣さんの女の人が私に挨拶をしてきた。
「おはよう。起きて大丈夫なの?」
「おはようございます。あ~...はい...あの大丈夫です」
「そう?ご飯は、もうすぐ出来るから待ってね」
「あ、いえ、そんなお世話になる訳には...」
「大丈夫よ。食べてって」
朝日の逆光も相まって、女の人の笑顔が眩しい。
「もしかして...覚えてない?」
女の人に気を取られてたら、男の人を忘れてしまっていたから、近くで声をかけられて身体がびっくりして大袈裟な反応をしてしまった。
「急にごめんね」
「謝らないで下さい。私の方こそ、すみません。何故、私はここにいるのでしょうか?」
お隣なだけあって、私が住んでる部屋とシンメトリーな間取りになっている。
置かれている物や配置が違うだけで、全く違う部屋の印象になる。
ここは、私の部屋ではない。
「やっぱり覚えてない感じか~」
「そんな、話は後々!ご飯食べるぞ」
女の人は、ハツラツと元気な声で次々とお皿をテーブルの上に置いていく。
「今日は、美味しい卵雑炊でーす」
ほうれん草や人参、キノコ類がたっぷりと入っている卵雑炊。
「いただきます」
ふんわりと出汁の香りに、ホッと安心してしまうのは日本に生まれ育つDNAに刻まれてるからなのだろうか。
フーフーと冷ましながら1口を食べた。
ここ、数日は食欲が無かったのに...お腹空いてくるから不思議だ。
体調を崩し食欲が無かった私を気遣って、野菜達は細かく柔らかめに煮込まれていた。
(うん。食べれる)
「凄く、美味しいです」
「ありがとう。体調はどうなの?大丈夫?」
「大丈夫です。覚えてないのが申し訳ないですけど、面倒も見てもらってすみません」
「そんな、謝らないで...。昨日の事、覚えてないんだ」
「はい」
私、何かやらかしたのかな?
この状況自体がやらかしてるけども
「昨日、部屋の前で倒れてたよ。人の鞄を漁って鍵を取るのは、気分が悪かったから家に運んじゃった。勝手な事してごめんね」
私は、首を振って
「私の方こそ、とんでもないご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「気にしないで、困った時はお互い様。助け合わなくちゃ」
助け合い...。
その言葉で思考が暗くなるのを止められない。
ボーッとしてしまった私を心配して声をかけられた。
ハッと気づいた私は直ぐに謝ってご飯を食べる。
食べ終わり、男の人に体温計を渡される。
「大丈夫です。家にもあるので...」
女の人が、私の額に手を触れて熱を図られる。
「微熱って所かな」
触れられてびっくりをする
「あ~。ごめんね。急に...」
「いえ」
びっくりしたけど嫌って気がしなかった。
「ゆっくり休んでね。体調が悪化したり、困った事があったら、うちにおいで」
女の人が自然と私の頭を撫でた。
不思議と嫌な気がしなくて...むしろ心地好いと思った
「はい。あ、ありがとうございました。後日、お礼に伺いますね」
「気にしなくていいのに...」
「お邪魔しました」
温もりを感じるのは久しぶりだ。
自分の家に着いてそう思った。
けど、直ぐに違和感を感じた。
久しぶり?...
むしろ最近...?
(どうして?どうしてよ)
私の声が脳に流れる。
(大丈夫。大丈夫だよ)
思い出した。昨日...
リズミカルに鳴る音が心地良い。
「スンスン」
鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐと、優しい出汁の香りが漂ってきた。
「クスッ」
(ん?)
今、誰かが笑った?
誰かって誰だろうか?
私は、実家を出て一人暮らしをしてるのに...。
そう。一人暮らしの私の家に誰かが居るはずがない。
心地が良い包丁とまな板が出会う音と笑う音はなんだろうか?
それに、この香りは...
勢い良く目を開けた。
「あ、起きた?」
え....?
この声は、お隣さんの男の人だ。
「体調は、大丈夫ですか?」
体調...。
ずっと止まなかった頭痛が無くなって、何かスッキリしたような感じがする。
それでも、身体がダルい。
「えっと...。大丈夫です」
私は上半身を起き上がらせる。
男の人は、腕を頭から首を支えて手は肩に置かれながら、慣れた手つきで起き上がる時に私を支えた。
「ありがとうございます」
「いえ」
キッチンの奥からお隣さんの女の人が私に挨拶をしてきた。
「おはよう。起きて大丈夫なの?」
「おはようございます。あ~...はい...あの大丈夫です」
「そう?ご飯は、もうすぐ出来るから待ってね」
「あ、いえ、そんなお世話になる訳には...」
「大丈夫よ。食べてって」
朝日の逆光も相まって、女の人の笑顔が眩しい。
「もしかして...覚えてない?」
女の人に気を取られてたら、男の人を忘れてしまっていたから、近くで声をかけられて身体がびっくりして大袈裟な反応をしてしまった。
「急にごめんね」
「謝らないで下さい。私の方こそ、すみません。何故、私はここにいるのでしょうか?」
お隣なだけあって、私が住んでる部屋とシンメトリーな間取りになっている。
置かれている物や配置が違うだけで、全く違う部屋の印象になる。
ここは、私の部屋ではない。
「やっぱり覚えてない感じか~」
「そんな、話は後々!ご飯食べるぞ」
女の人は、ハツラツと元気な声で次々とお皿をテーブルの上に置いていく。
「今日は、美味しい卵雑炊でーす」
ほうれん草や人参、キノコ類がたっぷりと入っている卵雑炊。
「いただきます」
ふんわりと出汁の香りに、ホッと安心してしまうのは日本に生まれ育つDNAに刻まれてるからなのだろうか。
フーフーと冷ましながら1口を食べた。
ここ、数日は食欲が無かったのに...お腹空いてくるから不思議だ。
体調を崩し食欲が無かった私を気遣って、野菜達は細かく柔らかめに煮込まれていた。
(うん。食べれる)
「凄く、美味しいです」
「ありがとう。体調はどうなの?大丈夫?」
「大丈夫です。覚えてないのが申し訳ないですけど、面倒も見てもらってすみません」
「そんな、謝らないで...。昨日の事、覚えてないんだ」
「はい」
私、何かやらかしたのかな?
この状況自体がやらかしてるけども
「昨日、部屋の前で倒れてたよ。人の鞄を漁って鍵を取るのは、気分が悪かったから家に運んじゃった。勝手な事してごめんね」
私は、首を振って
「私の方こそ、とんでもないご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「気にしないで、困った時はお互い様。助け合わなくちゃ」
助け合い...。
その言葉で思考が暗くなるのを止められない。
ボーッとしてしまった私を心配して声をかけられた。
ハッと気づいた私は直ぐに謝ってご飯を食べる。
食べ終わり、男の人に体温計を渡される。
「大丈夫です。家にもあるので...」
女の人が、私の額に手を触れて熱を図られる。
「微熱って所かな」
触れられてびっくりをする
「あ~。ごめんね。急に...」
「いえ」
びっくりしたけど嫌って気がしなかった。
「ゆっくり休んでね。体調が悪化したり、困った事があったら、うちにおいで」
女の人が自然と私の頭を撫でた。
不思議と嫌な気がしなくて...むしろ心地好いと思った
「はい。あ、ありがとうございました。後日、お礼に伺いますね」
「気にしなくていいのに...」
「お邪魔しました」
温もりを感じるのは久しぶりだ。
自分の家に着いてそう思った。
けど、直ぐに違和感を感じた。
久しぶり?...
むしろ最近...?
(どうして?どうしてよ)
私の声が脳に流れる。
(大丈夫。大丈夫だよ)
思い出した。昨日...
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