会いたい・・・

小田成美

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第百四十二話 幻の恋人

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「続きを話してもいいか」

青田が今年二十七歳になると聞き、記憶の中の青田と照らし合わせていた俺は、達樹に声を掛けられて意識を引き戻した。

「話してくれ」

頷いて話の先を促し、カップに口をつけてコーヒーを流し込み、気持ちを切り換えて達樹の話に集中する体勢を整えた。



「青田は大学に入学した後は、勉強よりも遊びに重点を置くようになり、両親からの仕送りだけでは足りなくなって、最初はコンビニでアルバイトをしていたんだが、そこで一緒に働いていたアルバイト仲間に誘われてホストクラブで働くようになった」

「まったく、ご両親は、息子をホストにするために進学させたわけではないだろうに……」

達樹の話に、達雄先生が呆れ混じりに相槌を打った。

達樹は頷いて、コーヒーを一口飲み話を続けた。



「青田は外見も悪くはなく、元々頭も良い上に客あしらいも上手かったらしい。短期間で頭角を現すと、常にトップ3に入る売り上げを維持するようになった」

「その時に、樫山専務の娘と知り合ったのか」

俺は以前、美咲がホストクラブに出入りしていたと達樹から聞いた話を思い出し、青田とはホストとそのお客として知り合ったのかと思い質(ただ)した。



「いや。青田の勤めていた店と樫山専務の娘が通っていた店は違うところだ。それに、樫山専務の娘がホストクラブに通い始めた頃には、青田は店を辞めて暁化成株式会社に就職していた」

「そうなのか」

「青田は大学を卒業する時にはホストクラブのアルバイトを辞めて、それからは一度もホストとして勤めてはいないんだ」



ホストとそのお客として知り合ったのでなければ、美咲と青田の接点はどこだったのかと疑問を載せながら問い返した俺に、青田がホストをしていたのは大学時代だけだと応えた達樹はさらに話を続けた。



「青田は大学生の時には、かなり羽振りのいい生活をしていたらしいんだが、就職してからは収入が激減してそれまでの生活を維持できなくなった」

「売れっ子のホストと一般のサラリーマンとでは、収入は比べ物にならないだろうからな」

達樹の話を補足するように、達雄先生が肯定した。



「そこで青田は考えた。金持ちの娘を掴まえて婿入りすればいい、とな。そこで目をつけた相手が同じクラブに通っていた樫山専務の娘だったんだ」

「ちょっと待ってくれ。婿入りするといっても、資産があればあるほど、それを生かして発展させていくのは大変なんじゃないか。ホストに戻ろうとは考えなかったのか」

「普通に考えれば、使うだけでは資産は目減りする一方だと気が付くんだろうが、青田は自分が楽をして贅沢をすることしか考えなかったみたいだな」



青田の突拍子もない考えを聞かされて異論を差し挟んだ俺に、達樹は冷静に返し、その上で自分の意見を付け加えた。

「青田に関しては俺たちの常識は通用しない。まともに考えたら腹が立つだけだぞ」
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