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5 予感
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父親の提案を受け入れ、入学して間もなかった大学を休学して海を渡った。
環境を変えるという選択は、結果的には成功だった。
身長百八十センチを越え、幼少期より水泳をしていた影響で引き締まり筋肉質な肉体を有している。
βの中に紛れてしまうと、否応にも目立っていたが、留学先は世界中から集まったαが在籍する学校だった為、アジア人である礼保が突出して目立つということがなかった。
周りから多くの注目を集めない、自分をよく知らない周りに囲まれることは、礼保の行動を少しずつ積極的にさせた。
性体験を済ませ「未成熟α」から抜け出すことを目的とした留学の成果が出始めたのは、一年後のこと。
寄宿舎のルームメイトであったアメリカ人αのアレックが、礼保の性体験に大きな影響を及ぼした。
陽気で気遣い屋のアレックは、父親の事業を継ぐ将来と許嫁もいる。
本当は「運命の番」を探している気持ちを隠して日々を過ごしているというアレックと、運命と出逢うまでは軽はずみに欲に溺れたくないという礼保は、意気投合した。
アレックとは互いに近しい痛みを持つ者として共鳴し、互いの陰茎を擦り合わせたり、口で慰め合ったりという行為まではした。
だが、互いにαであり、どちらかの陰茎を体内に納めて快感を得るのはーー違っていた。
最終的には、アレックが適当なβの女性と金銭で交渉し、その中に礼保も混ざって、何とか初めてのセックスの経験をした。
アレックなりの荒療治で、留学の目的は達成したが、空しさは日に日に増していった。
結局は一度きりの体験で終わり、二年が過ぎた。
アレックとは互いに慰め合いは行ったが、恋愛感情があったわけではないので、後腐れなく留学生活を終えられた。
友人として、互いに自国に戻ってからも連絡を取り合っている。
(一度きりで「未成熟α」を卒業したとは言えないことはわかっている)
経験済み、でも継続していなければ意味がない。
「運命の番」を求めている気持ちを誤魔化しながら生きているアレックほど、自分は「運命の番」を求めているのか。
そもそも、Ωに出逢おうと行動に移していない。
小学生時代に授業で見たΩの姿と、その姿を目の前にした自分の姿が未だに恐怖で忘れられずにいる。
だから、それ以来、Ωには接触していない。
(どうして自分はこうなんだろう)
倫治と別れ、自宅に着くと、そろそろ日付が変わろうとしていた。
ベッド上に服のまま寝転がり、手に持っていたスマートフォンの音楽アプリを起ち上げて「天」を流す。
歌詞を見ながら、暗く静かな室内で聴く音楽。
《ワタシヲミツケテクダサイ》
《ルリイロノソラノシタデマッテイマス》
歌詞には表示されていないのに聞こえてくるセリフ。
(私を見つけて下さい。瑠璃色の空の下で待っていますか…)
十歳の頃に授業で見た発情したΩを見た時のような、息苦しさに似たものを感じて、心臓の辺りを手のひらで撫でた。
環境を変えるという選択は、結果的には成功だった。
身長百八十センチを越え、幼少期より水泳をしていた影響で引き締まり筋肉質な肉体を有している。
βの中に紛れてしまうと、否応にも目立っていたが、留学先は世界中から集まったαが在籍する学校だった為、アジア人である礼保が突出して目立つということがなかった。
周りから多くの注目を集めない、自分をよく知らない周りに囲まれることは、礼保の行動を少しずつ積極的にさせた。
性体験を済ませ「未成熟α」から抜け出すことを目的とした留学の成果が出始めたのは、一年後のこと。
寄宿舎のルームメイトであったアメリカ人αのアレックが、礼保の性体験に大きな影響を及ぼした。
陽気で気遣い屋のアレックは、父親の事業を継ぐ将来と許嫁もいる。
本当は「運命の番」を探している気持ちを隠して日々を過ごしているというアレックと、運命と出逢うまでは軽はずみに欲に溺れたくないという礼保は、意気投合した。
アレックとは互いに近しい痛みを持つ者として共鳴し、互いの陰茎を擦り合わせたり、口で慰め合ったりという行為まではした。
だが、互いにαであり、どちらかの陰茎を体内に納めて快感を得るのはーー違っていた。
最終的には、アレックが適当なβの女性と金銭で交渉し、その中に礼保も混ざって、何とか初めてのセックスの経験をした。
アレックなりの荒療治で、留学の目的は達成したが、空しさは日に日に増していった。
結局は一度きりの体験で終わり、二年が過ぎた。
アレックとは互いに慰め合いは行ったが、恋愛感情があったわけではないので、後腐れなく留学生活を終えられた。
友人として、互いに自国に戻ってからも連絡を取り合っている。
(一度きりで「未成熟α」を卒業したとは言えないことはわかっている)
経験済み、でも継続していなければ意味がない。
「運命の番」を求めている気持ちを誤魔化しながら生きているアレックほど、自分は「運命の番」を求めているのか。
そもそも、Ωに出逢おうと行動に移していない。
小学生時代に授業で見たΩの姿と、その姿を目の前にした自分の姿が未だに恐怖で忘れられずにいる。
だから、それ以来、Ωには接触していない。
(どうして自分はこうなんだろう)
倫治と別れ、自宅に着くと、そろそろ日付が変わろうとしていた。
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歌詞を見ながら、暗く静かな室内で聴く音楽。
《ワタシヲミツケテクダサイ》
《ルリイロノソラノシタデマッテイマス》
歌詞には表示されていないのに聞こえてくるセリフ。
(私を見つけて下さい。瑠璃色の空の下で待っていますか…)
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