今日も誰かのMydol(マイドル)

流リカナ

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4 宿命

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約二年ぶりに再会した友人である倫治から、再会前に偶然耳に触れた曲「天」ついて尋ねたところから始まったアイドル談義。
アイドル集団「ファシナン」の噂話から、倫治が推しているという「リリーサシェ」というグループの話へと話題が移り、長々と会話が途切れることはなかった。
店の閉店時間が近づき、そろそろお開きの流れになった頃。

「礼保、イベントの当落結果が来週あたりにメールで届くから、結果分かったら連絡ちょうだい」
「当たるわけないとは思うけどね…連絡するわ」
「こういうイベントって、無欲な奴ほど当たるのよ!しかも、泣く子も黙るアルファ様だし!」
「こんなところでアルファの恩恵享受って…もっと他のことで運使いたいな」
「意外と、礼保の運命はさ、その中に紛れていたりして?」
「倫治、他人事だと思って楽しそうだな!」
「……いや、礼保のアルファ故の痛みというか、プレッシャーは想像に難くないしな」
「倫治、ありがとうな」

店を出て、最寄りの駅で倫治と別れる。
帰路へ向かう電車の中で、スマートフォンで「ファシナン」と検索してみると、倫治から聞いた情報以外に目新しいものはなかった。
(オメガのアイドル……か?)

Ωという存在を考えようとすると、息苦しく、胃の辺りがチクリと痛み出すので、考えない様に過ごしている。
本来は向き合わないといけない、いつかは出逢わなければならない存在だと、十二分に理解している。
(今は未だ、目を背けていたい。あと一年、学生のうちは…)


「未成熟α」という出来損ないの状態を打破すべく、両親に言われるがまま二年前、イギリスへと渡った。
自らの意志ではなかった為、振り返ると二年間は長かったように思う。
何故、留学をしたのかーーΩを抱けるようになる為に。

αは多岐に渡り優れた能力を有する希少な存在なら、Ωとはその対極のような存在と思うのが一般的かもしれない。
特に男性Ωの場合は、男性でありながら女性同様に妊娠が可能であるという身体的特異、発情期という獣のソレのような周期を有するという部分から、差別され忌み嫌われるような悲しい側面を持つ。

イギリスに渡る前、礼保はΩはおろか、女性すら知らなかった。
興味がなかったわけではないが、セックスに恐怖を感じていた。
きっかけは、αの者のみが通う学校時代、十歳になる頃に、後にトラウマになるような状況に陥ったからだ。
精通を迎える年齢に差し掛かる頃、学校では性教育の授業が行われる。
優れた能力をもって社会を支配し、還元していくことは絶対ではあるが、後世にαを生み出していくことも、αの使命である。
αは、Ωの存在なくして生み出すことはほぼ不可能と言われている。
Ωの生態や妊娠の仕組みなどを授業で学ぶ中で、授業の一環として発情期のΩが登場することがある。
Ωが放つフェロモンと呼ばれる特有の香り、発情したΩがどういうものなのか、実際に見て学ぶというのは正しいのは理解は出来る。
理解は出来るが、受け入れられるか否かは別だった。
大半のクラスメイトは、授業で学ぶ前から知識を得ている者も多く、発情を理数を学ぶように論理的に理解し、体育の授業のように性行為を捉えることが出来るものがほとんどの中ーー礼保は嫌悪感しか抱けなかった。
性教育の授業中に具合が悪くなり、精通もなかなか迎えられなかった礼保は、クラスの中で馴染めなくなり、その様子を見かねた学校側と両親で話し合いが行われた結果、学業優秀なβが通う私立校へと十一歳の時に転校することになった。
αだと隠しての転校だったが、目を惹く容姿をし、勉強もスポーツもこなせてしまう故に、女子からの注目を常に集め続けた。
告白され、誘われることがあっても、一切興味を持てなかった。
そんな礼保を理解し、さりげなく常にフォローしてくれたのが倫治だった。

大学に入学しても未だ知らない息子に、いよいよ両親はしびれを切らす。
将来について真剣に話したいと家族会議の時間が作られた十九歳になる頃。

「絶対とは言わないが…アルファとして産まれた者の宿命、子を成すということについて、お前はどうするつもりだ?」

父親に真剣に問いかけられ、悩んで出した答え。

「抗えない欲に負けて行為に及ぶのではなく、私は心が動く相手と…」
「気持ちは理解できるが、綺麗ごとだな」
「綺麗ごとなのは理解しておりますが、心が動かぬ者と行為をするのは…出来ません」
「では、一生誰とも添い遂げられない可能性もあるではないか?ベータならともかく、アルファでそれは許されないことだと分かっているだろう?」
「父さんと母さんには申し訳なく思います」
「そもそも、お前はオメガに近づくことすらしない!それは何故だ?心が動く動かぬ以前の問題ではないか?」
「具合が悪くなる…それがオメガの発情にあてられてのものだと、今では分かっているのですが…あの状態になる自分が怖いのです」
「いつかは通り、受け入れなければならないのだぞ?」
「……ベータの者と、先ずはそのような行為が行えるように努力しようかと思います」
「口だけじゃないな?」
「……努力致します」
「では、こうしよう!お前は、きっと努力するだろう。ただ、私も鬼じゃない。だからこそ、一つ提案しよう」
「なんでしょう……」
「いっその事、環境を変えて、新たな場所で努力してみなさい」
「それは?」
「留学してみてはどうか?外国の方が、お前も気楽に向き合えるかもしれない」
「そうでしょうか?」
「お前は、感受性が強すぎるのだよ。だから、苦しむ」

母親が留学準備を全て行い、家族会議後二ヶ月もしないうちに海を渡っていた。




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