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2 秘密
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倫治のスマートフォンの画面内で動画が再生を始める。
「これは?」
「ファシナンの『絹』って曲のMVで『天』の一つ前の作品」
舞台は、人や車などを消し去ったスクランブル交差点の真ん中。
白いマントで全身を覆った数名が、激しく首を振ったり、地団太を踏む様な動きをしている。
後ろ姿のみが映っており、背丈が皆ほぼ一緒。
無音で再生しているので、どのような曲調か分からないが、動きからは激しい感情を歌った作品なのかと推測出来る。
「この子達は顔は見せない売り方をしているのか?」
「そう、一切見せない。何もかも謎、秘密だらけの集団なのよ」
「なるほど、だからさっき外でMVを見た時、通りすがりの人が『そろそろ顔見たい』とか言ってたのか……」
「最新は影、その前は後ろ姿、その前だとアバターだったり、全身ボンテージ姿で出てきたり…あらゆる手法で顔出しNGで活動している」
「アイドルなのに、それでよく売れるな」
「曲は中毒性高くて、歌唱力は皆あるから、どんな曲でも消化する。ちなみに『絹』なんだけど、聴いてみ?」
倫治がワイヤレスイヤホンの片方を差し出してきたので、右耳に入れる。
「あれ、これ演歌か?てっきりロックっぽい曲かと思った」
「そうなのよ!何で演歌なんだ?って思うだろ?でも、それがファシナンにハマる人が増殖する要因の一つ」
「売り方としては上手いな」
「ファシナンにまつわる噂は色々あるんだけど、知りたいか?」
「まぁ、というか倫治話したいんだろう?」
「よし、じゃあ聞かせてやろう!」
イヤホンを耳に入れ、音楽を再生し続けたまま倫治の熱弁を聞くことになった。
「まずは人数だが推定三十人前後だと言われている」
「そんなにいるのか?」
「十六歳から二十二歳までで構成されているという噂だ。曲ごとにコンセプトに合うメンバーが数名選抜されて活動するらしい」
「そんな基本情報すら噂なのか」
「ミステリアスだろ!メンバーには色の名前が付いていて、これは公表されている」
「へぇ、そうなんだ」
「ちなみに『天』では七名選抜されていて、センターは『露草色』か『瑠璃色』のどちらかだと言われている」
「センター?」
「グループの顔のことだ!ファシナンは活動曲ごとにセンターが変わるから、センターが誰なのかを考察するのもハマる要因だな」
「顔は見えないのに考察出来るものなのか?」
「そこは突っ込んでやるなよ!それで、センターを務めた者だが、センターに選ばれたら一年以内に卒業していくのがルールであるようだ」
「ファシナンは卒業制度があるグループか?」
「アイドルは鮮度命だからな。定期的に新陳代謝図らないといけないのは、最近のアイドルグループでは鉄則だな」
「なるほどな」
向かい合って座る倫治が立ち上がり、テーブルを挟んで身を乗り出すようにして顔を近づけてくる。
「礼保、ここからは憶測というか、まことしやかに噂されている話なんだが……」
「急に身を乗り出して小声になって、何だよ?」
「実はさ……ファシナンのメンバーって、全員Ωじゃないかって」
「えっ……オメガ?」
「俺も、その噂を聞いたのは最近なんだけど」
「αの俺が言うのもなんだが、俺らより更に数の少ない存在が…アイドル?」
「Ωの性質を考えると、あり得ないとは思うんだけど、でも本当なら色々と辻褄が合うことが多い」
耳を伝って流れてくる音楽が切り替わり『天』が再生を始める。
細い針で鼓膜を刺すような、サビ部分を歌う者の声音。
《シト シト シト シト》
と囁くような抑揚に合わせて、ドクンと鳴る心臓の音が体内を巡るように響く。
(この曲は一体何なんだ?)
歌詞が載らない間奏部分に差し掛かると、何故か声が聞こえてくる。
《ワタシヲミツケテクダサイ》
もう片方のイヤホンで『天』を聴いている倫治に尋ねる。
「倫治、今の部分《ワタシヲミツケテクダサイ》っていうセリフあるか?」
「はあ?そんなセリフないよ!」
「……」
直感的に、このセリフは自分にだけ聞き取れているのではないかという気がしていた。
(やはりそうか……)
『天』が持つ違和感は、増幅していくばかりだった。
「これは?」
「ファシナンの『絹』って曲のMVで『天』の一つ前の作品」
舞台は、人や車などを消し去ったスクランブル交差点の真ん中。
白いマントで全身を覆った数名が、激しく首を振ったり、地団太を踏む様な動きをしている。
後ろ姿のみが映っており、背丈が皆ほぼ一緒。
無音で再生しているので、どのような曲調か分からないが、動きからは激しい感情を歌った作品なのかと推測出来る。
「この子達は顔は見せない売り方をしているのか?」
「そう、一切見せない。何もかも謎、秘密だらけの集団なのよ」
「なるほど、だからさっき外でMVを見た時、通りすがりの人が『そろそろ顔見たい』とか言ってたのか……」
「最新は影、その前は後ろ姿、その前だとアバターだったり、全身ボンテージ姿で出てきたり…あらゆる手法で顔出しNGで活動している」
「アイドルなのに、それでよく売れるな」
「曲は中毒性高くて、歌唱力は皆あるから、どんな曲でも消化する。ちなみに『絹』なんだけど、聴いてみ?」
倫治がワイヤレスイヤホンの片方を差し出してきたので、右耳に入れる。
「あれ、これ演歌か?てっきりロックっぽい曲かと思った」
「そうなのよ!何で演歌なんだ?って思うだろ?でも、それがファシナンにハマる人が増殖する要因の一つ」
「売り方としては上手いな」
「ファシナンにまつわる噂は色々あるんだけど、知りたいか?」
「まぁ、というか倫治話したいんだろう?」
「よし、じゃあ聞かせてやろう!」
イヤホンを耳に入れ、音楽を再生し続けたまま倫治の熱弁を聞くことになった。
「まずは人数だが推定三十人前後だと言われている」
「そんなにいるのか?」
「十六歳から二十二歳までで構成されているという噂だ。曲ごとにコンセプトに合うメンバーが数名選抜されて活動するらしい」
「そんな基本情報すら噂なのか」
「ミステリアスだろ!メンバーには色の名前が付いていて、これは公表されている」
「へぇ、そうなんだ」
「ちなみに『天』では七名選抜されていて、センターは『露草色』か『瑠璃色』のどちらかだと言われている」
「センター?」
「グループの顔のことだ!ファシナンは活動曲ごとにセンターが変わるから、センターが誰なのかを考察するのもハマる要因だな」
「顔は見えないのに考察出来るものなのか?」
「そこは突っ込んでやるなよ!それで、センターを務めた者だが、センターに選ばれたら一年以内に卒業していくのがルールであるようだ」
「ファシナンは卒業制度があるグループか?」
「アイドルは鮮度命だからな。定期的に新陳代謝図らないといけないのは、最近のアイドルグループでは鉄則だな」
「なるほどな」
向かい合って座る倫治が立ち上がり、テーブルを挟んで身を乗り出すようにして顔を近づけてくる。
「礼保、ここからは憶測というか、まことしやかに噂されている話なんだが……」
「急に身を乗り出して小声になって、何だよ?」
「実はさ……ファシナンのメンバーって、全員Ωじゃないかって」
「えっ……オメガ?」
「俺も、その噂を聞いたのは最近なんだけど」
「αの俺が言うのもなんだが、俺らより更に数の少ない存在が…アイドル?」
「Ωの性質を考えると、あり得ないとは思うんだけど、でも本当なら色々と辻褄が合うことが多い」
耳を伝って流れてくる音楽が切り替わり『天』が再生を始める。
細い針で鼓膜を刺すような、サビ部分を歌う者の声音。
《シト シト シト シト》
と囁くような抑揚に合わせて、ドクンと鳴る心臓の音が体内を巡るように響く。
(この曲は一体何なんだ?)
歌詞が載らない間奏部分に差し掛かると、何故か声が聞こえてくる。
《ワタシヲミツケテクダサイ》
もう片方のイヤホンで『天』を聴いている倫治に尋ねる。
「倫治、今の部分《ワタシヲミツケテクダサイ》っていうセリフあるか?」
「はあ?そんなセリフないよ!」
「……」
直感的に、このセリフは自分にだけ聞き取れているのではないかという気がしていた。
(やはりそうか……)
『天』が持つ違和感は、増幅していくばかりだった。
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