今日も誰かのMydol(マイドル)

流リカナ

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1 きっかけ

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地下にある店内は仄暗く、点在する間接照明がお洒落な雰囲気を作り出している。
入口にいたスタッフに予約の名前を伝えて、案内されたテーブル席に、約二年振りに見る姿があった。
倫治トモハル久しぶり」
「おぅ、久しぶり!礼保、しばらく見ない間にまた身長デカくなってる」
「倫治は……まぁ変わらないな」
「変わらなくて悪いか?」
「いや、なんか安心する。日本に帰ってきたって改めて実感する」
「そっか…お帰り礼保、まぁ座れ。積もる話もあるだろう?なあ?」

倫治の向かいの椅子に背を預けて直ぐ、二杯分のアルコールが運ばれてくる。
「先ずはビールで良かったよな?よし、乾杯!」
「ああ、乾杯」

倫治の変わらない強引さ、さり気ない気遣いが心地良い。
互いに一杯目のビールを飲み干さんとする内に、次々と料理が運ばれてきた。
「今日は俺の奢りだから遠慮なく食え!」
「じゃあ遠慮なく、流石一足先に社会人になった奴は太っ腹だな」
「おぅ!そのかわり、お前が社会人になったら即立場逆転するんだから、その時は倍な」
「その時は当然何でも奢らせていただきますよ、トモハル様!」
「じゃあ、かわいいコもついでに頼むわ!」
「意地悪いな倫治、俺が疎いの知ってるくせに……」
「ところで、留学先ではどうだった?アッチの方は」
「アッチってつまり、出逢えたかってことか?」
「そう、運命に出逢えたか?」
「出逢えてたら…今ここで飲んでないよ」
「だよな……でも、めでたく童貞卒業したんだろう?」
「まぁ仕方がなく……務めだからな」
「務めか…普通の、βなら願ってもない務めだろうけど、礼保はまぁ、純情α様だからな」
「純情って程のものでは…」
「運命を疑わない時点で純情だよ!」
「そうか…でも最近は諦め始めている」
「おい、そんな淋しいこと言うなよ!童貞捨てても心は捨てるな!!」
「それ、上手いこと言ってるつもり?」

二年のブランクを感じさせない会話のやり取りにアルコールがすすむ。
互いに酔いが少しずつ回る。

礼保はαと呼ばれる性分類に属する。
世間一般では、選ばれし性と呼ばれる存在。
全てにおいて優れている故に、社会では最上位に属する。
一方の倫治はβと呼ばれるごく一般的な、社会における八割強を占める存在。
希少なαの礼保と、大多数なβの倫治が、気の置けない仲を保ち続けているのは珍しい。
αとは選ばれし者の為、物心ついた頃から様々な分野の英才教育を施される。
帝王学なるものを叩き込まれるが、特異な存在故に周辺の者が特別扱いするので、大体の者が傲慢さを漂わせる。
それがαの力であるので、悪いわけではない。社会を引率するのはαだ。
ただし、希少で数の多くないαでも、一括りには出来ない。
確実にαの中にも優劣は存在する。
礼保は「未成熟α」である。
未成熟の定義はないが、簡潔に言うと出来損ないだ。
国籍を持つ全ての人は、物心つく前に性分類検査を受ける。
αは検査を受けなくても、生まれながらに容姿で判別出来るようだが--検査を経て正式にα認定を受けると、α性の者のみ通う学校への入学を余儀なくされる。
礼保も気付いた時にはαの集団の中で、寄宿舎生活を送っていた。
αしかいない中で、自分がどれだけ優位なのか?
それを知るには、下の存在を知る必要があるようで--小学校低学年の歳の頃になると、学業優秀なβの子が通う学校との交流が行われるようになる。その学校に倫治はいた。
そして、訳あって、礼保は十一歳になる頃に
倫治の通う学校に転校することになり、同じクラスになった倫治と、以降は大学までエスカレーター式に進学していき仲を深めていって今日までに至る。
「倫治こそ、彼女は?」
「最近、先週別れた」
「それは、なんと言って良いのやら」
「振られて、ヤケ酒だ!とことん付き合え」
「倫治いい奴なのに、何でいつも振られるんだろう…」
「礼保、ナチュラルに傷えぐるね」
「女性の気持ちが…俺にはよくわからないから」
「まあまあ、お前は深く考えるとロクなことにならない!」
「…….そうだな」
「俺は当分の間『リリーサシェ』のユアンちゃんに癒されるとしますか!」
「それって二次元?」
「いやいや息してるアイドル!」
「アイドルか……」
「礼保は相変わらずエンタメに疎いこと」

その時、ふと脳裏に大型ビジョンから流れるフレーズが浮かび上がる。
「なぁ倫治『シト シト シト シト』って歌ってる曲知ってる?」
「えっ!礼保なんで『天』歌ってるのよ。どこで覚えた?」
「ここ来る前にあった大型ビジョンから流れているのを聴いて…なんか気になって」
「マジか!えっ、礼保が気になるなんて珍しい、というかほぼ初」
「そうだっけ?そう言われるとそうかな…」
「おぉ、これは良い兆候かもしれないな」
「良い兆候なんて、大袈裟な」
「いやいや、これは善は急げとばかりに、礼保に教えてあげよう!」
「何を?」
「『ファシナン』についてだよ!」
「さっきの歌を歌っているアイドルのこと?」
「イエス!」
「んん、なんか倫治話したいみたいだから、聞いてみようかな」
「じゃあ遠慮なく、語らせてもらいますわ」

倫治はスマートフォンを操作し、動画サイトを開き始めた。
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