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二年間の留学を終えて帰国してから、三日が経った。
時差ボケも落ち着いた頃、十年来の友人から久々に会おうと連絡が入る。
待ち合わせは、自宅から歩いて二十分程の繁華街にあるダイニングバー。
目的地までゆっくりと歩く道すがら、二年前と少し変わった街並みに時の流れを感じていた。
閑静な住宅地も、歩き進めて目的地に近づくにつれ、雑多な景色になる。
自動車や信号機の音、行きかう人々の会話、どこからか聴こえてくる流行歌――
耳に届いた音に、礼保はどこから聴こえてくるのか咄嗟に辺りを見渡す。
(この曲は一体?)
数メートル先の交差点右側に見える商業施設に埋め込まれた、大型ビジョンを見上げる。
最新音楽チャートをランキング方式で紹介している映像が流れており「NEW №1 ファシナン『天(アマ)』」と表示され、影絵のようなMVが映像として楽曲と共に流れている。
(これが今、日本で売れている曲?)
薄青の布の裏で数名が、バラード曲に合わせてダンスをしている。
姿形は分からないが、楽曲の雰囲気と相まって、手指の所作から切なさが伝わる。
「ファシナンだ!相変わらずよく分からない歌詞が出てくるけど、歌は良いよね」
「そろそろ顔見たいよね!」
立ち止まってMVを見ていると、すれ違う人の会話が聞こえる。
(何故だろう?俺にはこの曲が、曲であって曲じゃなく聞こえるのだけど……)
違和感は拭えないが、それを追求する程でもないかと思い、MVを最後まで観ることはなく、交差点を渡った。
待ち合わせ時間の午後六時まで、あと十分。
少し早歩きしながら、頭の中では先程聴いた曲のフレーズがリフレインしていた。
《シト シト シト シト シト シト シト シト 死と隣り合わせみたいな運命 シトシトシトシト雨が鳴く》
同じ単語を繰り返すことによる中毒性に、一瞬だけ毒されている。
流行歌とはそういうものだろうと考えながら、地下階段を駆け下りてバーの入口の扉を開ける。
楽曲に織り交ぜられた毒に、礼保が初めて触れた瞬間だった。
時差ボケも落ち着いた頃、十年来の友人から久々に会おうと連絡が入る。
待ち合わせは、自宅から歩いて二十分程の繁華街にあるダイニングバー。
目的地までゆっくりと歩く道すがら、二年前と少し変わった街並みに時の流れを感じていた。
閑静な住宅地も、歩き進めて目的地に近づくにつれ、雑多な景色になる。
自動車や信号機の音、行きかう人々の会話、どこからか聴こえてくる流行歌――
耳に届いた音に、礼保はどこから聴こえてくるのか咄嗟に辺りを見渡す。
(この曲は一体?)
数メートル先の交差点右側に見える商業施設に埋め込まれた、大型ビジョンを見上げる。
最新音楽チャートをランキング方式で紹介している映像が流れており「NEW №1 ファシナン『天(アマ)』」と表示され、影絵のようなMVが映像として楽曲と共に流れている。
(これが今、日本で売れている曲?)
薄青の布の裏で数名が、バラード曲に合わせてダンスをしている。
姿形は分からないが、楽曲の雰囲気と相まって、手指の所作から切なさが伝わる。
「ファシナンだ!相変わらずよく分からない歌詞が出てくるけど、歌は良いよね」
「そろそろ顔見たいよね!」
立ち止まってMVを見ていると、すれ違う人の会話が聞こえる。
(何故だろう?俺にはこの曲が、曲であって曲じゃなく聞こえるのだけど……)
違和感は拭えないが、それを追求する程でもないかと思い、MVを最後まで観ることはなく、交差点を渡った。
待ち合わせ時間の午後六時まで、あと十分。
少し早歩きしながら、頭の中では先程聴いた曲のフレーズがリフレインしていた。
《シト シト シト シト シト シト シト シト 死と隣り合わせみたいな運命 シトシトシトシト雨が鳴く》
同じ単語を繰り返すことによる中毒性に、一瞬だけ毒されている。
流行歌とはそういうものだろうと考えながら、地下階段を駆け下りてバーの入口の扉を開ける。
楽曲に織り交ぜられた毒に、礼保が初めて触れた瞬間だった。
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