亜美

亜美

どこをどう歩いたか覚えていない。

　飲めない酒を飲んでこのありさまだった。



　私は、暖かい布団の中で目が覚めた。

　天井には蛍光灯の常夜灯が灯っている。

　頭が割れるように痛い。



　腕を出して時計を見ると三時を回ったところだった。

　新聞配達だろうか？

　バイクの音が近づいて、ポストに新聞を放り込む音が聞こえた。

　そしてバイクのエンジンの音が遠ざかっていく。



　ふと、隣に寝息を聞いた。

　私は布団に一人で寝ているのではないようだった。

　首を曲げて、隣を見た。

　暗く、定かには見とめないが、女の後ろ髪がそこにあった。

　スウスウと静かな寝息が耳に届く。

「この女はだれなのだろうか？」

　記憶を辿るが、どうも思い出せない。

　カラオケで歌った歌は思い出せるのに。



　闇に慣れると、その部屋は六畳ほどの和室で、頭の方には電気スタンドが立っている。

　女はいい香りを発しながら、枕に頭を載せて向こうを向いていた。

　私は自分が裸であることをその時に気づいた。

「え？」

　女と同衾して、なおかつ自身は裸体なのだ。

　この状況は極めて問題である。



　女は、無論、裸体だった。

　その後姿は、見覚えがないが、妻ではなかった。



　どうやら、酔ってとんでもないことをしでかしたようだった。

　会社の同僚との飲み会だったはずだ。

　その中で女性といえば、同じ職場の佐々木亜美しかいない。

　そうすると、この女は亜美なのか？

　ここは亜美の家ということか？



　亜美は、お局と陰でささやかれる、私より三つほど年上の総務部主任だった。

　私は結婚していて、二歳になる子供もいる。

　一方、亜美は一人暮らしだった。



「やっちまったのか？」

　私はにわかには信じられなかったけれども、この状況では言い逃れができないだろう。

　亜美を抱いたような気もしてきた。

　亜美が、積極的に私を誘惑し、上に乗って、私を犯したのだ。

　なんということだ…



「亜美？」

　私はその後姿に声をかけた。

「う、ううん」

　その声は亜美に他ならなかった。

　もはや、不倫は確定である。

　私は彼女の中に射精したのだろうか？

　恐怖感が襲ってきた。

　ここまで確かなら、もはや何をしても構うまい。

　私は、起き上がり、布団をめくって亜美の裸体をさらけ出した。

　仰向けに亜美を倒し、股間に指を差し込んだ。

「ああん。もう」

　ぬるりと指先が入り、粘液を感じた。

「やん。高島さん」

　私の名を口走る、亜美。

　指先を嗅ぐと、精液の独特の香りがした。

　もう、確実に私は亜美と関係を持ったことを自覚した。

　このまま亜美が妊娠すれば、私の人生は終わりである。

　背筋が寒くなり、焦りが沸き起こってきた。



　妻の佐和子の声がした。

「アミって誰なのよ」

「え？」

「今、はっきりとアミって、あなた言ったわよ」

「知らん、アミニシキだろ。力士だリキシ！」

「あやしいわねぇ」

　私はいつもの家のダブルベッドの上にいた。

　もう六時で外はしらじらと明けていた。



（おしまい）