少女

wawabubu

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第一話

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俺は、その少女が不憫に思えた。

 さながら、坂口安吾の「白痴」の少女のように思えた。



 父親に虐待され、ほほにあざがなまなましく残っていた。

 この界隈では、めずらしくもない貧しさだけれど、俺はことさら彼女が不憫に思えてならなかった。

 少女は坂本富美江といった。

 俺は「ふみちゃん」と親しげに呼んでいた。

 彼女の周りの大人もそう呼んでいたから。



 富美江の屈託のなさは、少し知恵が遅れているからかもしれなかったし、ただ教育を受けていないだけなのかもしれなかった。



 ある雨の夜に、俺は富美江と出会った。

 浅香町の公民館の軒下で雨に濡れそぼって彼女は震えていた。

 まるで捨て猫のように。



「おい、だれかを待っているのかい?」

 スタンドで少し引っ掛けて、ほろ酔いの俺は声をかけてみた。

 たぶん、はっとするような色白の美しさを彼女の横顔に見て取ったからにほかならなかった。

「ううん」

 かぶりをかすかに振って、彼女は答えた。

 ただ寒さに震えていただけだったのかもしれなった。

「来いよ。そのまんまじゃ風邪ひいちまう」

 俺は、上着を脱いで肩にかけてやり、穴の開いたこうもり傘に入れてやって俺のボロアパートに誘(いざな)った。

 彼女は、ためらいもなく俺に従った。

 立ち君(辻で立って男に春をひさぐ売女)かともいぶかしんだが、みすぼらしいなりを見てそうではないと信じた。
俺には、その顔に見覚えがあったが、どこの娘かは知らなかった。



『幸福荘』とは名ばかりの、倒れかけたアパートの一階の端が俺の住まいだった。

 大家がお袋の古い友人ということで、職場に近いこのアパートを格安で手当てしてもらっていたので文句は言えなかった。

 俺は大垣の地方新聞の印刷所に勤めていた。



「どうした?入れよ。汚いところだけど」

 少女は、開いた扉の前で一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したみたいだった。

 しかし、それはほんの数秒のことであり、すぐにつっかけを脱いで框(かまち)をまたいだ。

 ほとんど口を利かない少女だった。



 年の頃は、十代後半という感じか、もう少し若いかもしれなかった。

 体つきは痩せていて、ただ肌の色がすばらしく白かった。

 赤い唇は濡れて、血をすすったように怪しく輝いていた。

 もしかしたら吸血鬼で、俺の寝首を掻かこうと考えているのかもしれなかった。



 電球だけの明かりしかない六畳一間ろくじょうひとまである。

 窓の下にはどぶ川が流れていて、異臭を放っている。

 今年の夏は雨が多く、川の水量も例年に比べて増えているようだった。



 俺は、冷たい番茶を茶渋(ちゃしぶ)の取れない湯呑みに注ぎ、ちゃぶ台に置いた。

「座りなよ。名前はなんて言うの?俺は舟木耕造ふなきこうぞうってんだ」

「あたし・・・ふみえ。さかもとふみえっていうの」

 たどたどしいが、初めて声を聞いた。

 幼な児のような声だった。

 聞けば、この裏の長屋に父親と住んでいるという。

 おふくろさんは、ずいぶん前に肺病で亡くなったそうだ。



 親父さんは酒飲みで、たびたび折檻されるとも言った。

 今日は、遠出の仕事で家に帰らないとも言った。

 親父さんは鳶職らしく、全国を飛び回っているのだそうだ。

 訥々とつとつと富美江は身の上を語ってくれた。



「今日は泊まっていきなよ。どうせ帰っても一人なんだろ?」

「うん」

 そのとき、ぱっと顔が明るい表情になった。

 さびしかったのだろう。無理もない。



 俺は夕食に食べようと持って帰ってきた「一銭洋食」と「焼きそば」を二人で食べた。

「おいしい」

 富美江は小さな声で言った。

 愛らしい娘だった。



 外の雨は止んでしまったらしい。

 川の流れる音だけが聞こえている。



 明日のこともあるので、早く寝ることにした。

 布団は一揃えしかなく、一寸ちょっと憚はばかられたが同衾どうきんすることにした。

 富美江は年頃にもかかわらず、ためらったりしなかったから。



「ふふ、あったかい」

 富美江が満面の笑みで言う。

 もうすぐ七月だというのに、夜半の雨のせいか肌寒い感じがしていたのだ。

 明かりを消して、彼女に背を向けて俺は寝ることにした。

 すると、しばらくして、ぴったりと富美江がくっついてくる。

 さびしいのだろうか・・・

 痩せているとはいえ、女の軟らかさはあった。

 俺より少し体温が高いのではないかと思えた。



「どうした?」

「耕造さんの背中、あったかい」

「よせよ。変な気分になるじゃないか」

「いいよ。泊めてもらったお礼に」

「いいって…おまえ」

 俺は、彼女のほうに向き直った。



「あたしね、おとっつぁんにされてんの。かまやしないよ」

 一瞬、耳を疑った。

 額面どおりに受け取れば、父親と娘が近親相姦しているということだ。

「ふみちゃん、お前、親父さんと、その・・・やってんのか?」

「うん」

 屈託のない目で頷く富美江。

 やはり、少し足りない娘なのかもしれなかった。



 十四、五のときに酔った父親に犯され、以後、数え切れないくらい母親の代わりをつとめさせらたそうだ。

 拒むと、したたか殴られて、結局無理やり従うしかないらしかった。



「孕(はら)んだりしなかったのか?」

 俺は興味津々で聞かずにはおられなかった。

「赤ンぼ?おとっつぁんは中に出さねぇから」

 どうもそういう知識だけは親から教えられているようだった。



 はからずも、俺は勃起していた。

 俺も二十五だ、商売女との経験くらいはある。

 しかし、こんな年端も行かない娘を手篭めにするのは道義的に躊躇された。

「ほら、硬くなってるやない」

 そう言って、俺の股間をまさぐる富美江。

 目には怪しい、娼婦のような光をたたえていた。



 慣れた手つきで、幼い容貌とはうらはらに、俺の分身を翻弄する。

「大きいね。おとっつぁんより大きいよ」

「そうかい」

 白魚のような細指で、たおやかに茎をしならせる。

 そして体をすばやく入れ替えて、俺の下着を下げた。

「すごい・・・こんなになってる」そう言いながら、

 驚いたことに、富美江は俺を頬張った。

「そ、そんなこと・・・」

「ううん」

 まるで、商売女だ。

 こんな娘がこんなことを・・・父親にそこまでしているのか・・・

 嫌らしい性技を娘に教える父親など鬼畜である。



「俺だって、鬼畜だ・・」

 ふと、口をついて言葉が出た。

「何?」

「いや、何もない。ああ、そんなにされたら、出ちまうよ」

「いいよ。飲んであげる」

「そんなこともしているのか。親父さんと」

「させられるの。でないと叩(たた)かれるから」

「かわいそうに。いいよ、もう口を離してくれ」

「耕造さんならいいよ。あたし飲んだげる」

 なおも口に頬張って、舐め上げてくれるのだった。

 じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ・・・

 顔を激しく上下させて、俺は、温かな富美江の口内で擦られた。

「はっ、だめだ、もう・・・」

 ずばぁっと、濃い種が体の芯を通って富美江の中に吸い取られていく。

「うっぷ」

 富美江は口を押さえて半身を起こし、俺に見えるように、ごくりと音を立てて飲んだ。

「ほら」

 口をあけて見せる。

 この娘はどういう神経をしているのだろうか。

 萎えていく気持ちの中で俺は思った。

「やわらかくなっちゃったね」

「ああ」

 虚脱した俺は生返事をする。

「また、硬くなったらあたしとしてね」

「ああ」

 俺よりそうとう上手(うわて)な様子だった。
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