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情事 1

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 田中和昭は、神保町の書店に勤めているらしい。

 だから、頼めば、江戸落語の本とか、洒落本なんかを持ってきてくれる。

 もともと彼は、浅草の、なんとかいう芸人の追っかけをやってて、楽屋にしばしば来るもんだから、師匠方のお世話をしていたあたしと話すようになったのだった。

 甘いもの好きの和昭は、お土産に錦豊琳の「かりんと」とかを持ってきては、あたしにくれた。

 まだ小山節生とコンビを組む前だった。



 しかし、どうやら、和昭はあたしの体が目当てだったようだ。

 あたしは、自慢じゃないが、ちょっと大きな胸をしている。

 肥えてはいないから、けっこう目立つ胸元だった。

 背が低いのに、胸だけ大きいと、男の人はジロジロ見るのだ。

 かなり年配のお師匠さんまで、あたしの胸に視線を投げかける。

 そんなことは、物心着いたころから平気の平左になってたけれどね。

 学校でも男子の視線を感じたし、電車やバスなんかでも男性の視線を気にしていたわ。



 東京に出てきて、念願の芸人になって、あたしは衣装を選ぶ時、ことさら胸の目立つものを選んで、下品に仕立てた。

 そうすればウケるというのが櫓社長の考えだったからだ。

 最初は、嫌だったわよ。

 でも、そうやって人気を得ていくという割り切りも大切だと思ったの。

 ピンでやっていたときはそれでもよかったけれど、小山と組むようになって、彼が「そういうのは、おいらにゃ似合わないね」とかなんとか不平を言うので、あたしは彼が先輩でもあるし、彼の意見を取り入れてフツーの出で立ちにするようにしたわ。

「話芸」で勝負するんだから、体は関係ないのよね。

 ところが、さっぱり売れやしない。

 鳴かず飛ばずってこのことね。



 和昭があたしのアパートにやってきたのは午後の三時過ぎだった。

 あたしがペディキュアを乾かしているときに、彼がベルを鳴らした。

「開いてるわよ」

 動かずに声だけだした。

 ガタンとドアが開いて、長髪の頭が見えた。

 2DKのアパートメントは広くも使えるし、狭くもなる。

 要は使う人次第ってわけ。

 あたしは後者だけれどね。



「モロゾフのプリンを買ってきたんだよ」

「わお!それ大好き。コーヒー淹れるね」

 和昭がドシンと二人がけソファに腰を落とすと、長い足を組んだ。

「この前来たときは、スーパー落語の会のポスターなかったね」

 あたしはめったに壁にものを貼らないのに、このポスターはよく出来ているのでもらってすぐに貼り付けたのだ。

「それね、あたしの名前も入っているしさ、ちょっといいじゃない」

「へぇ。ほんとだ。小山さんのも」

「だっしょお」

 ペーパードリップを用意して、缶からコーヒーの粉を二杯分、計量さじで入れる。

 ほどなく、お湯が沸いて来た。



 和昭の隣に座って、コーヒーを勧め、もらったモロゾフの箱を開けると、明るい黄色の、ガラスの容器に入ったプリンが二個入ってた。

「これ、好きなんだよねぇ」

「和菓子にしようか迷ったんだけどね」

「ううん。これのほうがいい」

「よかった」



 プリンを食べながら、ひとしきりあって、

「あの子と会ってたんでしょ?」

 低い声で、あたしは訊いてはいけないと思いつつ、訊いてしまった。

「え?あ、ああ」

 バツの悪そうな顔で、うつむいている。

「サクラちゃんだっけ」

「うん」

「結婚するの?」

「いや、そんな話はしない」

「遠慮しなくていいのよ」

 正直、あたしは、彼らが結ばれるなら祝福してやりたいと思っていた。

「なおちゃん、ごめんな」

 そういって、口づけをしてきた。

 あむ…

 長い舌があたしの口の中をかき回す。

 甘いカスタードの味がした。

「あの子の味がする…」

 意地悪く、あたしは言ってやった。

「そんなはず、ないじゃないか」

「ばかね、真(ま)に受けてるの?」

 彼はそれに答えず、ジャージの上から大きめの胸をまさぐってきた。

 乳首が硬くしこっているのがわかる。

 排卵期なのかもしれなかった。

 だいたいあたしのほうから、はしたなくも男を誘うなんて、普段はしない。

 あの子よりあたしのほうがいいって、和昭に言われたい。

 だから、彼のしたいように触らせた。

 もう、あそこはぐしょぐしょになっているはずだった。

 口づけを交わしながら、彼の慣れた手つきで脱がされ、アケビのようなあそこをこね回される。

「あひっ。だめっ、もう」

「すごく濡れてる…」

「あたりまえよ。焦らすんだもん」

 かすれた声で、あたしは答えた。



 あたしは、和昭が最初の男性ではない。

 三人目だった。

 最初の人は、船橋にいたころの同級生で、川口邦雄と言った。

 二人でディズニーランドに行く計画を立てるほど仲が良かった。

 邦雄の家が土建屋さんで、けっこう借金があるとか、近在では有名で、あたしの親が「そんなやつとつき合うな」と猛反対した。

 邦雄が、そのことを知ってか、あたしから遠ざかるようになった。

 結局、二人でディズニーランドに行く計画は実現しなかったけれど、彼の家であたしは結ばれた。

 十七だった。



 二人目は東京に出てからの話になる。

 あたしは、暮らす部屋を探していた。

 不動産屋を数軒当たり、今の押上(おしあげ)のアパートに決まったのだけれど、その時の担当の男性だった。

 親しくなった、あたしも悪いのだけれど、男は妻子持ちだった。

 野村祐希(のむらゆうき)という名刺をもらっていた。

 今も、探せばどっかにあるはずだ。

 フェラチオだの、騎乗位だの、そういう閨房(けいぼう)の術を野村から「仕込まれ」たのだった。

 昔は筋肉質だと、うそぶいていた野村が、当時、ぽっこり出た腹を気にしていたのを思い出す。

 部屋を探して、一緒に見に行く段で、彼の方から「家内がね」とか「息子がやんちゃで」とか話していたのに、その夜に食事に誘われたのだった。

 ノコノコついていったあたしもバカだったけれど。

 お酒もごちそうになり、そのままホテルに連れ込まれてしまい、結局、何度か会うことになってしまった。

「都合のいい女」の、いっちょ上がりである。

 あたしは淫乱なのかもしれなかった。

 野村は、奥さんにバレかけたのか連絡をしてこなくなった。それっきり音沙汰なしである。



 和昭と狭い風呂場でシャワーを浴び、壁に手をつかされて後ろから貫かれた。

 野村は避妊してくれたが、和昭は生(なま)でしたがった。

 所帯持ちとの違いが現れているような気がした。

「はうっ」

 奥をえぐるように、和昭の硬い分身が突きこまれる。

 あたしはカエルのようにタイルの壁に押しつぶされた。

 何度も狭いあたしをいたぶるのだった。

「やん、痛い。やめて、乱暴にしないで」

 そういうのが関の山だけど、そんなことで止めてくれるはずもなく…

 重い乳房が下に下り、和昭の長い指が鷲掴みにする。

「なおちゃん、なおちゃん」

「かずあきっ」

「出すよっ」

「中はだめよ。今日は危ないの」

「わかった」

 はあ、はあ、はあ…

 和昭の喘ぎ声が激しくなり、急にずぼっと抜かれた。

 びゃーっとお尻や背中にほとばしりを感じた。

 ああ、あああ、

 和昭は離れ、あたしはタイルの床にしゃがみこんでしまった。

 まだ膣に何か入っているような感じがした。
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