デラシネ

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デラシネ

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本庄川の河口は、運河が網の目のように走り、どれが本流の河口なのかはっきりしなかった。

 おれは、たくさんある中洲の街、月島つきしまの部落に生まれた。

 父は町医者で、いつも自転車で中洲をつなぐ橋をいそがしく行き来していた。

 食べ物や水が悪いのか、子どもたちはみな顔色がすぐれず、夏でも洟を垂らしていた。

 河口の中洲ゆえ、井戸を掘っても塩水しか出ないような、そんな街だった。



 その年、おれは地元の浦川中学に上がり、そろそろ秋を迎えようとしていた。

 欠食児童の集団のような中学生活は、給食目当てに行っているようなものだった。



 おれはそれでも、父を継いで医者になるように家人からも、周囲の人からも期待されて育った。

 友達も、おれが将来医者になるものと思っているらしく、一定の距離をおきながらも親しくしてくれた。



 クラスに山岡節子という背の高い痩せた生徒がいた。

 男女分けて席が整えられていたが、一番後ろの席でおれと隣りあわせだったという巡り合わせで、言葉をかわすようになった。

 よく休む子で、節子は授業にもついていけず、勉強が遅れがちだった。

 おれは、事情を察して、分かる範囲で節子に勉強を教えてやった。

 呑み込みは早い方で、やればできる生徒だと思った。



「藤野くん、こういう問題は自分で考えてできるもんなん?」

「いやぁ、おれだって、わかんねぇ問題はあるさ。でも、こう考えてみたらどうかな」

 放課後、そうやって二人の時間が楽しかった。

「藤野は山岡にべったりだな」

 と、友人の井上や片岡に、はやされることもあったが、ほかのクラスメイトはおれたちに無頓着のようだった。

 というのも、おれは、よくほかの女子にも教えてやっていたから、特に節子だけ贔屓しているわけではないつもりだったからだ。



「昨日も休んでいたけど、体の具合が悪いのかい?」

 おれは、医者の息子らしく、そういう聞き方を節子によくした。

「藤野くんは、お医者の息子さんだから言うけど…生理痛がひどいの」

「ははぁ」

 おれは、父の真似をして考えこむような顔をしていただろう。

 しかし、考えても「生理痛」がどんなものなのか、中学生のおれにはわかるはずがなかった。

「出血が多いのかい?」

 かろうじて思いついた言葉がそれだった。

「わかんないけど、多いのかもしれないわ」

「ま、安静にするしかないね。ひどいのなら休むがいいさ」

 たよりない「ヤブ医者」である。

 おれは、心のなかで苦笑した。



 夏休みが過ぎて、おれたちはかなり親密な関係になった。

 今ふりかえると、初恋というものだったのかもしれない。

 早くも大人びた節子がまぶしかった。

 話すうちに、彼女が船屋暮らしだということもわかった。

 この辺の大人たちは船屋暮らしの人々を蔑(さげす)んでいたから、おれは複雑な気持ちだった。

 家を持たず、運河に係留した伝馬船で暮らしている人々がそのまま、戦後、本庄川の運河に住み着いたと聞く。

 浦川中にも船屋暮らしの生徒は多数いた。

 だから、さほどめずらしいことではない。

 いつだったか、節子についていって、船屋に近づいたことがあった。

「今は中に入れないな…」

 一艘の伝馬船の前で節子が立ち止まり、そうつぶやいた。

 バタコが岸に横付けされている。

 ※バタコとは倉庫業の連中が荷物を構内で運搬する小型の荷台付き車両である。バタバタとも言われる。



 その船には竹の竿が斜めにまどから出ていてその先に赤いハンカチのようなものが結んであった。

 何かの合図なのだろう。

「どうしたの?」

 おれは訊いた。

「うん、今、母ちゃんがね…ちょっと」

 言いにくそうに、節子が言った。

 すると船の中から女のあえぐような声が聞こえてきた。

 ああん、ああん・・・

 赤子が泣くような声だが、あきらかに大人の女の声だった。

「行こ…藤野くん」

 せかすように節子がおれの手を取って今来た道を戻ろうとする。

 おれは姉に引っ張られる弟のように引かれていった。



 察しのいい人は、もうおわかりだと思うが、船屋の女は客を取って生計を立てているのだった。

 節子の母もそうであり、節子が中学に通えるのも母の生業なりわいのおかげなのだ。



 おれは、しかし心中穏やかではなかった。

 男と女があそこで何をしているのか?

 想像できない歳ではなかったけれど、やはり肝心なところは医者の息子でもわからなかった。

「のぞいてみたい…」

 そんな気持ちがふつふつとわいてきた。

「ねえ、節ちゃん」

「なあに?」

「あそこで、節ちゃんのお母さん、何をやってるんだい?」

 大胆にも、そんなことを口走ってしまった。

「何って…どうしても知りたいの?」

 悲しそうな顔をしておれを見た。

「男の子って、見たがるのよね」

 ひとりごとのように言って、

「じゃあ、少しだけよ」

 また、船屋のほうに連れて行ってくれたのだった。



 そっと、岸から船に架かる板橋をわたって、船尾に取り付く。

 女の声はさっきよりも激しく聞こえた。

 やん、そこ、いい!いいっ!

 そう聞こえた。

 何やら、おれは股間が立ってくるのを覚えた。

 かつて、父の医学書を隠れて開き、女体の写真を見た時のように硬くなる部分があった。



「ここから見えるよ」

 板戸の隙間が五センチほど引かれていて、薄暗い中が丸見えだった。

 白い女の尻が男をまたいで上下している。

 後ろ向きの女は裸で、この人が節子の母親らしい。

 脇から乳房が揺れているのが見える。

 はぁ…

 おれは、情けない顔で食い入る様に見ていたのだろう。

 その時、節子がおれの後ろから抱きつくようにして股間に手を伸ばしてきて、学生ズボンの上からさする。

「硬くしちゃって…」

 耳元で、背の高い節子がつぶやく。

「え?」

「せつないよね。見てるだけじゃ。あたしだって、変な気持ちになるもん」

 学生ズボンのジッパーがゆっくりと引き下げられ、冷たい手が入って来た。

 おれは中を覗きながら、からだをこわばらせていた。

 人に触らせたことのない部分をおれは今、節子にさわらせている。



「藤野くんの、すごい…」

「あ」

「そのまま覗いてたらいいから…あたしがやったげる」

 今、声を出したら中に聞こえてしまう。

 あまりの気持ちよさにおれは、足の筋肉が攣(つ)りそうになった。

 もう、中のことはどうでもよくなっていた。



 節子の手が、硬くなったおれを握って上下にさするのだ。

 やわらかい手、やさしい手、節子の手…

 心臓は割れんばかりに打ち、喉はカラカラだった。

 腰に経験したことのないような感覚が走り、足から崩れそうになり、ついにおれの体に変化が起こった。

 ビシャッ

 何かが自分の性器から飛び出し、船屋の板戸を汚した。

「あ~あ。出ちゃった…」

 何が出たのか、おれにはわからなかった。

 まだ精通を見なかった頃の話だった。

 節子がスカートのポケットからちり紙を出して、しゃがんで始末をしてくれた。

「藤野くんは、こういうの初めてだったの?」

 笑みを浮かべて、ズボンに垂れた白っぽい液体を拭きながら尋ねた。

「ああ」

 おれは照れくさくて、また、自分の体に起きたことを把握しきれてなかった。

「精液」という言葉が節子の口から聞こえた。

 そのことは知っていた。

 知らない間に、おれの体も大人になっていたわけだ。



 脱力してだらりと下を向いた珍棒を晒していたところ、そこも節子に拭かれてしまった。

「はい。おしまい」

 節子がお姉さんのように言って、パンツの中におれを仕舞って、ジッパーを引き上げてくれた。



 帰りの道すがら、節子から、母のいない間に船屋に常連客が来て、さっきしたようなことをさせられ、お小遣いをもらったというような話をしてくれた。

「男の子って、一人でするんでしょ?」

「あ、いや、おれはしない…」

「そうなんだ…藤野くん、あたしのこと軽蔑した?」

「そんなことないっ」

 つい力を込めて言ってしまった。

 節子のことを好きになり始めていたのだ。

 だから、経験がないということを節子に告白することが恥ずかしかった。

 もちろんその日から自分で「する」ようになったのだけれど。



 二年生になって、節子とはクラスが違ってしまったけれど、おれたちは密かに会っていた。

 手でしてもらったり、なんと節子の口でしてもらったり、かなりきわどい関係になりつつあった。



 ある日、船屋には節子の母親が広島に出ていなかったことがあった。

 二人で船屋の一室に寝そべって、船がゆっくり揺れるのに身を任せていたことがあった。

「なあ、藤野くん」

「うん?」

「本当のやり方でやってみよっか」

「本当のやり方?」

「おめこ」

 その言葉を節子の口から聞いても驚かないほどの関係だった。

「いいのか?」

「藤野くんならいい」

「ほかの誰かともうやったのか?」

 おれは、嫉妬心からつい訊いてしまった。

 節子は、船屋の娘である。

 もう客を取っていても不思議はなかった。

「ううん。したことないよ」

「ほんとか?」

「ほんと。最初の人は藤野くんって決めてた」

 はにかむように、節子は下を向いて言った。

 おれは、節子を抱き寄せて、キスをしてみた。

 節子は拒まず、口を差し出す。

 幼稚な接吻が長々と行われた。

 はぁ…

 どちらからともなく、口を離し、節子は目をうるませておれを見ている。

 こんなに間近に彼女の目を見るのは初めてだった。

 節子がスカートをたくし上げ、白いパンツを手で引っ張って下ろしだした。

 白い腹に微かな陰毛に飾られた亀裂が目に入った。

 おれもズボンとパンツを脱ぎ捨てて、また節子を抱いた。

 どちらも上着はつけたまま下半身だけむき出しにしての抱擁だった。

 珍棒が節子の腹をつつき、節子の手が珍棒に伸びて握ってくる。

「ああ、硬い」

「節ちゃん…」

 節子の割れ目はぬるぬるとして、珍棒にまとわりつく。

 彼女のほうが背が高く、股に挟もうと絡みついてくるのだった。

 暖かい肉のひだに珍棒は絡め取られてしまった。

「ああ、藤野くんの、熱いよ」

「節ちゃんのだって」

 節子の胸は柔らかかった。

 ブラウスの上からもみしだき、ブラジャーなるものをつけていないようだった。

 体操着の上にブラウスを着ていた。

「あたしの胸、小さいでしょ」

「そ、そうかい?ちゃんとふくらんでるじゃないか」

「福島さんなんか、揺れるくらい大きいでしょ」

 彼女のクラスにいるぽっちゃりした学級委員のことを言っているのだ。

 男子の間でも、福島佳代子の胸が話題に昇ることがあった。

「胸なんかどうだっていいや」

 おれは、そういって、また胸をもんだ。

「じゃ、やってみる?」

 今日の節子は積極的だった。

「入れるんだよな。節ちゃんのあそこに」

「そうだよ。ほらここ」

 股を開いて見せてくれた。

 窓からの明かりしかない薄暗い船倉での行為だった。

 おしっこの臭いが強くした。

 おれの珍棒はもうへそに付きそうなぐらいに立ち上がっている。

「これを入れるんかい…」

 いよいよ、本式の性交をこれからするのだ。

 膝立ちで節子に近づく。

 手で下を向かせ、節子の匂い立つ花弁に差し込んだ。

 ぬるちゅ…

 熱い肉の鞘におれは押し込んだ。

 あああっ



 先に声を上げたのは節子の方だった。

「痛いのか?」

「すこし…」

「もう入っちまったで」

「ほんと?」

 ぴったりと二人は合わさり、ひしと抱き合った。

 節子の中は熱く、しきりにきりきりと締め付けてくる。

「はうっ。すごい」

「いいのか?」

「藤野くんのがあたしの中に入ってる」

「そうだよ」

 おれは医学書で性交のことをよく調べていた。

 まさにこうやって、女の中に射精すれば妊娠するのだった。

 節子を妊娠させる…

 あってはならないことだった。

 中学生の頭でもそれはいけないことだとわかっていた。

「出しちゃいそうだ」

「だめよ」

「だろ?もう抜くぞ」

「うん」

 幼い二人は妊娠の恐怖におののいてそれ以上のことを中断した。

「そのままじゃ、藤野くんがかわいそうだから、お口でやったげる」

「ああ、ありがとう」

 そう言って、おれは節子に差し出した。

 節子がかぶさって、口に含む。

 また、暖かい闇に珍棒が包まれる。

 節子は口の中に出されることを嫌がらなかった。

「汚くないのか?」

 と訊いても、

「いいの。藤野くんのなら」

 と言ってくれるのだった。

 激しく口淫されると、経験の少ないおれは、すぐに射精してしまった。

 節子は口の中のものを、ちり紙に吐き出し、水飲み場で口をすすいだ。



 こうやって、また一年が過ぎた。

 おれは、県立の高校に入るべく受験勉強に忙しくなった。

 浦川中から県立に進むのは数人しかいなかった。

 ほかは、みな造船所や鉄工所に就職するのだった。

 節子も、もとより進学はあきらめている口だった。

 お互い、合う時間も少なくなり、疎遠になった。

 噂に、節子が客をとっていると聞いた。

 おれは、嫉妬で勉強に手が付かないことがあった。

 でも、節子は所詮、ああいった女になっていくのだろうと、妙に納得してしまう自分がいた。



 今、医者になって父の跡を継ぎ、この街で開業している。

 運河は整備され、船屋はことごとく駆逐された。

 節子母子はどこへ行ってしまったのか、まったく杳として知れなかった。

 遠い、ほろ苦いおれの想い出である。



(終)
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