19 / 21
カーバンクル
しおりを挟む
「小娘よ、足が速すぎるのである……はぁ」
そこへ、走り疲れてくたくたになったマダナイが到着した。
「あ、マダナイ君、遅いよ!」
「小娘が速すぎるのだ。……その腕に抱えておる奴か」
こくりと頷き、マダナイに見せる。
「ふむふむ。こやつは神獣のカーバンクルであるな」
「カーバンクル!? あの幸せを運ぶとか言われてる!?」
「よく知っておるな。そのカーバンクルだ。人間の手によって乱獲され、絶滅したと言われていたが」
「そっか……」
ファンタジーではありがちな話だが、実際目にすると気分が落ち込む。
「小娘。お前がそのような顔をする必要はない」
「まぁ、そうなんだけどね……ところでさ、ボクって全属性の魔法が使えるんだよね?」
女神の手によって、全属性の魔法が使えるようになっているはずだ。
「何を当り前のことを」
「だって、まだ使ったことがないから実感がないんだよ。でね、この子の傷を治してあげたいんだ。ボクにできるかな?」
先ほども言った通り、大きな傷はなかったが、小さな傷は所々にできていた。その傷を治してあげたいと思ったのだ。
「可能である。魔法はイメージが重要になるのである。しっかりと傷が治るイメージを持つのだ。そうすれば、詠唱なしでも発動できる。イメージがしやすいのであれば、詠唱しても構わん」
詠唱って言ったら「ヒール」、だよね。でも、いざ自分が言うとなると少し気恥しい。
イリスは詠唱せずに実行に移すことにした。カーバンクルの身体に手を翳し、傷を治すイメージを強く持つ。すると、見る見るうちに傷は癒え、毛艶もよくなった。
「わぁ、本当に治ったよ」
「まさか、本当に無詠唱で発動するとは……」
「? 何か言ったかい?」
「な、何でもないのである!」
どうやら、無詠唱で発動するとは思わなかったらしい。イリスにはバッチリ聞こえていたが、あえて聞いてみたのだ。
「ん……んん……」
と、不意に腕の中のカーバンクルが身じろぎし出した。
「おや、目が覚めたかい?」
「うん。……ん? あれ、オークは?」
きょろきょろと辺りを見回し、カーバンクルはオークがいないのを不思議がる。
「ボクが倒したよ。ついでに怪我も治しておいたからね!」
「そう言えば、どこも痛くない……ありがとう、お姉ちゃん」
ふわりと花が綻ぶように笑うカーバンクル。その姿に、イリスは骨抜きにされそうになるのを堪える。
「ふふっ、ボクはイリスだよ」
「吾輩の名前はマダナイである」
「まだ、ないの?」
やはりマダナイは、勘違いしそうになるような自己紹介をする。
「違うよ。マダナイ、っていう名前なんだ。ややこしいよね」
「……ややこしい」
「失礼である!」
後ろ足をタシタシと踏み、怒りを表現するが、イリスにとってはただ可愛いだけのご褒美だ。
イリスは腕の中のカーバンクルに目をやり、これからどうするのかを尋ねた。
「お姉さんからは、神様の匂いがする」
「神様の匂い?」
首を傾げると、マダナイが教えてくれた。
「鼻が利く神獣ならば、それくらいは嗅ぎ分けられるのである。イリスの身体は女神様が創った肉体。匂いがして当然である」
カーバンクルは、クンクンと、イリスの首元やら耳やらを嗅ぎまくる。
くすぐったいのを堪え、イリスはカーバンクルの好きにさせた。
そこへ、走り疲れてくたくたになったマダナイが到着した。
「あ、マダナイ君、遅いよ!」
「小娘が速すぎるのだ。……その腕に抱えておる奴か」
こくりと頷き、マダナイに見せる。
「ふむふむ。こやつは神獣のカーバンクルであるな」
「カーバンクル!? あの幸せを運ぶとか言われてる!?」
「よく知っておるな。そのカーバンクルだ。人間の手によって乱獲され、絶滅したと言われていたが」
「そっか……」
ファンタジーではありがちな話だが、実際目にすると気分が落ち込む。
「小娘。お前がそのような顔をする必要はない」
「まぁ、そうなんだけどね……ところでさ、ボクって全属性の魔法が使えるんだよね?」
女神の手によって、全属性の魔法が使えるようになっているはずだ。
「何を当り前のことを」
「だって、まだ使ったことがないから実感がないんだよ。でね、この子の傷を治してあげたいんだ。ボクにできるかな?」
先ほども言った通り、大きな傷はなかったが、小さな傷は所々にできていた。その傷を治してあげたいと思ったのだ。
「可能である。魔法はイメージが重要になるのである。しっかりと傷が治るイメージを持つのだ。そうすれば、詠唱なしでも発動できる。イメージがしやすいのであれば、詠唱しても構わん」
詠唱って言ったら「ヒール」、だよね。でも、いざ自分が言うとなると少し気恥しい。
イリスは詠唱せずに実行に移すことにした。カーバンクルの身体に手を翳し、傷を治すイメージを強く持つ。すると、見る見るうちに傷は癒え、毛艶もよくなった。
「わぁ、本当に治ったよ」
「まさか、本当に無詠唱で発動するとは……」
「? 何か言ったかい?」
「な、何でもないのである!」
どうやら、無詠唱で発動するとは思わなかったらしい。イリスにはバッチリ聞こえていたが、あえて聞いてみたのだ。
「ん……んん……」
と、不意に腕の中のカーバンクルが身じろぎし出した。
「おや、目が覚めたかい?」
「うん。……ん? あれ、オークは?」
きょろきょろと辺りを見回し、カーバンクルはオークがいないのを不思議がる。
「ボクが倒したよ。ついでに怪我も治しておいたからね!」
「そう言えば、どこも痛くない……ありがとう、お姉ちゃん」
ふわりと花が綻ぶように笑うカーバンクル。その姿に、イリスは骨抜きにされそうになるのを堪える。
「ふふっ、ボクはイリスだよ」
「吾輩の名前はマダナイである」
「まだ、ないの?」
やはりマダナイは、勘違いしそうになるような自己紹介をする。
「違うよ。マダナイ、っていう名前なんだ。ややこしいよね」
「……ややこしい」
「失礼である!」
後ろ足をタシタシと踏み、怒りを表現するが、イリスにとってはただ可愛いだけのご褒美だ。
イリスは腕の中のカーバンクルに目をやり、これからどうするのかを尋ねた。
「お姉さんからは、神様の匂いがする」
「神様の匂い?」
首を傾げると、マダナイが教えてくれた。
「鼻が利く神獣ならば、それくらいは嗅ぎ分けられるのである。イリスの身体は女神様が創った肉体。匂いがして当然である」
カーバンクルは、クンクンと、イリスの首元やら耳やらを嗅ぎまくる。
くすぐったいのを堪え、イリスはカーバンクルの好きにさせた。
73
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる