上 下
8 / 24
新しい章

白いマントと白いブーツ

しおりを挟む
その時、俺は確かに見たんだ。

白いマントの背中を。


あれは、勇者だった――――――――。


















背中の重みが消える。
俺の目の前に着地する、白いブーツ。

上を見上げると、キラキラと光る黄金の髪が目に留まった。


鋭い刃が銀色にぎらぎらと輝いている。
振りかざされた刃に驚いて目をつむると、俺の体は軽くなった。

巻き付いていた両腕のツルがハラリハラリと舞い散っている。
光沢感のある、白いマントにブーツ。


「ゆう…しゃ」




薄暗かった目の前は、一筋の光から広がり、優しい白い光りに包まれていく。
暖かい光の中で、低く優しい声が何か言っている。

眩い光に目が霞む。
恐ろしいくらいにどんどん、どんどん周りが明るくなり、明るさであたりが見えなくなっていく。
白い光に目が侵されそうだ。




まばゆい光から逃げるように、目を腕で隠す。

光の中で、上質な白いグローブを付けた手が伸びてくる。


















と、いうわけで。
俺は伸びてくる手に背を向けて一目散に逃げた。

「勇者なんかに会ったら、一瞬で殺される…」


―――だって俺は、レベル3。


もちろん、勇者に事情を話して『俺が元は人間で、転生してきてモンスターになっちゃったから
人間に戻るために一緒に魔王を討伐しに行ってくれ』とか、
『俺は勇者になりたいんだ』『お供します』とか、いろいろ口では言える。

しかし、先ほど自分が転生したかもしれないと気づき、
さらにインキュバスかもしれないこと
自分の能力すらも理解していないことから推測すると
勇者とパーティーを組もうにも、リスクが高すぎる。

第一、勇者と会話できるかすらもわからない。
魔王を倒すと、モンスターである俺が消える可能性もある。
どんな社会かわからないうちは、下手に行動せず情報を得るのが先だ。

「さっきのはやっぱり勇者、だよな?」


自分がモンスターである以上、勇者は敵だ。
勇者からしても、俺は敵であることに変わりない。
同族のモンスターにすらも、やられそうになっているわけで、
敵である勇者にあったりなんかすればきっと…。


「しゅ、瞬殺…」


―――おお、神よ!こわ!よく生きてた、俺!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...