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始まりの扉

俺vsゴブリン

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「―――け、獣以上の出た!!!!!!!!!!!!!!!」
おもわず叫び声が出る。



ーーーーゴ…ゴブリン?!


出した大声とともに、驚きで大量の冷や汗が出た。
初めてゴブリンを見た感動と恐怖で、口を開けたまま遠い物体に目を凝らしてしまう。

ーーーー本物初めて見たー!つーか、ゴブリンっているんだっけ?!実在する生き物だっけ?!

夢か現実化は二の次として、まじまじと緑色の人型に目を見張る。
人形ではあるが、腕や脚、二の腕や太ももが異常に発達している。盛り上がった筋肉がゴツゴツと岩のように固そうだ。

「あ…、早…」

思わず上げてしまった大きな声で、居場所を察知したのか、ゴブリンは疾風怒濤のスピードでこちらぬ向かってくる。
「やばい?」
呆けている俺とは対象的に、へぐんぐんとゴブリンは距離を詰めてくる。

――――と、とにかく、逃げろ!!!

趣味の悪いエナメルのブーツ。
慣れない脚に履かされたヒールに慣れない脚は、一瞬もつれそうになる。
とにかく必死で脚を上げて走った。
本能が叫ぶ。

―――捕まったら、

脚が絡んでコケる想像をしてしまう。
履いたこともないヒールで、全速力に走る。
不安で自身が無い。

それでも必死で走る。岩は濡れているため、つるつると滑り、足場が悪い。

カツカツと岩に当たる靴底。
かかとを上げて、つま先だけでひたすら走る。



俺の思考など、お構いなしにどんどんゴブリンは距離を縮める。
必死で走っても、ハンデと筋力の差か、シタッシタッという足音は近づいてくる。


ーーーやばい、食われる!殺される!!!


時折、生乾きや腐卵臭の香りが鼻を掠めた。
ゴブリンを背にし、今まで仕事でも出したことのない力強さで足を踏ん張り走った。

それでも、ゴブリンの脚力は強く、早い。





―――追いつかれる

『おい!お前!そんなこともできないのかよ、またミスして』
ゴブリンの荒い息遣いを耳にしながら前だけを見て必死で走った。頭の中で、職場の上司の声が流れる。


「やべぇ…走馬灯が流れてくるぅ~!!仕事~ゴブリン~?!なんなんだこれぇええええ」

叫びながら最後の力を振り絞りゴブリンからひたすらに逃げる。
薄暗くただただ直線の洞穴の中。
どこか角になっている場所や死角を探しながら走るも直線しかない。


―――あぁ。俺、こんな死ぬかもしれない間際でも会社での苦しかった記憶思い出しちゃうんだ…。
どうせなら、もう一度恋人の手料理食べたいとか、膝枕して欲しいなとか、そうゆうあま~い幸せなこと思い出したかった…。

「うっ…!思いつかねぇええ!童貞だから恋人とのエロい思い出もねぇえええ」


やけくそに叫びながらただただ、まっすぐに直線を走り、ただただゴブリンに追われる。
叫んだおかげか恐怖が緩和される。
叫んで確かに足取りは重くなっているが、不思議と息が上がらない。

ーーーいけるかも。
と思ったのもつかの間。

ゴブリンが俺の真後ろに。



ーーーまずい。腕を伸ばされたら…



青ざめたところでピタリとゴブリンは立ち止まった。
「わ…よ、よかっ」

―――よかった。




しかし、横目で見ていたゴブリンの影が消えた。
こともあろうか、ゴブリンは俺の目の前に現れたではないか!

そう、ゴブリンは俺の後ろで俺を跨ぐように飛び跳ね、俺の頭上を通過したのだ。
頭上を通って俺の目の前にゴブリンは立ち塞がった。


ーーーーぜ、絶対絶命…!



緑色の皮膚の隙間から見える茶色の目と目が合う。にじり寄るゴブリンが手を伸ばせば届きそうな場所で立ち止まる。

「ーッハァッハァ…ッフーッハー…ッ」



―――な、なんだ、このゴブリン息が荒…


ゴブリンから青い草の香りがする。
雨と草の香り。そして、混じるように土の香り。
よく、雨の昼休憩に傘を指してコンビニに向かう時に嗅いだ懐かしいような、泥臭い香り。


ゴブリンの手が伸びてくる。



ーーー死ぬ前に、…SEX…してみたかったぜ…





腰がすくんで動けず冷たい岩の冷たさを感じ、ゴブリンの爪が自分の目の前に向けられるのを覚悟した瞬間だった。






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