夢や恋だけじゃヤダ。

暖鬼暖

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マイクを手にし、舞台中央に立つ瞬間にいつも身震いする。
ほぼ毎月呼ばれる歌番組。

「うちもだけどさ、ここも随分速いスパンで新曲を出すよね。他に呼べるアーティスト、いなのか?」
後ろから嫌味の声がかすかに耳に触れた。

―――ただの仕事だ、毎回やってる。
それでも慣れることがない、この緊張感、俺が感じている以上に俺はそれだけ真剣なのかもしれない。

曲が始まると同時に闇を切り裂く一筋の光。
ステージを照らす光に緊張感をかき消される。
冷える汗、冷える心。
俺はただ歌っていただけだった。

曲が始まれば、時間が止まったかのように感じる。
会場の静けさ、期待に満ちた観客の視線、そして俺を包む舞台の煌めき。

暖かい光が肌をやさしく撫でる。
俺の視線はなだらかに観客を見つめ、観客は俺を見つめる。
音と心臓の鼓動が一体となり揺れ動く。

マイクを握り、自信のあるそぶりをする。
指先をリズムに合わせ絶妙に動かす。
魅力に引き寄せられる観客との中からふと、熱い視線を感じた。



彼が、俺を、見ているのはわかった。
知っている。あの目線を、俺は。
彼の隣でひじをついて俺をつまらなそうに眺める男とは違う目線だ。

『いいよ、欲しいなら』
懐かしい思い出を、思い出して歌う。
悲しいこと、うれしいこと、くるしいこと、つらいこと、笑ったこと、はしゃいだこと…。

隣に座っていた、綺麗な瞳が俺を見ている。
歌う俺を熱狂的に見る、童顔で長身の男。
きっちりと綺麗にまとめられた髪。

ーーーなんなんだ、出番は終わっただろ。楽屋に戻れ。

キラキラと輝く星のような点々としたライトに包まれていく。
その光が俺を一層輝かせる。
力強く、情熱的に、観客に向ける愛と感謝の表現。
高らかに歌い上げる曲と、流し上げる瞳。
わざと横を向いて目線をカメラにゆっくりと流していく。

―――アイツも、俺を見ている。










 
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