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第6話 「消えた小屋」
しおりを挟む男は元の街から赭坂の村に戻り、赭坂と火の坂の関連性を追求する決意を固めていた。
村の中腹にある老婦人の家は男の重要な拠点となっていた。
「え…なんで」
しかし、男が村に戻りその場所に到着したとき、彼は驚くべき光景を目にした。老婦人の家がそこにはなかったのだ。
「ない…?」
男は戸惑いながら周囲を見回したが、小屋の痕跡も何も残っていなかった。かつてそこに立っていたはずの家が、まるで存在しなかったかのように消え去ってしまったのだ。
心配と不安が彼を襲った。
――――いったい。どうゆうことだ?私は赭坂に戻ってきたんだよな?別の、村ではないはず…。
男は混乱し、中腹を越え山を歩き始め、火の坂の近くにある、とある場所を目指した。彼は山道を進み、自然の中での静寂と一体感を感じながら歩き続けた。
やがて、男は火の坂の近くに到着した。その周囲には様々な草花や木々が咲き誇り、穏やかな風が心地よく吹き抜けていた。
しかし、何かが違うと男は感じた。火の坂の近くにいるはずの村の人々の気配や喧騒がないのだ。
男は周囲を探し回り、赭坂の村人たちが消えてしまったような光景に遭遇した。
驚きと戸惑いが心を覆いつくす中、男は山の中をさらに探索することにした。男は赭坂の村人たちがどこに行ったのか、そして火の坂との関連性についての答えを見つけるため、不屈の意志を持って山を進んでいった。
三時間ほどが経ち、男は山岳地帯の深い奥深くに辿り着いた。そこには草木や岩々が茂り、未開の自然が広がっていた。
男は息を切らしながら進み、小さな川を渡った先に、一軒の小屋を見つけた。
小屋は見た目はさびれた状態だったが、男にはなんとなく知らない者が住んでいるのではないかという予感があった。
男は小屋のドアをそっと開けると、そこには老婦人が佇んでいた。
「あなたは…」男が驚きの声を漏らすと、老婦人は微笑みながら男に向かって歩み寄った。
「――――――」と老婦人は静かに語った。
しかし、男は老婦人に言葉が聞き取れなかった。
混乱した思いで言葉を探し、思考では赭坂の村人たちの安否や火の坂の真実について老婦人へ尋ねようとするが言葉がでなかった。
老婦人は男性の戸惑いを見つめ、穏やかに微笑んだ。
「火の坂は人々の内なる変容をもたらす場所。自分自身の中に眠る可能性を探求して、お願い」と老婦人は言った。
男は深い呼吸をし、「おばあちゃん、どうしてここに?どうゆうことですか?」と言うと、老婦人はニコニコとして、小屋の中へ消えていった。
男は恐ろしくなり、元来た道を戻ることにした。
自分の臆病さに悲しくなりながら。
***
それでも男は老婦人が気になっていた。
―――どうするか、戻るか。
男は何度も自問自答した。
男は車に乗りこんでからも頭を抱えた。
しかし、突然、男の車の窓が強く叩かれる音が響いた。男は驚きと恐怖に顔を歪め、一瞬の間が生じた。
男は自動車の窓に向かって覗き込むと、知らない大柄な男が獰猛な表情で男を睨みつけていた。恐怖が男の全身を駆け巡り、ドライブに切り替えようとする手が汗をかく。
エンジンの轟音が耳を埋め、男は命からがら逃げるように車を走らせた。男の心臓は激しく鼓動し、汗が額から滴り落ちる。
車が曲がりくねった道を突き進む中、男は振り返ることができず、ただ必死に前を見つめた。男は知らない大型な男が何を望んでいるのか分からず、ただただ逃げ続けることしか考えられなかった。
「道?!こんなに入り組んでいたか?!」
恐怖と不安が男の頭を支配し、時間がまるでゆっくりと進むかのように感じられた。
途中、男は何度も曲がり角を駆け抜け、路地や山道を利用して振り切ろうとした。しかし、知らない男は執拗に男を追い続け、車の窓ガラスを叩き続ける音は絶えることがなかった。
男は自分自身に向かっている脅威を乗り越えるために、全身の力を振り絞った。逃げることしか考えられず、生命の危機を感じながらも最後まで車を走らせ続けた。
長い追跡の末、男はついに村の外に脱出することができた。知らない男の姿は男の視界から消え、男は一安心した。
男は車を停め、大きく息を吐きながら周囲を確認した。街灯の明かりが男の顔を照らし、心臓の鼓動が次第に収まっていくのを感じた。
しかし、男はまだ安心することができなかった。あの大柄な大男がどこから現れたのか、そしてなぜ、「なぜ、私を襲ったのか…」
恐怖で男の息は荒くなっていた。
男は必死に息を整えようと意識して呼吸を続けた。
男は恐怖を抱えたままであったが、警察に連絡することにした。
「ひゃ、ひゃくとうばん…」
男の声、指は震えた。
男は隣町で宿をとり、眠ることに決めた。
***
翌日、男は赭坂の村に警察に向かい事件の報告をするために車を走らせた。
しかし、男性が警察署に到着すると、そこには静寂と寂しさが漂っていた。古びた建物は荒れ果て、数十年も前から使われていないように見えた。
男は戸惑いながらも中に入り、受付の窓口に向かった。しかし、男が話しかけても誰も応答しないのだ。部屋は完全に無人であり、男の声は空虚な派出所にただ消えていくだけだった。
心細さが男を襲い、警察署を後にした。
赭坂の村に戻り、男は自分の住まいの近くまで戻ると、男は驚くべき光景に出くわした。村全体が廃墟と化し、人々の生活の痕跡は何も残っていないのだ。
男は見覚えのある場所や建物を探しながら歩き回ったが、そのどれもが風化し、過去の栄光を失ったまま立ち尽くしているだけだった。
誰もが村を去り、赭坂は危険な場所として人々から避けられていたのだ。
「うそだ…どうゆうことだ」
男は絶望的な気持ちで思いをめぐらせながら、過去の出来事や赭坂の謎を解明することがますます困難になったことを悟った。
次に取るべき行動を考える間、男は思い出に浸った。
男は火の坂の光景や赭坂の村人たちとの会話を回想し、「あれは現実であった」と感じた。
赭坂の村からもう少し車で山を降りると派出所があり、警察官がいたことを男は思い出した。
心細さを感じながらも山を降りていった。男が記憶していた通り、山道の先に、古びたがまだ使われている派出所があったのだ。
男はほっと胸を撫で下ろし、急いで派出所に向かった。扉を開けると、中には警察官が机に向かって座っていた。
「おや、どうしたんですか?なにか用ですか?」警察官が男に向かって尋ねた。
男は安堵のため息をつきながら、追い詰められた状況や自分が襲われたこと、そして村や警察署の寂れた状態について説明した。
警察官は興味深そうに男の話を聞きながら、眉をひそめた。
「確かに、最近は赭坂に人々が住んでいるところはほとんどありません。もう人は…いないんじゃないかな。危険な噂も広がっているようですが、具体的な情報はありませんね」と警察官が言った。
男は警察官に事件の報告をし、自分がなぜ追われたのかや赭坂の謎について尋ねた。
警察官は考え込みながら少し考え、男に向き直った。
「赭坂の謎や事件については、長い間誰も関心を持っていなかったようです。しかし、最近ではそうした噂が再燃してきたんですかねぇ。ネットも普及したし、人もいないから。この辺。みんな奇妙に思うよね。もし、本当に赭坂に何かあったなら、あなたの話は重要な手がかりになるかもしれませんね」
警察官は「まぁ、いちを山、調べてみるけど…」と男に言った。
「お忙しいのにすみません。なにしろ怖かったもので…」
「あぁ、いいのよ、いいのよ暇ですから。散歩がてらに見回ってみます。被害届、出します?」
*******
「しっかし、人が来るとはな~、あの人顔真っ青だったな」
男が派出所を後にすると、警察官は男の赭坂についての話を思い返していた。
「数ヶ月前にはあった赭坂の人たちが消えた…か」警察官も赭坂の謎について考え込んだ。彼は男の話に興味を持ち、真相解明のために自分自身でも調査を行おうと考えたのだ。
「まぁ、暇だしね」
警察官は山道を歩きながら、男との会話を思い出した。
―――赭坂の村人たちが消えて、村や警察署が荒れ果てていることに困惑を覚えていた。よな?でもあそこって…。
心に疑問を抱えながらも、警察官は山を登り続けた。自然の中での静寂と不安が彼を包み込みながら、彼は何かを探求しようとしていた。
やがて、警察官は村から見える火の坂を目指し、足取りを速めた。
―――火の坂かぁ。本当にそんなもんあるのかな。人はいるっぽいけど…。
しかし、彼が火の坂の近くに到着すると、何かが違うことに気づいた。
彼の目の前には何もなく、村人たちの姿や火の坂の存在さえはやはりなかったのである。
「こりゃあこんなと住めないっしょ…絶対人はいないわ」
警察官は驚きと恐怖を抱きながら周囲を見回すが、何も見つけることはできなかった。山々は静まり返り、ただ風が寂しげに吹き抜けるだけだった。
「おーい、誰か住んでますかー!」
彼は声を大きく出して呼びかけるも、その声は返事なく消えていくだけだった。
「いやぁ、いないと思うんだよな。俺もここまで管轄しろとは言われたことないし、一人くらいいるんじゃないかと思ってたけど…なんもないじゃん」
不安と絶望が警察官を襲い、彼は自分が独りきりであることを痛感した。
「うわぁ~なんかこぇえ」
次第に、警察官の心は不安定になっていった。彼の思考は迷いに満ち、恐怖が彼を包み込んでいく。
「え?」
そして、警察官自身も消えてしまった。彼の姿は山の中で失われ、跡形もなく消え去ったのだ。
何が起こったのか、なぜ警察官も消えてしまったのか、誰にも知る由もなかった。
****
「え…?」
「あ~なんかいなくなったんだよ。探してるんだけどね。で、僕が代わりに寄越されたの」
男はあの警察官がいなくなったことを知った。
「やんなっちゃうよ~めちゃくちゃ田舎じゃん」
男は心に不安を抱えながらも、派出所を後にした。
赭坂の隣村へと滞在していた男は、村人たちに警察官の行方について尋ねることにした。男は不安と緊張に包まれながら、一人ひとりの村人に話しかけた。
しかし、男が警察官のことを尋ねても、村人たちは首を傾げるばかりだった。
誰もが警察官の存在や彼が消えたことについて知らないかのように振る舞っていた。
「いやぁ、お世話になることないからねぇ」
男は困惑しながらも、村人たちが何かを隠しているのではないかという不信感を抱きながら、さらに探求を続けた。
男は村の情報源や資料を探し、再度日中の明るい中、赭坂へ出向いて山へも登った。火の坂へ向かってみたが、警察官の行方についての手がかりは、何も見つけることはできなかった。
警察官の一件からしばらく経った頃、男は赭坂にまつわる不思議な出来事が数十年前にも起きていたことを知った。
男は、あの日記を読み進めていたのだ。
その中には人々が突如として姿を消すという類の事件が書かれていた。
男は日記からも警察官が消えたことと、過去の事件が関連している可能性を感じた。
過去の出来事と現在の出来事が似ていることから、村人への聞き取りを男は続けた。赭坂で自分が住んでいた部屋はそのままであったため、男は隣の村で小さな一軒家を借りた。
聞き込みを続けていくと、男は村の人々からの不審な反応や情報の欠如に困惑した。
しかし、どんなに尋ねても、彼は警察官の消失について何も手がかりを得ることはなかった。
「またこのパターンだ…赭坂で人がいた時も、みんな濁すようだった。そういえばこの辺りは赭坂にいく前に迷い込んで、赭坂の聞き込みを最初にした土地だったけど、みんな『赭坂なんか無い』っという口ぶりだったな…」
***
ある日、男は再び宿をとっている赭坂の隣村の中心部に足を踏み入れた。
人々は日常の営みを続けているように見えたが、その目には何か不穏な光が宿っているように見えた。
男は商店の一人ひとりに近づき、警察官の行方について尋ねたが、やはり同じ結果であった。村人たちは無関心そうにしていたり、あるいは戸惑った表情を浮かべているだけだった。
男の心は深い不安に包まれた。
「こんなことしていて、何になるんだ…」
警察官がいなくなったことは明らかな事実であり、彼の存在が村人たちから忘れ去られてしまったのではないかという疑念が頭をよぎった。
男は思考が混乱し、言葉も出てこないまま、村の風景を見渡した。
隣村は栄えているとは言えないが、確かに息をしている。
この村よりもかつて賑やかだった赭坂が、いつの間にか不気味な静寂に包まれている―――。
「なぜ、なぜだ…日記にも、発展した村だったって、どうして誰も知らずに消えるんだ」
男は声を震わせながらつぶやきました。
男の心は驚きと絶望に満ち、何か不可解な力に支配されているのではないかという恐怖が心底から湧き上がってきました。
「でも、でも私は見たんだ…!」
―――存在が消され、真実が隠されている。
警察官の消失、村人たちの忘却、そして赭坂の謎―――。
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