寝ても覚めても石に漱ぎ、流れに枕す

潮野 ノセ

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はじめに

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 「天狗さんにお礼言っときや」

 この言葉は親や近所の大人から1番よく言われた言葉かもしれない。

 自分の生まれ育った町では「天狗さん」という言葉がよく使われている。
 小さい頃から親、近所の人、祖父母の口から出てくるその言葉に慣れすぎて、それが独特のものだと知ったのは町を離れてしばらくしてからだった。

 町の人以外に、天狗さんをなんと説明すれば伝わるのか、、自分には馴染みすぎて難しいけど、1番近いのは妖精?のようなイメージだろうか。
 いや違うか。フワフワはしているしイタズラ好きだが決してティンーベルみたいなキラキラ感はない。見えはしないが、小さかったり大さきかったりたくさんいるようだった。

 (自分の体験ではっきり天狗さんを感じたことも何度もあるけど、)よく聞いたのは、神棚や仏壇の水が減っていたり増えていたり、お供えのお酒やお菓子が減っていたり、無くしたお金や鍵が目の前にあったり、あとは飛んで行った洗濯物が戻ってきたと言うのも聞いたことがある。
 
 天狗さんが住んでると言われる家もあって、特に目に見えて何が違うと言うこともないけれど、商売が代々続いている家なんかは当然、お酒やお菓子のお供えものは絶対に切らさない。子どもが産まれたらその後は子どものお菓子やジュースなんかもお供えものに加えるのはやっぱり当然のことだった。

 近所の天狗さんがいる家は大きくて、みんな健康で長生きだったから守られていたんだろうな。
 自分の家には天狗さんは住んでなかったけど、町の外に出てよく思うのは町全体を守ってもらってたんだなということだ。

 いくら郊外とはいえ、三輪車や自転車、車は走っている。でもとにかく交通事故は聞いたことがなかった。小さい町ではあれど、もちろん大きな道路も信号もある。田んぼも多いが車は頻繁に走っているし、学生の自転車はすごいスピードで走って行く。
 事故と言うものは起きる時は起きるものだが、実際に自分も混み合った駐車場、細い道、学生時代にビュンビュン飛ばした坂道でも危ない目にあったことはなかったし、友達から聞いたことも見たこともなかった。
 
 そんな生まれ育った町で就職して、転職で町の外へ。1人暮らしのマンションには神棚も仏壇もなくて、お供えものもお酒もしてなくて。
 実家から出たからだろうけどいい歳をして、とにかく寂しい。交友関係も広がって仕事終わりに飲みに行ったりもしているが、なんとなく1人が寂しい。ついつい人を連れ込んだりして1人きりの夜にならないように手を尽くしていた。
 
 そんな毎日に満足まではいかないものの、そんなに不満もなかった。
 ただ、今またその生活に戻るのはちょっと嫌だなと思うほどには良い変化がぬるっと起こった。
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