上 下
5 / 7

【5】《スキル・クリエイト》

しおりを挟む
ノイエは、しばし考え込んだ。
声の主は、自らをあの力のナビゲートシステムだと言った。
額面どおり受け取れば、あの力の説明書のようなものが案内役として擬似的な人格を得た…ようなものだろうか?
名前をオフィーリアといった彼女(たぶん彼女で合っている…と思う)は、ノイエが力を得たときに、その力の使い方を教えてくれた後は、ノイエがいくら呼び掛けても応じることはなく、今の今まで沈黙を貫いていた。
その彼女が、ルムドフの門が開き始めると同時に再び口を開いたかと思うと、とにかくこの場から離れろと言う。
以前とは違う彼女の様子を訝しみながらも、ノイエは既に8割ほどが開け放たれたルムドフの門から目を離さない。

いや、離せない。
確かに、オフィーリアの言うとおり、これは何かがおかしい。異変の正体を掴めないまま、ノイエはアイリーンに意識だけを向け
「団長!何か嫌な感じがします。みんなに援護を…」
と声を掛けたとき、彼女は既に行動に移っていた。

右手を空高く掲げ、目を閉じて精神を集中する。
すると、次第に黄金色に輝く光の粒子が彼女の周りをふわふわと漂い始めた。
そして、アイリーンの身体の周りを巡る光の粒子が奔流となってうねり始めたころ、彼女はゆっくりと目を開け、天に伸ばした右手を強く握りしめた。
すると、彼女のその行動に呼応するように、天空から降り注ぐ光の槍が彼女の周りに突き刺さる。
その数、4。
それを見たノイエは密かに感嘆する。
アイリーンが初めてこの能力を使ったとき、その場にノイエも立ち会っていたが、1本の光の槍が大地に突き立った!…かと思うと、アイリーンが気絶してぶっ倒れてしまい、ノイエを大いに慌てさせた。
たが、たった数ヶ月でアイリーンはこの能力を完全に自分のものにしたようだった。

アイリーンが起こしているこの現象は、《スキル》と呼ばれる異能力である。
《スキル》とは、その人間の能力の限界、それを超えた先にある力や現象を実現する力。
通常、人間は自らの能力、適正、潜在する力、能力の限界など、生きる上で最も重要な自分の可能性すら知ることができない。
だが、稀に自分の能力や方向性を正しく理解しつつ、潜在する力を引き出し、自己の限界まで能力を高めることのできる人間が存在する。
そして、限界まで自己を鍛えた者のみが立ち入ることを許される領域、つまり限界を超えた先の力。
その力を具現化し、自己の意思で顕現させることができる能力、それが《スキル》である。
しかし、《スキル》は限界まで能力を高めたからといって必ず習得できるものでもなければ、自分が望む形の《スキル》を習得することができるという保証があるわけでもない。
極端な例を挙げると、毎日斧を振るう木こりが、一振りで兵士10人をなぎ倒す戦闘技能を身に付けることがあれば、剣に一生を捧げ、戦場を舞うように駆け抜ける剣士が、全く意図しない失われた伝統舞踊の舞を会得してしまうこともある。
元々の習得の困難さに加え、自分の生き方と真逆の能力が顕現することも珍しくない《スキル》が、次第に人々の関心や記憶から消え去ることは、至極当然のことだった。

だが、アイリーンは《スキル》を行使する。
自分が置かれている指揮官としての能力を最大限に発揮することのできる《スキル》を。
そして、このアイリーンの《スキル》は、自己研鑽の末に偶然に習得したものではなく…

ノイエが《創造》してアイリーンに授けたものであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たすくもん~千と律、悪夢の館

流城承太郎
ファンタジー
「どこだ、ここは」 同心、飯岡黒羽左衛門(くろうざえもん)は目を剥いた。 一日の仕事を終え、組屋敷の自宅に戻って刀を置き、さて一風呂浴びようかと思い、廊下に出た……。 人外に愛される隠れ剣豪、飯岡黒羽左衛門の往きて帰りし異世界冒険譚。 全4話短編完結済み。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

キングゼロ 〜13人の王〜

朝月 桜良
ファンタジー
いつものように気になった女子に告白した真理は、ある日の学校からの帰宅途中、異変に襲われて気を失ってしまう。 意識を取り戻した彼は、謎の声から告げられる。 ──お前は選ばれた。 世界を治める王を決める、王同士の戦いキングゼロ。 その戦いに選ばれた彼は深く考えず、参加を了承する。 そして名乗る──シンリと。 次に目を覚ました場所は見知らぬ土地。 そこは何と異世界で……。 シンリは長く続いている過酷な戦い、キングゼロに新たな13人目の王として巻き込まれていく。 待ち受ける他の王達との激戦。 キングゼロはいつ、どうして始まったのか。 なぜシンリが選ばれたのか。 様々な謎が、解かれていく。 『王』道バトルファンタジー、開幕! かなりの長編小説となります。 読まれる方はお覚悟を。 カバーイラストは友人のゆーりさんに描いていただきました! SpecialThanks!

Evasion(エバーション) 竜の背に乗り世界を駆ける、刀と蒼炎揺らめく和洋折衷『妖』幻想譚

弓屋 晶都
ファンタジー
蒼炎のぽわぽわ少年(鬼と妖精のハーフ)と、 主人命の覚悟過剰従者と、残念イケメン不憫天使が世界に巻き込まれていく。 剣と魔法ならぬ、刀と炎の和洋折衷妖ファンタジー。 鬼、妖精、天使と異種族色々出ます。 今から一昔ほど前、山の麓の城で暮らしていた少年は、戴冠式の日に妖精の少女と出会う。 少しずつ心通わせてゆく二人の傍で、運命は静かに動き出す。 『その運命を逸らすために……』 ---------- 漫画版はこちらです。 https://www.alphapolis.co.jp/manga/714939422/296467995 ---------- 第一部(1〜8話)は恋愛色強め、出血そこそこ、死亡あり。 第二部(9話〜36話)は恋愛色弱め、出血そこそこ、ちょっとだけ大量虐殺。    (37話〜41話)一部キャラがストーリー復帰して、恋愛色出てきます。 第三部(42話〜58話(完))ええと……レイが不憫です。

夢から覚めない、永遠に

古池 柳水
ファンタジー
――適当に書いた「夢日記」が売れた。 行きつけの喫茶店の店長とくだらない争い。 水路の多い町で、横に住んでいるイズミさんと笹船をこぐ。 普通に暮らしているはずが、どうして友人からはきちがい扱いされるようになった。 私は本当にきちがいなのだろうか。そんなはずはないと思うのだが――。 この町には雷獣が住んでいて、それが故に雨が少ないという訳のわからない話を聞く。 ――、それこそ気ちがいの発想だと思うのだが。 夢か現実か、曖昧な境界線 ――、私はドコヘ向かうのか……。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...