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第四話 狂い始めた歯車
しおりを挟む史上最大の軍事クーデターと神聖大日本帝国誕生のニュースは世界に衝撃を走らせた。
特にこのことに驚いたのは普国と米国であり、それぞれ戸惑いと不安に駆られていた。
──米合州国ホワイトハウス──
「一体何が起きているというんだ!?」
「閣下、落ち着いてください」
米合州国大統領、ジェームス=ルーズヴェルトは苛立ちを覚えていた。
怒り心頭のルーズヴェルトに、補佐官を始めとする周囲の人間は顔を青くしていた。
本来であれば、墓穴を掘った秋津洲共和国をハル・ノートで煽ることで秋津洲を悪役として戦争に引き摺り出すはずであった。
しかし、突如としてそれが全てが水泡に帰してしまった。
それどころか、新しく日本の首相となった伊藤がハル・ノートに対する想定外の返答をしてきたのである。
「アジアの植民地から撤退しろだと!?ふざけおって!!」
「『我々は他国への侵攻は非人道的なる行為だと理解した。よって、直ぐにでもシナ、ソビエトから撤退したい。しかし、その前に我々は貴国を含む世界連盟諸国に亜細亜からの撤収を望むものである。植民地支配という非人道的なる侵略行為を直ちに禁止していただきたい』…ですか。これは痛い所をつかれましたね」
補佐官が伊藤からのメッセージを読み上げると、ルーズヴェルトは更にもう一枚の紙を補佐官に投げ付けた。
「更にこんなことを言ってきおった!」
「こ、これは…」
その内容はこうである。
『我々の要望が飲み込めないのであれば、我々は非白人民族の悲惨な現状世界に知らしめ、これを救うべく大和民族の総力を結集してここに決起するものである。返答期限は十二月八日午前零時であり、返答無き場合、神聖大日本帝国は世界連盟に対し宣戦を布告する』
この内容は世界連盟各国の首脳陣に届けられると同時に、様々な手段で世界中に発信された。
「これでは、日本が正義の味方でまるで我々が悪者ではないか!我々は日本にお株を奪われたぞ!!」
また、伊藤は秋独同盟の破棄も宣言。秋津洲をあくまでも従順な犬だと考えていた普国政府は、その犬に噛みつかれる形となった。
この報せを聞いた普国の最高指導者ハルトヴィヒ=フォン=ヒトラー総統もまた、怒りを露にしていた。
──ベルリン総統官邸──
「おのれ…極東の黄色い猿めが!」
バンッ
机を思い切り叩いた衝撃で、ペン立てに立てられていたペンが倒れ、インクが少し机に付いた。
空軍元帥のハインリヒ=ゲーリングは冷や汗を拭いながらヒトラーの怒りっぷりにおどおどしてた。
「や、奴等は民族平等を唱え人種差別や迫害の禁止も呼び掛けております」
「我々に楯突くというのか!大した戦力も持たない弱小国のくせに…!」
しかし、ヒトラーやゲーリングと違いヘルマン=ゲッベルスは冷静だった。
彼は重要な側近の一人であり、ヒトラーの精神面をコントロールする役割も担っていた。
「ですが総統閣下。どちらにせよ奴等はいつか潰さなければならない連中でした。むしろ好都合と捉えても良いでしょう」
「むぅ…それも、そうか」
「はい。それにあの国が我々の驚異になるとは思えません。実際奴等は世界連盟に対する宣戦布告は公言しておりましたが、我々プロイセンへの宣戦布告はしておりません」
ゲッベルスに宥められ、一旦落ち着いたヒトラーは自分の椅子にゆっくりと腰を下ろした。
ゲーリングもその流れに乗るようにヒトラーを宥める。
「確かに、配下の国が一つそうでなくなっただけですからな」
「…そうだな、チャイナを征服した後に蹂躙してやればよいだけの話だ」
ようやく落ち着いたヒトラーの様子に、その場にいた全員が胸を撫で下ろした。
この時はまだ、極東の小国のこの革変が世界にどんな影響をもたらすのか。それを予測できる人間はいなかった。
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