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無意識の不敬までは責任を取れないです。

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「さて、君はミシェル・ファランドール嬢で間違いないよね。私は君に興味があるのさ」
 セドリック様の笑顔がどうにも胡散臭く見えてしまう私は邪推し過ぎでしょうか。
  
  
  
  
「セドリック様、彼女警戒してますよ。もう少しアプローチの仕方を考えた方が宜しいのでは?」
「嫌だなぁ、マルクス。事女性の扱いならば私は君の何倍も上手だと自負しているのだよ。そんなアドバイス貰わなくても、それ位は理解しているさ」
  
 女性の扱い、ですか。
 確かにちゃらんぽらんな第二王子という姿を演じる為にも、セドリック様は暇さえあれば女性と遊び呆けている風を装っていらっしゃるからその言葉にも頷けるのだけど。
  
「申し訳ありません。私のような物にセドリック様がご興味を持たれているという事実に驚いてしまいまして。もしかして私知らず識らずのうちに何か不敬でも働いてしまっておりましたでしょうか?」
「いやいや、不敬だとか、そう言う事ではないんだけどね。折角だから分かりやすく説明してあげるよ」
  
 では、一体なんだと言うのでしょうか。
 私は今日セドリック様とご挨拶以上の会話をしたのが初めてで、学内に至っては面と向かっての会話すらも初めての事なのですが。
 そんな私に興味を持つ?
 そんな事が有り得るのですか?
  
「君は私に興味がないだろう?」
「え……?」
  
 いや興味はありますよ。
 あるに決まっているじゃないですか。
 ただでさえ重要な攻略対象の1人、それに大好きだったゲームのキャラという点でも敬意を払いたいです。
 そうでなくても、一国民として王族の方に興味がないなんてそれこそ不敬の何者でもないじゃないですか。
 何を持ってしてこんな事を仰っているのでしょうか、この第二王子殿下様は。
 全然分かりやすく無いじゃ無いですか。
  
「い、いえ。あの……」
「ああ、王族が~とか、そう言う形式的な事を言っている訳じゃないのさ。君が王族を蔑ろにしている何て邪推している訳じゃないし、ファランドール家も王家や王国に対して、侯爵家である貴族としての務めをしっかりと果たしてくれていると理解しているよ」
  
 それはそうですよ。
 以前も言いましたが我がファランドール家は良くも悪くも普通。
 それは悪い意味でも目立たないという事ですもの。
 目立った功績などは上げておらずとも、必要な務めはキチンと果たさせて頂いております。
 けれども、そんな一貴族がキチンと王家や王国に貢献しているかどうかなんて国政にも関わるような情報を、ちゃらんぽらん(仮)を装っている筈のセドリック様が把握している事をこんな小娘に知られてしまって宜しいのでしょうか?
 ちゃらんぽらんならそんな事知らずに遊び呆けている体を取るべきだと思うのですけど。
  
「私は曲がりなりにもこの国の王子だろう?」
「はぁ……仰る通りですわね」
「しかもこの見た目。それに女性には分け隔てなく平等に優しく接する性格」
「え、えぇ……」
  
 あの、セドリック様が何を言いたいのか本当に全く分からないのですが。
 何で突然自画自賛し始めたのかしら?
 いえ、確かに仰っていることは客観的に見ても全部事実なんですけどね。
  
「正直女性から見れば理想的な男性像だと思うんだよね。だからこそ周りに集まる女性も多い」
「えぇ、セドリック様が皆様の人気者である事は周知の事実ですものね」
「それでも王子である私と婚約を結べるのは侯爵、まぁギリギリ伯爵家の中でも力を持った家のご令嬢だろう」
「それは仕方のない事ですわ」

 実際は裏技として高位の貴族家の養女になる方法を取れば低位の貴族でも王家に輿入れする事は理論上可能。
 けれども、その方法は今まででも殆ど例をみない方法だし、周囲の反発も大きい。
 だから現実的ではないのだ。

 しかしそれを堂々と跳ね除けて行くのが我等がヒロイン様なのよね……
 セドリック様ルートを攻略すると、彼女田舎の男爵家の生まれなのにローランド様のお家に養子入りしてそのまま王家入りまで果たしちゃうのよ。
 愛のためなら逆境なんてなんのそのっていう勢いは見習いたいと思うけど、実際私だったら耐えられる自信がない。
 ローランド様と家族になれるっていうのは魅力的だけども、私がなりたいのは兄弟ではなくてお嫁さんですしね。

「だからこそ、その条件に該当する、更に年齢的にも私と釣り合う妙齢の女性の大半は私の事が気になって仕方がないらしい。兄には既に隣国の可愛らしいお姫様という立派な婚約者が居るから余計にね」
「そうでしょうね」
「ははっ随分他人事だね。君だってその女性だというのに」

 にこやかだったセドリック様の視線の中に僅かばかり真剣味を帯びた感情が混じるのを感じた。
 確かに言われてみればそうなのだ。
 例えド平凡な容姿に、大して目立つ事のない実家、取り立てて女性としての取り柄のない(幾ら勉強や体術に優れていても女性としての魅力的ではないものね)私でも条件下ではセドリック様の婚約者として選ばれても不思議ではないのだ。
 それなのに私は一度だってセドリック様と婚約をしたいと思った事がなかった、前世の記憶が戻る前も後も。

 どうしてかしらね。
 今ではセドリック様の事情を存じているから余計感じてしまうけれども、前世を思い出す前もセドリック様の態度にはどこか偽物めいた印象を受けていた。
 無理に何かを演じている様な、そんな印象。

 私は恋愛小説が好きで昔から愛読していたけれど、そんな時決まって思い描く王子様像はセドリック様の様な方ではなく、むしろ……
 多分思い出す前から無意識下の内から私はローランド様を求めていたのよね。
 しかも前世の意識と今世の私の意識が混じり合った時からそれはどんどん強くなってきていて、今ではあの頃思い描いていた王子様もローランドだった様にしか思えない。
 これじゃあ、ローランド様じゃなきゃ嫌だと駄々を捏ねている子供みたいで恥ずかしいわ。

「君とは挨拶くらいしか交わした事がないのに、そんな数少ない機会だけでも君が私に興味を抱いていない事ははっきりと伝わってきたよ。皆、欲望や好意をぶつけてくるか、反対にこの軽薄な態度を軽蔑しているか、王族との婚姻なんてお断りだ、なんて悪感情を抱いているのが透けて見えるのだけど、君だけは本当に何の感情も見えなかった」
「そう……ですか」
「私が壇上で挨拶していても、君はいつもそっちのけで他の方を向いているようだしね。知ってるかい?  壇上からって結構見晴らしがいいんだよ?」
「あっ……も、申し訳……」

 それは、多分ローランド様の事を見ていました……
 しかも本当に無意識の事でして、でもちゃんとセドリック様のお話は聞いているんですよ?
 ……うん、言い訳ですね。
 申し訳ない。

「それにこうして話していると、君にはどうにも私の本質を見抜かれているような気がしてしまうんだよね。真面目な話君はどこまで気がついているんだろう」
「買い被りですわ。私はただの普通な、それこそご令嬢を並べ立てれば埋もれてしまうようなありふれた存在です」

 そう、セドリック様の慧眼には到底及びません。
 どうしてそこまで見抜かれてしまっているんでしょうね。
 私なんか慧眼なんて一切なくて、ただ前世の知識を得ただけのズルみたいな存在なんですもの。
 やはり天才は人を見る目も養われているんでしょうか。

「君がどう謙遜しようとも構わないけれど、そう言った経緯から私は君に興味を抱いた。何がしたいって訳では無いけれど、少しお話ししてみたくなってしまったんだよね」
「わ、私で宜しければ何なりと」
「嬉しいなぁ。じゃあ、君が私に恋愛的な興味が無いことは良く分かったから、せめて私と友達にならないかい?」
「……は、はい?」
「セドリック様‼︎  いくらなんでもお友達というのは……」
「うーん、マルクスは口を出さないでね。今私は彼女、ミシェルと交渉しているんだから」

 それまで空気の様に気配を消して私達の会話に固唾を飲んでいたマルクス様も、セドリック様の"お友達"発言には流石に面食らった様で、慌てて口を挟んできた。
 でも私も同意見ですわ、マルクス様。

 そりゃ最終的にはセドリック様も含めた逆ハーを形成しようとしている私が言えた義理では無いけれど、それでもいきなり王子様とお友達ってハードル高く無いですか?
 まだ出会ったばかりですよね?
 確かに順調に仲が深まる事は有り難いのですけど、余りにも順調過ぎると逆に裏がありそうで怖いです。


 今取るべき私の選択肢は

 Yes/No

 うーん、どちらが正解なんでしょうか?







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