迎えに行くね

たま

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電話

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その後、どうせ信じて貰えていないのだろうと半ば諦めの気持ちの私と、呪いを信じる訳にはという刑事さんとの気まずく息詰まるような空気が流れた。

そして退院してからまた会いに来ると言って刑事さん達は帰って行った。

母と兄が帰って来てからは、2人にベッタリと張り付き私は子供に返っていた。母は呆れていたが、少し嬉しそうな顔をしてその日は狭いベッドで一緒に眠ってくれた。

次の日検査で異常が見当たらず、私は晴れて退院となった。

私は退院した後、アパートには戻らず実家に帰っていた。
心配をかけたバイトの店長にお詫びの電話を入れ、大学も数日休学する予定である。
今日一日家でゆっくりと過ごし、明日刑事さん達と一緒に202号室に一緒に入る事となっていた。

「紗凪、ちょっとコッチ来て!」

台所の方から母の呼ぶ声がする。私は立ち上がり母の元へ向かった。友達を失い気落ちしていた私に母は優しく接してくれていた。私もなるべく心配をかけないように明るく振舞っていた。

「この果物、雅良まさよし叔父さんが持って来てくれたのよ。早めにお礼を言った方が良いわ。ほら電話掛けなさい。」

お母さんが電話番号を書いた紙を渡して来た。

「雅良叔父さん?長い事会ってなかったのにわざわざ持って来てくれたの?」

私は沢山の果物が入った盛り籠に目を輝かした。一人暮らしをしていると、わざわざ果物を買って剥こうとは思わないので心底嬉しかった。
後で母に剥いて貰おう。

「今掛けて出るかな?」

「叔父さん去年定年したから出るわよ。」

私は玄関にある家の電話機から叔父さんの携帯番号を押し、受話器を耳に当てた。
すると玄関から声がする。

「あら、どこに掛けてるの?」

振り向くと台所にいたはずの母がそこに立っていた。私は青ざめて玄関から台所の方を見たが、そこには誰も立っていなかった。

プルルルルと電話が繋がり、女の子の声がした。

「、、迎えに行くね。」

恐怖で受話器を取り落とし掛けたが、私はその声の主を知っていた。

「花音ちゃん?花音ちゃんだよね?どうしてこんな事するの!?」

「、、、紗凪ちゃん、、ごめんね、、お願い助けて。」

プープープープー

それだけ言って電話は切れた。

「ちょっと紗凪、顔色が悪いわよ!どうしたの?一体どこに電話掛けたの!?」

母に詰め寄られたが、私は答える事が出来なかった。
今手に持っていた電話番号を書いていた紙も無くなってしまっていた。

「あっ、そこにある果物の盛り籠、雅良叔父さんが持って来てくれたのよ。お礼の電話入れといてね。」

「………。」

私は返事も出来ずにいた。
彩乃は呪いの電話を掛けてから2時間も経たないうちに死んでしまった。
私は刑事さん達に連絡を取ろうとカバンを探す為に振り返った。
その時リビングにある磨りガラスの吐き出しの窓に人影が写っている事に気付く。

「お兄ちゃん?」

庭でいる人なんて兄ぐらいしか考えられなかったが、兄は今日大学があるので朝早くに出かけて行った。

「誰……?」

私の声が聞こえたのか、人影はだんだん大きくなり、そして磨りガラスにビタリと張り付いた時に顔がハッキリと分かる。

「ヒィッ……」

それは昨日刑事さんに見せられた花音ちゃんのお父さんであった。
浅黒く痩せこけギョロギョロした目玉が何かを探すように忙しなく動き回る。

私は後退りながら玄関から飛び出した。

「うわっ!」

そんな私を誰かが捕まえた。

「キャーー!!やめて!!お願い殺さないで!!」

泣きじゃくりながら暴れる私をその誰かは抱きしめてきた。

「中本さん、落ち着いて何があった!?」

私はその声で我に返る。

「刑事さん……。」

そこにいたのは花音ちゃんのお父さんでは無く、昨日病院で会った刑事さんの真鍋さんと佐藤さんだった。

「どうした!?何があった!?」

私は泣きながら今あった事を話した。刑事さんは不可解な顔はしたものの、私の事をバカにはせず庭へ回り見に行ってくれた。
私もビクビクしながら後ろから付いて行く。

「これは!?」

するとその磨りガラス一面血のような赤い手型がベタベタと押されていたのだ。

「お母さん!?」

私は中でいる母の事が心配になり、走り出した。
すると玄関でそろりそろりと外を伺っていた母と思いっきりぶつかった。

「お母さん!!お母さん!!」

ぶつかった痛みで母は呻いたが、私は気にせずがむしゃらに母を抱きしめる。

「一体どうしたの!?外で叫び声が聞こえたから何ごとかと思ったわよ!!」

母は私の顔を覗き込みそう聞いて来たが、私は答えられずにうつむいた。

「刑事さん、一体これは何なんですか?」

私の後を追いかけて来た刑事さん達は切羽詰まった顔をしている。

「奥さん、とりあえず中を見させて貰ってもよろしいですか?」

「……えぇ。」

あまりに真剣な表情でそう言われ、母は怯えたように頷いた。
4人で中に入りリビングにある吐き出しの窓を見たが、先程あったはずの血の手型は綺麗さっぱり無くなっていた。
何も知らない母以外の人間は立ちすくむしか無かったのだ。

「ねぇ、ちゃんと話して、一体何があったの?」

私達が何も話さなくなってしまったので、母は痺れを切らして口火を切った。

「お母さん、帰ったら必ず話すから待ってて。」

私はそう母に言うと焦ったように刑事さんに言った。

「彩乃は呪いの電話を掛けてから2時間以内には陸橋から飛び降りました。」

「君は今掛けたところだね?」

私は頷く。

「奥さん、申し訳ありませんがお嬢さんをお借りします。」

「なっ!?説明して下さい!!」

母は怒鳴り声をあげ、私の前に立った。私はそんな母の肩に手を置き話しかける。

 「お母さん、ごめん。帰ったら必ず話すから、行かせて!時間が無いの!」

私はそう言うと、止める母を無視して刑事さんに付いて行った。

「お母さんごめんなさい。」

そう泣きながら振り返った私の目に入ったのは、口元を押さえ泣き崩れる母の姿だった。
母なりに調べ、全て理解しているのだとその時私は悟った。
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