人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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その人は

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ピエール様が私を連れて行った先には老婦人がたたずんでいた。
老婦人は簡素なワンピースを着ていたが、それでも高貴な方だと分かるほどに凛とした空気を纏っていた。
私と同じ銀糸の髪を綺麗に結って後ろでまとめ、そして、、、

「おばあ様?」

その人の薄紫色の瞳を見て私は屋敷に飾っている肖像画を思い出した。
私が産まれる前に亡くなっている為に一度も会った事はなかったが、それでもその肖像画を幼い頃より毎日見ていれば見間違える事などあり得ない。

その人の名はマーガレット・コーベルハイド、私のおばあ様。

「フフフッ、ピエール様が言った通り私の若い頃にそっくり。ナタリーであってるわよね?あぁ、息子はこんな可愛らしい娘を授かる事が出来たのね。」

おばあ様は嬉しそうに笑った後、目を潤ませて私の方へと歩み寄った。

「おばあ様、、」

その優しげな瞳に見つめられれば、私の瞳も自然と涙で濡れていた。
そんな私を優しくおばあ様は抱きしめてくれた。

「ナタリー、、あなたに会えて嬉しいけれど、あなたは急いで戻らなければいけないのでしょう?」

私を抱きしめたままおばあ様が囁く。私はその胸の中でもそりと頷いた。

「マーガレット様、ナタリー様は本当に向こうへ戻れのですか?」

側で控えていたピエール様が恐る恐る声をかけてきた。

「えぇ、戻れます。いえ、私が戻します。」

「おばあ様が?」

おばあ様から身体を離して顔を見れば、おばあ様はしっかりと頷いた。

「あなたの魂はこちらに来てしまったようだけれど、肉体はまだ向こうにあるようです。」

「私は、、ヴェルディスに魔力を抜かれて、、それから身体が空っぽになって立つ事も出来なくなって、、」

私は何も出来なかった。魔法陣に閉じ込められなす術もなくただ魔力を吸い尽くされてしまったのだ。

「おばあ様、私は向こうに戻って何が出来ますか?」

戻ったところで魔力は残っていない。肉体が朽ちずに残っているのは奇跡といって良いだろう。しかし戻ったところであの状況を打開できる気はしなかった。

「大丈夫。私に任せなさい。」

しかし、おばあ様は自信満々でそう言ったのだ。私が首を捻ればピエール様は先に聞いたのだろうか訳知りな顔で微笑んだ。

「ナタリー様、マーガレット様は魔族なのだそうですよ。」

「えっ?」

ピエール様が言った言葉は私には理解できなかった。

魔族?おばあ様が魔族?
そう頭の中でそう繰り返すばかりだ。

「そうなのよ。驚いたかしら?」

当の本人はそんな私をおかしそうに見やりながらクスクスと笑っている。
しかし直ぐにその笑いを引っ込めると私の目を真剣に見てこう言った。

「時間が無いわナタリー。私ならあなたを元の世界に戻せる。そして大切な人達を守れる術も教える事が出来るわ。」

そして私の手を握り尋ねた。

「ナタリー、あなたに覚悟はあるの?」

「覚悟?」

「そう。絶対に皆を助けると言う断固たる決意の事よ。」

おばあ様は嘘は許さないとばかりにずいっと私に顔を近づけた。
私に覚悟があるのか、そんな事は考えなくても分かっている事だ。

「あります!命をかけても皆を助けたい!」

私の言葉におばあ様は首を振った。

「おばあ様?」

私の不安な声を聞いておばあ様は幼子を叱るようにコツリと頭に拳を置いた。

「それではダメよ。あなたは絶対生き残ると強く思わなければ。自分の命を粗末に考える者は決して誰も助ける事など出来ないわ。」

「、、おばあ様。」

「ナタリー、、分かった?」

おばあ様の言葉が胸に響き目頭が熱くなる。私は本当に子供に戻ったようにコクリコクリと何度も頷いたのだった。
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