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真っ白な世界は急激に萎んでいった。
光はフローラの手の中に吸い込まれる様に消え去り、辺りは静寂を取り戻していく。
「ハァーハァーハァーハァー」
初めて光魔法を使ったフローラは魔力切れを起こしかけ肩で息をし青ざめていた。
フラリと身体が倒れかけた時、駆け寄って来たサイレーイスがしっかりと彼女を抱きしめた。
「フローラ、大丈夫か?」
焦点の合わぬ目でそれでもフローラしっかりと頷いた。
サイレーイスは物言わぬ彼女の頬を優しく撫でながら様子を伺ったが、徐々に焦点が合ってきたフローラの目はサイレーイスを映さず、驚愕で目を見開いたまま固まっていた。
「フローラ?」
あまりにも不自然なその表情にサイレーイスは首を傾げながら彼女の視線を追った。
「!!!!」
そして彼の目に映ったのは、中身が消え失せたように不自然に地面に落ちた黒いローブ。そして、その横には身体を二つ折りにし黒い煙のような物を全身から放つバゼルハイドの姿だった。彼は苦悶の声を上げた。
「あれは一体、、、」
叫びながら身体を上げたバゼルハイドの顔は、皮が剥がれかけていた。苦しいのか顔や頭を掻き毟るとその剥がれかけた生皮がずるりと剥けて地面にボチャリと落ちる。
「「「「!!!!」」」」
その光景に皆声も出ないほど驚愕しその場に固まった。
生皮が剥がれ落ち、中から世にも美しい男が現れたのだ。
長身のバランスの取れた身体、大理石の様に真っ白な肌に漆黒の長い髪、そこから覗く瞳は血に染まった様に赤く、どこかカイエンを思わすその姿は誰をも惹きつける様な魅力に溢れていた。
「ヴェルディス、、」
最初に彼の名を読んだのはハデスだった。目を見開きながらもどこか納得したようなハデスの顔を、ヴェルディスは苦々しい顔で睨みつけた。
「気付いていたのか?」
ヴェルディスが口を開けば皆はその声にゾワッと身体が震えた。
テノールの美しい声は媚薬のように体を侵していく。
彼の見目、声、全てが皆を惑わすように出来ているようだった。
しかし、同じ血が流れているハデスとカイエンには何の影響も及ばないようだ。ハデスは淡々と答える。
「嫌、確信は無かった。しかし、後ろで控えていたヴェルディスよりバゼルハイドの魔力が多い事を疑問に思っていた。黒いローブで隠していたあれは傀儡か?」
「、、、そうだ。」
ハデスの答えにヴェルディスは満足そうにニヤリと笑った。
「おい!!父上はどこに行った!!!」
その2人の会話に割って入ったのはアルベルトだった。目の前で父親が美しい青年へと姿を変えたのだ。彼が驚くのは仕方ない。
しかしヴェルディスは不愉快そうな顔をしながら何でもない事のように言った。
「アイツは私が殺した。見て分からないのか?」
「、、貴様!!!」
アルベルトは真っ赤になり激昂した。彼と父親は上手くいってはいなかったが、それでも虫を殺したかのようにあっけらかんとそう言われれば我を忘れるほど怒りに震えたのだ。
彼は剣を握りしめるとヴェルディスに向かって走り始めた。
「人間風情が私を倒せると思っているのか?」
そんな彼を嘲笑うかとようにそう言えば、ヴェルディスは自分の魔力を衝撃波に変えアルベルトに勢い良く放った。
「グアッッッ!!」
たった一発放ったその魔力でアルベルトは弾き飛ばされ後方へと飛んだ。
「ハッ!弱い!弱い!!弱い!!!」
ヴェルディスは長い髪をかき上げるとフローラをジロリと睨みつけた。
「赤い髪の女、お前の力が直接私だけに働いていれば或いは私を殺せていただろう。しかし、お前は皆の怪我を治したいという願いを込めた。そんな甘い考えで私を倒せると思ったら大間違いだ。」
悔しそうに唇を噛んだフローラの背中をサイレーイスが撫でる。
ヴェルディスは満足気に笑ったが、直ぐにその顔を仄暗い冷徹な顔へと変化させた。
「さて終わらすか。」
彼の宣言に皆は身体を震わせた。
光はフローラの手の中に吸い込まれる様に消え去り、辺りは静寂を取り戻していく。
「ハァーハァーハァーハァー」
初めて光魔法を使ったフローラは魔力切れを起こしかけ肩で息をし青ざめていた。
フラリと身体が倒れかけた時、駆け寄って来たサイレーイスがしっかりと彼女を抱きしめた。
「フローラ、大丈夫か?」
焦点の合わぬ目でそれでもフローラしっかりと頷いた。
サイレーイスは物言わぬ彼女の頬を優しく撫でながら様子を伺ったが、徐々に焦点が合ってきたフローラの目はサイレーイスを映さず、驚愕で目を見開いたまま固まっていた。
「フローラ?」
あまりにも不自然なその表情にサイレーイスは首を傾げながら彼女の視線を追った。
「!!!!」
そして彼の目に映ったのは、中身が消え失せたように不自然に地面に落ちた黒いローブ。そして、その横には身体を二つ折りにし黒い煙のような物を全身から放つバゼルハイドの姿だった。彼は苦悶の声を上げた。
「あれは一体、、、」
叫びながら身体を上げたバゼルハイドの顔は、皮が剥がれかけていた。苦しいのか顔や頭を掻き毟るとその剥がれかけた生皮がずるりと剥けて地面にボチャリと落ちる。
「「「「!!!!」」」」
その光景に皆声も出ないほど驚愕しその場に固まった。
生皮が剥がれ落ち、中から世にも美しい男が現れたのだ。
長身のバランスの取れた身体、大理石の様に真っ白な肌に漆黒の長い髪、そこから覗く瞳は血に染まった様に赤く、どこかカイエンを思わすその姿は誰をも惹きつける様な魅力に溢れていた。
「ヴェルディス、、」
最初に彼の名を読んだのはハデスだった。目を見開きながらもどこか納得したようなハデスの顔を、ヴェルディスは苦々しい顔で睨みつけた。
「気付いていたのか?」
ヴェルディスが口を開けば皆はその声にゾワッと身体が震えた。
テノールの美しい声は媚薬のように体を侵していく。
彼の見目、声、全てが皆を惑わすように出来ているようだった。
しかし、同じ血が流れているハデスとカイエンには何の影響も及ばないようだ。ハデスは淡々と答える。
「嫌、確信は無かった。しかし、後ろで控えていたヴェルディスよりバゼルハイドの魔力が多い事を疑問に思っていた。黒いローブで隠していたあれは傀儡か?」
「、、、そうだ。」
ハデスの答えにヴェルディスは満足そうにニヤリと笑った。
「おい!!父上はどこに行った!!!」
その2人の会話に割って入ったのはアルベルトだった。目の前で父親が美しい青年へと姿を変えたのだ。彼が驚くのは仕方ない。
しかしヴェルディスは不愉快そうな顔をしながら何でもない事のように言った。
「アイツは私が殺した。見て分からないのか?」
「、、貴様!!!」
アルベルトは真っ赤になり激昂した。彼と父親は上手くいってはいなかったが、それでも虫を殺したかのようにあっけらかんとそう言われれば我を忘れるほど怒りに震えたのだ。
彼は剣を握りしめるとヴェルディスに向かって走り始めた。
「人間風情が私を倒せると思っているのか?」
そんな彼を嘲笑うかとようにそう言えば、ヴェルディスは自分の魔力を衝撃波に変えアルベルトに勢い良く放った。
「グアッッッ!!」
たった一発放ったその魔力でアルベルトは弾き飛ばされ後方へと飛んだ。
「ハッ!弱い!弱い!!弱い!!!」
ヴェルディスは長い髪をかき上げるとフローラをジロリと睨みつけた。
「赤い髪の女、お前の力が直接私だけに働いていれば或いは私を殺せていただろう。しかし、お前は皆の怪我を治したいという願いを込めた。そんな甘い考えで私を倒せると思ったら大間違いだ。」
悔しそうに唇を噛んだフローラの背中をサイレーイスが撫でる。
ヴェルディスは満足気に笑ったが、直ぐにその顔を仄暗い冷徹な顔へと変化させた。
「さて終わらすか。」
彼の宣言に皆は身体を震わせた。
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