人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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ナタリーを追って

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ハデス達が城の魔法陣より転移した先は森の中だった。
森の中の少し開けた場所にイアンは魔法陣を描いたようだ。人間達に見つからない為には仕方ないのだろうが、ここからナタリーのいる所までは随分と距離があるようだ。

「向こうに赤い光が見える!一刻の猶予も許されない!我に続け!!!」

ハデスはそう叫んだ。

「「「「はい!!!!」」」」

それに答える為、拳を天に掲げ声を上げた数十人の兵士達が走り始める。
皆が凄い速さで走っていくので、一番後ろを走るフローラは焦っていた。足手まといにならないようにと必死で食らいつくが、すぐに根を上げる事となった。

「、、困ったわ。」

森の中に入ると足元は直ぐに悪くなった。
比較的日の当たる場所では木々の間に背の高い草が生えており行く手を阻んだ。ハデス達が身体で作ってくれた道を行くが、今度は降り積もった木の葉に足が滑る。
ステンと転けたところでフローラの瞳に涙が溜まった。

「ナタリー様の身に何かあったかもしれないというのに、、」

座り込んだまま空を見上げたが、先程広場から見えた赤い光は木々の葉に遮られ見えなくなっていた。

「フローラ何してる!?行くぞ!!」

「ミカエル!?」

急いで戻って来たのだろう、ミカエルは額から汗を流し肩で息をしていた。
そして腰をかがめフローラに乗れと促してくる。

「ミカエル、、私は良いからナタリー様の所へ、、」

背負われる事への羞恥と罪悪感から彼女がそう言えば、ミカエルは優しい声音で言った。

「お前の魔法はナタリーを救うのだろう?お前がその場にいなくてどうするんだ。」

「ミカエル、、はい!!」

今度は素直に頷くと、ミカエルの肩に手をやった。グイッと持ち上げられたと思う間もなく彼は走り始めた。

「しっかり口を閉じておけ!口を開けば舌を噛むぞ!」

その言葉にコクコクと頷くと、ミカエルはその振動でフローラが頷いた事を確認した。
そして彼はスピードをさらに上げたのだった。

凄い!!

彼の背中の中でフローラは目を見張った。人を背負ってこんなに早く走れる人がいるのかと驚かずにはいられない。
木々が避けているかのように横をすり抜けていく。

ナタリー様!!待ってて下さい!!

フローラは自分を信じ迎えに来てくれたミカエルに報いる為にも神経を統一していくのだった。


古城へと1番先に着いたのはハデスだった。その後直ぐにサイレーイスがやって来ると、他の兵士達も追い付いたのか地鳴りのような足音が響いていた。

ハデスの目に映ったのは崩れ果てた古城の姿だった。
古城があっただろう場所の中央から赤い光の柱が空へと伸び、その周りに瓦礫が散乱している。

「ナタリー、、この中にいるのか、、、?」

いつもの強い眼差しはなりを潜め、ハデスは不安で揺れる瞳でその光の柱を見た。

「ハデス様、、これは一体?」

呆然と立ち尽くすハデスにサイレーイスは尋ねた。いつも冷静な彼でさえその赤い光から漏れ出す魔力の大きさに顔を歪めている。

「あぁ、、魔法陣が描かれているのだろう、、それにしてもこんな巨大な力をどうやって、、」

ハデスがそう呟いた時、赤い光の側に人影が現れた。
それに気付いたハデスとサイレーイスは駆け寄ったが、その人物がハッキリ見えると二人は足を止めた。

そこには、バゼルハイド王と、見知らぬ女と男、容姿の特徴からバゼルハイドの息子アルベルトと男爵令嬢のマリアだと推測された。
そしてその3人の後ろに黒いローブを羽織り、フードを目深にかぶった不気味な男が立っていた。顔はうかがえないが、身長が180cmはありそうな事、そして体格からいって2人は男と判断したのだが、バゼルハイド王の後ろに控えた男と言えばヴェルディス以外あり得ない。

「ヴェルディス!!姿を見せろ!!」

ハデスは叫んだがヴェルディスは言葉を発しようとはせず、代わりにバゼルハイド王が口を開いた。

「これはこれは魔王ハデス様、わざわざ出向いて頂きありがとうございます。」

からかうような声音でそう言われハデスは眉間にしわを入れ彼を睨みつけた。苛立ちからか彼の身体からは魔力が漏れ出し、そこに居るものを怯えさせる。

「バゼルハイド!!ナタリーをどこへやった!?」

激しく問い詰めたハデスだったが、王はドロリと濁った眼で愉快そうに笑うだけだった。

「魔王ほどの者があのような取るに足らん女に執着するとはな。哀れな男だ。」

鼻で笑われハデスは限界を迎えた。背中に背負った重々しくそして禍々しいほど漆黒な剣を手に取ると、バゼルハイドに向けて振り上げた。

「取るに足らんだと?ナタリーを欲しておいてよくもそんな事が言えたもんだな。」

先程の激しい怒りではなく、振れれば凍り付いてしまうような静かな怒りを表しながら彼はそう問うた。それは逆に先程より皆を怯えさせることとなる。
追いついた兵士達が身体を震わせ、カチャカチャと鎧が鳴る音が響いていた。
しかし、バゼルハイドだけが一人愉快そうにその様子を見物しているのだ。

「そうだ。欲していた。魔王を倒すために。しかし、私が欲していたのは魔力の多い乙女だ。魔王の手つきとなり穢れた女では本来必要だった魔力を十分に引き出すことは出来なかった。」

「「!!!!!!!!」」

バゼルハイドの言葉を聞いてマリアとアルベルトは目を丸くした。

「ナタリーが魔王と!?えー!!!それは驚きですわ!!ねぇ、アルベルト様?ナタリーってばいっつも曲がった事は許せませんみたいな面白くない事しか言わないのに、魔王と、、へぇーいやらしいわ。」

その場に相応しくない軽い口調でマリアはナタリーをバカにする。
そしてそれはハデスをもバカにする事となるのをマリアは気付いていなかった。

ハデスの怒りは頂点を迎え、素早く足を走らせるとヴェルディスに向かって剣を振り下ろした。
ハデスの剣は魔力が込められているので、距離が離れていても相手にダメージを与えることが出来る。
剣を振り下ろすと黒い稲妻のような光がものすごい勢いで発せられた。
巨大な力にマリアやアルベルトは恐怖で顔を引きつらせ目を見開いたが、その攻撃が彼らに届くことは無かった。
魔法陣から伸びてきた赤い光がその禍々しい黒い魔力をも吸収してしまったのだ。
ハデス達は驚きそして彼らから少し距離を取った。

「良い判断だ。攻撃が終わった後は防御に徹しなければな。」

バゼルハイドは愉快そうに笑い、そして後ろに控えた黒ずくめの男を指さした。

「殺せ。」

そう指示すれば、もそりと男が頷く。
男は両手を天に向かって掲げた。
すると赤い光が彼の手に集まり丸くなって濃縮していく。彼の手の中でバチバチと音を立てながら暴れるようにその魔力がまとまっていくのだ。
力の無い者は近くに居るだけで吹き飛ばされる。

「キャーーーーーーッ!!!」

吹き飛ばされ空に放り出されたマリアをアルベルトが抱えるように抱き留めた。

「アルベルト様!」

嬉しそうに頬を染めてほほ笑むマリアをアルベルトは乱暴に落とすと、彼女を一瞥した。

「そこに居ろ。邪魔だ。」

それだけ言うと彼はバゼルハイドの下では無く、ハデスの下へと駆けていった。

「アルベルト様!!何でー!!!」

マリアは愛する人の予期せぬ行動に目を丸くして叫んだのだった。
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