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罠
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私は浮かれていた。
自分がこの様な深慮の浅い馬鹿な人間だとは思わなかった。
下唇を噛み締めて悔やんだが、後悔先に立たずとはこの事だ。
魔法陣の上で崩れ落ちる私の視界にマリアさんの笑う姿と、バゼルハイド王のイヤらしい笑みが見えた。
話しは遡る。
バゼルハイド王からフローラの家族とゴロランド王の一族の解放を許されたその日から、私とカイエンは寝る間も惜しんで働いた。
努力の甲斐あって、3日後にはフローラの家族を船に乗せ送り出す事が出来た。
そして、ゴロランド王の一族に彼の遺体を引き渡し、王の最期の言葉を伝えることも出来たのだが、彼らを解放する事は叶わなかった。
彼らが解放される事を拒否したのだ。
ゴロランド王の最期の姿を聞き、彼らは目を輝かした。
そして、自分達も誇りを持って死んで行った王の様に立派に散りたいと、皆がそう言ったのだ。
私はゴロランド王の言葉を思い出し、彼らを何とか助けたいと思ったが、戦争を引き起こした彼らは魔王の側で暮らす事は出来ない。
こちらで暮らすにしても、皆ゴロランド王の一族を恨んでいる。
彼らはどこにも居場所など無いのだ。
彼らもそれを良く分かっており、それならば新しい国を作る最前線で働く事を誇りにし、今の暮らしを続けていきたいと言った。
カイエンにどうする事も出来ないだろうも言われ、私は引き下がる事しか出来なかった。
せめて今の暮らしぶりを改善すべく、住まいの改善と彼らに休みを作ることを彼らを監督している者達に約束させ、その場を後にした。
もっと彼らに何か出来ないかと悩んだが、ゴロランド王の話しを聞いた後、彼らが目を輝かしながら働く姿を見れば何も言えなかった。
「まぁ、そう落ち込むな。とりあえずフローラの家族を助けられたんだ。後は適当にバゼルハイドに報告して帰ろうぜ。」
城へと戻る道の途中でカイエンにそう言われ、私は目を丸くした。
「へっ?帰る?」
なぜか驚く私にカイエンはニカッと笑った。
「任務完了だろ?」
「、、、。」
カイエンが私の顔を覗き込む。頭をグシャリと撫でられようやく私の思考が追いついてきた。
「そっか、、帰れるんだ。」
「ハハッ、そりゃそうだろ。コッチでずっと暮らすつもりだったのかよ?」
そう聞かれて首を千切れるほど横に振った。
「帰る!!帰る!!絶対帰る!!」
大声でそう言えばカイエンは声を上げて笑った。
「おう!帰ろうぜ!」
そうして城に帰った時には、私はすっかり肩の荷が降りた状態だった。
もう二度と向こうに戻れないかもしれないと思っていたのだ。少しぐらい浮かれても仕方のない事だっただろう。
「カイエン、お手洗いに行くから先に部屋に戻っておいて。」
トイレの前で待たれるのが恥ずかしい。そう思う気持ちから出た言葉だった。
カイエンもその日は気が抜けていたのか、それを了承すると部屋へと戻って行った。
「はぁー、、帰えれるのね。」
トイレを済ませた後、手を洗いそこに付けられていた鏡で自分の顔を見た。
少しくたびれた自分の顔に苦笑いすれば、鏡の向こうの自分も笑う。
毎日があっという間で、それなのにあの日から何年も何十年も経ってしまった様な気がする。
戦争さえ無ければという気持ちが駆け巡り、しかしハデス様の思えば胸が熱くなった。
「戦争が無ければ彼に会う事も無かったのね、、」
だからと言って戦争があった事を感謝してはいけない事だと分かっている。
情けない自分が嫌で、冷たい水で顔を洗った。背後が無防備だとは気付かずに、、
「フフッ、、見ぃ~つけた。」
背後から甘い声がした。
背筋がゾクッと凍った。慌てて振り返ろうとしたが、口を布で塞がれたとたん世界が暗転した。
「やったわ!フフフフフフッ、、アーハッハッハッハッ!!」
暗闇の中でこの世で一番嫌いな女の笑い声が響いていた。
ピチャンッ、、ピチャンッ、、
頬に冷たい感触がする。
「ンッ、、、ンンッ、、、」
ぼんやりする頭を押さえながら起き上がれば、そこは見た事もない場所だった。
石畳の冷たい長方形の部屋には何も置かれておらずガランと広いばかりで冷たい感じがした。
そして床に置いた手を見れば、そこに模様が広がっている事が分かった。
「、、魔法陣」
そう呟いてゾッとした。
マリアさんの笑い声、、見た事の無い部屋、、そしてこの魔法陣。
慌てて辺りを見渡せば、魔法陣の外にバゼルハイド王、マリアさん、そして2人の後ろに黒いフードを被った人が立っているのが見えた。
「、、マリアさん」
そう名前を呼べばマリアさんは恐ろしい顔で高笑いを始めた。
「フフフフフフッ、ようやくこの時が来たわ。」
「マリアさん、、どうして?」
そう聞けば、彼女は仁王立ちになり私に指を刺した。
「私、あんたの事が大嫌い!!フローラも嫌いだけど、清廉潔白って感じのあんたが嫌いで嫌いで嫌いで、、でも良いの。ようやく捕まえたわ。」
彼女は魔法陣ギリギリの所まで歩み寄ってきて優しい声で囁いた。
「ねぇ、、ナタリー死んで?」
その言葉をきっかけに床に描かれた魔法陣が赤く輝き始めた。
目を見開く私を指を指しながら笑い転げる彼女を私は呆然と見つめるしかなかった。
自分がこの様な深慮の浅い馬鹿な人間だとは思わなかった。
下唇を噛み締めて悔やんだが、後悔先に立たずとはこの事だ。
魔法陣の上で崩れ落ちる私の視界にマリアさんの笑う姿と、バゼルハイド王のイヤらしい笑みが見えた。
話しは遡る。
バゼルハイド王からフローラの家族とゴロランド王の一族の解放を許されたその日から、私とカイエンは寝る間も惜しんで働いた。
努力の甲斐あって、3日後にはフローラの家族を船に乗せ送り出す事が出来た。
そして、ゴロランド王の一族に彼の遺体を引き渡し、王の最期の言葉を伝えることも出来たのだが、彼らを解放する事は叶わなかった。
彼らが解放される事を拒否したのだ。
ゴロランド王の最期の姿を聞き、彼らは目を輝かした。
そして、自分達も誇りを持って死んで行った王の様に立派に散りたいと、皆がそう言ったのだ。
私はゴロランド王の言葉を思い出し、彼らを何とか助けたいと思ったが、戦争を引き起こした彼らは魔王の側で暮らす事は出来ない。
こちらで暮らすにしても、皆ゴロランド王の一族を恨んでいる。
彼らはどこにも居場所など無いのだ。
彼らもそれを良く分かっており、それならば新しい国を作る最前線で働く事を誇りにし、今の暮らしを続けていきたいと言った。
カイエンにどうする事も出来ないだろうも言われ、私は引き下がる事しか出来なかった。
せめて今の暮らしぶりを改善すべく、住まいの改善と彼らに休みを作ることを彼らを監督している者達に約束させ、その場を後にした。
もっと彼らに何か出来ないかと悩んだが、ゴロランド王の話しを聞いた後、彼らが目を輝かしながら働く姿を見れば何も言えなかった。
「まぁ、そう落ち込むな。とりあえずフローラの家族を助けられたんだ。後は適当にバゼルハイドに報告して帰ろうぜ。」
城へと戻る道の途中でカイエンにそう言われ、私は目を丸くした。
「へっ?帰る?」
なぜか驚く私にカイエンはニカッと笑った。
「任務完了だろ?」
「、、、。」
カイエンが私の顔を覗き込む。頭をグシャリと撫でられようやく私の思考が追いついてきた。
「そっか、、帰れるんだ。」
「ハハッ、そりゃそうだろ。コッチでずっと暮らすつもりだったのかよ?」
そう聞かれて首を千切れるほど横に振った。
「帰る!!帰る!!絶対帰る!!」
大声でそう言えばカイエンは声を上げて笑った。
「おう!帰ろうぜ!」
そうして城に帰った時には、私はすっかり肩の荷が降りた状態だった。
もう二度と向こうに戻れないかもしれないと思っていたのだ。少しぐらい浮かれても仕方のない事だっただろう。
「カイエン、お手洗いに行くから先に部屋に戻っておいて。」
トイレの前で待たれるのが恥ずかしい。そう思う気持ちから出た言葉だった。
カイエンもその日は気が抜けていたのか、それを了承すると部屋へと戻って行った。
「はぁー、、帰えれるのね。」
トイレを済ませた後、手を洗いそこに付けられていた鏡で自分の顔を見た。
少しくたびれた自分の顔に苦笑いすれば、鏡の向こうの自分も笑う。
毎日があっという間で、それなのにあの日から何年も何十年も経ってしまった様な気がする。
戦争さえ無ければという気持ちが駆け巡り、しかしハデス様の思えば胸が熱くなった。
「戦争が無ければ彼に会う事も無かったのね、、」
だからと言って戦争があった事を感謝してはいけない事だと分かっている。
情けない自分が嫌で、冷たい水で顔を洗った。背後が無防備だとは気付かずに、、
「フフッ、、見ぃ~つけた。」
背後から甘い声がした。
背筋がゾクッと凍った。慌てて振り返ろうとしたが、口を布で塞がれたとたん世界が暗転した。
「やったわ!フフフフフフッ、、アーハッハッハッハッ!!」
暗闇の中でこの世で一番嫌いな女の笑い声が響いていた。
ピチャンッ、、ピチャンッ、、
頬に冷たい感触がする。
「ンッ、、、ンンッ、、、」
ぼんやりする頭を押さえながら起き上がれば、そこは見た事もない場所だった。
石畳の冷たい長方形の部屋には何も置かれておらずガランと広いばかりで冷たい感じがした。
そして床に置いた手を見れば、そこに模様が広がっている事が分かった。
「、、魔法陣」
そう呟いてゾッとした。
マリアさんの笑い声、、見た事の無い部屋、、そしてこの魔法陣。
慌てて辺りを見渡せば、魔法陣の外にバゼルハイド王、マリアさん、そして2人の後ろに黒いフードを被った人が立っているのが見えた。
「、、マリアさん」
そう名前を呼べばマリアさんは恐ろしい顔で高笑いを始めた。
「フフフフフフッ、ようやくこの時が来たわ。」
「マリアさん、、どうして?」
そう聞けば、彼女は仁王立ちになり私に指を刺した。
「私、あんたの事が大嫌い!!フローラも嫌いだけど、清廉潔白って感じのあんたが嫌いで嫌いで嫌いで、、でも良いの。ようやく捕まえたわ。」
彼女は魔法陣ギリギリの所まで歩み寄ってきて優しい声で囁いた。
「ねぇ、、ナタリー死んで?」
その言葉をきっかけに床に描かれた魔法陣が赤く輝き始めた。
目を見開く私を指を指しながら笑い転げる彼女を私は呆然と見つめるしかなかった。
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