人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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ピエールはナタリー達と分かれると、エルザが送り返して来たハンナを連れてバゼルハイド王の元へと向かった。
連れてと言っても、グルグルに縛られたハンナは自分では動く事が出来ず、兵士に抱え上げられている。
時折呻き声を上げるだけで、目も虚で意識がハッキリしない彼女には抵抗の意思は無いようだ。

バゼルハイド王は、王の間にはおらず地下へと身を潜めていた。
彼がここにいるのを知っているのは、ピエールと極一部の側近だけだ。
ハンナを抱えていた兵士は途中で下げられ、地下へ向かう道からはバゼルハイド王専属の魔道士がハンナを運んでいた。
地下に伸びる薄暗い階段を降りる度に、気温が下がっていきピエールは身を震わせた。

「陛下はなぜ地下などに、、」

バゼルハイドがヴェルディスを側に置き始めた頃に、王は地下に度々籠るようになった。
何をしているのかと何度か聞いたがはぐらかされるばかりで、彼も今回初めてここへと足を踏み入れるのだ。

暗い階段の先に続く狭い廊下を抜けると、目の前に大きな木の扉が現れた。
細い廊下であるが、天井はやけに高い。
地面から生えた扉は天井にまで伸び、異様な雰囲気を醸し出していた。
ピエールは震える手でその重い扉を押した。

ギギギギッ

扉はけたたましい音を立てながら重々しく内側へと開く。
ピエールの後ろから付いてくる魔道士は何度もここへ来ているのだろう、恐る恐る扉を潜ったピエールに対し、彼はアッサリとついて来た。

「、、これは?」

中に入ると、そこは廊下とは違い明るい部屋だった。
とは言っても、何も無いガランとした石造りの部屋で、部屋の奥に唯一置いてある椅子にバゼルハイドは足を組んで座っていた。
彼の後ろには黒い長いローブにフードをかぶったヴェルディスの姿。
それだけならば王の間で見慣れた光景なのだが、異様なのは彼らの前に書かれた大きな魔法陣だった。
赤黒く光る複雑な模様の巨大な魔法陣が広い部屋の床ほとんど占めていたのだ。

「ピエールか、、お前が来たと言う事は、ナタリーが戻って来たのだな。」

バゼルハイドの重々しい声が響いた。
ピエールは丁寧にお辞儀をした後に、ナタリーとカイエンを部屋に通した事、そしてエルザよりハンナが返された事を説明し、彼女を連れ王の前へと歩みを進めた。

「ふん、馬鹿な女だ。」

バゼルハイドの前に着くとハンナはドサリと地面へ落とされた。魔道士は頭を下げると部屋を出て行ってしまう。
それを見計らったように、バゼルハイドはピエールへ命令した。

「ピエール、その女を魔法陣の真ん中へ置け。」

「、、はい。」

ピエールはなぜと思ったが、不機嫌そうなバゼルハイドのオーラに気圧され、素直にハンナを引きずりながら魔法陣の中央へと運んだ。

「、、ピ、、ピエール様、、お願いです、、ここから、、逃して、、」

その間、ハンナに途切れ途切れの声でそう頼まれたが、ピエールはそれを無視するしか無かった。
詳しい事は分からないが、エルザを怒らせ送り返されたのだ。彼女に逃げ場など無い。
男にしては身体が小さいピエールは、息を荒げながら必死でハンナを動かした。
ヴェルディスなら簡単にハンナを動かせるのにと彼の頭をよぎったが、口に出せずただ従うしか無かった。

「そこで良い。」

バゼルハイドが足を組み直しながらそう言った。

「ハァー、ハァーハァー、、陛下、何をするので?」

ピエールは額の汗を拭いながらバゼルハイド王の元へ戻ろうとしたその時、魔法陣から出ていた赤黒い光が強まり部屋全体を薄気味悪く照らした。

「ハデスを殺す為の糧にするのだ。」

そう不敵に笑うバゼルハイドに彼は嫌な予感を感じ、足早にその魔法陣から出ようとした。
しかし魔法陣の光が壁の様になり、その光より外へ出られなかったのだ。

「なっ!?」

彼は拳をその光に当て、ガンガンと打ち鳴らした。

「陛下!!!」

必死にバゼルハイドの名を呼んだが、バゼルハイドはゆっくりと立ち上がりながらピエールの元へ行くと声を上げて笑い出した。

「、、陛下。」

その不気味さにピエールは青い顔で立ち尽くした。そして、次にバゼルハイドが口を開いた言葉にピエールは絶望した。

「ピエール、お前アルベルトと組んで私を裏切ろうとしていたみたいだな。」

「、、、。」

黙りこくった彼を見てバゼルハイドは満足したように頷くとヴェルディスの方を見た。

「ナタリーの魂だけではハデスを殺すには役不足だ。ピエール、私のために役に立て!!!」

気怠そうに話していたバゼルハイドが急に大声を上げピエールを指差した。
その途端魔法陣の光がさらに眩いものになり、ピエールとハンナの姿が見えなくなる。
しかし、中からは2人の絶叫が聞こえていた。

「ハッ、、ハッハッ、、アーハッハッハッハッハッ!!!」

その絶叫を愉快そうに聞いたバゼルハイドはしかしすぐに興味を無くしたように椅子に座った。
しばらくして光が収まり魔法陣がまた姿を現す。
しかしそこには2人の姿は無く、まるで肉体だけが忽然と消えたように彼らの服だけが残されていた。




「どうかしたの!?」

従者に連れて来られた一室でいた私は、カイエンが急に辺りを見渡し緊張した面持ちになったのを見て慌てた。

「ヴェルディスが力を使った、、が、、」

「ヴェルディスが!?」

私も辺りを見渡したが、私には何の気配も感じ無かった。
しばらく緊迫した空気が流れたが、しばらくするとカイエンは首を振った。

「確かに力を感じたのだが、気配が薄くすぐに消えてしまった、、。」

「そう、、でも彼は確かにこの城に居るという事ね?」

「あぁ。」

私は言い知れぬ気持ちを抱えながら、バゼルハイド王と謁見の時を待っていた。
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