人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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旅立つ前に伝えておく事2

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フローラと話し合った後、私はハデス様を探しに部屋から出ていた。
明後日の朝にはここを旅立つ事が決まっている。彼と話せる時間が欲しかった。

廊下を出てしばらく歩くとサイレーイス様と出くわした。
先程のフローラの話しを思い出しニヤニヤしそうになるのを堪えながら会釈を交わす。

「サイレーイス様、ハデス様はいつもの部屋にいらっしゃいますか?」

「いえ、ハデス様は今この地を離れています。」

どこに?そう聞こうとして私は口を開きかけたがグッと我慢する。私にハデス様が何をしているか聞く権利があるのかと自分に問いかける。
そんな思いが顔に出ていたのか、サイレーイス様はフッと笑い声を漏らした。

「ハデス様は我が国の城へ戻っています。」

「あっ、、」

聞きたいけど聞いて良いのか分からない。そんな気持ちがバレてしまった事が恥ずかしく私の頬が染まる。

「ナタリー様、あなたは自分の価値をよく分かっていらっしゃらないのですね。」

「、、価値ですか?」

どういった意味か分からずに私は首をひねった。

「あの朴念仁のハデス様を骨抜きにしているのですよ?」

「、、骨抜きですか?そんな風には、、」

私は彼に強く引き止められる事も、熱く愛を語られる事もされていない。ハデス様が骨抜きなど何かの間違いでは無いだろうか?

「今ハデス様はあなたの身の安全を確保するために死にものぐるいで動いています。私は行かさねば良いではないですかと散々言ったのですがね。あなたの意思を尊重したいとおっしゃるので、、。ハァー、これが骨抜きと言わずに何と言うのですか?」

「、、知りませんでした。」

ただでさえ忙しく働き回るハデス様の首を私がさらに締めていたとは。
罪悪感で全身が冷えて行く。

「あぁ、そんな顔しないで下さい。私はあなたに感謝しているのです。」

「、、感謝?」

サイレーイス様は姿勢を正すと深々とお辞儀をした。

「えっ!?やめて下さい!何で頭など、、サイレーイス様?」

彼は頭を上げると慌てふためく私を見てまた笑った。

「ハデス様が愛したのがあなたで良かった。ナタリー様、必ず帰って来て下さい。」

「、、はい。」

「あと、明日の夜にはハデス様は帰って来ますから、出迎えて下さいますか?」

「もちろんです。」

いつもは何を考えているか分からないサイレーイス様が、何の企みもない笑顔を初めて見せた。
彼はハデス様に対してだけはいつも真っ直ぐなのだと、そう感じた。

「サイレーイス様、、」

「はい?」

「私が去った後、フローラの事をお願いします。」

私がそう言えば、先程の笑顔は引っ込み、いつもの何を考えているか分からない様な冷たい顔に戻ってしまう。

「、、なぜ私が?ミカエル様に任せれば良いのでは?」

私はきっぱりと首を振った。

「もちろん彼にもお願いしますが、イアンの居ない今、フローラが魔族の方で頼れるのはハデス様とあなただけです。それに、、本当に困った事があれば、フローラはあなたに相談する、、と思います。」

「、、そうですか。まぁ、心に留めておきましょう。」

「ありがとうございます!」

私はガバッと音がするほど勢い良く頭を下げた。

「、、大袈裟ですね。では、、」

サイレーイス様は元の顔に戻るとそのまま去って行った。

「ハデス様は居ないのか、、」

言葉にしてしまうと寂しかった。私の為に働いているというのに何と理不尽なのだろう。
トボトボと歩いて戻る途中で、先に去ったはずのサイレーイス様が廊下の角で隠れるように立っているのが見えた。
首を傾げながら近付いて行くと、気配で気付いた彼は私にシーっと人差し指を立てて静かにしていろと伝えてくる。
そーっと角から顔を少し出すと、そこに居たのはフローラと、エルザ様付きのメイドだった。

名前は何だったかしら?

私は首をひねったが思い出せない。赤茶の髪にメガネの30ぐらいの女性なのだが、なぜかメガネは外している。

「ナタリー様のせいで、、いえ、ナタリーのせいできっと私はサイレーイス様に相手にされなくなったのだわ!あなたナタリーの下僕でしょ?ちゃんと見張っていなさいよ!!」

どうやら、フローラは彼女に言いがかりを付けられ罵られているようだ。早く助けねばと飛び出そうとしたが、私の腕をサイレーイス様が掴む。

「何で?」

小声で聞く私にサイレーイス様は穏やかに笑った。

「フローラ様の魔法の腕は確かなようです。きっと自分で対処出来ます。」

「そうかもしれませんが!」

「それに、彼女がどれほど抗える力があるか知りたいのです。ナタリー様、彼女を私に託すなら、私は彼女の力を見極めておかなければなりません。そうでしょう?」

幼子を諭すようにそう言われれば私は頷くしか無かった。しかし、いつでも飛び出して行けるように身構えているのは許して欲しい。

「下僕?それはあなたでしょう?私とナタリー様は友達です。あなたとエルザ様の関係と同じにしないで下さい。」

その場に凛としたフローラの声が響いた。
そこには学園で虐められ、影でシクシクと泣いていた彼女の姿はどこにも無かった。

「フローラ、、強くなったのね。」

貴族社会で生きて行くのなら強くなりなさい。私はフローラにそう言い続けていた。それは半分自分に言い聞かせていたのでもあったのだが、、

「偉そうに、、フローラ、あなたの噂は聞いているわよ?身体を使って色々な殿方に取り入っているとか?汚らわしい女よね。もしかしてサイレーイス様にも手を出したんじゃないでしょうね!!」

大人しいと思っていたメイドはフローラに噛みつきそうな勢いで怒鳴りだした。あまりの剣幕に私は唖然とするしかなかった。

「、、、サイレーイス様、あなたあのメイドに何かしましたね?」

私は側にいる彼を冷ややかな目で見ながらそう尋ねた。あのメイドの怒り方は尋常では無い。

「はて?何かとは何ですか?」

サイレーイス様はシラを切るつもりのようだ。私は諦めのため息を吐いてフローラを見守った。

「サイレーイス様に手など出しておりません。そもそも私が殿方を誘惑しているなどデマも良いとこです。」

「ハンッ、そんなの嘘よ!!男爵のお前が成り上がるなど、男を垂らし込む以外に道は無いじゃない!それこそ皆死にものぐるいで爵位の高い嫁ぎ先を取り合うのよ!?何もしていないなどと、良くもそんな嘘が付けたものね!!」

メイドは顔を真っ赤にして怒鳴り続けている。フローラは冷静に対応していたが、それが返って彼女の怒りを逆撫でしているのかも知れなかった。

「、、話しになりません。あなたが私の話しを信じないのならば、ここで話し合うのは無意味です。」

フローラは踵を返し彼女を残し歩き始めた。こちらへやって来るので私はワタワタと慌てたが、横でサイレーイス様はひょうひょうとしている。

「待ちなさいよ!!」

大声でメイドが叫んだので、フローラは驚いて反射的に立ち止まった。
振り返ればメイドはなぜか勝ち誇った顔をしている。

「私、サイレーイス様に愛されているの!今は一時あなたに流れたのかもしれないけれど、必ず私の元へ戻って来るわ!!」

「愛された、、?」

私の場所からフローラの顔は見えなかったが、声が震えているのが分かった。
彼女は前世からサイレーイス様に憧れていたのだ。愛されているの真意は分からないが、フローラが怯えるには十分な言葉だった。
それに気付いたのかメイドは愉快そうに笑い始めた。

「その様子だとあなたサイレーイス様に手を出されていないのね?フフッ、サイレーイス様はきっとその牛みたいな品の無い乳など興味が無いのよ。なんだ心配して損したわ。」

「、、、あなたは、、手を出されたの?」

不安そうなフローラの声が弱々しくその場に響いた。
メイドはニヤリと悪どい顔で笑うと、自分の体を抱きしめながら悶えるように語り始めた。

「サイレーイス様に何度もイカされたわ。彼の長い指が私の大切な場所を何度も愛したの。彼ったら凄く激しいのよ!あなたには分からない話しよね?フフッ、惚気てしまってゴメンナサイ。」

「、、、。」

フローラは黙りこくってしまった。
やはり手を出していたのかとサイレーイス様の方を睨んでみたが、彼とは目が合わなかった。
彼は心配そうな瞳でフローラを見つめていたのだ。
私は首を傾げた。

メイドに手を出したのに、サイレーイス様はフローラが気になっている?

彼が不純過ぎて私の思考は付いてこれず混乱した。
とりあえず傷付いているだろうフローラの元へ駆け寄ろうとした時、私よりも先に2人の元へ歩き始めたのはサイレーイス様だった。

「サイレーイス様!?」

先に気付いたのはメイドだった。その声でフローラの肩はビクリと震えたが、彼の方へは顔を向けはしなかった。

「ハンナ、、君って人は、、ハァー。お仕置きが逆効果になってしまったようだね。」

「サイレーイス様、、私、、あなたの事が、、」

ハンナは告白しようとしたのだろう。好きと言おうとしたその時、ハンナの目の前でサイレーイス様はフローラを後ろから抱きしめた。

「!!!」

驚愕に目を見開くハンナと身体が石のように固まったフローラの姿が見えた。

「ハンナ、私があなたの中ではイケないのです。それに今はもうあなたの身体では反応すらしないでしょう。」

「サイレーイス様、、そんな、、だから最後までしてくれなかったの、、」

ハンナは涙目でサイレーイス様を見つめた。懇願するようなその瞳はそれでもまだ彼を慕う気持ちが漏れ出している。

「分からない女ですね。私はどうやらあなただけでなく他の女ではもうダメなようです。」

サイレーイス様はそう言いながら、フローラの額や頬、耳に口付けを落とし始めた。

「サ、サイレーイス様、、やめて下さい、、」

恥じらうフローラの声が聞こえたが、サイレーイス様は御構い無しだ。
胸元に手を置きどうやらハンナの目の前でフローラの胸を揉み始めたらしい。

「ハンナ、私はこの娘にしか反応しない。それにあなたのように主人を簡単に裏切る者など嫌いです。出来ればもう二度と顔も見たくありません。」

「、、そんな、サイレーイス様、、」

ハンナはポロポロと泣き始めてしまった。そんな傷付いた彼女の前で、サイレーイス様はフローラを触る事をやめなかった。
ワンピースの外から触っていた胸元を、今度は隙間から手を忍び込ませ直接揉みしだき始めた。
フローラの身体が驚きで跳ねた後、羞恥心からか全身が赤く染まっていく。

「サイレーイス様、、やめて下さい、、」

フローラの懇願する声にサイレーイス様はダメだときっぱり断った。

「サイレーイス様なんて、、」

ハンナはそう言い残すと泣きながら走り去ってしまった。

「サイレーイス様、、ハンナ様は居なくなりました、、アッ、、手を、、退けて下さい、、」

「ダメだと言いましたよ?こんな気持ちになったのは始めてですね。さて、ここで抱いても良いのですが、あなたの主人の目がありますからね、、」

そう言うとサイレーイス様はフローラをお姫様抱っこし、私が居る方とは逆に歩き始めた。
私は止めるべきかどうか悩んでいる間に2人を見失ってしまう。

「、、フローラ、大丈夫かしら?」

心配はあったが、彼女には祖父の作った魔道具を付けさせている。本当に嫌だと思えばそれが彼女を守ってくれるはずだ。

「フローラが好きなら仕方ないわよね、、」

私はそう言うと自分の部屋へ戻ろうとしたのをやめ、大広間へ向かったのだった。
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