人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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旅立つ前に伝えておく事

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私は出発の日を目前に迎えていた。
荷物を詰め終え、手紙も書き終わった。
3通の手紙をそれより少し大きい封筒にまとめて入れ、フローラに託した。

今は私達の部屋で寝る前の体操をしているところだ。
フローラが柔軟体操というものをある日急に始めたので、私もそれに習って一緒にやり始めたのだ。
床にペタリとお尻をつけ、足をパカリと開き、前に向かって前屈する。
これが中々キツイのだ。

「ねぇ、フローラ、あなた最近おかしいわよ?何でこんな体操を急に始めたの?訓練だって、、」

私の目の前には同じ格好で前屈をする、以前よりも強い意志を持った瞳の彼女がいる。

「ナタリー様、、あなたが旅立つ前に話しておかなければならないと思っていました。」

フローラは開脚をやめると、自分を抱えるようにお山座りをした。山になった膝の部分に顎をちょこんと乗せて可愛らしい。
私も彼女に習って同じような格好をしたが、フローラより丈の短いワンピースを着ていたので、裾が持ち上がり下着が見えているのだが、、それに気付いていない。

「ナタリー様、、あの、、」

顔を赤くして口を何度かパクパクさせ、しかし口を噤んでしまった。そんなフローラを見て私は余程言いづらい話しなのかと身構える。

「パンツが、、、」

「へっ!?、、あっ!!」

フローラの告白に今度は私が真っ赤になって口をパクパクさせた。
足を寝かしお姉さん座りに変えた後、何もなかったように無理矢理顔をキリッとさせ優雅に振舞ってみせる。

「ごめんなさい。見苦しいものを見せてしまいましたわ。」

「、、いえ、、、、フフッ、、フフフッ、、、ナタリー様、面白い、、」

「もう!せっかく何ごとも無かったみたいに振る舞ったのに!で、フローラ、話って?早く話しなさい!」

真っ赤な顔でそうまくし立てる私には何の迫力も無い。フローラは笑顔を残したまま話し始めた。

「信じて貰えるかどうか分かりませんが、、」

そう前置きをし話し始めたフローラの話しは、彼女の性格を知らなければ信じられるものでは無かった。

「少し整理させて、、」

「はい。」

そう返事をしたフローラの瞳は不安で揺れていた。きっと信じて貰えたかどうかが不安なのだろう。

「あなたには前世の記憶があるのね?」

「はい。記憶があると言っても、つい先日思い出したばかりですが。」

「その前屈でしていた、乙女ゲーム?とやらの世界にこの世界が酷似しているのよね?」

「はい。ナタリー様、ミカエル様、アルベルト様にハデス様、、それにサイレーイス様、、そのゲームにはこの世界の皆様が存在していましたし、私達の通った学園も出てきます。建物の配置や作りまで一緒ですし、生徒や先生、画面に映るる者は皆こちらでも存在している方でした。」

「そう、、。不思議な話しね。」

私は頭の中で情報を整理した後、改めてフローラの顔を見た。
彼女はあまり冗談を言わない根が真面目な娘だ。今話している事が嘘では無い事は分かるが、強く記憶に残った幼い頃の夢かもしれないという疑いは拭えない。
しかし、それにしては彼女か前世で住んでいたという日本という国の情報が詳し過ぎるのだ。
もしこれが想像だけで作り上げられた夢の中の世界だとすれば、彼女は一流の物書きになれるだろう。

「信じます。」

真剣に考えて私はそう答えていた。

「ナタリー様、、」

明らかに安堵した顔になったフローラに私は優しく微笑みかける。

「あなたは嘘をつく子では無いから。フローラ、、私にそれを伝えたのは、これから私がバゼルハイド王の元へ戻る事と関係あるのよね?」

フローラは強く頷いた。

「私はそのゲームの世界では光の魔法の使い手になります。」

「光魔法!!あの失われた古代の魔法の事よね!?」

「はい。バッドエンドというものを迎えると、私はハデス様の元へ送られてしまいます。」

「それって、、私と同じ、、」

「そうですね。ここでは私の立場がナタリー様と入れ替わっています。ハデス様はその後、人間達を滅ぼそうとするのです。」

「ハデス様が?あり得ないわ!」

フローラは私が怒った顔をしたので、慌てて頭を下げた後、ゲームなのでとオロオロしていた。

「ごめんなさい。大人気なかったわ。それで?」

「はい。そこで私がそんなハデス様を止めようとして、光魔法を使えるようになるのです。」

「、、そう。」

その後を想像した私の目から大粒の涙が溢れ出した。
光魔法は強い回復魔法の他に、闇の者を消し去るという浄化の力を持っている。
ゲームの中のハデス様はきっとその力により消し去られたのだろう。

「、、ハデス様、、可愛そう、、」

エッグエッグと泣き出した私にフローラは大慌てでこちらまでやって来ると、お山座りで泣き咽ぶ私を抱きしめた。

「ナタリー様、大丈夫です!!私は決してハデス様を浄化したりしませんから!!」

背中をさすりながらそう言われたが、一度流れ出した涙はそう簡単に収まらなかった。

「では、、ではなぜ最近になって、ウゥッ、、訓練など始めたの?」

「光魔法を取得したいからです、、」

「、、、。」

涙を流しながら黙り込んでしまった私にフローラは慌てて背中をさすりながら弁解する。

「ハデス様には使いません!と言っても、光魔法は邪悪な者に効く魔法です。ハデス様は邪悪な者ですか?」

私はブルブルと首を振った。

「いざという時、ナタリー様を邪悪な者から守れるように、、その為に光魔法が欲しいのです。」

「フローラ、、、」

「光魔法を取得し、魔法陣に乗って必ず掛け付けます。だからお願いです、、」

涙で濡れそぼった私の顔を、フローラは優しくハンカチで拭きながら見つめていた。
そんな彼女の瞳からも大粒の涙が溢れ出したのだった。

「フローラ!?」

「ナタリー様、、お願いします。死なないで、、」

消え入りそうなその声を聞いて私の心は切なく痛んだ。
フローラの身体を抱きしめ返して何度も頷く。

「死んだりしないわ!約束する!!」

「、、本当ですか?」

「えぇ。私こう見えてとても強いのだから!」

「ナタリー様、、」

私の笑顔を見て、ホッとしたようにフローラも笑顔を見せた。
フローラは戦う事が苦手で、教科の授業はとても優秀だったのだが、実技の授業の成績があまり良くなかった。
そんな彼女が奮起したのが、私の為だということが心底嬉しかった。

「それにしてもフローラ、あなたミカエルが好きなのだとばかり思っていたわ。」

「えっ!?」

「サイレーイス様の事は前世から知っていたの?」

「えぇ!?」

「好きなのでしょう?彼が?」

「へっ!?」

「正直私は苦手よ。サイレーイス様ってハデス様とは真逆の性格を持っていそうなんだもの。策士で、腹黒で、何を考えているか分からないわ。」

「ナタリー様、、私はサイレーイス様など、、」

真っ赤な顔で首を振るフローラを私は睨み付けた。

「あら嘘をつく気?」

「嘘って、、」

「あなたが先程皆の名前を羅列した時に、サイレーイス様の時だけ恋をする乙女のような顔で呼んだわ。」

フローラは無自覚だったのだろう。私の言葉に驚愕の顔をした後、頭の先からつま先まで真っ赤になった。

「ミカエルはもう良いの?」

「、、、元から、、ミカエル様の事は恋かどうか分かりませんでした。見た目が好きだというだけで夢中になれる訳では無いでしょう、、?」

その問いに私は頷いた。ハデス様の外見は好きだが、彼の中身はもっと好きだ。その二つが相まってきっと恋になる。そんな気がする。

「サイレーイス様は、、前世では外見だけ、、いえ、、声も好きでしたけど、性格は分かりませんでした。」

彼に関しては分からない方が良かったのでは無いかと思ったが、賢明にもその思いを飲み込んだ。

「サイレーイス様は、、確かに底知れぬ闇を持った恐ろしい方の様に思います。でも、、彼を見ると胸がドキドキとうるさく跳ね、身体の芯が熱くなるのです。」

「、、分かるわ。」

私はハデス様の事を思った。彼を思うだけで心臓がうるさく暴れ出す。

「嫌な事も言われましたし、これを恋と呼ぶにはあまりにも禍々しいような気がしますが、、でも目が離せないのです。きっと、、私は悪い男が好きなのですね。」

フローラはそこまで言い切ると、スッキリしたような顔で微笑んだ。
サイレーイス様は悪い男ではあるが、信念を持って仕事をしている方ではある。
フローラが彼を好きになり幸せになれるかどうかそれは分からないが、、幸せの定義は人それぞれだ。
魔王を好きになった私に口出し出来る事は何も無いだろう。

「でもフローラ、1つ困った事があるわ。」

「???」

フローラは愛らしい顔で首を傾げた。

「ミカエルはあなたに夢中よ。他の相手ならともかく、サイレーイス様に恋をしていると知れば全力で止めに来るわねきっと。」

「ミカエル様が!?」

フローラはミカエルからどんな瞳で見つめられていたか自覚していなかったようだ。
しかも少し前まで同じ様な瞳でフローラも彼を見つめていたのだ。
お互い無自覚だったのかもしれないが、これから泥沼の予感がしてならない。

「私は側にいられないから、、フローラ、あなた、、貞操をしっかり守るのよ!!」

「ナタリー様、、」

不安な顔で私を見つめてくるフローラに私は苦笑いで答えた。
女の嫉妬より厄介なのは男の嫉妬かもしれない、、
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