人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

文字の大きさ
上 下
42 / 78

魔王の元へ

しおりを挟む
「さぁ、出来た。」

イアンは出来栄えを見て満足そうに頷いた。
私はドキドキとする胸を押さえながら、鏡の前へと足を進める。
そこに映る自分を見て息を飲んだ。
夜会に行く時のような装いとは全く違う自分がそこに映っていたからだ。

ゆるく巻いた髪は解けやすいように束ねられ、化粧も薄化粧、もちろんコルセットも無く、淡いピンクのワンピースはサラサラした光沢のある生地で出来ており、前開きになっている。何個か縦に連なったリボンで止めているだけの簡単な作りだ。
故に解きやすいだろう。

「、、イアン。」

その姿に不安そうな声を出したが、イアンはそれを鼻で笑った。

「どうしても嫌ならハデス様に交渉するのね。私は知らないわ。後は2人の問題でしょう?」

「うっ、イアンが冷たい。」

肩を落とし俯いていじけるとイアンはやれやれと言いながら私の側へ来た。肩にそっと手を置き子供をあやすような優しい声音で言った。

「本当に嫌ならハデス様は無理矢理抱いたりしないわよ。ハデス様の前に立って彼の顔をちゃんと見て自分の心に聞いてみなさい。」

「自分の心に?」

「ハデス様の妻になりたいのか、なりたくないのか。」

私は直ぐに返事が出来なかった。ハデス様を愛している気持ちに変わりはないが、今はバゼルハイド王の元へ行く事で頭がいっぱいだ。

「あんたはしっかりしてるんだかしてないんだか。まぁこれだけは言っておくわ。私はあなたがハデス様と結婚するなら歓迎するわ。あなたを守る為なら騎士に戻っても構わない。」

「イアン、、、ありがとう。」

「もう、ほら泣かないで。せっかくお化粧したのだから。」

私はさっきの不安が嘘だったかのように晴れやかな笑顔を見せた。
その時コンコンとノックの音が室内に響いた。

「私が行くわ。」

イアンが出迎えると、扉の前にいたのはサイレーイス様だった。

「ハデス様が呼んでいます。ナタリー様こちらへ。」

「、、はい。」

私は先程のイアンとの会話で気持ちが固まっていた。とりあえず彼の前で立ってみよう。彼の顔を見て、彼と話しをして。

「いってらっしゃい。」

イアンとはそこで別れ、私はサイレーイス様に連れられ大広間へと向かった。
先程の部屋から大広間までは目と鼻の先にあり、歩いている間にまた緊張が高まってくる。

「ナタリー様。」

サイレーイス様が急に私の名を呼んだ。彼の方を見たが少し先を歩くサイレーイス様の顔を伺うことは出来ない。
彼の美しい金色の髪がサラサラと風で揺れる。

「先程はありがとうございました。」

サイレーイス様の言っているのはゴロランド王の最期を引き取った事だろう。しかし、お礼を言われて私は何と返したら良いか分からず返事が出来なかった。
気持ちを汲んでくれたのか、サイレーイス様はそのまま話しを続ける。

「あのままハデス様が手を下していれば、今頃大変な事になっていたでしょう。あなたのお陰です。」

「私は、、残された人の事を考えただけです。ハデス様の事を思ってした事では、、」

後ろめたさから本心を語ったのだが、サイレーイス様はそれを鼻で笑った。

「それは嘘です。私には分かります。あなたはあの時ハデス様が手を下していれば、後悔すると思いませんでしたか?」

「、、思いました。」

私がそう言うと、サイレーイス様は足を止めこちらを向いた後優しく微笑んだ。

「だからお礼を言ったのです。ありがとうございます。」

「サイレーイス様、、」

『それにしてもナタリー様、魔族の言葉が上手ですね。カイエン様から習ったのですか?』

サイレーイス様は優しい笑顔から不敵な笑みになり、魔族の言葉でそう言った。私は苦笑いしながら頷く。

『はい。いつかカイエンを魔族の住む大陸へ戻してあげたかったので、、その時の為に練習しました。それに、王妃になる為には必要な勉強だとそう思いました。やはり学んでおいて良かったとそう思います。』

『そうですか。あなたは本当に変わった人間ですね。』

サイレーイス様はキチンとした姿勢で立つと綺麗なお辞儀をした。

『私はここでお待ちします。ナタリー様、ハデス様の事よろしくお願いします。』

『、、、はい。』

私はサイレーイス様に見送られ、大広間へと入って行った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

処理中です...