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魔王の元へ
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「さぁ、出来た。」
イアンは出来栄えを見て満足そうに頷いた。
私はドキドキとする胸を押さえながら、鏡の前へと足を進める。
そこに映る自分を見て息を飲んだ。
夜会に行く時のような装いとは全く違う自分がそこに映っていたからだ。
ゆるく巻いた髪は解けやすいように束ねられ、化粧も薄化粧、もちろんコルセットも無く、淡いピンクのワンピースはサラサラした光沢のある生地で出来ており、前開きになっている。何個か縦に連なったリボンで止めているだけの簡単な作りだ。
故に解きやすいだろう。
「、、イアン。」
その姿に不安そうな声を出したが、イアンはそれを鼻で笑った。
「どうしても嫌ならハデス様に交渉するのね。私は知らないわ。後は2人の問題でしょう?」
「うっ、イアンが冷たい。」
肩を落とし俯いていじけるとイアンはやれやれと言いながら私の側へ来た。肩にそっと手を置き子供をあやすような優しい声音で言った。
「本当に嫌ならハデス様は無理矢理抱いたりしないわよ。ハデス様の前に立って彼の顔をちゃんと見て自分の心に聞いてみなさい。」
「自分の心に?」
「ハデス様の妻になりたいのか、なりたくないのか。」
私は直ぐに返事が出来なかった。ハデス様を愛している気持ちに変わりはないが、今はバゼルハイド王の元へ行く事で頭がいっぱいだ。
「あんたはしっかりしてるんだかしてないんだか。まぁこれだけは言っておくわ。私はあなたがハデス様と結婚するなら歓迎するわ。あなたを守る為なら騎士に戻っても構わない。」
「イアン、、、ありがとう。」
「もう、ほら泣かないで。せっかくお化粧したのだから。」
私はさっきの不安が嘘だったかのように晴れやかな笑顔を見せた。
その時コンコンとノックの音が室内に響いた。
「私が行くわ。」
イアンが出迎えると、扉の前にいたのはサイレーイス様だった。
「ハデス様が呼んでいます。ナタリー様こちらへ。」
「、、はい。」
私は先程のイアンとの会話で気持ちが固まっていた。とりあえず彼の前で立ってみよう。彼の顔を見て、彼と話しをして。
「いってらっしゃい。」
イアンとはそこで別れ、私はサイレーイス様に連れられ大広間へと向かった。
先程の部屋から大広間までは目と鼻の先にあり、歩いている間にまた緊張が高まってくる。
「ナタリー様。」
サイレーイス様が急に私の名を呼んだ。彼の方を見たが少し先を歩くサイレーイス様の顔を伺うことは出来ない。
彼の美しい金色の髪がサラサラと風で揺れる。
「先程はありがとうございました。」
サイレーイス様の言っているのはゴロランド王の最期を引き取った事だろう。しかし、お礼を言われて私は何と返したら良いか分からず返事が出来なかった。
気持ちを汲んでくれたのか、サイレーイス様はそのまま話しを続ける。
「あのままハデス様が手を下していれば、今頃大変な事になっていたでしょう。あなたのお陰です。」
「私は、、残された人の事を考えただけです。ハデス様の事を思ってした事では、、」
後ろめたさから本心を語ったのだが、サイレーイス様はそれを鼻で笑った。
「それは嘘です。私には分かります。あなたはあの時ハデス様が手を下していれば、後悔すると思いませんでしたか?」
「、、思いました。」
私がそう言うと、サイレーイス様は足を止めこちらを向いた後優しく微笑んだ。
「だからお礼を言ったのです。ありがとうございます。」
「サイレーイス様、、」
『それにしてもナタリー様、魔族の言葉が上手ですね。カイエン様から習ったのですか?』
サイレーイス様は優しい笑顔から不敵な笑みになり、魔族の言葉でそう言った。私は苦笑いしながら頷く。
『はい。いつかカイエンを魔族の住む大陸へ戻してあげたかったので、、その時の為に練習しました。それに、王妃になる為には必要な勉強だとそう思いました。やはり学んでおいて良かったとそう思います。』
『そうですか。あなたは本当に変わった人間ですね。』
サイレーイス様はキチンとした姿勢で立つと綺麗なお辞儀をした。
『私はここでお待ちします。ナタリー様、ハデス様の事よろしくお願いします。』
『、、、はい。』
私はサイレーイス様に見送られ、大広間へと入って行った。
イアンは出来栄えを見て満足そうに頷いた。
私はドキドキとする胸を押さえながら、鏡の前へと足を進める。
そこに映る自分を見て息を飲んだ。
夜会に行く時のような装いとは全く違う自分がそこに映っていたからだ。
ゆるく巻いた髪は解けやすいように束ねられ、化粧も薄化粧、もちろんコルセットも無く、淡いピンクのワンピースはサラサラした光沢のある生地で出来ており、前開きになっている。何個か縦に連なったリボンで止めているだけの簡単な作りだ。
故に解きやすいだろう。
「、、イアン。」
その姿に不安そうな声を出したが、イアンはそれを鼻で笑った。
「どうしても嫌ならハデス様に交渉するのね。私は知らないわ。後は2人の問題でしょう?」
「うっ、イアンが冷たい。」
肩を落とし俯いていじけるとイアンはやれやれと言いながら私の側へ来た。肩にそっと手を置き子供をあやすような優しい声音で言った。
「本当に嫌ならハデス様は無理矢理抱いたりしないわよ。ハデス様の前に立って彼の顔をちゃんと見て自分の心に聞いてみなさい。」
「自分の心に?」
「ハデス様の妻になりたいのか、なりたくないのか。」
私は直ぐに返事が出来なかった。ハデス様を愛している気持ちに変わりはないが、今はバゼルハイド王の元へ行く事で頭がいっぱいだ。
「あんたはしっかりしてるんだかしてないんだか。まぁこれだけは言っておくわ。私はあなたがハデス様と結婚するなら歓迎するわ。あなたを守る為なら騎士に戻っても構わない。」
「イアン、、、ありがとう。」
「もう、ほら泣かないで。せっかくお化粧したのだから。」
私はさっきの不安が嘘だったかのように晴れやかな笑顔を見せた。
その時コンコンとノックの音が室内に響いた。
「私が行くわ。」
イアンが出迎えると、扉の前にいたのはサイレーイス様だった。
「ハデス様が呼んでいます。ナタリー様こちらへ。」
「、、はい。」
私は先程のイアンとの会話で気持ちが固まっていた。とりあえず彼の前で立ってみよう。彼の顔を見て、彼と話しをして。
「いってらっしゃい。」
イアンとはそこで別れ、私はサイレーイス様に連れられ大広間へと向かった。
先程の部屋から大広間までは目と鼻の先にあり、歩いている間にまた緊張が高まってくる。
「ナタリー様。」
サイレーイス様が急に私の名を呼んだ。彼の方を見たが少し先を歩くサイレーイス様の顔を伺うことは出来ない。
彼の美しい金色の髪がサラサラと風で揺れる。
「先程はありがとうございました。」
サイレーイス様の言っているのはゴロランド王の最期を引き取った事だろう。しかし、お礼を言われて私は何と返したら良いか分からず返事が出来なかった。
気持ちを汲んでくれたのか、サイレーイス様はそのまま話しを続ける。
「あのままハデス様が手を下していれば、今頃大変な事になっていたでしょう。あなたのお陰です。」
「私は、、残された人の事を考えただけです。ハデス様の事を思ってした事では、、」
後ろめたさから本心を語ったのだが、サイレーイス様はそれを鼻で笑った。
「それは嘘です。私には分かります。あなたはあの時ハデス様が手を下していれば、後悔すると思いませんでしたか?」
「、、思いました。」
私がそう言うと、サイレーイス様は足を止めこちらを向いた後優しく微笑んだ。
「だからお礼を言ったのです。ありがとうございます。」
「サイレーイス様、、」
『それにしてもナタリー様、魔族の言葉が上手ですね。カイエン様から習ったのですか?』
サイレーイス様は優しい笑顔から不敵な笑みになり、魔族の言葉でそう言った。私は苦笑いしながら頷く。
『はい。いつかカイエンを魔族の住む大陸へ戻してあげたかったので、、その時の為に練習しました。それに、王妃になる為には必要な勉強だとそう思いました。やはり学んでおいて良かったとそう思います。』
『そうですか。あなたは本当に変わった人間ですね。』
サイレーイス様はキチンとした姿勢で立つと綺麗なお辞儀をした。
『私はここでお待ちします。ナタリー様、ハデス様の事よろしくお願いします。』
『、、、はい。』
私はサイレーイス様に見送られ、大広間へと入って行った。
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