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決意
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ワーという歓声がどこか遠くで聞こえていた。
その声よりも自分の心臓の音の方がずっと大きく響いているからだ。
「ナタリー、あんた何やってんの!」
後ろから聞こえたイアンの声に、私は気が抜けたのかその場にペタリと座り込んでしまった。
イアンが覗き込むようにして私の顔を見て来たが、私の焦点は定まらない。
「大丈夫?」
そう聞かれたが、声を出す事も出来ずにコクコクとからくり人形の様に頷いた。
ふと視線を感じそちらを見上げると、ハデス様が驚いているのか、怒っているのか、、何とも言えない表情で私を見つめている。
(後で怒られるだろうか?)
そんな事を思いながら立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか立つ事が出来ない。それに気付いたイアンのフッと笑う声が聞こえた。
「度胸があるんだか無いんだか分からないわね。ほら。」
イアンの腕に支えられながら私は何とか立ち上がった。
ちょうどミカエルがゴロランド王の首をハデス様に差し出している所で、残された身体はミカエルの能力、氷の魔法により氷漬けとなっていた。
私がゴロランド王の亡骸を一族に引き渡すと言った約束をミカエルも守ろうとしてくれているのだろう。
胸が熱くなるのを感じながら、私はミカエルの元へゆっくりと歩いて行った。
私がミカエルの横に立つと、ハデス様は恐ろしい顔をしたままため息を一つ吐く。
『お前は本当に秘密の多い女だな。』
『、、秘密?』
キョトンとする私の顔を見て、ハデス様は嘘は許さないと言わんばかりの射殺す様な視線を送ってくる。
『人を殺したのは初めてでは無いな?』
『、、はい。』
私がそう答えると、彼の眉がピクリと動いた。私に嘘を付く気がサラサラ無いのが伝わったのだろう。
『公爵家の令嬢が人を殺すのはどういった場面なんだ?それとも人間の令嬢達は皆剣を振り回す事が出来るのか?』
『いえ、そういう訳では、、』
私は答えようとしたが、それより先にサイレーイス様が口を挟む。
『ハデス様、皆がおります故、個人的な話しはまた後日。とりあえずこの場を収めてください。』
『あぁ、そうだな。しかし、私の話しに耳を傾ける余裕のある者は居ないだろ。倒れ込んでいる者達を介抱してやれ!話しは後日だ!』
ハデス様の号令で控えていた兵士達が倒れた魔物達を抱き抱えて連れて行く。
皆が終わったのだとそう感じた瞬間だった。
しかし、私だけは違う。私は今から始まるのだ。そう決意を新たにしていると、ハデス様がこちらを向いたのが分かった。
『ナタリー、お前は後で私の所へ来い。』
その目は有無を言わさない迫力が有り、私は頷く他なかった。
ハデス様が去った後、カイエンが私の剣と鞘を持って深妙な顔をしていた。
「カイエン?」
「ナタリー、、お前あとでアイツの所へ行くのか?」
何だか泣きそうな顔をする彼に私は首を傾げた。
「一体どうしたと言うの?」
「嫌な予感がする。行くな、、ハデスの元へ、、」
「カイエン、、」
私は彼の意図が分からずに困り果てた。バゼルハイド王の元へ向かうと決めたのだ。ハデス様と話さない訳にはいかないだろう。
「あんたはそれよりも風呂!!」
2人の間を割って入ったのはイアンだった。私を俵のように担ぎ上げると皆を見渡し指示を出す。
「カイエン様、その刀はこちらで預からせて頂くわ。血の付いたままサイレーイスに渡しておいて下さい。」
「、、分かった。」
「ミカエル様はサイレーイスに指示を仰ぎゴロランド王の遺体を運んで貰える?出来ればこのまま数ヶ月保たせるぐらい氷漬けにして欲しいわ。」
「分かりました。」
「2人ともお願いします!」
そしてイアンは暴れる私をものともせずに抱えたままで連れて行ったのだった。
「イアン、、ここは?」
私が連れて来られたのは、今まで入った事の無い場所だった。豪華なシャンデリアの吊るされた部屋で、金があしらわれた置物があちらこちらに置かれており、高貴な人が使う部屋だという事が見て取れる。
「ここは?って、元々はあなたの国の城なんだから、あなたの方が詳しいでしょ?」
そう言われて私は困ってしまう。私は婚約者であっただけで、まだ結婚はしておらず、コーベルハイドの家で住んでいたのだ。
城は通された場所しか分からない。
「多分、国賓で招かれたような人が泊まる特別な部屋でしょうね。ほら、早く服を脱いで!お風呂にお湯を張ったから。」
「えっ!?イアン?私1人で入れるわ!ワンピースだし、ドレスじゃないのよ!!」
私は迫ってくるイアンを押し退けようとしたが、力で敵うはずもない。かといって魔法を使って逃げてイアンを傷付けたくはない。結局私はなすがままだった。
服を剥かれ、風呂に放り込まれ、全身をくまなく丁寧に洗われてしまう。
顔を真っ赤にした私を見てイアンはケラケラと笑っていた。
「もしかして意識しているの?あんたの身体なんてコッチは興味無いわよ。」
「分かってるわ!!でも仕方ないじゃ無い、、イアン、今日は男の人見たいなんだもの、しかも裸なのは私だけ、恥ずかしいと思うのが普通でしょ!?」
「フフッ、あんたも可愛い所があるのね。さっきのあんたのは別人みたい。」
イアンは目を細め、探るような瞳で私を見た。私は居心地が悪くなって身じろぎし、言い訳のように話し始めた。
「イアン、、私ね、軍でいた事があるの。」
「軍って、、軍隊に!?」
「えぇ。」
イアンは驚いていたが、納得したわと言って嘆息した。
「あんたの親って放任主義なのね?」
「フフッ、私に甘いだけよ。私が言い出した事を止める人達じゃ無いの。でも、それが王妃になるのに必要だと説得出来た時だけだけどね。」
「そう。良い親ね。」
「ええ。」
先程人を切ったとは思えない程穏やかな空気が流れていた。
私はゴロランド王の事を殺めた事実を一生忘れはしないだろう。
しかし、罪悪感を引きずりながら生きるつもりは無い。その為にも彼の願いを聞き届けなければいけない。
「さて、ナタリーもう出て。マッサージしてあげるわ。」
「えっ!?」
「だからマッサージよ。ホントあんたってグズなんだから。ホラっ!」
イアンはそう言うと自分が濡れる事も気にせずに私をまた抱え上げた。彼のガッシリとした筋肉を素肌に感じながらウットリと、、している場合では無かった。私は異常に恥ずかしいカッコで抱え上げられているのだ。
身体の前側はイアンの身体で隠れているが、お尻が丸出しである。誰か入って来たら終わりだ。
「イアン?チョット、何でマッサージ!?離して!!だからお嫁に行けないー!!!」
そう叫んだ私をベッドに転がしてイアンは笑った。
「何言ってるの。お嫁になんか行けるわよ。」
「へっ!?」
イアンはいつの間にか用意したオイルの入った瓶を手に取ると、両手にトロリトロリと纏わせてイヤラシイ顔で近付いて来る。
「イアン!?」
「ほら、暴れないの。お姉さんに任せなさい。」
「イアン、嫌!!やめてーーー!!」
抵抗虚しく、私はイアンに全身を揉みしだかれ、ピカピカにされ、挙げ句の果てには香水を何ヶ所かに付けられていた。
グッタリと横たわる私に、満面の笑みを見せるイアンが恨めしく全力で睨みつけてやったが、与えられたダメージは0のようだ。
「さて仕上げにこのワンピースを着て、髪もゆってあげるから起き上がりなさい。」
「、、イアン、一体何なの?これから何がありと言うの?」
「フフッ、あらあなた気が付かなかったの?」
イアンがイヤらしく笑うので、私は嫌な予感がした。聞かない方が良い気がしたが、聞かなくてもイアンは勝手に喋るだろう。
「、、何を?」
「さっきのハデス様よ!後で私の所へ来いって言った時の彼、あぁ~痺れるわ!」
「痺れる?何で?」
「、、、ホントあんたって鈍い女!身体が幼稚いとそういう事まで幼稚い考えしか出来ないのかしら!!」
イアンに見下され私は段々と腹が立って来た。ハデス様が何だと言うのだ、さっぱり分からない。
そんな私の顔を見て最大級のため息を吐いたイアンは、人差し指を立て、ダメな子に言い聞かすように私に言った。
「あの時のハデス様の目は欲を孕んだ男の目だったわ。ハデス様、あなたを今日抱くつもりなんだわ!キャー!!!」
イアンは口元を押さえ頬を染めながら声を上げたが、私は理解が追いつかずキョトンとした顔をしていた。
「ハデス様が?」
「そう。」
「私を抱く?」
「そうそう。」
「、、、、。」
「ナタリー?」
「はぁーーーー!?」
理解が追いついた私の顔、いや全身は真っ赤になった。そんなはず無いと言おうとした私の言葉をイアンの真剣な顔がかき消してしまう。
「ハデス様はあんたがハデス様の為にゴロランド王を殺した事が分かっているのよ。」
「それは、、ハデス様だけの為じゃ、、」
「分かってるわ。そうする事で人間を守ったって事も。ハデス様は頭の良い人よ。全部分かってる。全部理解した上で、彼はあなたに感動したのよ。」
「ハデス様が?」
「そう。あなたを自分の女にすると決めた。あの時ハデス様はそんな顔をしていたわ。」
「自分の女に、、?」
「もう!!分からない女ね!!嫁にしたいって事よ!!」
「へっ、、?」
「もう!!!そのアホヅラ見飽きたわよ!!しっかりしなさいよ!!魔族の世界には初夜なんてもん無いんだから、抱きたいと思えば婚姻前だって手を出す生き物なんだからね!!」
「手を出す、、、」
「さぁ、頑張ってらっしゃい!私がとーっても可愛くしてあげるから!!」
「そんな、、イアン、、助けて、、」
私は涙目でイアンを見てみたが、イアンはニンマリと笑いながら首を振った。
「見学させてって言わないだけありがたく思いなさいよね?」
「見学!?イアンの、、イアンのバカー!!!」
叫ぶ私に笑いながら、イアンは私の髪を結い始めた。その間、初めてなのだからハデス様に任せたら良いだの、こんな所も触られるわよなどと、私の神経を逆なでするのも忘れない。私はうるさく鳴り響く自分の心臓を両手で押さえながら思っていた。
きっとイアンの考え過ぎだと。
いや、そう思うしか無かった。
その声よりも自分の心臓の音の方がずっと大きく響いているからだ。
「ナタリー、あんた何やってんの!」
後ろから聞こえたイアンの声に、私は気が抜けたのかその場にペタリと座り込んでしまった。
イアンが覗き込むようにして私の顔を見て来たが、私の焦点は定まらない。
「大丈夫?」
そう聞かれたが、声を出す事も出来ずにコクコクとからくり人形の様に頷いた。
ふと視線を感じそちらを見上げると、ハデス様が驚いているのか、怒っているのか、、何とも言えない表情で私を見つめている。
(後で怒られるだろうか?)
そんな事を思いながら立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか立つ事が出来ない。それに気付いたイアンのフッと笑う声が聞こえた。
「度胸があるんだか無いんだか分からないわね。ほら。」
イアンの腕に支えられながら私は何とか立ち上がった。
ちょうどミカエルがゴロランド王の首をハデス様に差し出している所で、残された身体はミカエルの能力、氷の魔法により氷漬けとなっていた。
私がゴロランド王の亡骸を一族に引き渡すと言った約束をミカエルも守ろうとしてくれているのだろう。
胸が熱くなるのを感じながら、私はミカエルの元へゆっくりと歩いて行った。
私がミカエルの横に立つと、ハデス様は恐ろしい顔をしたままため息を一つ吐く。
『お前は本当に秘密の多い女だな。』
『、、秘密?』
キョトンとする私の顔を見て、ハデス様は嘘は許さないと言わんばかりの射殺す様な視線を送ってくる。
『人を殺したのは初めてでは無いな?』
『、、はい。』
私がそう答えると、彼の眉がピクリと動いた。私に嘘を付く気がサラサラ無いのが伝わったのだろう。
『公爵家の令嬢が人を殺すのはどういった場面なんだ?それとも人間の令嬢達は皆剣を振り回す事が出来るのか?』
『いえ、そういう訳では、、』
私は答えようとしたが、それより先にサイレーイス様が口を挟む。
『ハデス様、皆がおります故、個人的な話しはまた後日。とりあえずこの場を収めてください。』
『あぁ、そうだな。しかし、私の話しに耳を傾ける余裕のある者は居ないだろ。倒れ込んでいる者達を介抱してやれ!話しは後日だ!』
ハデス様の号令で控えていた兵士達が倒れた魔物達を抱き抱えて連れて行く。
皆が終わったのだとそう感じた瞬間だった。
しかし、私だけは違う。私は今から始まるのだ。そう決意を新たにしていると、ハデス様がこちらを向いたのが分かった。
『ナタリー、お前は後で私の所へ来い。』
その目は有無を言わさない迫力が有り、私は頷く他なかった。
ハデス様が去った後、カイエンが私の剣と鞘を持って深妙な顔をしていた。
「カイエン?」
「ナタリー、、お前あとでアイツの所へ行くのか?」
何だか泣きそうな顔をする彼に私は首を傾げた。
「一体どうしたと言うの?」
「嫌な予感がする。行くな、、ハデスの元へ、、」
「カイエン、、」
私は彼の意図が分からずに困り果てた。バゼルハイド王の元へ向かうと決めたのだ。ハデス様と話さない訳にはいかないだろう。
「あんたはそれよりも風呂!!」
2人の間を割って入ったのはイアンだった。私を俵のように担ぎ上げると皆を見渡し指示を出す。
「カイエン様、その刀はこちらで預からせて頂くわ。血の付いたままサイレーイスに渡しておいて下さい。」
「、、分かった。」
「ミカエル様はサイレーイスに指示を仰ぎゴロランド王の遺体を運んで貰える?出来ればこのまま数ヶ月保たせるぐらい氷漬けにして欲しいわ。」
「分かりました。」
「2人ともお願いします!」
そしてイアンは暴れる私をものともせずに抱えたままで連れて行ったのだった。
「イアン、、ここは?」
私が連れて来られたのは、今まで入った事の無い場所だった。豪華なシャンデリアの吊るされた部屋で、金があしらわれた置物があちらこちらに置かれており、高貴な人が使う部屋だという事が見て取れる。
「ここは?って、元々はあなたの国の城なんだから、あなたの方が詳しいでしょ?」
そう言われて私は困ってしまう。私は婚約者であっただけで、まだ結婚はしておらず、コーベルハイドの家で住んでいたのだ。
城は通された場所しか分からない。
「多分、国賓で招かれたような人が泊まる特別な部屋でしょうね。ほら、早く服を脱いで!お風呂にお湯を張ったから。」
「えっ!?イアン?私1人で入れるわ!ワンピースだし、ドレスじゃないのよ!!」
私は迫ってくるイアンを押し退けようとしたが、力で敵うはずもない。かといって魔法を使って逃げてイアンを傷付けたくはない。結局私はなすがままだった。
服を剥かれ、風呂に放り込まれ、全身をくまなく丁寧に洗われてしまう。
顔を真っ赤にした私を見てイアンはケラケラと笑っていた。
「もしかして意識しているの?あんたの身体なんてコッチは興味無いわよ。」
「分かってるわ!!でも仕方ないじゃ無い、、イアン、今日は男の人見たいなんだもの、しかも裸なのは私だけ、恥ずかしいと思うのが普通でしょ!?」
「フフッ、あんたも可愛い所があるのね。さっきのあんたのは別人みたい。」
イアンは目を細め、探るような瞳で私を見た。私は居心地が悪くなって身じろぎし、言い訳のように話し始めた。
「イアン、、私ね、軍でいた事があるの。」
「軍って、、軍隊に!?」
「えぇ。」
イアンは驚いていたが、納得したわと言って嘆息した。
「あんたの親って放任主義なのね?」
「フフッ、私に甘いだけよ。私が言い出した事を止める人達じゃ無いの。でも、それが王妃になるのに必要だと説得出来た時だけだけどね。」
「そう。良い親ね。」
「ええ。」
先程人を切ったとは思えない程穏やかな空気が流れていた。
私はゴロランド王の事を殺めた事実を一生忘れはしないだろう。
しかし、罪悪感を引きずりながら生きるつもりは無い。その為にも彼の願いを聞き届けなければいけない。
「さて、ナタリーもう出て。マッサージしてあげるわ。」
「えっ!?」
「だからマッサージよ。ホントあんたってグズなんだから。ホラっ!」
イアンはそう言うと自分が濡れる事も気にせずに私をまた抱え上げた。彼のガッシリとした筋肉を素肌に感じながらウットリと、、している場合では無かった。私は異常に恥ずかしいカッコで抱え上げられているのだ。
身体の前側はイアンの身体で隠れているが、お尻が丸出しである。誰か入って来たら終わりだ。
「イアン?チョット、何でマッサージ!?離して!!だからお嫁に行けないー!!!」
そう叫んだ私をベッドに転がしてイアンは笑った。
「何言ってるの。お嫁になんか行けるわよ。」
「へっ!?」
イアンはいつの間にか用意したオイルの入った瓶を手に取ると、両手にトロリトロリと纏わせてイヤラシイ顔で近付いて来る。
「イアン!?」
「ほら、暴れないの。お姉さんに任せなさい。」
「イアン、嫌!!やめてーーー!!」
抵抗虚しく、私はイアンに全身を揉みしだかれ、ピカピカにされ、挙げ句の果てには香水を何ヶ所かに付けられていた。
グッタリと横たわる私に、満面の笑みを見せるイアンが恨めしく全力で睨みつけてやったが、与えられたダメージは0のようだ。
「さて仕上げにこのワンピースを着て、髪もゆってあげるから起き上がりなさい。」
「、、イアン、一体何なの?これから何がありと言うの?」
「フフッ、あらあなた気が付かなかったの?」
イアンがイヤらしく笑うので、私は嫌な予感がした。聞かない方が良い気がしたが、聞かなくてもイアンは勝手に喋るだろう。
「、、何を?」
「さっきのハデス様よ!後で私の所へ来いって言った時の彼、あぁ~痺れるわ!」
「痺れる?何で?」
「、、、ホントあんたって鈍い女!身体が幼稚いとそういう事まで幼稚い考えしか出来ないのかしら!!」
イアンに見下され私は段々と腹が立って来た。ハデス様が何だと言うのだ、さっぱり分からない。
そんな私の顔を見て最大級のため息を吐いたイアンは、人差し指を立て、ダメな子に言い聞かすように私に言った。
「あの時のハデス様の目は欲を孕んだ男の目だったわ。ハデス様、あなたを今日抱くつもりなんだわ!キャー!!!」
イアンは口元を押さえ頬を染めながら声を上げたが、私は理解が追いつかずキョトンとした顔をしていた。
「ハデス様が?」
「そう。」
「私を抱く?」
「そうそう。」
「、、、、。」
「ナタリー?」
「はぁーーーー!?」
理解が追いついた私の顔、いや全身は真っ赤になった。そんなはず無いと言おうとした私の言葉をイアンの真剣な顔がかき消してしまう。
「ハデス様はあんたがハデス様の為にゴロランド王を殺した事が分かっているのよ。」
「それは、、ハデス様だけの為じゃ、、」
「分かってるわ。そうする事で人間を守ったって事も。ハデス様は頭の良い人よ。全部分かってる。全部理解した上で、彼はあなたに感動したのよ。」
「ハデス様が?」
「そう。あなたを自分の女にすると決めた。あの時ハデス様はそんな顔をしていたわ。」
「自分の女に、、?」
「もう!!分からない女ね!!嫁にしたいって事よ!!」
「へっ、、?」
「もう!!!そのアホヅラ見飽きたわよ!!しっかりしなさいよ!!魔族の世界には初夜なんてもん無いんだから、抱きたいと思えば婚姻前だって手を出す生き物なんだからね!!」
「手を出す、、、」
「さぁ、頑張ってらっしゃい!私がとーっても可愛くしてあげるから!!」
「そんな、、イアン、、助けて、、」
私は涙目でイアンを見てみたが、イアンはニンマリと笑いながら首を振った。
「見学させてって言わないだけありがたく思いなさいよね?」
「見学!?イアンの、、イアンのバカー!!!」
叫ぶ私に笑いながら、イアンは私の髪を結い始めた。その間、初めてなのだからハデス様に任せたら良いだの、こんな所も触られるわよなどと、私の神経を逆なでするのも忘れない。私はうるさく鳴り響く自分の心臓を両手で押さえながら思っていた。
きっとイアンの考え過ぎだと。
いや、そう思うしか無かった。
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