人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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ゴロランド王

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瀕死状態だったゴロランド王は、必死な治療の甲斐あって何とか一命を取り留める事が出来た。
ハデス様は早速皆にその旨を伝えると、共に皆が納得出来る終結を迎えれるようにと動き始めていた。

家族を亡くし暴徒化しかかっている魔物達を集結させ、数日の内にゴロランド王にお前達自らの手で鉄槌を下す権利を与えるとハデス様は宣言したのだ。
その際各地へと赴いたのはカイエンだった。
人間嫌いで有名だった俺の方が魔物達を説得するのに向いているだろうと、彼の方から言い出した事だった。
全ての元凶だったゴロランド王に復讐する事で恨みを晴らし、その後はハデスに忠誠を誓い国の為に働いてくれとカイエンは皆に訴えかけた。
カイエンがハデス様を支持したということが皆に伝わり、ハデス様の地盤はより強固なものになっていった。

そして、明日がゴロランド王の処刑の日。各地から赴いた魔物達が城へと集結していた。
人間の私達が魔物達とバッタリ出くわしては命の危険があると、ここ数日軟禁状態だった私達は、与えられた広間で溜息をつきながら紅茶を飲んでいた。

「こんな所でのんびり紅茶など飲んでいて良いのかしら。」

もう何度言ったか分からないセリフを私はまた吐いた。

「ナタリー様、仕方ないのです。今出て行き騒ぎを起こす事は彼らの迷惑にしかならないと言われたでしょう?納得したではありませんか?」

その度にこうやってフローラにたしなめられ、私はまたため息を吐く。ミカエルは我関せずといった様子で腕立て伏せをしながら汗を流していた。

その時、コンコンコンと力強いノックが部屋の中に響いた。
私が扉へ行こうとしたが、ミカエルがそれを制し、細剣を片手に扉へと歩いて行く。

「誰だ?」

扉を開けぬまま彼がそう尋ねると、扉の向こうから聞き慣れた声がした。

「私よ!」

「イアンだ!!」

私は嬉しくなってガバッと立ち上がると一目散に扉へと向かっていた。
扉が開き現れたのは、イアン?の様な者だった。

「えっ!?イアンなの?」

私がそう尋ねると、イアンは頭をボリボリと掻きながら仏頂面になった。

「仕方ないでしょ!今は大変な時なんだから!チャラチャラしてられないじゃない!!」

話し方は相変わらずだが、イアンは茶色の長い髪を一括りにし、化粧もしておらず、服装も生成りの麻の服を着ており、形も半袖にズボンと男性の軽装といった姿だった。
お風呂に一緒に入った時に同じ様な服装をしていたのだが、化粧や髪型はバッチリ決まっていたので、この様な姿は初めて見た。

「イアン、、カッコ良い。」

イアンはカイエンやミカエルと違い、ゴツイイケメンだ。どちらかと言えばハデス様寄りであり、要するに私のタイプである。

「あんたにカッコ良いなんて言われても嬉しくないわよ!!」

両頬を膨らませ、プンと横を向いたイアンが何だか可愛らしくて私は笑いが止まらなかった。

「もう!いつまで笑ってるの!!そんな事より、緊急の用事よ!!」

「フフッ、ごめんなさい。緊急の?私に?」

私はコテリと首を傾げた。

「ゴロランドがあなたと話したいと言い出したのよ。面識があるんですってね?」

私は驚愕した。明日処刑される男に名指しで指名されたのだ。驚くなと言われても到底無理な話しである。

「私と話しをしたがってる!?なぜ私と、、。えぇ、、確かに面識はあるわ。でも、夜会でお見かけした程度よ。バゼルハイド王様が招いたとかで、ゴロランド王様は主賓席でいたの。私はアルベルト様と揃って彼の前に立ち挨拶をしたわ。面識があると言っても本当にその程度よ。」

私がそう話すと今度はイアンがコテリと首を傾げた。

「その程度であなたを呼び出すなどおかしいわね。ハデス様はナタリーに任せると言っていたけど、どうする?ゴロランドは牢に入っているし、あなたに危害を加える事は出来ないわ。」

私は考えた。彼が何を話したがっているか検討も付かないが、きっと気分を害する様な事を言われるだろう。
しかし、何も出来ずに紅茶を飲みながら座っているよりきっとマシ。私はそう思った。

「行くわ。イアン、案内して。」

迷いの無い顔でそう言った私の頭をイアンはグシャリと撫でた。

「ほらこのローブを羽織っておきなさい。なるべく皆が集まっていない場所を通るけど、顔は出さないでね。」

「分かったわ。」

私はローブを羽織り、ローブに付いたフードもスッポリと被った。
ゴロランド王は治療が終わった後に、この城にある罪人を捕まえる塔へと移されていた。
城の裏手にある石造りの無機質な塔で、私はその塔が恐ろしく今まで近付いた事は無かった。

「ここよ。」

薄暗い塔の2階にゴロランド王は収容されていた。
重い木の扉を開けると広い部屋を真ん中で鉄の柵が仕切っており、柵の向こう側にゴロランド王は椅子に腰掛けて座っている。
私に気付くとギロリと睨むように私を見てくる。

最後に見た時と比べるとゲッソリと痩せ、目の下にクマがクッキリと浮かんでいた。
特徴的なチリチリの黒い髪と髭は伸び放題で、王の威厳の様なものはもうスッカリと失われたように思う。

「2人で話したいというのが彼の願いだから、私は外で待っているわ。何かあったら叫びなさい。」

イアンはそう言うと重い木の扉から外へと出て行ってしまった。
私は一度目を閉じ王妃教育を受けていた頃の事を思い出す。
決して感情を表に出さず、優雅に美しく、、

「ゴロランド王様、お久しぶりでございます。」

私はそう言うとワンピースの裾を持ち美しいカテーシーを行った。
ゴロランド王は今だこちらを睨んだままだが、そこに座れと言わんばかりに私の後ろにある椅子を指差した。
戸惑いながらも椅子に座ると、ゴロランド王は話し始めた。

「お前はアルベルトの婚約者ナタリーだな?」

低い掠れた声で不明瞭ではあったが、何とか聞き取る事が出来た。

「はい。コーベルハイド公爵家の娘、ナタリーです。」

ゴロランド王は満足したように頷いたら。

「公爵家の令嬢が魔物達の人質になるなどと悔しかったであろう?お前もバゼルハイドを憎んでいるのだろう?」

急に生き生きとし、ギラギラとした目でゴロランド王は私にそう尋ねた。
きっとお前も私と同じなのだろう?とそう言いたいのだろう。私は彼の真意を聞くべく彼に同調した。

「はい。納得出来ませんでした。」

「そうか。そうだろうな、、。」

私の答えに心を開いた彼は、髭を伸ばすように撫でながら目を細め昔を思い出すように話しを始めた。

「私が魔物達を襲ったのはバゼルハイドの後押しがあったからなんだ。」

「!!!」

私は絶句した。バゼルハイド王が後押しした?にわかに信じられないような事である。

「嫌、この言い方では語弊があるな。バゼルハイドは私が招かれた夜会の席で、ゴロランド王が魔物の住む大陸へ侵略していくのなら手を貸しましょうと言ったのだ。酒の席での戯言だ。書類を作ってお互いにきちんと約束した訳ではない。結果我が国だけが悪い。それは仕方ないのかもしれない。」

そこまで言って俯いた彼の目に涙が溜まっていた。

「しかし、バゼルハイドに同じ気持ちがある。それは私をいくらか強気にさせた事は間違いない。魔物達に処刑されるのなら仕方ないが、バゼルハイドが私に刑を下したのは納得がいかん!!!」

握り拳を太ももに叩きつけながら彼は絶叫した。

「奴は私にその事口外すれば我が一族、我が国の民をも私と同じ刑に処すると笑顔で私の腹に針を刺しながらそう言った。」

私はハデス様から聞いた事を思い出していた。バゼルハイド王は小さな針で全身を刺されていたと。もう刺す場所が無い程刺されており、ショック死していてもおかしくなかったとそう言っていた。

「嫌、こんな事を言っても仕方の無い事だ。お前に言ってどうこう出来る話しでも無いしな、、。」

「、、、ではなぜ私を?」

私がそう聞くと、ゴロランド王の真っ黒な瞳が私の薄紫の瞳を真っ直ぐに捉えた。

「バゼルハイド王からの伝言だ。お前が生きていればナタリーに伝えておけとそう言われた。」

「バゼルハイド王様から?」

「あぁ。それを伝える事でナタリーがバゼルハイドの元へ戻ったのなら我が一族を許し、新しい国の貴族として迎えてくれると約束したのだ。」

「私が、、戻る、、、。」

嫌な予感にブルリと身体が震えた。

「あんな男の言葉を間に受けた訳では無い。しかしどうせお前の耳にどのような形であれ届く事となる。それならば一縷の望みに掛けても良いと思ったのだ。」

「、、バゼルハイド王様は何と言ったのですか!?」

「ハデスが人質の交換を断ったなら、お前が何とかしてハデスを説得し自らの意思でこちらへ戻って来いと。」

「私が説得して、、そんな事、、」

出来ないでは無い。私はしたく無いと言おうとして口を噤んだ。ゴロランド王にハデス様を愛しているなど知られたくなかった。

「ナタリー、、お前に恨みは無いが最後まで伝えておく。お前が戻らぬのならば、お前の友、フローラの一族を処刑する、、バゼルハイドはそう言った。」

「!!!!」

「あいつの事だ。嘘の罪を被せ、何の罪悪感も持たずにアッサリとやってのけるだろう。」

「、、そんな。」

「ハデスにこの事を漏らしたならその時点で殺す。お前が1ヶ月以内に戻らなくても殺す。」

私はゴロランド王にバゼルハイド王様の姿を重ねて怯えた。
殺す、、殺す、、その言葉が頭の中で何度も反復される。

「今日お前がここに来て私と何を話したかと聞かれたなら、最初に話した私の話しを言え。明日私は死ぬのだ。最後に人間と会話し、そしてくだらぬ愚痴を聞いて欲しかったとそう言っていたと、、。」

「、、分かりました。」

「バゼルハイドは恐ろしい男だ。何のためにお前を欲しているのかは分からんが、戻れば命は無いかも知らないぞ?」

「、、、。」

私は何も言えず、彼の顔をただただ見つめた。

「まぁ、私も残虐非道な王だったのだ。人の事は言えんがな。」

彼はそう言うと立ち上がり後ろにある簡易なベッドへと腰掛けた。

「話しは終わりだ。もう行け。」

ゴロンと横になる彼は私ともう会話する気などサラサラ無いように見えた。
私は仕方なく立ち上がりカテーシーをした後部屋から出た。
頭の中では、殺す、、殺すと彼の声が何度も響いていた。
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