人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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疑惑

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「ナタリー様、ナタリー様?ナタリー様!!」

お父様と別れ、馬車の中でボーッとしていた私はフローラの声で我に返った。

「あっ、ごめんなさい。何?」

「いえ、ボーッとされてたので、先程の話しで悩んでるのかと思って声をかけたのです。」

フローラが気遣わしげな表情で私の顔を覗き込んでくる。

「ありがとう。チョット考えていたの。私がどう思った所で、私に選択肢はないでしょ?ハデス様に追い出されたら、お父様に匿ってもらう手もあるのかと思ったけど、お父様にまで咎が及ぶかと思うとそんなお願い出来ないわ。結局は決められた事に従うしかないのだと、、そう思っていたの。」

「ナタリー様。」

「フローラ、あなたは向こうに家族もいるでしょう?私が帰るのならばあなたも家族の元へ戻れるわ。それにミカエル、あなたも一緒に帰れる可能性もあるでしょう?2人にとって悪い話しでないなら、私も少しは救われるわ。」

2人を見つめながらそう言ったが、ミカエルは眉間にシワを寄せ不機嫌な顔になった。
彼は帰還できるかもしれないと言う事を喜んでいないようだ。

「ミカエルどうしたの?あなたはいつか騎士団に戻る事が夢だったのでしょう?嬉しくないの?」

「確かにいつか戻りたいとは願っている。今回戻れるならそりゃ願ったり叶ったりさ。」

そう言った彼の顔は人でも殺しかねない形相である。

「じゃあ何で?」

「だって可笑しいだろう!?お前を戻す為にわざわざエルザ様をよこすなどと。しかもハデス様がナタリーでは人質として不十分だと言ったなら納得するが、向こうがお前を必要になったから交換するなどとあり得んだろ!?」

「、、そうね。」

私は私を必要とするなどあり得ないと断言され複雑な気分で頷いた。確かに正しい、ミカエルの言ってる事は正しいのだが、、私の微妙な顔を見てミカエルは少し慌てる。

「あー違う!!そういう意味じゃない!お前が必要とされてないとかじゃ無くて、お前は凄い奴だと思うぞ?きっと良い王妃になっただろうと思うし!アルベルトだって今頃はお前の良さにも気付いてるはずだ!」

「分かった!分かりました!取って付けたように言われると何だか居た堪れないから!それで?話しを先に進めて?」

「あぁ。俺が言いたいのは、、結局ハデス様が人質と言い出したのは停戦のパフォーマンスでしか無かったという事だ。」

「「パフォーマンス?」」

私とフローラの声が重なった。

「そうだ。これだけこちら側に人間が生かされて残っているんだ。そんなの人質なんて山のようにいるだろ?わざわざ向こうから人質を取る必要は無かったんだ。でもそうしたのは、お互いそれで戦争を終わらせようと約束を交わすためだ。」

「そうね。確かにそうだわ。」

私はコクコクと頷く。

「そうだろ?だからお前を今から帰還させエルザ様をこちらに向かわすなど可笑しすぎる。異常だ。罠に決まってる。」

「罠、、。」

私は呆然と呟いた。
今私はこちらで大切に扱われているが、最初どんな扱いを受けるかは分かり得なかった。
マリアさんにも魔物の奴隷になって可愛がってもらえと言われたぐらいだ。私もそう覚悟していた。
そんな私に帰還命令を出した上に、戻った私をどうにかするつもりかもしれない。

「恐ろしい。本当に恐ろしいわ。私はこちらの魔物達より、人間が、人間の方がずっと恐ろしい。」

私の言葉に誰も何も言えなくなった。
私は窓から見える夕日を眺めてため息を吐くのだった。

城に戻るとイアンが門の前で仁王立ちで立っていた。

「あんた達遅いわよ!」

馬車から降りるのを手伝いながら小言を言うイアンは何だかお母さんの様だ。

「ごめんなさい。」

私が素直に謝るとイアンは目を丸くした。

「あら素直ね。どうしたの?」

「何か帰って来たなって思ったの。不思議ね。」

「何それ?それよりあんた、護衛で付けた2人に魔族の言葉を話せるのバラしたんだって?どうしてそんな事したの?」

「どうして?どうしてかしら?そうね、それが必要な事だったからよ。」

私がそう答えると、イアンは呆れたように鼻で笑った。

「あんたって本当に王妃になる予定だったの?何でもかんでも馬鹿正直に生きてりゃええっちゅうもんじゃないのよ?」

イアンにそう言われ、馬鹿正直にただ努力していた頃の自分を思い出した。

「分かってる。頑張っただけでは報われない。そんなの痛いほど分かってるつもりよ。でもね、私に良くしてくれる方の前で嘘をつきたくない。結局私は私。変わる事など出来ないのだわ。」

「ハァー、そう、まぁ良いんじゃない?それならもうちゃんと自分の口からハデス様に言う事ね。兵士2人には口止めしておいたから、ハデス様はまだ知らないわ。」

「ありがとう。イアン。」

私の事をいつも考えてくれるイアンに心からのお礼を口にした。
イアンが私の帰還命令の話しをして来ないので、こちら側にはまだその話しは届いていないようだった。
それを伝えられない事を心苦しく思う。

「あぁ、こんな所にいたのか。」

イアンの次にやって来たのはサイレーイス様だった。
肩で息をしているので走って来たようだ。私はハデス様に書簡が届いたのではと身構えた。

「フローラ様、あなたに聞きたい事があります。」

しかし、サイレーイス様は私ではなくフローラを指名した。私とフローラは同じタイミングで首をひねる。

「な、何でしょうか?」

「フローラ様、あなたハデス様に何かしましたか?」

「何かですか?」

フローラは訳が分からないといった様子で私の方を不安そうに見た。
私が口を挟もうとした時、先に2人の間に入ったのはイアンだった。

「チョット、そんな剣幕で聞いたらフローラちゃんが怯えちゃうでしょ!」

「うるさい!お前がハデス様に聞けなかったから私がこうしてわざわざフローラ様に聞きに来たのだ!感謝されても怒られるなどあり得ん!」

「仕方ないじゃない!聞いたけど答えて貰えなかったのよ!」

「聞き方が悪かったのじゃないのか!?もうチョット粘り強く聞くとか色々方法があるだろうが!!」

「うるさいわね!私は殴られたの!タンコブも出来たのよ!そんなの戦意喪失するのが当たり前じゃないの!」

口を挟んだイアンとサイレーイス様は口論を始めてしまった。フローラが2人の間でオロオロとしているのでとても可哀想に見える。
見かねた私は肺いっぱい空気を吸い込んだ。

「いい加減にしなさぁぁぁい!!!フローラに話しがあるんでしょう!?話しが先に進まないから喧嘩をやめなさい!!!」

驚いた2人がこちらを向いて固まった。しばらくしてサイレーイス様が気恥ずかしそうに前髪を直す素振りをしながらフローラに再度語りかけた。

「申し訳ございませんフローラ様。質問が曖昧なのは私どもも良く分からないからなのです。フローラ様はハデス様に何か特別な事をしませんでしたか?怪我を治したとか?泣いてる所を慰めたとか?思い当たりませんか?」

今度は優しく丁寧に話す彼にフローラは怯えた様子を見せてはいなかった。

「そんな事をした覚えはありません。ハデス様とは最初にお会いしてからお話しもしていないかと、どうしてそんな事を聞くのですか?」

フローラの答えにサイレーイス様とイアンは顔を見合わせていた。そして2人とも狐につままれた様な顔をしたのだった。

「サイレーイス、あんたそう言えば、ハデス様が急に魔力が戻ったって話しをこの前していなかった?」

そう言い出したのはイアンだった。

「あぁ、そんな事がありましたね。少し仮眠をしていたようでしたが、空っぽになりかけた魔力が満タンになっていたので驚いたので覚えています。それが?」

「さすがのハデス様でもそれは可笑しいわよ。ねぇ、フローラちゃんは魔力をハデス様にあげたんじゃないの?」

「なるほど!それはあり得ます!どうなんですかフローラ様!?」

サイレーイスはキラキラと輝く瞳でフローラを見つめた。その姿にフローラは頬を染めながら、しかし残念そうに首を振る。

「ごめんなさい。私は魔法の才があまり無く、魔力も他に分け与えるほど無いのです。」

「魔力が無い?」

サイレーイスはその答えに呆然とする。

「はい。自分を守る程度の魔法は使えますが、ナタリー様の様に自由自在に魔法を使う事など私には出来ません。」

「ナタリ様が?」「ナタリーが?」

フローラの言葉にサイレーイス様とイアンはゆっくり私の方を向いた。
この時私はようやくハデス様に魔力を分け与えた事を思い出すのだった。

「あっ!!そう言えば、マートンが、ナタリーがヴォルフをペガサスに変え空を飛んで帰って来たと嬉しそうにこの前話してたわ!!あんなの普通の人間の魔力じゃ無理よね!!」

「なっ!?イアン、貴様何故それを黙っていた!?」

「ナタリー様!!」「ナタリー!!」

そして2人は鬼の様な形相で私を睨みつけてくる。

「うっ、、何なのよ?」

あまりの恐ろしさに涙目になった私に、2人は何の容赦もなく詰め寄ってくる。

「どうなんですか!?」
「どうなのよ!?」
「ハデス様に魔力を与えたのですか!?」
「ハデス様に魔力を与えたの!?」

ジリジリと詰め寄る2人に門の壁の所まで追いやられ私は半泣きになった。

「「どうなんだ!!!!」」

2人から怒鳴られ私は泣きながら叫んだ。

「あげました!!!魔力をハデス様にあげました!!!ピェーン!!!」
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