人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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国王と令嬢と

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「さて終わったな。ピエール、アルベルトが来たのはどうせエルザの件だろう。人払いをさせろ。」

「分かりました。」

バゼルハイド王はアルベルトを顎でしゃくり、部屋の隅に設置されているソファーへ向かうように促した。
自分も立ち上がると向かい合うソファーの反対側へと座る。

「おい!早く座れ。時間が惜しい。」

動こうとしないアルベルトに痺れを切らしたバゼルハイド王は静かに怒りを表した。
その声にアルベルトは眉間にシワを寄せたが、言われた通りに対面するソファーへと向かった。

「母さんとナタリーの交換の理由を。」

用件だけを簡潔に述べた息子の顔を見て、バゼルハイド王はフンッと鼻を鳴らした。必要以外の事を話したくはないという表れだろう。

「その理由を語るには、お前の恋人の話しをせねばなるまい。」

「恋人?」

「マリアの事だ。可愛らしい娘じゃないか。」

からかうそぶりを見せる父に、チッとアルベルトは舌打ちし顔をそらす。

「マリアが悪魔と契約を結んだんだ。それで状況が変わった。」

「悪魔とだと!!??」

アルベルトは耳を疑った。元いた国では魔物を飼育していただけで極刑、悪魔と契約などと知れれば本人だけで無く家族にまで何らかのお咎めがある。
マリアはその事を知っているはずだというのになぜ、、アルベルトは父の言葉を信用出来なかった。

「彼女に光魔法を使えるようになれればお前と結婚させてやろう伝えたのだが、、まさか悪魔と契約してくるとはな。愉快な子じゃないか。」

「愉快?あなたは何を考えているんだ?」

「何を?魔王を倒す事だ。邪魔な魔物達も殲滅する。」

「そんな事、、出来るはずがない!!各国の兵が出陣したのに歯が立たなかったんだ。魔物の殲滅など、、」

そんな有り得ない事、そしてそれはしてはいけない事だ。魔王は同胞を殺されたにも関わらず人間達を生かした。
恩を仇で返した上に戦いに負けるような事になれば人類はもう終わりだ。

「そうだ。今はまだ出来ない。それにはナタリーが必要なのだ。」

「ナタリーが?一体何の話しをしているんだ?訳が分からない。」

「お前に話す必要は無い。私が考え私が実行する。お前は事の顛末を見ていればそれで良い。」

「何だと!!」

アルベルトは席を立ちバゼルハイド王を掴みかかろうとしたが、少し先に立ち上がった彼に投げ飛ばされてしまう。

「うっ、、」

床に叩きつけられ衝撃で息が一瞬止まる。
背を床に付けたまま苦しげに上を見上げると、バゼルハイド王が去って行く姿が目に映った。

「話しは終わっていないっ、ゲホッ、ゲホッ、、」

「フッ、父に意見したくば私より強くなってからにしろ。」

バゼルハイド王は振り返りもせずそう告げると部屋を出て行った。

「クソッ!!!」

拳を床に叩きつけアルベルト吠えた。自分の無力さを痛感したからだ。

「一体何を考えている、、」

悔しそうに呟いた後、力無く立ち上がり部屋を後にした。

「アルベルト様、凄い音がしましたが大丈夫ですか?」

部屋を出てすぐ彼は声を掛けられた。
その声にアルベルトの身体は強張る。
そちらをゆっくりと見ると、予想通りマリアが微笑みながら立っていた。
ぱっちりした目に、淡い茶色のフワリとした肩までの髪、頬と唇は淡いピンクの花が咲いたような愛らしさ。アルベルトが好きになった彼女がそこに立っていたのだが、今の彼の目には何か他の恐ろしいモノに思えた。

「マリア、、」

「何ですかアルベルト様?最近お話し出来なくてとても寂しかったんですよ?」

上目遣いで瞳を濡らしてそう訴えてくる彼女にアルベルトは怒りを感じ、世にも恐ろしい壁ドンを繰り出した。

ドンッ!!!

威嚇する為に繰り出された壁ドンにもマリアは頬を染めて微笑んでいる。

「父から君が悪魔と契約したと聞いたが?」

睨みつけるように話すが、マリアは一向に怯える様子を見せないままだ。

「あら、バゼルハイド王様ったら秘密にしておけって言ってたのに、自分がバラしたのね。プンプンッ。」

頬を膨らませ怒る彼女を冷ややかな目で見ながら質問を続ける。

「なぜそんな事を?」

壁ドンに怯えないマリアに嘆息しアルベルトは彼女から離れた。名残惜しそうにアルベルトの小指をマリアが握ったが、それを鬱陶しそうに振り解く。

「もう!アルベルト様、冷たいですわぁ~。」

「いい加減にしろ!!今はそんな時ではないだろう!?理由を言え!!」

アルベルトは我慢の限界と言わんばかりにマリアに噛み付いた。しかし彼女はどこ吹く風でそんな彼の事すら頬を染めて見つめてくる。

「そんなのアルベルト様の為ですわ。アルベルト様は将来バゼルハイド王様の後を継いで国王になるのでしょう?少しでも国が良い状態で継いで欲しいと思うのは当たり前の事ですわ。」

マリアは胸を張り、拳を作ってどうだとばかりに軽く胸を叩いた。

「俺の為!?どうしてそうなる?悪魔と契約したのが俺の為だと!?一体悪魔に何を願う気なんだ!?しかもナタリーと母さんを入れ替えるなどと、、あれも君の仕業か!!??」

「それは違いますわ!ナタリーの代わりにエルザ様を選んだのはバゼルハイド王様です!あと数ヶ月で息子と結婚するはずだった公爵家の令嬢の代わりになるような者は、我妻ぐらいのものかと王様が勝手に言い出したのです!!」

「父が、、」

「そうですわ。」

呆然とするアルベルトを気遣うようにマリアはアルベルトの手を握った。
今度は振りほどく事が出来ず彼女の顔を見れば、彼女の柔らかな茶色い瞳に捕まり彼は目が離せなくなる、

(チッ、こんな時に何を考えているんだ!)

心の中でそう自分を叱咤したが、彼は手を握ったままで会話を再開する。

「そうまでしてナタリーを連れ戻す理由は?」

「フフフッ、供物にするのです。」

「供物だと!?」

マリアは頷き嬉しそうに笑った。

「魔力の強いうら若き乙女。それはそれは最高の供物になるんですって。ナタリーは学園の中でも一番と言われる程の魔法の才を持っていたでしょう?だからナタリーを進めてみたの。あっでも、進めたのは私だけど、それを最終的に選んだのは悪魔よ。私だけが悪いんじゃないわ。」

「悪魔悪魔というが、そいつは本当に願いなど叶えられるのか?」

「ええ。」

マリアは迷う事なくそう返事した。

「根拠は?」

「魔王の血族に2人だけ対価と同等の願いを叶えられる魔族がいるの。」

「魔王の血族?」

「そう。1人は魔王の兄カイエン、ナタリーが使役している悪魔よ。そしてもう1人は魔王の弟、ヴェルディス。私が契約した悪魔。」

アルベルトは驚愕し言葉が出なかった。そんな彼をマリアは面白そうに見やり微笑む。

「魔王の子供の中で魔王を襲名出来なかった者が悪魔と呼ばれ、その能力を発揮するんですって。知ってました?ん?アルベルト様?おーい!」

「ハッ、、、すまない。驚き過ぎて、、頭が付いていかなかった。」

「そうですよね。アルベルト様には早くお話ししたかったのですけど、バゼルハイド王様には止められるし、アルベルト様は私と話してくれないし。」

マリアは右手の拳を頭に乗せて困ったとポーズをした。アルベルトは呆然として彼女の事など見ていないのだが、彼女は可愛く見せる事に余念が無い。

「、、それにしても、君はどうやってヴェルディスと知り合ったんだ?」

ようやく頭が働き出したアルベルトは呟くようにそうマリアに聞いた。
マリアは嬉しそうな顔でワンピースがヒラリと広がるようにクルッと回って見せた後、アルベルトの手をもう一度取った。

「それを話すには私の生い立ちから話さなければなりません。長くなるのでどうぞ私の部屋へ。」

強引に引っ張る彼女に連れられてアルベルトはマリアの部屋へと歩いて行くのだった。
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