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新しい動き
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揺れる馬車の中で、私は窓からカイエンの姿を探していた。
彼をこんなにも探す日が来るなど、人生何が起こるか分からないものだ。
馬車の中には、私、フローラ、ミカエルが居る。
フローラに今回は馬車で街まで行くと伝えると、一緒に行きたいと懇願されてしまった。
その後、向こうの様子が聞けるかもしれないなら俺も行きたいとミカエルからも申し出があったのだ。
この2人の外出許可をハデス様から貰うのは私1人の時より骨が折れた。
ハデス様は今頃、私に外出許可を出した事を後悔しているだろう。
それを面白いと内心ほくそ笑んでしまうのは、私の性格が悪くなってしまったからだろうか?
「何だかナタリーに会うのは久しぶりだな。」
向かい合う席の前に座ったミカエルにそう言われ、私は我に返った。
「そうね。あなたは訓練にばかり参加していたものね。」
「あぁ、魔物達の訓練は、騎士団の訓練より実践的な上に皆タフで面白いんだ。チョットした単語なら俺も魔族の言葉を覚えたぞ。」
ミカエルは少年のような笑顔で笑った。近衛騎士団の団長だった人が、なぜにこんな邪気の無い笑顔で笑えるのか私は不思議であった。
貴族出身の騎士達の性格が悪過ぎるだけなのか?
嫌、決して皆が皆悪い訳では無かったのだが。
私も訓練に参加させて貰っていた時期がある。お父様に懇願して、身分を偽って辺境地で騎士団の訓練に混ぜさせて貰ったのだ。
いずれ戦争を支持する立場になる私は、殺し合う恐怖、そしてその後の罪悪感、、そんな気持ちをちゃんと知らねばと騎士達に混ざり戦争にも付いて行った。
結果で言えば、国を追い出され、人質になり何の意味も無くなってしまったのだが。
しかし、人生で経験した事で無駄な事などない。胸を張ってそう言える。
「ナタリー?どうしたんだ?さっきからボーッとして。お前ここに来てから精力的に活動してるみたいだから、少し疲れたんじゃないのか?」
「あぁ、ごめんなさい。何でもないの。ここに来てから今までの自分の事を振り返る機会が多くて。疲れたなんてとんでもない、本当にゆっくりさせて貰っているわ。でも、何だか嵐の前の静けさのようで恐ろしくも思っているの。」
「嵐の前の静けさか、そうだな。このまま何も起こらないとは到底思えないからな。」
私は頷いた。
バゼルハイド王がこの国を捨て、他国へ渡った事が、今でも信じられない程衝撃だったからだ。
彼は強欲な男である。今回の戦争は我が国が起こした訳ではない。それを主張し、なりふり構わず国を、そして自分の地位を守ると思っていた。
このまま大人しく引き下がるようなタマだとは到底思えない。
「ミカエル、あなたはバゼルハイド王の事を恨んでいるのでしょう?ここに来た事も納得していないでしょうに。これからどうするつもりなの?」
「納得はしていなかった。団長で無くなるのが惜しかった訳では無い。俺の持っていた騎士団には平民も多かった。俺が団長になるまでは、貴族の騎士が平民の騎士を顎で使ったり、ストレス発散の為に暴力を振るったり酷かったものだ。」
「そうね。私も見たわ。理不尽な暴力を、、。自国の騎士同士でそのような事が行われていたんだもの。戦争での捕虜の扱いなどは酷いというものではなかったわ。」
「ん?何でお前がそんな事知ってるんだ?」
ミカエルの不思議そうな顔に私は慌てて両手を振った。さすがに戦争に参加していた事は伏せておきたい。
「私の事は良いのよ。それで?」
「あぁ、俺が去った後の平民出身の騎士達の扱いが心配だ。だから、俺はいずれ戻りたい、、。叶わぬ願いかもしれないし、戻ったとしてもまた一からの出発だろうがな。」
「そうね。その為にも今、向こうがどうなっているのか把握しておかないとね。」
私がそう言った時、ちょうど街に着き馬車が止まった。
ミカエルが先に降り、まるで紳士のように私達をエスコートして降ろしてくれる。
「ん?」
その時、向こうからお父様が大きなお腹を揺らしながら焦って走って来るのが見えた。
「ナタリー様、何かあったのかもしれませんよ。」
私が思った事をフローラが代弁する。
「そうね。」
嫌な予感を感じながら、私はお父様の方へ歩いて行くのだった。
彼をこんなにも探す日が来るなど、人生何が起こるか分からないものだ。
馬車の中には、私、フローラ、ミカエルが居る。
フローラに今回は馬車で街まで行くと伝えると、一緒に行きたいと懇願されてしまった。
その後、向こうの様子が聞けるかもしれないなら俺も行きたいとミカエルからも申し出があったのだ。
この2人の外出許可をハデス様から貰うのは私1人の時より骨が折れた。
ハデス様は今頃、私に外出許可を出した事を後悔しているだろう。
それを面白いと内心ほくそ笑んでしまうのは、私の性格が悪くなってしまったからだろうか?
「何だかナタリーに会うのは久しぶりだな。」
向かい合う席の前に座ったミカエルにそう言われ、私は我に返った。
「そうね。あなたは訓練にばかり参加していたものね。」
「あぁ、魔物達の訓練は、騎士団の訓練より実践的な上に皆タフで面白いんだ。チョットした単語なら俺も魔族の言葉を覚えたぞ。」
ミカエルは少年のような笑顔で笑った。近衛騎士団の団長だった人が、なぜにこんな邪気の無い笑顔で笑えるのか私は不思議であった。
貴族出身の騎士達の性格が悪過ぎるだけなのか?
嫌、決して皆が皆悪い訳では無かったのだが。
私も訓練に参加させて貰っていた時期がある。お父様に懇願して、身分を偽って辺境地で騎士団の訓練に混ぜさせて貰ったのだ。
いずれ戦争を支持する立場になる私は、殺し合う恐怖、そしてその後の罪悪感、、そんな気持ちをちゃんと知らねばと騎士達に混ざり戦争にも付いて行った。
結果で言えば、国を追い出され、人質になり何の意味も無くなってしまったのだが。
しかし、人生で経験した事で無駄な事などない。胸を張ってそう言える。
「ナタリー?どうしたんだ?さっきからボーッとして。お前ここに来てから精力的に活動してるみたいだから、少し疲れたんじゃないのか?」
「あぁ、ごめんなさい。何でもないの。ここに来てから今までの自分の事を振り返る機会が多くて。疲れたなんてとんでもない、本当にゆっくりさせて貰っているわ。でも、何だか嵐の前の静けさのようで恐ろしくも思っているの。」
「嵐の前の静けさか、そうだな。このまま何も起こらないとは到底思えないからな。」
私は頷いた。
バゼルハイド王がこの国を捨て、他国へ渡った事が、今でも信じられない程衝撃だったからだ。
彼は強欲な男である。今回の戦争は我が国が起こした訳ではない。それを主張し、なりふり構わず国を、そして自分の地位を守ると思っていた。
このまま大人しく引き下がるようなタマだとは到底思えない。
「ミカエル、あなたはバゼルハイド王の事を恨んでいるのでしょう?ここに来た事も納得していないでしょうに。これからどうするつもりなの?」
「納得はしていなかった。団長で無くなるのが惜しかった訳では無い。俺の持っていた騎士団には平民も多かった。俺が団長になるまでは、貴族の騎士が平民の騎士を顎で使ったり、ストレス発散の為に暴力を振るったり酷かったものだ。」
「そうね。私も見たわ。理不尽な暴力を、、。自国の騎士同士でそのような事が行われていたんだもの。戦争での捕虜の扱いなどは酷いというものではなかったわ。」
「ん?何でお前がそんな事知ってるんだ?」
ミカエルの不思議そうな顔に私は慌てて両手を振った。さすがに戦争に参加していた事は伏せておきたい。
「私の事は良いのよ。それで?」
「あぁ、俺が去った後の平民出身の騎士達の扱いが心配だ。だから、俺はいずれ戻りたい、、。叶わぬ願いかもしれないし、戻ったとしてもまた一からの出発だろうがな。」
「そうね。その為にも今、向こうがどうなっているのか把握しておかないとね。」
私がそう言った時、ちょうど街に着き馬車が止まった。
ミカエルが先に降り、まるで紳士のように私達をエスコートして降ろしてくれる。
「ん?」
その時、向こうからお父様が大きなお腹を揺らしながら焦って走って来るのが見えた。
「ナタリー様、何かあったのかもしれませんよ。」
私が思った事をフローラが代弁する。
「そうね。」
嫌な予感を感じながら、私はお父様の方へ歩いて行くのだった。
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